Re:ゼロから始める世界の破壊者   作:muryoku

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今回の回は自分がこの小説を書く上で、やりたかったことの一つがあります。
これで低評価が付くことになっても、後悔はありません。


第二十九話 何かを守るために、燃やさなければいけないもの

 

 レムは自分自身が大嫌いで仕方なかった。

 ただの模造品の自分に。レプリカでしかない自分に。

 ――鬼族にとって、双子は『忌子』である。

 それも、数少ない鬼族たちの中で定められた、厳格な掟のひとつであった。

 元来、鬼族のものはその頭部に二本の角を有して生を受ける。

 平時には角は頭蓋の中に隠されているが、事態が鬼としての本能を揺さぶる状況へと変われば、角はその頭部より姿を現し、周囲のマナを食らい尽くす。

 大気中のマナをねじ伏せて従わせ、自らの戦闘力を大きく高める。角はそのための器官であり、鬼族にとっては種としての誇りそのものといえる。

 そして双子はあろうことか、その二本の角を分け合って生を受けるのである。

 そのため角を失ったものは『ツノナシ』と呼ばれ、種族としての立場を失う。一本の角の損失でさえその誹りを免れない。にも関わらず、双子はその大事な角を最初から欠損して生まれてくる。これが忌むべきことでなくてなんといえよう。

 しかしラムはレムよりも高い魔法の才能を持って生まれてきた。

 その為同属の皆はラムだけを奉り、レムを蔑ろにした。

 姉と似ている容姿も、憎くて憎くてたまらなかった。どんなに姿が似ていても、姉には永遠に追いつけないから。その事実がさらにレムを孤独なものにさせた。

 ただ姉の指示を待って、それについて行って、姉の後ろをずっと歩んでおけばよい。それが幼き日にレムの打ち出した結論だ。

 運のいいことに姉は自分の事を唯一好いてくれた。その好意に甘えて、寄りかかっていた。

 (ラム)を盾にして自分の保身をすることしかレムはできなかったのだ。

 でもレムには姉がいた。姉さえいればそれでよかった。だから、自分が姉を追い越すことを諦めた。

 するとレムは日々の苦難も全てを草木が風を受け流すように認めてしまうことができた。

 そんな甘えが何日も、何年も続いた。

 

 

 

 レムはある夜、寝苦しさを感じて飛び起き辺りを見回すと、隣に寝ているはずの姉の姿が見つからなかった。

 部屋の外に出て姉の指示を受けなくては。――そう考えたとき、彼女は遅まきに失してようやく気付く。

 自分の家が燃えていることに。

 すぐさま鬼族の印である角を額から出現させ、壁を突き破ってすぐさま家の外へと飛び出る。

(ATTACKRIDE ADVENT)

 次の瞬間、無機質な電子音がレムの耳の中に侵入し、後ろから何かが爆発したような音が鳴り響いた。

 家がはじけ飛んだのだ。

 突然起こった緊急事態に困惑しながらも走る、走る。走り続ける。恐怖心に全てを埋め尽くされながら。

 ――数分走ったところで集落の中央、そこにうず高く積まれた黒焦げの死体の山を見た瞬間、レムの足は停止した。

 燃え盛る家々、焼き払われる木々、見慣れた世界が一晩で赤い地獄へ変わっていた。

 さらにそれだけではない。

 その死体の周囲や、燃えている家の付近にはこの世の物とは思えないような怪物たちがいたのだ。

 龍を模したような鎧を纏い、目元部分が凶悪な鋭い眼を思わせる形をしており、その下の赤い複眼が剥き出しの状態となっている。そしてその手に同属の死体を持っている怪物。

 黄色の目に真っ赤に光っている直線。棒状の赤く光る剣を握り、抵抗してくる鬼たちをくし刺しにする怪物。

 その肩や胸には、不思議な記号があり、(RYUKI)と(FAIZ)と書かれていた。

 そしてその真ん中に佇んでいたのは、顔に七枚のプレートのようなものがささり、目が炎に反射して光っていて、腰に四角い何かを付けている大男だった。

 炎にあぶられ、ねじくれ、怪物たちにくし刺しにされている死体の中に親しんだ顔が並んでいるのが見えて、レムは即座に思考を放棄し、その場に崩れ落ちた。

 そんな彼女をゆっくりと取り囲む、黒いローブを羽織った人影。深々とフードをかぶった影の顔は間近にくるまで見えず、見えた顔にも見覚えがない。しかし、そこに友好的な光は一切感じ取れず、レムの頬は似合わない微笑みを浮かべていた。

 手を振り上げ、その掌の中に輝く銀色の刃を少女へ向けて振り下ろし――直後、影の首が一斉に吹き飛ぶ。

 鮮やかな手並みで同じように周りの黒服どもを惨殺していくのは、レムを助けに走ってきたラムだ。

 それが分かった瞬間に、レムは姉の背中に付いていった。その行動が正しいわけがない。ただラムの足枷となるだけ。そう判断することは幼き日のレムにはできなかった。

 姉は唐突に振り返ってレムを抱きしめて――衝撃。

 姉の角は無惨に折れた。

 レムはそれを呪ったのか、笑ったのか分からない。ただただその瞬間に言葉が不意に漏れたことは今でも鮮明に思い出せる。

 やっと折れた、と。

 

 

 

 気が付けばいつの間にか、二人はメイドとしてこの屋敷に居座っていた。

 ここでの生活はとても簡単で、単純で、淡泊で、すっからかんだった。

 姉の代わりにいくら頑張ろうと、自分は姉に追いつけない。姉は私のせいで無力になった。姉と一緒に働くことでさらにそれを痛感した。

 ただ少し強い人間と変わらなくなった姉が、レムの心を深い奥底へと閉じこめていた。

 姉ならこうした。姉ならこうする。姉だったら。

 姉姉姉姉姉姉姉姉姉姉姉姉姉姉姉姉姉姉姉姉。

 そんな風に考えながらロズワールとエミリアに勤めていた、そんなときだった。

『俺の名前はナツキ・スバルだ!よろしく、レム』

『門矢士だ』

 そんな異物が紛れ込んできたのは。

 二人は王都でエミリアを救った事を利用して、あれよあれよと言う間に使用人見習いとなった。

 素性もしない二人を警戒するのは当たり前。レムは仕事の合間を縫って二人の監視を続けた。

 そしてレムが出した結論は、二人を殺す。というものだった。

 そもそも二人は怪しすぎるのだ。なぜ誰かも知らないエミリアを救ったのか。なぜそんな、悲しい目つきを私にたまに向けるのか。なぜ――村の人々をそこまで必死に助けるのか。

 レムが行動を起こそうとした晩に、レムは士に連れられてベアトリスの元で検査を受けて呪いに掛かっていることが分かった。その原因も二人は知っていた。だからさらに不信感を覚えた。

 だからレムはスバルと一緒に走っているときに、スバルを殺そうとしたが、できなかった。

 スバルの顔は必死だった。士の顔も。何が何でも村人を救わなくてはという決意に満ちあふれた顔。

 それを見てレムは少しだけ二人を信じて、子供たちを村へと連れ帰った。

 そしてスバルたちの元へ到着したレムは見た。

 士が手に持っているマゼンタ色の四角い箱を。

 レムは一瞬で理解した。士がディケイドなのだ、と。士こそが私たちの同族を皆殺しにした犯人なのだと。

 その事実はロズワールから聞いていた。あの日、どういう経緯でレムたちを助けたのは知らされていないが、レムたちの村を襲った犯人、それがディケイドだと教えられた。

 曰く、彼は全てを破壊する存在であり。

 曰く、彼は悪魔であり。

 曰く、サテラと同じ存在だと。

 詳細については知らされなかったが、レムが見た侵略者の特徴と、ロズワールが教えてくれた特徴はほとんどが合致していた。

 自分がもっとも憎むべき相手。それが今目の前に居る。だけど――。

 スバルの後ろから魔獣が飛び出てきたとき、レムは反射的にスバルを守った。

 自分自身でも驚いた、なぜスバルを助けたのか。スバルだって士の正体を知ってる可能性は高かった。故にスバルも協力者。悪魔ディケイドの、だ。

 しかしレムはその後士と一緒に共闘した。姉から全てを奪ったグループのトップだというのに。憎くてたまらないはずなのに、レムは背中を士へと預けた。

 そして現れたアナザーゴーストに、深い傷を負わされて、

『レムーー!!』

 スバルの叫び声を聞いた。心からの、魂からの叫び。レムを本気で心配して腹からだした叫び声。

『嘘だろ、レム。レム!』

 レムが薄れる意識の中で見たスバルの悲しい顔が、なぜかレムに安堵感をもたらし、

『変身!』

 士がその身をマゼンタ色の戦士、ディケイドへと変え、スバルとレムの二人を守るのを眼に映した。

 そこから先はよく覚えていない。

 ただただ憎しみ、いや、憎悪に身を委ねて、レムは心が満足するまで暴れた。踊った。狂った。

 魔女の香りがする者を殺し、傷つけ、そして笑った。心から笑った。

 そして、そのレムの背中を何かが押した。スバルが押した。その時、レムは思った。

 ああ、私は、また。

『っがぁぁぁ!』

 スバルが魔獣に全身を噛みつかれたのを見て、レムは自分があの時と何も変わってないことを痛感した。

 

 

 

 

 

 レムが目を覚ましたとき、自分の体が風を切って進んでいる感覚があった。

 腰と肩に暖かいぬくもりが触れていて、レムの体をしっかり掴んでいる。

「バルス。次の道を左に曲がってそのまま直進よ」

「へいへい。分かりましたよ!」

 聞き慣れた声が聞こえ、顔を上に上げるとそこには姉とレムが憎んでいた男が必死の形相で走っている。

 激しく上下に揺さぶられながら、レムは茫洋とした意識を頭を振って揺り戻す。そして、その唇を震わせて、

「……スバル、くん。なにを」

「――! 目ぇ、覚めたか、レム!」

 歓喜の声を上げて、スバルの顔がこちらを見下ろす。

 虚ろな瞳でそれを見上げて、レムは彼のその状態の酷さに思わず喉をひきつらせる。

 額からは血が噴き出て、衣服には無数の引っかき傷がありボロボロになっていた。手足のあちこちには昨晩の傷跡が白く残りその上から新たに生じたいくつもの傷が積み重なって血をにじませている。

 桃色の髪を揺らし、並走しながらかすかに微笑むのはラムだ。

 彼女はその唇をほんのわずかだけ、見知った相手にだけわかる程度に笑みの形に崩し、伸ばした手でレムの青い髪をそっと撫でる。

 その直後、

「『フーラ』!」

 風の刃が射出され、巻き起こる風刃が森を裁断――途上にあった魔獣の肉体を輪切りに切断し、飛びかかろうとしていたその身を肥やしへ変える。

 途端、目眩を起こしたように足取りを狂わせ、ラムはスバルの体に軽く衝突。

「がぁぁぁ!いっでぇ!おいラム、俺が傷だらけなの分かってんのか!?」

「それを踏まえた上でこうしているだけよ」

「質が悪すぎんだろ!」

 体を走る激痛に半泣きになりながら絶叫するスバル。

 彼の体に体重を預けながら、『なくした角の痕跡』から血を流すラムの姿。

「どう、して――」

「んぁ?」

「どうして、来たんですか……」

「は?何言ってんだよ」

「スバル君は、姉さまは……ここに来るべきじゃないんです。傷付くのは、レムだけで十分なんです……スバル君を救えなかったレムだけで……。あの時、レムはスバル君を助けられたはずなんです……」

 それは強がりでも誇張でもなく、本当にレムができたことだ。

 あの時、レムは自分の中に眠る鬼を呼び覚まして体を突き動かした。本能に全てを委ねてしまえば離脱が困難になるのを承知の上でだ。

 そんなリスクを犯すが、それによって手に入れられる力は絶大。だからあの時スバルがレムに与えた衝撃など無意味に等しいのだ。

 なのに、レムは手を伸ばすことを躊躇して、スバルに瀕死の重傷を負わせた。

 全ては彼の身から濃厚に漂う、全てが燃え尽くされた日の臭いが原因で。

「レムがスバルくんに手を差し伸べるのを躊躇ったから、スバルくんは死にかけたんです。そして、あまりに多くの呪いを一身に浴びてしまった。だから――」

「……レム」

 彼女の独白が終わった瞬間、スバルの琴線に触れてしまったのかレムを運ぶ足が急に止まった。

 レムを一度地面へと立たせ、その青色の眼をを怒りの目つきで見るスバル。

「その罪滅ぼしに、てめぇひとりで片をつけようって腹だったのか。だから俺にも士にも姉さまにも言わずに一人で飛び出したのか」

 その言葉に無意識に首を縦に振ってしまうレム。

 罵声を浴びせられ、軽蔑される、その覚悟が彼女にはあった。本来ならば森に入るより前に、彼の口から浴びせられなければならなかったはずの言葉。

「レム」

「はい」

「……このバカ野郎がぁ!」

 スバルはレムを怒鳴りつけた。当然だ、いや、むしろこれでは生ぬるい。もっと、もっと自分は貶されなければならない。それほどまでに自分が犯した罪は重いのだ。

「お前ふざけんなよ!何で誰にも言わずに一人で行くんだよ!」

「はい」

「俺はな、今の俺のケガとか全く気にしてねぇんだよ!」

「えっ……」

 告げられたスバルの言葉。それの意味をレムはできない。なぜ自分の体を気にしていないのか。だとしたらなぜスバルは怒っているのか。なぜは尽きない。

「俺はお前らがいなくなる方が嫌なんだよ。お前らが消えたら俺は生きていけねぇくらいお前ら姉妹を大事に思ってんだよ!」

 思い出されるのは三度目の世界の記憶。

 穏やかな顔をしながら息絶えている妹。それを見て激昂する姉。

 あれほど嫌な思い出はスバルの記憶の中にない。あれほどまでに必死な姉も見たことがない。見たくもない。

 そしてスバルは二人を救うために自分の命を投げ出した。

 当然二人はそんなことは知らない。

「俺は他愛もない事で皆と泣いて、怒って、笑っていたいんだ。その場所には誰一人欠けちゃなんねえ。傲慢かもしれねえ、夢物語かもしれねえ、淡い幻想だろうが何だろうがどうでもいい!だから自分だけが傷つくとか言うな、絶対!」

 唖然となり、レムは口をぽかんと開けてスバルを見る。その顔には言葉以上の感情はなにも見えず、本気でレムを大切に思っているのが伝わってきた。

「一人で全部抱え込むな。少しくらい頼れ、寄りかかれ、寄りかかり過ぎて転んでもそれはお前一人で転んでるわけじゃねえ。皆で転んでるんだ。だから皆で尻拭いすればいい、笑い飛ばせばいい!」

 スバルが言っているのはただの理想論でしかない。そんなことができれば、今更こんな状況にはなっていない。

 だけどそんな事を語るスバルの眼は、本気で、真剣で。嘘や妄想の類は入っていかった。

「……そこまで熱弁してるところ悪いけど後ろからもう迫ってきてるわ」

 ラムの言葉で後方を見るスバル、その視線が強い緊張に細められる。

 同時、隣にいるラムもまた、痛む頭に手を当てながらマナを展開し始め臨戦態勢をとる。

「ッチ。……おいラム。レムを連れて村まで逃げてくれ」

 その言葉にレムは驚いた表情を浮かべるが、それはすぐに泣くような顔に変わり、

「助かるわけが、ないじゃないですか。……やめ、やめてください。それじゃ、レムはなんのために……」

「あー。うっせぇうっせぇ。今これが最善の策なんだ。それに俺にはまだ秘策があんだよ。それに多分魔獣は後二、三体くらいしかいないから俺でも多分イケる。そんで皆で笑い合ってハッピーエンド。最高じゃねえか」

 スバルが用意している名案とやらがなんなのかはわからない。正直、実在すら疑わしいその場しのぎなのではないのかとさえ思う。

「や、やめて……」

「ラム、行け!」

 その一言で持てる体力全てを絞って、ラムが全力で駆け出す。しかし全力とは言っても、鬼の力を失った姉にとって、レムの体を支える膂力はその肉体が本来持っているだけの力でしかあり得ない。故に、彼女の走る速度は決して速くない。

 だからこそラムは振り向かずに、ただただ走る。最愛の妹を守るために。スバルの安否はその次だ。

「姉さま……スバル君が、スバル君が……」

「バルスが作ってくれた時間よ。急がないと」

 尊敬する姉の言葉だ。いつだって正しかった姉の言葉だ。

 今だって自分を守ろうと必死になって駆けている姉の言葉だ。

 それに従っていれば、きっと心は守られる。なぜならいつだって、彼女は正しいのだから。

 ――ならば、正しいことなんてなんの価値もない。

「――お姉ちゃんっ!!」

「――ッ!!」

 ラムの足が、ほんの一瞬だけ静止。その隙にレムは体をよじって地面へと転がる。

 視界にとらえたスバルの背中がゆっくりとだが、しっかりと離れていく。

 そんな彼の正面に立ちはだかる、強大な肉体で壁を作るウルガルムが突然肥大化し、先ほどの二倍ほどのサイズに膨れ上がるのが見えた。

 それを救おうと手をいくら伸ばしても、壁になって守ろうとしてももう届かない。

「スバル君!」

 ただただ叫ぶ。彼に届くように。喉がつぶれるほどに叫ぶ。

 それに応じるようにスバルがレムに向かって、サムズアップをした。

 

 

 

 

 

 

「だぁー。いつからこんなになったんだろうな……。俺」

 魔獣に向かって走りながら、スバルは自分のキャラ崩壊っぷりに今更ながら驚いていた。

 本来このようなことをする奴は、スバルは嫌いなはずだった。

 大した力もないくせして、強敵に立ち向かうような主人公のような人間はいないと思っていた。

 当然だ、一般の高校生、しかも不登校から見たらそんな作り物の正義は反吐が出る。いつだって大事なのは自分。そういつも考えながら、小説投稿サイトやアニメを鑑賞していた。

 だが今自分が現在進行形で行っているのはまさにそれと同じだ。

 旅の途中で出会ったヒロインが自分を守るために奮闘。しかしヒロインがピンチに陥ってしまいそれを助けるためにその姉と自分で助けに行き、最終的に囮となる。

「どんな底辺のなろう系だよ……。それ」

 逃げたい。今すぐここから逃げ出したい。

 そんな考えはもう、あの時にかなぐり捨てた。

 単身でスバルを守ろうとロズワールと戦った士。妹を殺されたときのラムの表情。

 もちろん世界はその出来事を覚えてはいない。士もあの時スバルがどんな気持ちだったかを理解できてはいないだろう。

 だが、スバルだけは別だ。

 今まで繰り返してきた経験、知識、そして決意。それが今の大馬鹿な菜月昴を形成している。

 ここで逃げては士のように誰かを守ることなど不可能だ。

 スバルにとっては、士の存在そのものは『理想』でしかない。あんな強さが欲しい。あんな覚悟が欲しい。

 だがいくら望んだって士の力は手に入らない。士のように全員を守れたりはしない。しかしだからと言ってあの二人を見捨てていい理由にはならない。

 ただの自己満足なのかもしれない。全く届いていないのかもしれない。それでもスバルは――。

「お前に、追いついてみせる……!」

 今のスバルにとっては士は『理想』ではない。スバルが目指すべき『目標』となっていた。

 だからスバルは、逃げない。泣かない。振り向かない。

 くるならこい、と半ばヤケクソ気味に改めてウルガルムに向き直り、

「ふぁい?」

 思わず、空気の漏れる間抜けな声が出る。

 それもそのはずで、そこにはスバルの目を疑うような光景が広がっていた。

 三体の魔獣の体が液体のようになり、それが空中で合わさる。

 ぐちゃぐちゃと気味の悪い音をたてながら、段々とそれが形を成していき――。

「おいおい……。嘘だろ?」

 ただでさえ大きかった魔獣の巨体がさらに増加。二、三倍ほどに膨れ上がった。

「くっそ……。ここにきて難易度上げ過ぎだろ……」

 この戦力の差はまずい。普通のウルガルム一体だけならまだしも、今目の前にいる魔獣は力も三倍ほどになっているだろう。

 あの時パックが言っていたことが事実なら、スバルの作戦は水泡に帰し二つの意味で犬死してしまう。

 さらにリスクが倍増した博打。スバルの意思が揺らぐ。そんな時だった。

「――ル君!」

 風に乗って、そんな声が聞こえてきた。レムが、スバルを呼んでいる声が。

 半分ほどは聞き取れなかったが、それは確かにスバルの名を叫んでいたことが不思議と分かった。

 不意に涙が出そうになるのをこらえたら、代わりにスバルから自然となぜか笑みがこぼれ、スバルはレムに親指を立てて虚勢を張った。

「ぜってぇ、帰ってやる」

 その声を聞いて、決意が完全に固まった。

 あの庭へ。自分の部屋へ。あの道化師の顔を拝みに。あの生意気なロリをからかいに。姉に罵倒されに。妹に先ほどの話の続きをしに。士に功績を自慢するために。そしてあの子に気持ちを伝えるために、スバルは――。

 

 

 

 地面に突っ伏している士を漆黒の複眼で見下すアナザーゴースト。

 ピクリとも動いていない士を背中に、その場から立ち去ろうとするが、耳に入ってきた何かが擦れるような音を聞きとり振り向くと、

「……マダウゴケルノカ。オドロイタ」

 士は横倒れになっていた体を気合と根性で無理やり立たせるが、またすぐにその体を地面へと付けてしまう。

「俺は……諦めが悪いんだよ」

 強がりながらなんとか立ち上がることには成功。だがその体はすでに満身創痍の状態。腕一本も動かせない程だ。

「モウアキラメタラドウダ?」

 アナザーゴーストが、士に対してそんなことを言ってきた。

「オマエハヨクガンバッタ。ダケドモウゲンカイダロウ」

 それが悪魔のささやきとは分かっていてもその言葉に耳は引っ張られたままで、それを黙って聞いているしかない。

「ソモソモ、ナゼソコマデヤツラニカタイレスル?オマエハズット『コドク』ダトイウノニ」

「……いいや、違う」

 その言葉だけは絶対の自信をもって否定するように、苦しそうな咳をしながらそんなセリフをアナザーゴーストへと吐く。

「ナニモチガワナイダロウ。オマエニハナカマモキズナモアリハシナイ!」

「違う!」

 傷だらけの体を叱責して、叫び、しっかりと一つ一つの言葉を紡いでいく。

「俺はお前らから見たら孤独なのかもしれない。だが俺はその旅の途中で一瞬だとしても出会った仲間たちがいる。そいつらが危険に陥った時には、俺が必ず助ける。俺が危険に陥ったときにはそいつらが俺を助けてくれる。だから俺は一人じゃない!守るべきものがいる!だから諦めない!それがこの世界ではスバルだった。だから守る。それだけだ」

 その言葉をアナザーゴーストは黙ったまま聞いていたが、それはすぐに嘲笑に変わる。

「クダラナイナ!アイツガオマエヲタスケテクレタカ?オマエハアイツヲマモルタテニスギナインダヨ!」

「それでも!アイツが俺を必要とするなら、俺はアイツを助けるまでだ!」

 体に鞭を打って走り出す士。しかし体力の限界にある士の攻撃をアナザーゴーストはかわす事もせずにラッシュをただただ受ける。それもそのはず。アナザーゴーストの体にダメージなど、微塵も入っていないからだ。

「ナラバココデシネ!」

 その手を思いっきり握られ、当然のように士へとアナザーゴーストの強烈な攻撃が炸裂。よろけた士へとガンガンセイバーから矢を放ち、さらにダメージを与える。

 しかし士は立ち上がり、再びアナザーゴーストへと特攻。当然アナザーゴーストはそれを返り討ちにする。

「シツコイヤツダ……!」

 そして士はまた立ち上がる。何度も、何度も。体は既に限界を迎えているというのに、立ち上がる。攻撃を何度も、何度も繰り返す。

「ドウシテ……ドウシテダ!」

 どんな傷やダメージを負おうと起き上がる士は、まさにゾンビのようで。そんな風に必死にな士の姿はアナザーゴーストには理解不能だった。

 腕はだらりと下がっており、足も常に震えている。自身の武器すらもろくに持てていない。

 なのにどうしてそこまでして、コイツは――。

「ガァッ……!?」

 いつの間に懐に潜り込んでいた士のパンチ。先ほどまで痛くも痒くもなかったはずのその拳は、アナザーゴーストの体を震わせ、膝をつかせた。

 何度も何度も拳を打ち込み、蹴りを入れて後ろへと弾き飛ばすと、アナザーゴーストから光が放たれ、強制的にアナザーロビンゴーストが剥がされる。

「俺はアイツを守るために!アイツが守りたかったあの場所を守るために!」

 そう言い放ち、そして強く、固く拳を握り、士は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

『命、燃やすぜ』

 二人の声が森の中心で、本当にかすかだが、それは確かに重なった。

 

 

 

 




csmギャレンラウザー絶対買います

かなーり説明回に時間を割いたため、王選候補者一人ずつの自己紹介はダイジェストみたいな感じでよろしいでしょうか?

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