Re:ゼロから始める世界の破壊者   作:muryoku

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遅れてしまった理由は、活動報告をごらんください。


第二十二話 魔法の体験

 ロズワールに対する不信感が強まった日から二日が経過した日。

「面倒くさいな。この仕事」

「自分たちが使用人という立場を選んだのにその言い分はないでしょう」

「……先輩であるお前が何もしてないからお前の担当部分もやんなきゃなんないんだよ!」

 ループの中で繰り返している庭の手入れ。元々の才能と経験が合わさり、士以上に庭を手入れできる人間は指で数えられるくらいだろう。

「安心なさい。庭の手入れは全部ラムとツサカ半々でやったことにしてあげるから」

「何も安心できねぇよ」

 全く。本当にこいつはやる気がないんだな。単に家事の全てが下手くそってのもあるのかもしれないが。

「不平不満を垂れてないで、さっさとやりなさい」

「はいはい」

 相変わらずの美しい手さばきで、ロズワール邸の庭を芸術作品とも言えるレベルに仕上げると、ラムの姿がない事に気が付いた。

「あんのやろう……」

 ラムの態度に一周回って呆れ果ててきたので、憂さ晴らしと言わんばかりに庭に寝転がり、カードを見ることにした。

(――このループは今のところ大丈夫なのだろうか)

 不意にそんなことが頭の中に浮かんだ。

 重要なターニングポイントに当たってはいないと言えども、たった一つの違いが全員をBADENDへと導くことは何度も体験した。

 もう今失敗はできない。いや、したくない。

 かすかとはいえ友情が芽生えていた相手が裏切ったり、自分たちを忘れるのは何物にも代えがたい苦痛だ。

 だからこそ……。

「絶対に、今回こそは……」

「何をさぼっているの」

 不意に聞こえたその声で起き上がり、声の主の方を見てみると、芋が入った木製のカゴを持ったラムがいた。

「お前いつからそこにもがッ!」

「いいから、食べなさい」

 いつからそこにいたのか。という事を聞こうとした時、口の中に熱々の芋を突っ込まれた。

「熱つつつつつつつ!」

 慌てて芋を口から出し、手の上で踊らせて温度を冷ます。

「お前いきなり何すんだ!死ぬかと思ったぞ!」

「ごめんなさい。あまりにもツサカがシケた顔をしているからつい」

「つい、じゃねえ!」

 一瞬殴ってやろうかと思ったが、何とか怒りを抑え込む。

「仕事をしてくれたから、そのお礼。と受け取っておきなさい」

「……ハイハイ」

 ラムの背中を追いながら、手の中の芋を頬張る。

「……癪だがうまいな」

「何を隠そう、ラムの得意料理はふかし芋よ」

「全く威張れないけどな」

 ――ったく。

 本当にこいつは。

「何回繰り返しても、変わらないな」

「ん?」

「いや、何でもない」

 ――これがスバルが手に取りたかったもの、か。

 ラムに謎の気持ちを感じながら、その顔をジッと見つめていると、

「何?もしかしてラムに惚れちゃった?その場合は殺すけどいいわよね」

「どこにいい要素があった!」

 こんなやり取りが酷く温かく感じた。

 その次の瞬間。

「うわ!」

「きゃっ!」

 突然、黒い煙に士たちが覆われた。

「何だ……これ」

 ――まさか。

 頭の中に最悪の状況が出てきて、額から冷や汗が噴き出し始めた。

「ラム!ラム!どこだ!返事しろ!」

 目を開けても見えない暗闇の中、ラムの姿を必死に捜索していると、

「かがみなさい。ツサカ!」

 声がどこからともなく飛び、言われるがままに身をかがめると、

「『ウル・ヒューマ』!」

 一閃の風の刃が士の頭を掠めた。

「うぉ!」

 その風の刃が通りすぎると、この辺り一帯に広がっていた黒煙が引き裂かれ、日の光が目の中に入ってきた。

 立ち上がり、眩しくなった周囲を見回すと、ぐったりとした様子のラムが地面に倒れていた。

「ラム!無事か!」

 その身を抱きかかえ揺らし、ラムの反応を見る。

「……ええ。全く問題ないわ」

「そうか……。よかった」

 閉じていた目をゆっくり開き、すぐに士の手の中から離れるラム。ラムの無事を確認でき、心から安堵する士。

「……今のは何だったんだ?」

「分からない……。ただ魔力が発せられた方向は分かるわ。そっちに行ってみましょう」

「ああ」

 そう言って士たちは、魔法を放った者の元へと走りだした。

 

 

 

 

 

 一方その頃。

「嫉妬の魔女。ねぇ」

 サテラ。

 かつて世界を叫喚させた魔女を一掃し、奪い取った力で世界の半分を滅ぼし、世界中の全てのものから畏怖される超常の存在。

 その身は英雄の手で水晶の中に封じられ、今もなお滅ぼすことは叶わずに封印され続けているという。

「どうも信じらんねえなぁ」

 日本に産まれ生きてきたスバルは、どうもその話を信じることができない。

 今もそんな存在が世界のどこかに眠り続けているなんて。

 信じられる訳もないし、信じたくもなかった。

「まぁこんな世界だしな。いてもおかしくはないか」

 そんな感想を思いながら、スバルは頬杖を着きながら隣を見る。

 人の手が触れることを躊躇わせるような美しい光景。無数の光の粒子に包まれているエミリア。

 いくら見ても飽きないエミリアの朝の日課である。

「ここも集中して見ろって言われてもなぁ……」

 この前まで全く気に留めていなかった所まで観察しなければならない。と士には言われたが、流石にここにターニングポイントはないだろうと思い、今はぐでーんと頬杖をついて芝生に寝転びながらエミリアの美しい姿を見ているところだ。

「随分暇そうだね」

 声をかけられ、顔を上げる眼前に灰色の毛玉。もとい、ピンクの鼻をした小型の猫が浮いていた。パックだ。

「暇なわけないだろ。目の前に天使がいるからそれを目に焼き付けるのに精一杯なの」

「はっはっは。その通り。うちの娘は可愛いだろう?」

「間違いありませんね。お義父さん」

「えい」

「痛――ッ!? なんで今、俺引っかかれたん!?」

「可愛い娘を持つと親は大変なんだよ。だからもうちょっとリアと距離を開けて開けて、ほら」

「露骨な妨害工作に出やがった!」

「もう。二人共ケンカしないの」

 パックとたわいもない話をしていると、当の本人が苦笑しながら近づいてきていた。

 すでに精霊との歓談を終えたのか、彼女の周りを浮遊していた淡い光たちの姿はない。代わりに、今の今までスバルの傍らを遊泳していたパックが彼女の肩に乗り込んだ。

「ふぃー。やっぱり落ち着くね」

「お帰りなさい。いつもごめんね。でもパックがいると、他の精霊の子たちが怖がっちゃうから」

「へぇー。こんな可愛い子猫を怖がんの?」

「ふふーん。そうなんだよー。僕とっても強いからね。もうちょっと僕を奉ってもいいんだよ?あ、供え物は煮干しとかでよろしく!」

「やっぱ普通の猫じゃん」

 ピーカブースタイルで頭を振り始めるパック。その灰色の頭を指で撫でて、それからエミリアはスバルと向き合う。

「屋敷のお仕事はどう?慣れてきた?」

「料理はダメダメ。掃除もダメダメ。でも使用人の服を直したときは素晴らしいみたいな感じのこと言われたよ」

「……そこだけ得意なのね」

「例えるなら一つだけ超特化した魔法使いみたいなもんだよ」

 その例えが微妙だったのか、苦笑いをしてうなずくエミリア。そんな彼女の反応を見ながら、ふとスバルは思い至り、

「ってかエミリアたんも魔法使いじゃん。どんな魔法使うの?」

 この世界でしか話すことのない、「どんな魔法使うの?」という言葉の異常性に気づき少しだけ笑うスバル。

 しかしエミリアはうーん。と唸るような声を上げ、

「私は魔法使いとは厳密に言うと違うの。私の場合はパックとの契約もそうだけど、精霊使いだから」

「へー。精霊使いと魔法使いって違うんだ」

 首をひねり、彼女の肩の上に座るパックを見やる。それに気が付くと毛づくろいを中断し、

「魔法使いは自分の体の中のマナを使って魔法を使う。逆に精霊使いは大気中のマナを使って術を使う。起こせる内容は似通ってても、そこに到達するまでの道のりがだいぶ違うんだよ」

「ふーん。まぁ細かいメカニズムも気になるけど置いといて、だとしたらパックって何の精霊なんだ?俺の記憶だと氷って属性なかったと思うんだが」

 士と一緒にベアトリスの書庫に居た時に読んでいた本に書かれていたのは、火水地風の如何にも異世界風な四種類。それに加えて、中二病どもが憧れる陰陽の系統のみだ。

「氷なんだけど、これって実は火のマナなの。火は主に熱量に関わるマナだから、熱いのも冷たいのも大局的には火に分類されることになるわ」

 パキパキ、と何かが割れるような音がして、エミリアの掌の上に氷の塊が生成される。

「へぇー。結構種類分けって大雑把な感じなんだ」

「そうよ」

 相槌を打ち、エミリアが手を叩くと氷が霧散する。

 溶けたり砕けたりといった消え方ではなく、文字通りに粉のようになって霧散するのだ。

 うんたらかんたらあるのだろうが、そのファンタジーな感じがスバルの厨二心を刺激した。

 あまりに食い入るように見ていたためか、それを見ていたパックが、

「ふむ、ひょっとして魔法使いたいの?」

「できんの!? 俺ねぇ! だったらねぇ!エターナルフォースブリザー……」

「いやできないよ。魔法にしても精霊術にしても基礎を舐めちゃいけないよ。魔法は一日にしてならず」

 スバルの好奇心を立たせておいてそれを叩き潰すパック。それを聞いてスバルは肩をガックリと落とした。

 それが可哀そうに見えたのかどうかは知らないが、

「簡単な体験ぐらいならさせてあげられるかな?」

 と、そんなことを言ってきた。

「ってゆーと?」

「魔法が使いたいならボクが補助をしてあげるよ。スバルのゲートからマナを引っ張ってくればいいだけだしね」

「ちょっとパック、あんまり安請け合いしないの。危ないかもしれないじゃない」

 多少調子に乗っているパックをエミリアが叱りつける。スバルの安全を確保するための言葉だが、

「まぁそれでもいいや。パック、頼むぜ!」

「ちょ、ちょっとスバル!?どうしてそこまで……」

「うーん。ま、ファンタジーなことしてみたいってだけだよ」

 今、スバルは異世界にきて初めてといっていいぐらいに昂ぶっている。これまでに異世界的な恩恵に与る機会が、美形ばっかりで目の保養ぐらいしかなかったスバルにとって、これを逸しては異世界は語れない。

「じゃあまずは……みょんみょんみょんみょん」

「うぉ……!?」

 体全体からブワッ。と何かが上に駆け巡っていく感触がある。少しこそばゆい。

「さぁさぁどうなる俺の魔法属性……。やっぱここは王道パターンの火か……?いや、風とかも一回操ってみてぇなぁ。風の刃をブワーっと打ってみたい!いやでも……やっぱ水もいいなぁ……。地面からもう、ブワーっと水を噴き出したりしてみたい!でもここはやっぱ……王道の火でオナシャス!」

 そこまで言い切ったところで、体から謎のこそばゆさが消えた。どうやら診断が終わったらしい。

「なぁなぁパック。俺の属性って何だった?やっぱ火だよな?火だよな!」

「…………」

 声を大にして聞いてみるが、なぜかパックはスバルを見て困惑したような顔を向けていた。

「……?おーい。パックさーん?」

「……ああ、ごめんごめん。スバルの属性が結構珍しくてね」

「お?これはもしかして来たんじゃねえか?異世界転移ボーナス来たんちゃうか!?全てを打ち消す無属性とか!」

「陰属性まっしぐらだったよ」

「何でや!」

 予想していなかった相手からの言葉にスバルは絶望し、思わず関西弁になってしまった。

 だが単純が売りのようなスバルはすぐに起き上がり、思考をポジティブ方向へと捻じ曲げる。

「だがしかし!陰と言えば厨二病にとってはえげつないほど欲しい能力のはず!そうだよ……これで俺の中学時代に作った魔法がようやく異世界で目覚めるんだ!さぁ!今こそ俺の最強呪文!相手は死ぬ!」

「あ。ちなみに陰属性には相手を直接倒せるような魔法は少ないよ。どちらかというと相手の動きを鈍らせたり、目くらましをしたりだとかかな」

「まさかのデバフ特化系かよ!」

「後おまけに才能も全然ないね」

「ウゾダドコドーン!」

 本日二度目の絶望を味わうスバル。

 もしかしたら魔法で無双できるんじゃね?という少ない希望すらも打ち砕かれ、完全にグロッキーしてしまった。

「二十年も魔法の修練だけに打ち込めば、一流手前ぐらいにはなれるかもしれないぐらいかなぁ」

「半生を賭けて一流未満か……俺、この道は諦めるよ……!」

 涙を堪えて夢を諦めるスバルの宣言に、エミリアは呆れ顔。でも仕方がないのだ。努力とか頑張るという類のものは、スバルの辞書の中では見たくないからそのページだけ破ってあるようなものだし。

「まぁこればっかは才能だししゃーないわな。ただそれとは別に魔法の体験学習はやってみたいからお願いします。どうしたらいい?」

「うーん。陰属性ならなぁ……。『シャマク』とかどうかな。リア」

「いいんじゃない?あれなら目くらましだからスバルに対する被害が少ないと思うし」

「ちょい待って。そんなに話一気に進められても分からん。もっとちゃんと教えてくれ」

「そうだね。確かに知らない魔法を使ってみるのは少し恐いかも。じゃ、使ってみせよう。これがシャマクだよ」

「え……」

 短い腕を振り、パックが短くその詠唱を完了させる。

 と、ふいにスバルの視界が闇に覆われた。瞬きの直後、目を開いても視界が瞼を閉じたままのように暗いままだったのだ。

 その時スバルに、圧倒的な恐怖が這い上がってきた。

 何故ならこの場の雰囲気が『死に戻り』とよく似ていたからだ。

 逃げられないような感覚に体が包まれると同時に、スバルの体は前へと走り出した。

 前か後ろか右左かすら分からない状態で走っていると、不意に目の前が明るくなった。

「はい。おしまい……。ってあらら?どうしたの?」

「スバル?顔が真っ青よ」

「……大丈夫。大丈夫。ちょっとばかし全力でビビっただけ」

「それ意味が矛盾している気がするのだけど」

 視力が戻り、目の前に美貌と小猫が並んでいるのが見えて一安心。

 己の心臓に触れて、問題なく一定のリズムを刻んでいるのを確認してから、

「今のが目くらましで、シャマクって魔法なわけか。地味だけど、かなり効果が期待できそうじゃねぇか?」

「そうでもないよ。この魔法、格下にしか使えないからね。僕とスバルくらいの力の差なら一生暗闇の中だけどね」

「……発想が怖すぎるぜ」

 苦笑いしながら、スバルはこっそりと震える拳を背中に回す。

 一瞬、なにもかもが遠のく感触を味わった瞬間に、まるで世界に取り残されたような寂寞感に襲われたのは記憶に新しい。

 ――あれを、思い出して手が震えた。

 情けない。と拳を握り締め、すぐさま顔に笑顔を張り付ける。

「ともかく、効くか効かないかは別として、俺も今の魔法が使えるってわけだろ? さっそくやってみたいんですけど!」

「いいよー。じゃ、補助はボクがやろう。リアはまさかの展開でマナが暴走して、スバルが弾けたら服が汚れちゃうから離れててね」

「おいちょっと待って!?」

 焦りに焦りまくるスバルが見えていないかのように、パックはマイペースに頭の上にチョコンと座った。

「チクチクして座り心地の悪い頭だね」

「しゃーねえだろ。これは父さんからもらったもんなんだし。悪いのは俺じゃねえ」

「まぁとっとと終わらせてリアの頭に帰らせてもらうよ」

 その声と共に、全身が熱くなるような感覚をスバルは得た。体の中を巡る、血とは違う感覚――この体内を荒れ狂う、形の見えない奔流こそがマナというものなのだろう。

 頭頂部にいるパックから伝わるなにかによって、その体の中のエネルギーが指向性を持って動くのがわかる。

「んじゃ。イメージして。その一部をゲートから、体の外へ吐き出すんだ。それは外で形をなす――さっきのような、黒い雲となって」

「任せとけ。学生のイマジネーション力なめんなよ!」

 パックのアドバイスを微妙に曲解して、スバルは己の中をうごめくエネルギーの行き場を妄想の中に求める。

 ゲート――門と呼ばれるそれを体の中心にイメージ。門がその重々しい扉を開き、内側から外へとエネルギーを溢れさせる。そのエネルギーは外へ出て、スバルの意思に従って現象へと――

「あれ、困ったな。ちょっと急にゲートが」

 最終局面に達したところで、ふいにそんなパックの呟き。

「なにを」と問いを発する時間は与えられなかった。

 直後――、

「二人とも!?」

 エミリアの悲鳴が上がり、その数秒後にロズワール邸の庭園を丸々、爆発的に噴出した黒い靄が覆い尽くしていた。

 ――弾けこそしなかったものの、結果的に大失敗である。

かなーり説明回に時間を割いたため、王選候補者一人ずつの自己紹介はダイジェストみたいな感じでよろしいでしょうか?

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