この世界に来てから既に何回も経験しているこの目覚め。
しかし死の経験には慣れることはこれからも絶対に無い。
「--あ」
それは今回も例外ではなく、死の衝撃を引きずる心をほぐす。
肺がこわばり息がしづらい。それも当然だ。
スバルは崖から身を投げ出し、自分で死んだのだ。
それに加え「死に戻り」の発動条件が分かっていない今では、そのまま人生が終わっていてもおかしくはなかった。
「けど……戻ってきてやったぜ」
拳をギュッと握り、部屋の中をグルリと見回すと、何回も何回も見てきたロズワール邸の使用人室があった。
そして何より--
「姉様、姉様。お客様ったら寝ぼけているみたいです」
「レム、レム。お客様ったらあの歳でボケているようだわ」
エプロン姿の双子が、そこには立っていた。
見飽きるほど見たその容姿。耳にたこができるほど聞いたそのステレオボイス。
そんな二人を見て言おうとしたことが山ほどある。が、どれも明確な言葉にはならなかった。
「お客様、お客様。大丈夫でしょうか?」
「お客様、お客様。具合でも悪いのかしら?」
そういって双子が手を伸ばしてくる。
細く白く美しい人形のような腕だ。
「ちょっと失礼」
「え」
「あ」
姉妹が制止を行う前に、スバルは横を通り抜け、士の元へと向かった。 部屋のドアをノックし、返事を待たずに入ると、そこにはうれしそうな顔をし、ベッドに腰かけていた士が居た。
「あの……士。俺……実は」
パシャッ。
弁明の言葉を紡ごうとするが、それはカメラのシャッター音でかき消された。
「いい顔だ。昨日のお前とは違う。何かを決めた、覚悟したような顔だ」
「……そうか?」
「ああ。大変、だったな」
「……ああ。大変だった。辛かった。俺……俺」
その慈しむように言われたことで、スバルの涙腺が一気に崩壊した。
「ごめん……ごめんな士……。俺、逃げてるときにお前のことなんてどうでもよかったって思ってた。ただ自分が……自分だけが助かりたくてさぁ……場を悪くするだけ悪くしといてさぁ……。命がけで俺みたいな屑を守ってくれてんのに……俺、何もできなくて……。士だって……いくら強くったって俺と同じ人間なのに……死にたくなんて無いはずなのに……ごめん……ごめん」
ただただ謝罪と感謝の言葉しか見つからない。
本来ならばスバルは絶縁されてもおかしくないことをした。
突然異世界に連れてこられて、死んだら時間が戻って、誰も信じてくれないようなことを、一緒に、いや、一方的に助けてくれた恩人だというのに、スバルはそれを見捨てるマネをしたのだ。到底許されることではない。
でも、だけど士は、そんなスバルをいたわってくれたのだ。
「仲間の中で強い奴が弱い奴を守るのなんて、当然だろ」
「……言って、くれんのか?俺を仲間って、言ってくれんのか?」
「そんなの--当たり前だろ」
「--!!」
次の瞬間、スバルは士に抱きつき、涙で士の服を汚していた。
そのまま士はスバルが泣き終わるのを、優しい笑顔で、ずっと、ずっと見守っていた。
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「……ワリイな。みっともないとこ見せちまって」
「なに。人間ならそれで普通さ。誰も彼もが俺みたいな訳じゃない。……で、今回のルートなんだが、一周目をなるべくなぞるようにする」
「というと?」
「実は犯人の目星はもうついてる」
「何!?」
士の口から予想しなかった言葉が飛び出し、思わずベッドを思いっきり叩いてしまった。
「二周目と三周目の情報を組み合わせれば分かる。まずレムと呪術師か別個。そして屋敷関係者が呪いを掛けたわけではない。スバルは三周目に呪いに掛かってない。そして--」
そこでいったん言葉を切り、一拍おいて再び口を開く。
「二周目ではスバルはレムと一緒に買い出しに行ったよな?でも三周目ではスバルだけは行っていない」
「……ってことは犯人は必然的にそこにいるのか!」
「そういうことだ」
なるほど。それなら納得がいく。
レムとスバルが関わった屋敷にいる者たちを除く人たちと言えば、確かにあそこしかない。
その結論に一人うなずいていると、ドアが優しくノックされ、
「スバル?ツカサ?朝ご飯の用意ができたわ。行こう?」
「……はぁ。癒されるわぁ」
「……今だけはそれに賛同してやる」
スバルより一足先に食堂に向かうと、スバルが慌てて追いかけてきて、こう呟いた。
「今回で……終わらせようぜ!」
「……ああ!」
二人は腕をコツンとあて、互いに(六日目)を向かえることを決意した。
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「さーて。ラム。君から見た彼らはどんな感じだい?」
太陽が沈んでから6時間後ほどの深夜に、その密談は行われていた。
机の上で手を組み、唇を綻ばせるロズワールの問いに、メイドのラムが首を傾けて思案していた。
「そう、ですね」
「おーや珍しい。何でも即決即断するラムが言葉に詰まるとは。何か不審な点でもあったのかい?」
「そういうわけでは、無いのですが」
すぐにその言葉は否定されるが、やはりその内容は明瞭さに欠けていた。
「まずバルスは能力的に見てほめられる部分が一つもありません。ですがツサカは仕事を全て完璧にこなしていました。能力的にはレムと同じ、いやそれ以上かもしれません」
「ふぅーむ。でもそこにラムが不審がるような点はないとは思うけどねぇ」
ロズワールの中でスバルたちは悪くない評価ではあった。
しかしそれは逆を返せば警戒するに値する、ということでもある。
それゆえに一日目からボロを出すような相手ではないと思っていたが、逆にラムをためらわせる評価がでるというのも問題ではある。
「バルスとツサカは屋敷内の細かいところに詳しすぎる傾向があります」
沈黙を破ってラムから出た発言に、ロズワールは思わず眉をひそめ、
「それはどういうことだい?」
「ほんの些細な点なのですが、食器をどの棚に、どの順番に入れるかや調理室やトイレなどの位置。後はレムやラムの茶葉の好みなど。もちろんどれも些細なことなのですが……」
「--なるほど。確かにそれは気になぁるね。他には?」
「いえ。他にはなにも」
疑いの発端はどこもかしこも小さな場所から始まる。心配が杞憂でないのなら、二人は屋敷の事前調査をしていたことになる。
「でもそれだぁと王都でエミリア様を守る意味が無くなるねぇ。屋敷に忍び込むには大がかりすぎるし何より--」
「エミリア様はツサカと一緒に屋敷に帰ってきた、というところですね?」
「いかにも。ツカサ君がもし敵ならば徽章だけを奪って逃走したり、もっと簡単に殺すことすらできちゃうからぁね。それをしなかったってことは……とりあえずこの件は保留でいいと思うよ。レムにはそう言って置くように。先走られちゃったら今までの成果が全てパァだからねぇ」
「はい。ロズワール様の仰せのままに」
ラムのその一言で、今日の密談は終わりを告げた。
士が最後まで部屋の近くに居ることに気づかずに。
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「どうだった?」
「聞いた限りではかなり不審がられていた。が、一旦は大丈夫そうだ」
そういって士、いやディケイドは、ベルトからカードを抜き取り元の士の姿に戻った。
「あいつみたいにコソコソ話を聞くことになるはな」
ライドブッカーから取り出したのは、(invisible)と書かれたカードだ。
このカードは一定時間の間、気配を完全に消すことができる。バレないかどうか心配だったが、何とか無事だったようだ。
「で?話の内容は?」
「おおかた俺たちの行動についての報告だ。……まさかあそこまで細かく見てるとは考えてなかったな。何回目かになるか分からないが、細かいところにも気を配れ。できるだけ一回目をなぞれ。いいか?」
「あったりめえだろ。……にしてもどうしたんだ?士。さっきから顔がチョットこええぞ?」
「……そうか。スバルにまだ話してなかったな」
「何をだよ」
士の発言の意図が分からずに首を傾げるスバルに、士は神妙な顔つきでこう切り出した。
「あいつ。ロズワールは、レムやラムやエミリアの命を何とも思っちゃいない。クソ野郎だ」
その発言でスバルの思考が一瞬停止したが、おしゃべりな脳はすぐに活動を再開し、その言葉の意味を噛みしめ始めた。
「な……んだよそれ。どういう意味だ……?」
「俺とあいつが戦ってたのは当然覚えてるよな?そこであいつは火の玉を出して攻撃してきたんだが……明らかに何発か俺を狙って撃ったものじゃないものが含まれていたんだ。それもエミリアやレムの死体に当たるような軌道で、だ」
「--------」
言葉が、見つからなかった。
代わりに噴き出してきたのは、怒り、いや、憎悪だった。
「ふ……ざけんな!!」
「お、おいよせ。今は夜中なんだ。誰か来たらどうする」
怒りを全面的に前に出すスバルを、何とか落ち着けようと士が説得を試みる。すると意外なことにスバルはすぐに落ち着きを取り戻し、
「……確かにそうだな。すまねぇ」
「まぁいいさ。とりあず今日はもう寝るとしよう。感づかれたら大変だからな」
「ああ……お休み」
その一言でスバルは両手をぶら下げよたよたと自室に帰っていった。
ドアを極力静かに開け、ベッドにボスン、と寝ころぶ。
そこを境にし、士の前でほんの少しの間だけ押さえていた怒りが爆発した。
「ふざけんな……。ふざけんなふざけんなふざけんな!!!」
ベッドに顔を埋めた状態で、怒りを叫び散らす。
レムとラム。エミリアの命を何とも思ってない?
士を倒すための犠牲にしようとした?
「ロズワール……あいつだけは」
許さない。
そのスバルの決意は、ある意味で(六日目)を必ず向かえる、という決意よりも重かった。
かなーり説明回に時間を割いたため、王選候補者一人ずつの自己紹介はダイジェストみたいな感じでよろしいでしょうか?
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NO