Re:ゼロから始める世界の破壊者   作:muryoku

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えーとですね。編集作業をしていたら私の手違いで文を消してしまったので、作業をする気が完全に失せてしまい、少々遅れてしまいました。
番外編の投稿日は四月一日で既に投稿予約をしていますので、お気に入り登録をしてお待ちください。
それとこの番外編は結構本編に関わってくるので、できればお読みください。
三万UA突破、本当にありがとうございます!


最終話 

「よく知ってる天井だなーっと」

 某アニメとは真逆の台詞を吐いて、スバルの意識が闇の中から浮遊し目が覚める。

 自分、生きてたんだな。というのが意識が覚醒してから最初の感想だ。

 これまでに何回か死の淵に立ったことはあるが、今回こそはその淵からも落っこちて、二度と目覚めないと自身でも思っていたが今回もまた戻ってこれたらしい。

 自分の悪運の良さに軽く惚れながら、半身を起こし人の気配のある方向を向くと、

「起きて、くれましたか」

「レム……やっはろー」

「やっはろー……?」

「あーあんま深く考えなくていいよ、造語だし。てかそれよりも」

 首を振りながら、スバルはつと布団の中から左手を持ち上げる。その手はしっかりと、青髪の少女の手と絡んでいた。ちょっとやそっとでは離れそうにないほどに。

「俺の左腕って魔獣に吹っ飛ばされて千切れてたと思うんだけど、何でちゃんとくっついてんの?」

 かなり記憶が曖昧になっているが、あの激痛と光景の異様さによって、自分の腕が無くなっていたことだけはしっかりと記憶している。

 試しに手の部分を動かしてみると、痛みも何もなく、自分自身の意思で自由に動かすことができた。

「ベアトリス様と大精霊様、そしてロズワール様が全力を尽くして治療した結果です。スバル君の全身に掛かっていた呪いも、全て完全に解けています」

「わぁーお。至れり尽くせりだな。ってかロズワール帰ってきてんの?」

「はい、スバル君たちが魔獣の群れを倒してから数時間ほど後に」

「……」

 謎のタイミングのよさや、士からの証言を結びつけるとロズワールをかなり不振に思ってしまうが、何でもロズワールがいなければ、スバルが助かる可能性はだいぶ低かったらしい。

 そのことには感謝を一応しておき、痛みを伴わないように傷のあたりをさすりながらスバルは安堵の吐息を漏らす。

 とりあえずは呪いのおかげで死ぬことはなくなったようだ。

「ですが、その左腕はまだ不完全な状態です。何か月かすれば、使い物にならなくなってしまいます」

「げ。まじすか」

「でも大丈夫です。王都にいるフェリックス様の治療を受ければ、完治します」

「誰だよフェリックス」

 顔を見たこともなければ、たった今名前を知った謎の人物フェリックス。

 怖い人だったら嫌だな。と勝手に姿形の妄想を開始するが、それをすぐに中断し、先ほど気になった事について質問する。

「この手って俺が自分から繋いだの?」

「いえ……レムが勝手に」

「そりゃまたどうして?」

「スバル君が……苦しそうに見えて」

  握ったままの手をちらちらと見て、レムはもごもごと口ごもる。スバルは穏やかな気持ちで、急かすこともなく答えを待つ。

 そんな姿勢のスバルにレムは何度か呼吸して、それから上目にこちらを見ると、

「レムは無知で、無才で、欠点だらけです。ですから、こういうときになにをしてあげたらいいのかがわかりません。わからなかったから、レムがされて一番嬉しかったことを、したいと、思ったんです」

「うーん……なぁレム。何でお前ってそんなに自分を卑下すんの?」

 スバルがずっと気になっていたこと。

 それによってレムが傷つくかもしれない。そう思って言うのを控えていたのだが、好奇心旺盛な若者の欲求には逆らえなかったらしい。

「それは、レムが非力で、非才で、鬼族の落ちこぼれだからです」

「落ちこぼれ?」

「はい」

 顔を開いている手で覆い、レムは絞り出すように、独白を開始する。

「レムは弱いです。姉さまなんかよりも、ずっと。姉さまと比べるのすらおこがましいほどに。レムは、姉様の代替品、です。それもずっとずっと劣った、本当の姉様にはなれない、まがい物です」

 青い瞳にうっすらと涙が浮かぶ。

「何でレムは姉さまの妹に生まれてしまったんでしょう。何で姉さまの方に角が残らなかったんでしょう。何で――レムは生まれてきたんでしょう」

 レムは唇を震わせ、それに同調するように瞳に溜まる滴が頬を伝い、彼女の白い肌伝っていく。

「なぁ、レム」

「……何ですか、スバル君」

「こんなこと言うと変態扱いされるかもしんねーけど……お前、いい匂いするよ」

「え」

 スバルの口から出たこの場の雰囲気をぶち壊すような言葉。

 その意味を理解できずに、硬直するレム。何故か微笑を浮かべているスバル。

「胸が姉さまよりずっと大きいし。太もももレムの方が姉さまよりもむちっとしてて俺は好みだ」

「ッツ!?」

 スバルのセクハラ発言に自分の体を抱き、顔全体を真っ赤にし照れながら一歩後ずさるレム。

 その対応を見て、心からゲラゲラと笑うスバルは、正直言ってレムの眼からは気持ちの悪い変態野郎にしか映っていたないだろうなと思う。

 スバルが何を言い出したのかがわからないのか、レムは戸惑いに目を白黒させ、

「いったいなにを……」

「ま、簡潔に言えばレムと姉さまって全然違うってことだよ。――こっからはちょっち真面目な感じの話な」

 笑っていた表情をキリッとした真面目なものへと変え、改めてレムへと視線を向ける。

「で、お前森の中で言ってたよな?レムが俺に手を差し伸べるのを躊躇ったから、俺は死にかけたんだって。奇麗なその目でよく見てみ?俺ピンピンしてんぜ?」

「……でも、傷跡は残ります。それに左腕はまだ」

「はいー、そういうのはいいんだよ。最終的に治ればそれでよし!痛くなければそれでよし!」

 胸の前で手をパチンと鳴らし、

「んでもう一個。誰にも言わずに一人で飛び出したってとこな。まー俺らの事を気遣ってくれんのは嬉しいけど、それとこれとは別問題だ。何で士を頼んなかったんだよ?あいつメッチャ強いぜ?」

 スバルの言っていることは正しい。

 レム一人ではあの数を倒しきれるわけがないし、仮に裁ききれたとしても、アナザーゴーストに殺される未来しかなかった。

 だけどレムは、(門矢士)という存在を信じるきることができなかった。

 士がディケイドではあるが、自分の村を襲った侵略者たちとは別のものだという事は理解していたが、今まで片時も忘れずに憎んでいた姿の物を信用することは、レムにはできなかった。

 しかし、士によってアナザーゴーストは討伐された。最初から士を頼っていれば、ラムやスバルは傷つかなかったかもしれない。

 そんな結末を自らの独断で潰してしまったことを恥じ、レムは唇を震わせ、反論の言葉を喉に押し込める。

「んまぁ、それも一旦置いときまして。こっから今日のまとめな。お前はさっき姉さまにはなれないって言ってたけどさ、それを逆にして考えてみ?」

 黙っているレムに指を突き立て、質問するスバル。

 その訳の分からない問題を必死に考えているスバルが突如時計の針を表すポーズをしだし、動く指先が0の部分になったところで、セルフ不正解音を出し、

「正解は、ラムはレムにはなれない。でした」

「え?」

 あまりにも予想外な答えに面食らったような表情のレムに、してやったりとでも言うような顔をして、スバルは解説を続ける。

「つまりレムはラムになることはできないし、ラムはレムになれない。そんくらい二人とも個性が強いんだ」

 ひらひらと動かしていた手を止め、レムの頬をいきなり挟む。

 もっちりとしていて、すべすべで、柔らかな女の子の肌。

 行動の真意が分からず、スバルをじっと見ている青い瞳。

「お前はラムになりたいって言うけどさ、そんな夢物語今ここでポイしちまえ。お前は、『レム』だ。世界に一人しかいない、俺と士の仕事仲間で先輩の、『レム』だ。ラムの妹の、『レム』だ」

 それは今日までのレムを全て否定する青二才風情の発言。

 そんな妄言など聞く耳を持つ気にすらなれないはずだ。いつだって自分は一番の模造品を演じてきたはずだ。

 なのに――なぜ、目の前の青年の言葉が、これほどまで心に響いて、離れないのか。

「俺も士にはなれない。世界の人々を全員守れたりはしない。だから俺が士になろうとしても、それは結局まがいもんだ。だからお前もそれと同じでレムにしかなれないし、『レム』でいられるんだ」

 頬から手を離し、肩をしっかりと掴む。

「今、ここにお前はいる。まがい物でも、模造品でも、だれかの道具でもない『レム』が。『レム』はここにいて、俺を助けてくれた」

「……でも、姉さまならもっとうまく」

「俺を助けてくれたのはレムだ。ラムじゃない」

 今度は肩から手を離し、両手でレムの腕を掴み、

「レムがいてくれてよかった。ありがとう」

「ッツ――」 

 照れくさそうに、満面の笑みを浮かべた感謝の言葉。

 それを聞いた途端、レムの喉がひきつり涙の堤防が決壊した。

「レムで……いいんですか?姉さまじゃなくて……レムで」

「あったりめぇだろ。今までお前がドブに捨ててきた時間。今からでも取り戻そうぜ。笑いながら。俺、鬼のとびっきりの笑顔、見てみてぇんだ」

「スバル君……」

 レムは、一度溢れている涙を拭い、

「ありがとう」

 いつまでも手を握りしめて、先ほどのスバル以上の感謝の意を述べた。

 それをスバルは、レムの涙が止まるまで、じっと傍で、髪を優しくなで続けた。

 

 

 

「ったく。とんだ災難だ」

 髪をかきむしりながら、士は自分の一室で窓の傍に立って悪態をついていた。

 体には白い傷跡が無数につき、左腕の肘から上と右足の太もも部分には包帯が巻かれてはいるが、ディケイドのボディに守られていたため、重大な後遺症も骨折も無いことは幸いだった。

「それはこちらとしても同じよ。今回の一件で、ラムも働く羽目になったもの」

 その後ろのベッドに腰を掛けて、やれやれというポーズを取っているピンクのメイド、ラムだ。

「お前は何でそんな我が物顔で俺の部屋にいるんだ」

「ツサカの面倒を押しつけられたから、この部屋に来ただけよ」

 あくびをかきながら腕を伸ばし、明らかに寝むたそうにしているラムに文句を言おうとしたが、隣の小さい机に置かれているタオルと椅子を見て、付きっきりで看病してくれたといのが分かる。

 そんなツンの方が勝っているツンデレへとあきれた表情を浮かべ、

「素直じゃない奴だな」

「何の話かしら」

 あくまでもとぼけ通すラムの姿勢に、少しの笑みを作り、

「で、あの後はどうなった?村人どもに話はつけたのか?」

「ええ、ロズワール様が直接混乱を収めてくださったから、今では皆普通の生活を送ってるわ。その後、ウルガルムの残党がいないかもラムとロズワール様で確かめてきたから、もう襲撃に怯える必要もなし。ツサカとバルスの呪いも解除されたわ」

「そうか」

 村人たちの安全が確保できたことと、スバルが呪いで死に時間が戻ることは無くなったことにひとまず安堵していると、不意にラムの士を見る視線が厳しいものに突如変わった。

「さて、ツサカの質問に答えてあげたのだから、今度はラムの問いに答えなさい。ツサカは……鬼の村を襲ったことがある?」

「……鬼の村?」

 聞いたことのない単語に首を傾げる。

 鬼のいる世界ならば言ったことがあるが、そこでも鬼の村と言うものは聞いたことがない。

「正直に答えなさい」

「正直に言うんだったら……ないな。心当たりすらない。というか何でそこでディケイドがでてくるんだ?」

「……ディケイドが、私たちの村を襲って、一族を皆殺しにしたからよ」

「なっ……」

 そして本当に事実を述べるだけのように、淡々とその惨劇を語り始めた。

 本当にそれは唐突で、一方的な侵略。突然現れた龍の頭部を模した騎士のような鎧に赤い複眼の怪物。

 黄色い目玉に肋骨のような見た目のプレートのようなものを胸の部分に付け、肩から胸の中心にかけ赤い線が光っていた怪物。

 そしてその怪物たちには、共通して記号のようなものが書かれていた。

 その怪物たちに鬼族は果敢に立ち向かったが、黄色い目玉の怪物に近付いた者から手に持っていた赤く光る棒のようなもので串刺しにされ、赤い複眼の怪物に接近すれば、左手に付いている龍の頭部で焼かれ、右手に持っている長剣で切り裂かれる。

 さらにその怪物以外にも、黒いフードの集団、魔女教徒もいたという。

 そしてその中心にいたのが(ダッシュ)

「ディケイドだった。というわけよ」

「……なるほどな。大体分かった。ラム、その怪物に書かれて記号をここに書いてくれないか?」

「ええ。いいわ」

 机の上に置いてあったメモ用紙とペンをラムに渡すと、スラスラと十秒も立たない内に、士にその紙を返してきた。

 そこに書かれていたものを見て、士は固まった。

「RYUKIとFAIZだと……!?ラム、その怪物ってのは、こんな感じの見た目じゃなかったか?」

 ライドブッカーから取り出した二枚のカード、龍騎とファイズのカードを見せると、ラムはこくりと頷き、

「これに近い容姿だったわ。でも、これよりももっと禍々しい感じだった」

「ってことは……あいつの仲間か」

 村を襲ったのは、先日森で遭遇したアナザーゴーストの仲間だと推測できる。

 そしてそのトップにディケイドがいるとすると――。

「……そいつらを倒すのが、この世界での俺の目的ってことか。……ラム」

「何かしら」

「とりあえず、俺はお前らの仲間で、その鬼の村とやらも襲ってない。信じられないかもしれないが……」

 苦々しい顔をしながら、士は情けない言葉を羅列する。こんなことを言っても、ラムは信用してくれないだろう。だが、今はそれしか言えないのだ。

 俯きながら、ラムからの返答を身構えて待っていると、

「分かったわ」

「は?」

 あっさりと士を信じ、質問を止めて部屋から出ていこうとするラムに、士は驚きの声を漏らす。

 士が一族を皆殺しにした張本人かもしれないし、ラムたちを騙している可能性の方が高い。

 故に信頼を得るには、かなりの時間が必要と考えていたため、ラムの反応に士は疑問と驚きを抱いた。

「お、おい。もう少し俺を疑うとかは」

「ラムは、一応ツサカをほーんの少しだけ信頼しているのよ」

 体を百八十度回し、士の目を先ほどとは違う優しい眼差しで見つめ、

「ツサカがそう言うなら、ラムはツサカを信頼してあげるわ。感謝なさい」

 いつも通りの態度を崩さず、しかしいつも以上に優しく微笑んだ。

 その言葉に何だか不思議な感じを覚えながら、士もそれに応じるように笑い、何を思ったのかベッドから腰を上げた。

「ツサカ、どこへ行くの?」

「……なに、あいつに礼を言いにな」

 部屋から退出し、数歩ほど歩く。そして唐突に足を止め、ドアの前へと立つ。息を肺一杯吸い込み、覚悟を決める。勢いよくドアを開き、部屋中に響き渡る声で、

「おいロリ。ちょっとお前に話がある!」

「うるっさいのよ!人の部屋に勝手に入ってきて叫ぶんじゃないわよ!」

 突然に入ってきた士に毛嫌いしてます。と一瞬で分かる視線を突き立ててくる。しかしそれをいつものようにさらりと流し、

「で、何の用なのよ。ベティーは忙しいかしら。邪魔するんじゃ」

「俺だ」

「は?」

「俺が、お前らが悪魔って言って嫌ってる、ディケイドだって言ってんだよ」

 短刀直入に事実を述べた刹那、士ははっきりとこの目で見た。

 大気が歪み、捻れ、禍々しいものへと変化。恐らく中心にいる幼女が、辺りのマナを操作しているため、このように空気が歪んでいる。そう士は推測する。

 しかし、それよりも恐ろしいのは、その幼女からまるで、殺意を具現化したような何かが溢れ出していることだった。

「……どういうことかしら。冗談でもその名前を口にするんじゃな」

「これを見れば信じるだろ」

 右手でマゼンタ色のネオディケイドドライバーを取り出し、憎悪を煽るようにベアトリスを挑発する士。

 それをベアトリスが視界に入れた瞬間に、幼女の両手に何かエネルギーのようなものが蓄積されていく。

 手を前に突き出し、その圧縮されたマナの塊を士に向けて射出される数秒前に――。

「……何のつもりかしら」

 士はベアトリスへとドライバーと武器であるライドブッカーを放り投げ、両手をあげた。

「そういう意味だよ。俺に戦う意志はない」

「……今更命乞いかしら」

「違う。俺は、スバルとレムを救ってくれた恩人に刃を突きつけるほ

ど、非情な人間じゃない」

 士の心からの本心。それを聞きベアトリスは一瞬だけ躊躇うようなそぶりを見せるが、すぐさま士に向き直る。

「俺はこの世界を破壊なんかしていない。本当だ。お前らが俺を快く思ってないのは知ってる。けど、俺はお前と……

 両手を広げ、勝ち目のほとんど無い博打に出る。そんな曇りの無い士の瞳を覗いて、少しだけベアトリスから出ている殺気が緩まったのが分かる。が、

「……ニンゲンとの信頼なんて、いらないかしら」

 両手のマナが緩まることは無い。だというのに、士はベアトリスへと近付いていく。

「く、来る」

「ベアトリス」

 士の声が、ベアトリスの鼓膜と殺意を揺らす。

「俺が信頼できないなら、今ここで俺を殺せ」

 卑怯な物言いだと、士は思う。

 だがこれも、ベアトリスに信じられるために必要なことなのだ。

 これまで色々な悪人を見てきたが、ベアトリスは人を殺せるような奴ではない。

 さらに言えば、彼女から殺意を感じてはいるが、それと同時に迷いもあるように見えるのだ。

 故にこのような卑怯な言葉を使い、ベアトリスを揺らしている。

 しかし、士はベアトリスに殺されるのならば、それはそれで仕方ない事とも割り切っている。

 その覚悟があるからこその行動。だがベアトリスは、マナを微塵も緩めない。

 圧縮に圧縮を繰り返し、それを放とうと身構える。

 それに応じるように、士もそっと目を閉じる。

 爆音が轟き、士が跡形もなく消される――はずだった。

 その代わりに飛んできたのは、一筋の光線。それが士の頬をかすめ、血が流れ出す。

「ベア、トリス?」

「……何でなのよ」

 沈黙を破るように絞り出された、ベアトリスの声。それはどこか苦しさを孕んでいるような声色で。

「何でそんな……穏やかな顔してるのよ」

「……俺は、お前に殺されるなら構わないと思ってる」

「あの時、変身してくれたなら、躊躇わず打てたのよ……」

「……お前だろ。気絶してる俺たちを、一番一生懸命に治療してくれたのは」

 ラムから聞いたことなのだが、一番最初に飛んできて士たちの治療をしてくれたのは、ベアトリスだという。

 そして一番必死になって二人を治療してくれたのもベアトリスらしい。

「お前だろ、俺たちの罵声を一心に浴びようとしてくれたのは。お前だろ、森に入るギリギリまで、俺たちを引き留めてくれたのは」

「黙るかしら!」

「ベアトリス!」

 ベアトリスの叫び声に被せるように士がそれよりも大きな声をあげ、

「お前は、俺たちを、信じてくれるか?」

「……まだ分からないかしら」

 そう言い、地面に落ちていたドライバーとライドブッカーを乱雑に士に放り投げ、

「……少し考える時間をよこすのよ」

 いつものように衝撃波で、士を禁書庫の外へと吹き飛ばした。

「うおわぁぁぁぁ!」

 しかし今日はいつも通り士の部屋へと繋がるのではなく、窓から垂直落下。思いっきり尻から地面へと叩きつけられるが、なぜか痛みは少なく、柔らかい。まるで人肌のようだ。

「ツ、ツカサ!?どこから……」

「……二階の窓から、だな」

 突然上から降ってきた士に目を白黒させ驚いているエミリア。

 お前はどうしてここに?そう聞こうとしたとき、

「つ、士ぁ……痛い……」

 士の下敷きとなっているスバルが、今にも消えそうな声で懇願してきた。

「スバルか。道理で痛みが少ないと思った」

「スバルかじゃなくて……どいてくれ……」

 そしてそのまま体から魂が抜けるように、スバルはガクッと気を失った。

 

 

「ふぅー。ありがとうエミリアたん。おかげで助かったよ」

 エミリアによる治療を受け、完全に復活したスバルを心配そうに紫紺の瞳で見るエミリア。

「スバルって本当に怪我をたくさんするわよね。この屋敷に来たのも怪我が原因だったのに……あれから五日しか経ってないんだから」

「本当に人騒がせな奴だ」

「おい。さっきの怪我は士が原因で、しかも士も怪我してんだろーが!……って訳でエミリアたん。こんな俺を甘やかしてくれたもれ!」

「はいはい。また今度ね」

 その言葉を待っていたかのように指をパチンと鳴らし、そしてそのままガッツポーズ。

 そんなスバルにエミリアが顔をズイっと近づけ、

「スバルは、私を救ってくれたんだから、きちんと改めてお礼をするわ」

 そう言って、極上の笑みを浮かべるエミリアにスバルは顔を赤くし、それを見せまいと手で覆い隠す。

 そんな風に普通に話しているスバルの中に、必死で泣かんとするスバルの意志が入っていることを、数ある世界の中で士だけが知っている。

 余りに長すぎた二十日余りの日々は、二人以外にはたったの五日で、あの苦しみを分かちあえる者はいないから。

 本当にスバルは頑張った。弱者なりに勇気を振り絞って魔獣たちを相手にし、士が勝つための道を作った。

 スバルがいなければ術師の正体が判明しないまま終わっていた可能性の方が高い。

 スバルがいなければレムが呪いに掛かっていることに気が付かなかった。

 スバルがいなければ魔獣を屋敷にいるメンバーで全て倒すことはできなかった。

 スバルがいなければ――こんな風に士がこの世界で笑うことも、できなかったかもしれない。

 その功績を、せめて士だけは忘れぬように。

 士は、銀髪の少女とジャージの青年だけの世界を、共に世界を旅してきたカメラで写し出した。




うーん……時間ができれば二章も改善します。納得できないところがいくつもあるので。(特に最初の方は酷すぎるため)
と、いうわけで今度の更新は四月一日です。お楽しみに!






















「これが、俺の力、か」
 coming soon……。

かなーり説明回に時間を割いたため、王選候補者一人ずつの自己紹介はダイジェストみたいな感じでよろしいでしょうか?

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