「――方法はありませんか?」
「――以外には」
そんな声がいきなり聞こえてきた。
手が、温もりに包まれる。先ほどに感じた温かさだ。
その感覚が、不意に遠ざかった。
もう手が届かないほど遠くに、それは行ってしまった。
どれだけ伸ばしても、もう。
「ッツ!いってぇ……。ここは?」
意識が覚醒し体を起こした瞬間わき腹が引きつった。
痛むわき腹を触ろうとして動かした左手の状態に目を見開くスバル。
左手の肘から指先までを白い傷跡が埋め尽くしていた。
服をまくると、左のわき腹も同様。足にも、背中にも無数の傷跡があった。
どうやらかなりの重傷だが、命に別状はないようだ。
「絶対死んだと思ったけどな……」
襲われたレムを庇って全身に魔獣の牙を浴びたのだ。
よく生きていたな、と我ながら感心し周囲に目をやると、木製の簡易な椅子に座って寝ているエミリアがいた。
「どうやら……俺はまたこの子にに借りを作っちまったみたいだな」
エミリアの眠りはかなり深く、衣服には泥や血が色濃くついており、スバルを寝ずに治療してくれたことがすぐに分かった。
「どうかな。今回君たちは労力に見合った成果を上げてるから、リアも貸し借りがどうとか言わないと思うよ」
「パック」
エミリアの髪の中から這いだして、こちらへ浮遊して向かってくるパックの姿。
「見合った成果と言うが、あの後どうなったんだ?正直怪物に噛み砕かれた辺りから記憶がないんだが」
「噛み砕かれたってレベルじゃなかったよ。『グチャグチャバキバキガリガリムシャムシャ』って感じだったよ」
「それ絶対死んでるよね?明らかに腕10本くらい足りてないよね?」
「うん。だからあの青髪の子も酷い有様だったよ」
あっさりと告げられたその言葉に、スバルが息を呑む。
その反応を見てからパックが「もっとも」と付け足してから、
「あの子は鬼化の影響でドンドン傷が治るからスバルが目覚める30分前くらいには完全に動ける状態だったよ」
「あ、焦らせんなよ……。で、パック。子供たちの解呪ってどうなった?」
「ああ。君たちが助けた六人全員無事だよ。君たちの判断は正しかった」
太鼓判を押すパックに、自分たちの行動が無駄では無かったことに安堵する。が、やはり一人足りない、とスバルが誰も聞こえない声でこぼした
「ここって、村の誰かの家だろ?外に行ったりしてもいいか?」
「うん。どれくらい直っているか自分たちで確かめてきな」
「んじゃ。お言葉に甘えて」
簡素な木のドアを開け、玄関に行こうと廊下を歩いていると、こちらへと歩いてくる士がいた。
「おーい士ー」
「スバル、目が覚めたのか?」
「ああ、結構やばかったけどな」
「だろうな、あれだけ酷い状況だったんだ。正直いつ死んでもおかしくなかったぞ」
「……ま、今生きてるしいいさ。それよりも、村の皆を見に行こうぜ。子供たちが無事かどうかも見ときたいしな」
「そうだな、そうするか」
ドアを開き外に出ると、まだ夜が明けてから少ししか経っていないというのに、村人たちが広場に集まって話し合っていた。
当たり前と言えば当たり前だろう。昨日だけで合計七人の村人が誘拐され、一人はあんな異形の存在に変わり果ててしまったのだから。
「バルスにツサカ。目が覚めたのね」
そんな騒然とした様子の村を歩き回っていると、後ろから聞き覚えのある声をかけられて二人は足を止めて振り返る。
そこには手に熱々の芋が入っている木のかごを持っているラムが立っていた。
湯気の立つ芋からほのかな塩の香りを感じて、スバルと士の腹が小さくなる。今更のように空腹感を感じた。
「なぁラム。それ食わせてくんね?」
「あれだけ重傷で心配させておいて目が覚めたらすぐに食事をせがむなんて、浅ましいわね」
「ふーん。そうなのか。心配してくれたのか。もしかして俺たちを気遣ってその芋を作ってきてくれたのか?」
「ほー。お前みたいな鬼にも人の心ってもんはあったんだな」
スバルはにやにやしながら、士は嘲笑を浮かべてラムをからかっていると、
「食らうがいいわ」
「もがっ!?」
「おっと危ない」
二人に蒸かした芋が投げ込まれる。士は一度それを経験しているので見事に手でキャッチ。逆にスバルはそれを口でキャッチ。芋の灼熱に喉を焼かれ、スバルは上を向きながら「はふ!はふ!」とみっともない姿をさらしている。
「死ぬかと思ったわ!うまいけど!」
「何を隠そう、ラムの得意料理は蒸かし芋よ」
「前にも一度聞いたが、それは自慢できることじゃない
からな」
「はいはい。もう一個ずつあげるから、黙って貪っていなさい」
芋を渡され、子供のようにはしゃぐスバル。
そんなスバルを士は多少冷ややかな、ラムは蔑むような目線でしばらく見てから、
「まあ昨夜の件は礼を言うわ。あのままウルガルムを放置していたら、ロズワール様の責が問われてしまったからね。ツサカたちの行動は正解だったわ」
「ウルガルム、っていうのか。あいつらは」
ウルガルム。スバルの知識で言えば、古代ギリシャの物語か何かにそんな名前があったはずだ。
「昨晩にほつれていた結界は結び直しておいたわ。その後もきちんと見て回ったから、結界を越えてくるウルガルムはいないはずよ」
「だがそれはこちらから結界を越えたりしない限り。だろ」
「……きちんと村人たちには言いつけておくわ」
その後、ラムから蒸かし芋をスバルが二個ほど奪ってから別れた。
「ってか蒸かし芋うんま。クセになりそう」
「あいつを褒めるのは癪だが、確かにうまい」
受け取った芋を頬張りながら村の散策をし続ける。
体の調子を確かめつつ、森から救い出した子共たちの安否も確認していくと、
「ちょうどいいところにいたのよ」
またもや後ろから声が聞こえてくる。
小さい身長にそれと同じくらいの金髪のツインテール。ベアトリスだ。
「お前、そんな服装で歩いてたら汚れると思うんだけど」
見るとドレスの裾を地面に擦らせながら歩いている。
「砂も泥も魔法で弾いているわ。そんなことより、話があるのよ。――お前らは、後半日で死ぬわ」
本当に、何の前触れもなく、突如ベアトリスがそんなことを言ってきた。
告げられた言葉の意味を咀嚼し、飲み込む。
脳まで巡るのにほんの十秒。スバルは黙ってしまう。
対して士は、
「ふーん。そうか」
と、淡泊な反応を見せた。
「……驚いたわ。反応が薄いのね。てっきり、死にたくないってピーピー泣き叫ぶと思っていたわ」
「ま、呪いが解けてないとか、そんなところだろ」
「理解が早いわね。まぁそういうことよ。魔獣に噛みつかれたときに大量に植え付けられて、解呪困難になってしまってるわ」
その表情から、ドッキリでした。ということは考えにくい。本当に二人は半日後に死ぬのだろう。
「半日以内って言ってたよな?何で分かるんだ?」
「単純な話かしら。半日もすれば、お腹が空いた魔獣たちがマナを求めて呪いを発動させる。つまり、お前たちは魔獣の餌にされたのよ」
「なるほどな。腹減ったから人を襲う、か。動物らしい安易な行動だな」
「お前たち。怖くないのかしら?」
そこまで言ったところで、ベアトリスが不思議そうな表情でそんなことを聞いてきた。
「ベティーのこれは余命宣告と同じなのよ。そしてベティーとにーちゃは時間がないことを言い訳にお前らを助ける方法を実行しないでいるわ」
二人を見捨てるような発言をして、ベアトリスは反応を待っている。ベアトリスが何を求めているのか、スバルはふと思う。
「何お前。俺らに責めてほしいの?」
ベアトリスは否定しない。ただ肯定もしない。
「ま、お前らの判断は正しい。リスクとリターンが見合ってなきゃそれを実行しないのも当然だ。……っていうか。言いたい事ってそんだけか?俺はお前がそこまで意地悪な奴じゃないと考えているんだが?」
「……お前がベティーの何を知っているのかしら}
「お前が思っている四倍くらい長い付き合いぐらいの感覚だぞ」
眉間の皺を深める少女を見ながら、スバルは短く長かった日々を思い出す。
ラムとレムの関係は良好。呪術師の正体も掴めた。順風満帆だ。スバルと士の命が勘定に入っていないことを度外視すれば。
「……可能性は低いのよ?」
「それでも構わねえさ。教えてくれ」
「……解呪をする方法は一つ。呪いをかけた魔獣、その本人を倒す事よ」
なるほど、と頷き、ベアトリスが半ば諦めている理由をスバルが悟る。
「魔獣の数が多すぎて俺たちに呪いをかけたのがどいつか分かんねえ、って。ことか」
振り返り、魔獣がうじゃうじゃいる森の中を見やる。
一人一人の牙に呪いがかかっているとしたら、スバルたちを呪った魔獣の特定。さらに駆除をすることも困難だ。
「難易度が高すぎる。諦めるしか……」
『そんなことで、諦めるんですか』
不意にスバルの頭にそんな言葉が浮かんだ。
(今のは――?)
士たち以外にこの場には誰もいない。なのに、声が頭の中に響いてくる。
「頭でも痛くなったのかしら。無理もないのよ」
『それだけかしら。後はお前の自由にするのよ』
目の前にいるベアトリスに重なって、違うベアトリスの声が聞こえる。
どこで聞いたのかは分からない。が、どこかで聞いた声が脳内に響く。
声の主が、近づいてくるのが分かる。寝ているスバルの目線まで顔を下げ、
『無事に帰れたなら、ツカサ君の事について話してもらいますからね』
そうだ。この声は。
『――必ず、助けます』
聞こえてきた決意、覚悟の声の主の行方を聞いたのは、スバルではなく士だ。
「おい、そう言えばレムの姿が見えないんだが。何か心当たりはないか?」
そう、今日二人はあの青髪のメイドを一度も目にしていない。
「……」
その質問に沈黙で返すベアトリスに、スバルが荒い口調で、
「……おいベアトリス。レムはどこに!」
「――お前らが逆の立場だったら、どうするかしら」
「答えになってねぇ!」
ベアトリスに掴みかかろうとするが、血が足りないのか足取りがふらつき、転びかけたところを士に支えられてスバルは自分の行動を顧みる。
ただの八つ当たりに過ぎない感情だ。ベアトリスがこの場にいるのはそんなスバルたちの不平不満を一斉に受けるため。それを理解した瞬間、自分の浅ましさに腹が立たしくて仕方がない。
「今のは、聞き捨てなりません」
そこへ静かな怒りを浮かべている桃髪の少女が会話に割り込んできた。
スバルたちを見る鋭い視線は、見覚えがある。
あの最悪のループ、レムが死んだ世界で二人に向けていた視線だ。
「千里眼に、レムが映りません。ベアトリス様、レムは今どこに」
「……ベティーはただ可能性を提示しただけよ」
「……まさか」
「じゃあ……やっぱりレムは」
魔獣の住む森の中に、たった一人で入っていったのだ。スバルたちを救うため。たった一人で。
「バカかあいつ……何で俺に知らせなかった!?」
戦力として士はかなり役立つことができるのは、先ほどの魔獣の群との戦いでレムも分かっているはずだ。
なのにどうして。
そう考える後か前か、悲観の走っていた表情を決意へと変え、森へと駆け出すラムを士が止めた。
「どきなさい、ツサカ。今のラムは、いつもみたいに優しくないわ」
「待て。もしそれが事実だとしたら、森へ行く前に少しでも成功する確率を上げておきたい。質問に答えろ。まず一つ。お前のその千里眼とやらでレムの位置は分かるのか?」
「……ええ。森の中へラムが入れば、必ず分かるわ」
「十分だ。で、二つ目。お前って、いざ魔獣とエンカウントしたときに、戦力になるか?」
「それはどういう?」
「俺はともかくスバルは戦いでは全く役立たずだ。だからスバルを守ってくれるか?」
「え……。ま、待ちなさい。ツサカもバルスもついてくるつもりなの?」
二人がついてくるとは考えていなかったのか、ラムは珍しく焦った口調だ。
「ああ、俺たちはレムをこんな目に合わせた責任がある。それの尻拭いをしなきゃ行けない」
「それに」と、スバルが士の言葉に続けて、
「こうなったら、全員で(六日目)に行こうぜ。それができてこそ、俺たち、本当の仲間になれる気がすんだ」
自信満々で言い放つ二人。その態度や言動に疑問はつきない、が、
「レムほどの戦闘力はないわ。せいぜいレムの三分の二程度よ」
「そんだけありゃ十分だ」
話に置いてけぼりのベアトリスの方を向き、
「ベアトリス。エミリアがこの場に来たら適当に見繕っておいてくれ。俺たちはこれから森に行く」
「ま、待つのかしら。あのメイドを助けるのは自分の命を捨てるってことよ。それが理解できてるのかしら?」
「ちっと違うな。訂正しとくぜ」
その質問に答えたのは、士ではなくスバルだ。
二人が死への道を一直線に突き進みそうになっていると勘違いしているのだろうか。珍しく焦るベアトリスに指を立て、
「命は誰にでも平等に一個与えられる。それを投げ出すのなんて、多分世界で一番みっともない。だから、俺たちはそれよりも格好良く。だけど醜く、みっともなく、あがくだけだよ」
一度、レムのために投げ出した命だ。それがレムのために消えたところで、二人になんら後悔はない。
だが、
「どうせなら逆転劇を起こそうぜ。欲張りな俺は。いや……俺と士は、全員で生きたいんだよ。お前も、レムも、ラムも、エミリアたんも含めて全員で笑いあっていたいんだよ」
理屈をへし折り、合理性を忘れ去り、真っ当とは真逆の回答。
そんな回答なっていない回答に、ベアトリスは、「……勝手にすればいいわ。選択肢は示してやったのよ」
「そうか。じゃあ好きにさせて貰うぜ」
そう言ってスバルと士は、レムが今なお血を流し戦っているであろう森へと体を向ける。
「
「助けに行こうぜ。あのお節介で早とちりな女の子を。ってことで、オールインだ!運命サマ!」
拳を森へと向け村一帯に響くほどの大声で、スバルは宣戦布告をした。
「はぁ、はぁ……」
「どうしたのバルス。もう息があがっているわよ」
「どうしたもこうしたも、お前に決定的な欠陥があるせいだろーが!」
ムラオサから餞別として剣を貰い、元気になった子供たちからも贈り物としてポケットに色々と物を詰め込まれ森へと踏み込んだ約30分後。
スバルの体力は底をつきかけていた。
結論から言えば、この作戦にはかなりの問題点があったのだ。
まず第一として、スバルの動きがかなり鈍っているという事だ。
村を歩いているときは、普段とそこまで変わらない動きができていたというのに、森に入った途端にスバルの動きが段違いに遅くなった。
当然と言えば当然だ。つい先ほどに致命傷となってもおかしくない傷を無数に付けられ、出血も酷い状態。さらに行くときにはあまり気にしていなかったが、この森の辺り一帯は全てが獣道なのだ。
故に幾度も足を捕られ、転びそうになる。そんな状態にスバルの元々の体力不足が影響し、探索のスピードはレムと一緒に森に入った時の三分の一程にまで下がっていた。
しかしそれ以上に致命的なのが、『ラムが千里眼を発動している最中、ラムは完全に無防備になる』ということだ。
見た目に反しかなり知能の高い魔獣たちは、そのことを何度も襲撃をしている内に把握し無闇に襲ってくるのではなく、そのタイミングを狙って襲撃するようになってきた。
始めの内はスバルと士の二人で対応できていたが、次第に状況が悪化し、ラムの手を借りなければ対応できない程に追い込まれた。
「あれほどの大口を叩いておいてだらしない。もっとシャキッとしなさい」
「ち、ちくしょう。後で覚えとけよ……」
疲労が溜まり荒い息をする二人は、地面に引っ張られているかのようにその場に座り込んでしまう。
二人も度重なる魔獣の襲撃により、既に疲弊状態に陥ってしまっているのだ。
「そんなことをしている暇はないわ。今から千里眼を発動させる。二人で私を守りなさい」
「はいはい。分かりましたよ」
「ったく。ぶれないやつだな」
森の中が静寂に包まれていくのを感じながら、最大限の注意を周囲の木々に払う。
詳しい原理は分からないが、自分とは他の生物の視界を借り、自分の視界を文字通り(千里)伸ばせるというものらしい。
ただ、この森に住む生物が多すぎるせいか、レムの発見はかなり難しいようだ。
「……来るわ」
「多分レムじゃねぇ、よなぁ……」
「ブツブツ言ってないで剣を構えろ!」
ラムの発言からわずか数秒後に、士の背後の草むらが揺れ、勢いよくウルガルムの群が出てきた。
ただし、そのウルガルムたちは今までのものとは何かが違った。
先ほどのように闇雲に突っ込んでくるのではなく、冷静に状況を判断。
一瞬にして三人の周りを完全に囲み、瞬く間に包囲網を作成する。
いくら奴らの知能が高いとは言え、これほど鮮やかに退路を断つことは獣には到底不可能だ。
つまり、
「この近くに奴が居るみたいだな」
命令を出しているであろう司令塔、アナザーゴーストがこの近くにいるということだ。
このくらいの数ならば、変身せずとも三人ならば倒すことは可能だ。
だが千里眼はかなりラムの体力やマナを消費してしまうらしく、スバルに毒を吐いていたときにも足は少し震えていた。
そんな状況でこんな風に退路を断たれてしまえば、士がとれる行動はただ一つしか残されていない。
「……おいラム。俺は今からあることをする。それについて絶対に怒ったりしないでくれよ?」
「……この状況を打開できるなら、何だっていいわ」
「その言葉、信じるからな」
当然、ラムがそんな簡単に許してくれるはずはないだろう。ひょっとしたら士とスバルは守るはずだった姉妹たちにあの時のように殺されるかもしれない。
しかし、変身をせずに全員が死んでしまったら、それこそ本末転倒だ。
故に士はそのリスクを承知の上で覚悟を決めた。
懐からドライバーを取りだし、腰へとあてがう。
ライドブッカーを腰へと戻し、ケースとなっている部分を開け、カードを取り出す。
「!それは……」
「変身!」
体の前にカードを突き出し腕を体に寄せ、そのままバックル部分へとカードを挿入し、バックルを両方から押す。
(KAMEN RIDE DECADE!)
「ハァッ!」
マゼンタ色の戦士、ディケイドへと身を変えた士は、魔獣の群へと駆け出した。
「ツサカの正体が、ディケイド……?」
「ああ、そうだ。でも勘違いしないでくれ。士は破壊者なんかじゃなくて、正義のヒーローなんだ」
先ほどとは比べものにならない力で、魔獣たちを蹂躙していく士。
何の危なげもなく魔獣たちの殲滅に成功。スバルたちの方へと歩み寄っていく。
「すまないな。今まで隠してて」
「……まだ事態がよく飲み込めてないわ。ただ、ツサカは敵というわけではないのね?」
「信じられないかもしれんが、そうだ」
あまりにも急すぎる出来事にラムが困惑していると、横の方からすさまじい勢いで何かが接近していることが木々の揺れる音で分かった。
「魔女の、匂い!」
飛び出してきたのは魔獣。ではなく、鬼と化しているレムだった。
黒く染まっている正気を無くした瞳は、眼前にいる敵、ディケイドを移しているのだろう。
血に塗れた鉄球を振りかざしながら、こちらへと突進してくるレムから二人を守るために、後ろへとラムとスバルを押し、その反動で士も後ろへと動く。
地面に鉄球が打ち付けられ、まるで隕石でも落ちたかのようなクレーターがその場に形成された。
「うぉわぁ!」
「きゃっ!」
手加減や容赦といった言葉を知らない一撃に、よって空いた穴によって、二人がバランスを崩して転倒。
すると、森の中に息を殺して潜んでいたのか、魔獣ウルガルム。そしてその軍のリーダー的存在、アナザーゴーストもこの場に乱入してきた。
「うっそだろ……!?」
体制を崩した二人が、後ろから迫る魔獣の牙による攻撃をどうにかする術はない。
「ッツ!」
そんな二人を救ったのは、驚くことにレムだった。
魔獣たちを即座にロックオンし、拳で迫ってくる魔獣を惨殺しまくる。
その間にスバルは士の方へと走り、悲壮感ただよう声で、
「おい、士!これからどうする!」
流石に想定外の事態が続きすぎている。レムと同時にアナザーゴーストに出くわしてしまうという、最悪に最悪を重ねがけしたような状況。
この状況を打開する策は――。
「……一つ方法がある」
「何!?本当か!?」
「ああ、ただしこの作戦はかなりリスキーだ。最悪、お前が死ぬ可能性だってある」
「そんなん構わねぇ!速くそれを教えてくれ!」
そこで士が一呼吸を入れ、
「スバルとラムで、魔獣たちとレムの相手をする。これが作戦だ」
「は?」
そんな無茶難題を二人へと押しつけた。
「あの怪物、アナザーライダーとか言う奴は多分俺以外じゃ太刀打ちできない。さらにレムは俺を一番の敵と認識してる。だけどさっきレムは魔獣の攻撃からお前らを守った。不確かだが、恐らくラムを守ろうと行動しているんだと思う。だがラム一人じゃすぐにマナ切れで動けなくなっちまう。だから」
「……俺がラムを守りつつレムを正気に戻せ、と」
「そうだ」
「……俺に拒否権は」
「お前は運命にオールインした。だったら俺はお前にオールインするだけだ」
「……ったく、しょうがねぇな。分かった、こっちは任せろ」
「ああ、頼んだ。……スバル!」
アナザーゴーストへと向かう直前に、士がスバルへと何かを手渡す。
「これって……」
「何かあったら使え。多分役に立つ」
「ああ!」
スバルとくっつけていた背中から離れ、アナザーゴーストの胴を掴み森の中へと突っ込む。
「クッ、ハナセ!」
「お望み通り、今放してやるよ!」
言葉通り胴から手を離し、代わりにパンチを叩き込む。
ダメージは与えられないが、相手を怯ませカメンライドする時間は十分稼ぐことができた。
(KAMENRIDE GHOST!)
すると、アナザーゴーストの変身の時のようにどこからともなくパーカーが出現し、ディケイドの体に覆い被さる。
緑色の目は黒く、バーコードのような線とマゼンタ色は消え失せ、代わりにオレンジ一色に染まり一本の角を額に生やしていた。
「お前の命、燃やしてやる。ハァッ!」
アナザーゴーストへと走りながら、空中にできたオレンジ色のサークルへと手を入れると、中から剣のようなものが出現。
仮面ライダーゴーストの固有武器、(ガンガンセイバー)だ。
それを力強くアナザーゴーストへと振り下ろす。
「ガァ!」
するとアナザーゴーストが今までにない反応を見せ、よろよろと後ずさっていく。
(やはり効いている!)
そう認識するや否や、胸元へと潜り込みガンガンセイバーで滅多切り。
耐えきれなかったのか、地面へと膝をつくアナザーゴースト。
苦痛に歪むような声が出ていたが、それはすぐに不敵な笑みへと変化する。
「ヤハリワタシタチノ弱点二キガツイタカ。ダガ」
アナザーゴーストが両手を前へと突き出すと、周囲の木々から人魂のような物が一つだけ飛んできて、アナザーゴーストにまとわりつく。
そしてそれは士の体からも放出され、アナザーゴーストへと吸収されていった。
「ぐっ……力が、入らない……?」
「フフ。ガァ!」
「くそっ!」
ガンガンセイバーとライドブッカーを構え、アナザーゴーストへと横一線に振る。
が、
「イマノワタシニハ、キカナイ」
「なっ!」
刃は通らず勢いを殺され、代わりに士がカウンターで腹にパンチを一撃入れられる。
「グッ……!」
「ハァッ!」
猛烈なラッシュを叩き込まれ、力なく崩れ落ちてしまう。
「ガッ……」
追加で顎に蹴りを入れられ士の体が浮き、後ろへと倒れ込む。
「トドメ、ダ」
(OMEGA DRIVE!)
「ハァァァァァ……!」
真っ黒の目玉がアナザーゴーストの後ろに浮かび上がり、そこからドス黒いエネルギーが放出。足に纏わりつく。
「タァァァァァ!」
「ガァッ……!」
立ち上がろうとしたところに、アナザーゴーストのライダーキックが命中。
負のエネルギーが体に流れ込み、弾けるように後ろへと飛ばされる。
「かっ……はぁ、はぁ……」
地面に倒れている体に鞭を打ち、よろよろとはしているが何とか立ち上がることに成功。
「体が、異様に怠い……。まさか……」
「ハハハ。ソウダ。ノロイヲカケタヤツラノ、(マナ)ヲイタダイタノダ」
「じゃあ、さっきの人魂みたいな奴は……」
「ソウ。オマエトイタ(スバル)トイウヤツノ(マナ)。ソシテ(ディケイド)オマエカラモイタダイタ」
「なっ……!じゃあスバルは」
「イマゴロ、ミウゴキスラトレナイハズダ」
最悪。最悪の事態だ。
スバルの身動きが取れないとなれば、ラムを守れる人がいなくなる。
仮にレムがラムを守ったとしても、スバルが死ねば時間が戻り全てがリセットされ、そうならなければ魔獣はそのままスバルを噛み殺す。
このままでは――。
(急いであいつらの場所に……!)
しかし、動き出したその足はすぐに停止する。
(……こんな状態の俺が行ってどうする。こいつが今の俺に追いつくことは容易にできる。あいつらの所にこいつを持って行ったら、それこそ収集が着かなくなる)
「やるしか、ないか」
つま先を、強い視線を、アナザーゴーストへ
無駄と分かっていても、攻撃を止めない士。
それをあざ笑うかのようにあえて防御をしないアナザーゴースト。
「ムダダ!」
「ぐっ!……まだだ!」
何度殴られようが蹴られようが突き飛ばされようが、士は立ち向かう。
そんな士を今度は憐れむような声で、
「ナゼダ?ナゼソンナニモタチアガル?」
「……憶測だが、お前のマナを吸収する術は俺たちに呪いを掛けた魔獣を倒せば解除されるんじゃないのか?」
その士の質問に、一瞬驚いたような表情を浮かべるアナザーゴースト。
「ヨクキガツイタナ。ソコハ、ホメテヤロウ」
「つまりスバルが魔獣を倒してくれれば、俺はお前に勝てるわけだ」
「ホザケ。アンナザコニワタシノイヌタチハタオセナイ」
「どうかな。世界ってのは、やらなきゃどうなるか分からない事の積み重ねでできてんだ。それをお前が決めることはできない。俺にも、スバルにも。だが人を、そいつの可能性を信じる事はできる!だから俺はスバルが魔獣どもを倒すことを信じて、お前と戦う!」
(ATTACKRIDE SLASH!)
「ハァッ!」
「ガァッ!?」
刀身に纏わりついたマゼンタ色の巨大な刃で縦一線にアナザーゴーストを切り裂く。
「言っとくが、俺の攻撃がお前に通らないなんて一度も言ってないぜ」
剣が当たった場所が裂け、血の代わりにイカ墨のように黒く、ドロドロとした液体が漏れ出していた。
「ッツ!ナマイキナァ!」
「さぁ……来い!」
お互いに体制を整え仕切り直し、
かなーり説明回に時間を割いたため、王選候補者一人ずつの自己紹介はダイジェストみたいな感じでよろしいでしょうか?
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YES
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NO