「ふっ。ほっ。てやぁー!」
魔獣の攻撃から身を守るようにしながらその内の一体に接近。攻撃の構えをとる。
そのスバルの足下に不意に魔法陣が展開された。
驚くスバル。やった、と顔をにやけさせるような仕草をするウルガルム。
「『エル・フーラ』!」
しかしその直前にラムが風を刃として放出。魔獣の顔が横に真っ二つに切り裂かれ、術者が死ぬと同時に魔法陣も魔法と一緒に風となって消えた。
「センキュー、ラム!」
「せんきゅーとは何かしら」
「ありがとう、って意味だよ!」
こちらが魔獣たちを待つだけでは駄目だ。こちらからも迎撃しに行かなければいけない。
そう判断したスバルが魔獣の懐に潜り込み、縦に一閃。
魔獣の腹がかっさばかれ、スバルの顔面が血に染まる。
当然それを仲間の魔獣たちが見過ごすわけもなく、スバルに噛みつこうとするが、ラムの魔法によって次々と裁かれていく。
「うえ!ペッペッペ、まっず!」
「元々汚らわしい物がさらに汚く……」
「人のことを汚物見る目で見んの止めろよ!後、俺を物扱いしないで!」
中々に息のあった二人の連携にたじろぐ魔獣たち。だが攻撃の手が完全に止まるわけではない。
度胸のある魔獣が一人こちらへ来ると、他の魔獣もこちらへと芋づる式に向かってくる。
ある者は後ろで魔法陣を展開させ、ある者は時間稼ぎのように玉砕覚悟で牙を向けてくる。
それをラムと一緒になぎ倒していると、突然ラムの体がふらつき始めたのが見えた。
「ら、ラム?」
ラムの顔は余裕ではなく苦しみのようなもので染まっており、息もかなり荒くなっていた。
魔法を短時間に使いすぎたため、マナ切れを起こしたのだ。
「このタイミングでそれはマズいって……!」
剣を腰に差し、ラムを抱き抱えてその場から飛び退く。
そこに魔獣の魔法が発動。足下の地面が爆発して起こった土砂流によって、石のつぶてがスバルへと降り注いだ。
「どわぁーッ!痛い痛い!」
「バルス、右よ!」
「なっ!?」
森の中から猛ダッシュで近づく魔獣が、スバルに抱かれているラムをロックオン。一切の迷いなく牙を剥き出しにして命を刈り取ろうとする。
スバルもこの距離では身を捻ってラムを守ることはできない。
万事休す。絶体絶命。まさにそんな状況。
「ッツ!」
魔獣の完璧な作戦は、一人の鬼によって無へと帰した。
モーニングスターがスバルの眼前まで飛来。魔獣の頭部を挽き肉へと変え、持ち主の元へと戻っていく。
鉄球を手元に携えているそれの持ち主、レムがこちらへとジリジリと距離を詰めてくる。
鎖と地面の擦れる音がスバルの鼓膜を震わせ、レムの放つプレッシャーにより体も震え始めた。
「……ラム、これ食っとけ」
危機的状況を瞬時に判断し、ポケットへと手を突っ込んで赤色の果実をラムへと手渡す。
「……こんな物を?」
「速く!」
渋々ながらもその果実を口にすると、ラムの中をほとばしるような何かが駆け抜け、お姫様だっこの状態から自力で立ち上がる。
スバルが渡したもの、それはボッコの実だ。
一時的にゲートをこじ開けてマナを補給させるというドーピングアイテムである。
「感謝するぜ。士」
これはあの時に士がもしもの為にと渡してくれた物だった。
届くはずもない御礼を心の中で漏らして、鬼と化しているレムを見やる。
「姉さま」
掠れていて、蚊の羽ばたきより小さい声だった。
しかしそれは確かな音を含み、スバルの脳へと響いた。
「レ、レムさん?もしかして元に――」
それはまさに奇跡だった。
言葉を言いきる前に射出された鉄球。
それをほとんど転ぶような形で身を左に動かし回避。
完全に避けることはできなかったが、何とか手の甲の皮が全て剥げる程度の被害で済んだ。
「痛ぇっつのに!!」
更なる追撃が来ることを少ない戦闘経験の中から絞り出し、すぐにその場から飛びのく。
鎖が地面を打ち、小さなクレーターを形成する。
もしも回避が遅れていれば、スバルの腕が無くなっていたかもしれない。
そんな考えを張り巡らせながら、ラムと一緒に併走。レムと一度距離を取る。
「ったく。制御できないなら鬼化なんてすんなよ!なぁ姉さま何かアイディアない!?」
「私に頼る前に、バルスが考えなさい!」
「こんな状況でもその態度を崩さない姉さま流石ー!?」
森か岩陰に身を潜めていたのか、魔獣がラムの頭を咥え込むようにして大口を開けて間近に迫っていた。
「ッツ!」
ラムの頭が魔獣の餌になる。その前にレムがスバルを殺すこと一時中断し、ラムの防衛へと動く。
「『エル・ヒューマ』」
氷の固まりが複数個作られ、射出。それらが魔獣の額へとめり込み、ラムに届く一歩手前で絶命。
レムの周りにはまだ氷が何個か浮いており、それら全てがスバルへと放たれる。
「嘘だっろ……!」
剣を構え、一つ二つと氷の弾丸を打ち落としていくが、全てを裁くことはできずに、一発が肩を掠め、もう一発が太ももを切り裂く。
「くっそ……!」
瞬間的に襲ってきた激痛に地面に手をついてしまう。そこへ無慈悲にも鉄球が――。
「『フーラ』!」
衝突する前にラムの放った牽制の魔法がレムの頬ギリギリを通り、一瞬動きがフリーズ。
その隙をついて何とかその場から逃げ、ラムの元へと走っていく。
「ラム様助かりましたぁ!」
「いつもの事でしょう」
「やっぱその傲慢さは変わらないんですね!ってか俺じゃやっぱりいいアイディア浮かばねえ!ラムさん何かありませんか!?」
「……少し試してみるわ」
隣を走るラムが魔獣の群れに近づき、棒立ち状態になる。
当然、岩陰に身を潜めていた魔獣たちもこれは千載一遇のチャンスと思ったのか、ラムにその牙を突き立てようと突進。
「――!」
ラムに背後から飛びかかろうとしていた魔獣の胴体に、レムの後ろ回し蹴りが直撃――爆発音じみた轟音が炸裂し、ぶっ飛ぶジャガーノートの内側がぐしゃぐしゃになっているのが遠目からでもよくわかった。
「姉……さま……」
「うぉぉぉぉぉ!」
マズイ。このままではラムが。そう判断したスバルがレムに接近。ラムからレムを引きはがそうとするが、
「どけ!」
レムの鉄球が眼前に迫るのが、何故かとてもスローに見えた。
爆ぜる、爆ぜる。スバルの脳が。頭が。世界が、戻る。
そうならなかったのは、アナザーゴーストのおかげだった。
瞬間、スバルの体から人魂のようなものが飛び出し、明後日の方向へと飛んで行くと共に、体から力が抜けて膝から崩れ落ちていった。
「な、何が……」
起こったんだ。そう考えるよりも速く、レムが殺意のこもった視線をスバルに送り、
「レム!止まって!」
スバルにとどめを刺そうと鉄拳を振り上げるレムをラムが一喝。
すると何故かレムの動きがピタリと止まり、スバルを見下ろしていた険しい視線を比較的穏やかなものへと変え、ラムへと向ける。
「姉さま……」
今しかねぇ。
「ウルァァァァァァ!」
体のだるさなど知った事か。今死ねば全て終わりなのだ。全力を出すのは、今しかない。
レムの注意がそれた一瞬、スバルの持つ剣が一閃。レムの白く美しい角を叩き落した。
するとレムの体がプツリと糸が切れたように、倒れ込んで動かなくなる。
まさか、死ーー。
「大丈夫よ、気を失っただけ。鬼はこれくらいの事で死んだりしないわ」
スバルの不安げな表情を見て考えを読みとったのかラムがそんな一言を放つ。
「そ、そうなのか。よかった……!」
結果的にラムの無茶苦茶な作戦は功を奏し、何とかレムをなだめる事に成功。
考えてみれば士の言っていた、『恐らくレムはラムを攻撃しない』という理論は結果的に正しかったのだが、今のスバルたちは軽いパニックのような状態にあるため、完全に頭の中から消失しているのである。
故にラムの行動はかなりリスキーなものであったが、それが功を奏したのだから文句を言う者は誰もいないであろう。
疲労と緊張が一気に押し寄せてきたのか、体が斜めに傾くのをこらえ、目の前にいつの間にか迫ってた魔獣の眼球に剣をねじ込む。
「おいお前らぁ!こんな風になりたくなきゃとっとと散れ!」
抜き取った剣に刺さっていた目玉を魔獣たちに見せつけるように掲げ、動きをできるだけ抑制させ、その間にラムの元へレムの体を担いで走る。
「……何故、角が弱点だと分かったの?」
「……知るかよ。あえて言うなら本能みたいなもんだ」
本当にあそこが弱点でよかった。でなければ今頃スバルも魔獣たちのような肉の塊に変わっていたことだろう。
一息ついた所で今更ながら背中を冷や汗が伝い、この場の緊迫感をひしひしと感じとった。
「アドレナリン出すぎてて気づかなかったけど、これメッチャヤバくね?」
周囲を見渡すと状況が最悪なのは変わりない事に気が付いたスバル。魔獣の数はずいぶんと減り、後5、6体程しかいないが、スバルはアナザーゴーストの影響でマナを少しずつ吸い取られており戦力としてはほぼ使えない。
さらにラムもかなりのマナ不足になっており、後一発魔法を打ってしまえばその場に倒れてしまうだろう。
つまり今二人は戦うすべをほとんど失ってしまったことになる。
よってスバルたちが取ることができる最善の一手は――。
「全力で逃げるぞ!」
「結局、こうなるのね」
レムをお姫様だっこで持ち上げたまま、魔獣たちを振り切って森の中を猛ダッシュで駆け抜ける。
かくして、魔獣数匹対手負いの獣二人の逃走劇が幕を開けた。
スバルとラムが逃走を開始してから少し経った頃。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ハァ、ハァ、ハァ……」
夜の森の中の開けた場所で対峙している二人の
その二人の体力はこれまでの戦闘によってすでに限界に達しており、後何発か攻撃が命中すれば、どちらも倒れてしまうような、そんな状態。
故にどちらももう一方に下手な攻撃をして反撃を貰わないように一定の距離を保っていた。
張り詰める空気。鼓動を刻む心臓。相手を睨みつけたままそらさない視線。互いの全てがもう一人の幽霊を牽制している。しかしそんなぶつかり合いをしている反面、静寂にその場は包まれていた。
もうこの場には何者の乱入も許されていない。ただ最初からリングに居た二人のみの戦い。
「ハァ!」
「っく……」
そんな戦いの中、静寂をつきやぶって先に仕掛けて来たのはアナザーゴーストだ。
間合い一気にを詰め、正拳を放つ。士もそれをパンチで同じように受ける。拳と拳がぶつかり合って二人の周囲に衝撃波が発生する。
落ちている葉は遠くへ飛び、木々を揺らしてから衝撃波は空気と同調して跡形もなく消えた
互いに一度距離を取り、次は士のターン。ガンガンセイバーを構え、アナザーゴーストへと走り剣を振るう。
が、しかし、斬撃が首に届く前に腕で防がれてしまい代わりに手痛い反撃を叩き込まれる。
「カッ……」
一瞬士が怯んだ隙を見逃さずに、アナザーゴーストは士へと容赦のない追撃を与える。
一発、二発、三発と腹にパンチを喰らったところで、今度は士がアナザーゴーストの腕を四発目が当たる前に掴み防いだ。
その腕を思いっきり自分の体へと引き寄せ、アナザーゴーストが近づいた所に一閃。パンチよりも数倍重たい一撃を浴びせられ、今度はアナザーゴーストからうめき声が漏れ出した。
すかさずライドブッカーをガンモードへと切り替えた後にディケイドライバーへとカードを差し込む。
(ATTACKRIDE BLAST!)
「カハァ……」
アナザーゴーストが後ろへとよろめくが体制をすぐに整え、自身のドライバーへと(眼魂)を挿入する。
(アーイ……)
本来の変身音とはかけ離れた地獄から響いてくるような低い音。それが鳴った後に、アナザーゴーストはそのドライバーのレバーを引き、
(カイガン、ロビン・フット)
真っ黒がベースの少し緑が混ざっているパーカーが黒煙の中から出現し、アナザーゴーストの体にまとわりつく。
アナザーゴースト、ロビン魂だ。
「コレデ、ドウダ!」
アナザーゴーストのドライバーから出現したガンガンセイバーがその手に握られると、見る見る内にそれは姿を変え、弓の形に変化した。
弦のようなものをキリキリと引いて、射出。それに風が纏わりつき、サイズが二回りほど大きくなる。その矢を身を捻って何とか回避し、
「……姿を変えられるのか。だったら」
(FORMRIDE ROBINFOOT!)
負けじと士もその身を緑色のパーカーで包み、ディケイドゴースト、ロビン魂へとその姿を変え、ライドブッカーを腰に装着し、弓に変わったガンガンセイバーを構える。
矢と矢が双方から同時に発射され、それらが空中でぶつかり合い消滅していく。
とてつもない量の弾幕の衝突を繰り広げていると、急に士が唐突な目眩に見回れた。それは呪いのせいでマナを吸収されている事による症状。
「うわぁ!」
それを脳で考える前にその一瞬の隙を突かれ、士の胸に矢が一本突き刺さった。
その間にも目眩じゃ続き、さらには寒気までしてきた。
これ以上の長期戦はまずい。そう判断した士は、ライドブッカーから黄色のゴーストのエンブレムが描かれたカードを取り出し、ドライバーへと装填。一撃ですべてを終わらせる作戦のようだ。
「これで……決める!」
「ソウハイクカ!」
アナザーゴーストもそれに対抗し、自身のドライバーへガンガンセイバーを近づける。
そこに付いている目玉と、アナザーゴーストの黒い眼魂の間に一筋の光が出現し、
(FINALATTACK RIDE GOGOGOGHOST!)
(ダイカイガン。オメガ、ドライブ)
「はぁ!」
「ハァ!」
両者とも弓を限界まで引き絞り、エネルギーをチャージしていく。
その光が限界点まで達したとき、二人は弦から手をパッと放した。瞬間、音が一瞬の間消え二人の弓から巨大な光の矢が放たれた。それは直線に突き進み、それらが二人の中間地点でぶつかり、大爆発。
風がその場から吹き荒れ、その衝撃波は森全体を揺らした。
そんな大爆発が起こった後、その決闘の場に一人佇んでいたのは、
「フフフ……ハーッハッハ!」
黒い複眼に月の光を映している、アナザーゴーストだった。
かなーり説明回に時間を割いたため、王選候補者一人ずつの自己紹介はダイジェストみたいな感じでよろしいでしょうか?
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YES
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NO