Re:ゼロから始める世界の破壊者   作:muryoku

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元々はもっと長くする予定でしたが、四月一日に間に合わなくなるのは避けたかったので、内容が結構薄いです。展開も急です。すみません。
後日、まとめて書き足しをしたいと思います。


ナツキ・スバルのBirthday!

 ナツキ・スバルは、今人生の一大危機に直面していた。

 息は荒くなり、心臓は非常ベルのように細かく、そして大きな音を立てて鳴っている。

 腕に触れているものを何とかどかそうと必死でもがいているが、腕にひっついているそれは、スバルの腕をがっしりと掴み決して放そうとしない。

 その塊が鼓動を刻む度に、スバルの脳はその感覚を削除しようと働くが、それを忘れられるわけもなく、甘んじてそれを受け止めるしかないのが現状だ。

 吹き出す汗。高まる心音。理性が猛スピードで失われていく。

 それもそのはず――。

「すばるくんすばるくんすばるくん……」

「スバルぅ……あったかぁい……」

 両方から聞こえてくる可愛らしい二人女の子、レムとエミリアの間に、ナツキ・スバルは割って入っているのだから。深夜に、加えてベッドの上で。

 エミリアはスバルの右腕に、レムはスバルの左上に、二の腕に両手を添え、肉付きのいい太ももを膝に付け、肘のあたりには、とても柔らかで豊満な胸を、両者密着させていた。

 あえてもう一度言おう。深夜のベッドの上で、だ。

(どうしてこうなった!?)

 この話の起源は、三日ほど前まで遡る。

 

 

 

「ツカサ君」

「レムか」

 あの騒動があってから二週間ほどが経過したある日。

 パックやベアトリスが二人の治療をしてくれたおかげで、スバルの左腕以外は全て完治。

 折れた腕も、はがれていた皮膚も元通りになり包帯も全て無くなった。

 ちなみにスバルの左腕は後半年ほどは通常の状態で使えるらしいので、スバルも働かされている。

 そしていつも通り屋敷の清掃や、食事の準備、庭の芝刈りなど諸々の仕事をこなしている士に、レムが突然話しかけてきた。

 事件以降、あれほどまでスバルや士に敵対心のようなものを向けていたレムは、いつの間にかスバルにべったりと突然くっつき始めた。

 士は本当に不思議でたまらなかった。二人の間に何があったのかは知らないが、レムの心が移り変わったのもまた事実。

 いつどこでもノロケている二人を遠目に見守っていたため、レムと士は対して話しておらず、そのため好感度も士が考えている限りは少したりとも上がってはいない。

 故に、レムから士に声を掛けて来るというのはとてもでは無いが、かなり珍しいことなのである。

「どうしたんだ?」

「聞きたいことがあるのですが……『シガツツイタチ』という単語を知っていますか?」

「シガツツイタチ?……ああ、『四月一日』か。まぁ、俺たちの国の暦で……この国で言うと、####だから、三日後だ」

「三日後……!?すみません、ツカサ君、もう一つ頼みごとができたのですが……スバル君の誕生日のお祝いの準備を手伝っては貰えませんか?」

「……は?何で俺がそんなことを。嫌だ」

 レムからの頼みごとと聞いて身構えていた自分が馬鹿らしい。おおよそ、スバルとレムが談笑をしているなかでスバルの誕生日を偶然耳に挟む。

 しかしレムは当然日本の暦など知らないため、スバルと同郷である士を頼りに来た。

 もしかしたら違うかもしれないが、大体はこんな所だろうと目星を付ける。

 頼みをスッパリと断り、そのまま清掃作業に戻ろうとすると、

「それの態度はどぉーなのかな?ツカサ君」

「……何の用だ」

 後ろから聞こえてきた気味の悪い喋り方の男の声、ロズワールだ。

 いつも通りの奇抜なファッションなのは変わってない気持ち悪い男に、嫌々ながらも士が応じる。

「せっかくの親友の誕生日なんだ。祝ってあげてもいーんじゃなぁい?」

「断る。後、俺はスバルの親友じゃ」

「これは君を雇っている主人からの指令のようなものだよぉ? それを断っていいーのかなぁ?」

 このような人物でも立場上はかなり上の人物。さらに士はその男に雇われている身なのだ。

 そのため、主の命令をないがしろにするわけには行かず、

「……はぁ。で? 俺は何をすればいいんだ?」

 渋々と、二人の頼みを受けるのであった。

 

 

 

 

 

「おい、スバル」

「んあ?どうした士?」

「何か欲しいものってあるか?」

「ど、どうしたんだよ。藪から棒に」

 レムからの頼みごとは、スバルの喜びそうなものを探してこい。というものだった。

 しかし士はスバルの好きなものなど全くもって分からないため、こうして直接聞きに来た、というわけなのだ。

「んー。欲しいもんか……強いて言うならば、マヨネーズが欲しい!」

「は?マヨネーズ?」

「おう!俺実は結構なマヨラーでさ、最近ちっとばかし禁断症状出始めてんだよ。ほら、この世界ってマヨないし。あーあマヨチュルチュルしてぇなぁ……」

 スバルがマヨラーと言うのは意外だったが、それよりも謎の単語が気になる士。

「マヨチュルチュルって何だ?」

「何って……言葉通りの意味だよ。マヨのキャップの部分を咥えて、マヨを口の中に流し込んでダイレクトで食うんだよ」

「…………」

「おい何でちょっと引いてるんだよ」

「ちょっとじゃなくてだいぶ、だな」

「ひっでぇな!いいだろ、別に!趣味は人それぞれだろ!」

 気持ち悪すぎるスバルの趣味にかなり引きながら、話を本題に戻す。

「他には無いのか?」

「他には……エミリアたんの笑顔!」

「…………他には」

「うーん……無いな。あ、ケーキとか食いてぇな。ひっさしぶりに」

「……大体分かった」

 想像してた以上に訳の分からないものを頼むスバルに、軽く呆れながら、士はその中で一番まともで使えそうなケーキをチョイスすることにした。

(……一応マヨも作っておいてやるか)

「おーい士ぁー。手伝ってくれー」

「自分の仕事は自分でやれ。俺だって忙しいんだ」

「つ、士ぁぁぁぁ!?」

 スバルが士の後ろで香辛料の入った樽に押しつぶされているが、気にせずに士は足りない材料を確認しに食料庫へと足を運ぶのだった。

 

 

 

「足りないのは、卵と砂糖、油に酢、小麦粉。バター。大体こんなもんだろう。……で、何でお前は付いてきてるんだ」

 足りない食材を買いに村へと出かけている士の隣を歩いているのはピンクのメイドのラムだ。

「バルスにプレゼントをあげろとレムが何度も言ってくるから、村までそれを探しに行くだけよ」

「ってのは建前で本当は仕事をサボりたいだけだろ」

「……ところでその食材で何を作る気なの?」

「やっぱりな。まぁ俺たちの国にある調味料と食べ物を作るんだ」

 露骨に話題と目線を逸らしたラムを冷ややかな視線で見ながらも、しっかりとその問いに応じる。

「まぁ、何か持って帰らなければ怪しまれてしまうし、何かは買って帰るつもりよ」

「絶対にスバルが嫌がるものをあげる気だろ」

「……なぜそんなにもラムの思考を読めるのかしら。……もしかして、これもディケイドの力……!?」

「これも図星か。後、的を射たような感じを出してるが、そんな力俺にはない。安心しろ」

 何かに気が付いたかのようにハッというリアクションをわざとらしくとるラム。

 それをいつものように軽くあしらう士はこの時を確かに楽しいと感じていた。

 この世界にいる中で一番心を許せているのは、恐らくスバルかラムのどちらかだ。

 スバルはまだ分かるのだ。なぜならばあの皆との絆が全てリセットされるという感覚は、士も味わったことがある。

 小野寺ユウスケとの別れの時。士はクウガの世界の世界を一度破壊し、再生した。

 士と繋がりの深いユウスケの記憶は消せなかったが、その世界の住人は、士とディケイドに関わりのある記憶を全て抹消しユウスケを気絶させ、その間に元の世界へと帰した。

 困惑することは分かっていた。もしかしたら突然の別れを悲しんでいるかもしれない。しかし、士の旅はこれから先、もっと危険なものになるかもしれない。

 そう判断した上での行動だった。

 だからこそスバルの苦しみはよく分かる。そのためスバルに普通以上に感情移入できているのだろう。

 しかし、ラムは別だ。

 ラムは別に普通の人間と大差ない。鬼だとか不遇な境遇だとかそのような要素は士にとっては大した問題でもない。そんな奴らは今までにたくさん見てきたから。

 なのに士はラムとこんな風に一緒にいて過ごす時間を心地いいと感じている。スバルと同じくらい、守ってやりたいとも思っている。

 なぜかは分からない。分からないのだが――。

「ボーッとして、どうしたの、ツサカ」

「……いや、何でもない」

 こいつと話していると、何だか気持ちがいい。何なのだろう、この感覚。いや、感情は。

 その感情に、士は気が付くことはなかった。

 ラムの表情が士意外の人と話すときよりも笑顔が増えているのにも、気が付くことはなかった。

 

 三日後。

 どうも最近皆の挙動がおかしい。ナツキ・スバルは自身の部屋のベッドの上に腰掛けてそんなことを考えていた。

 いつも通り仕事をしようと使用人の服に着替えようとしていると、どこからともなくレムが現れ、「スバル君、今日一日は仕事をしないでください。私にも近付かないでください」と冷たくあしらわれたり。

 エミリアにいつものおちゃらけた調子で歩み寄れば、「スバル、今日は部屋でおとなしくしてて。いや、別に何があるっていうわけじゃないの。だって今日はきね……違う、違うの。そう休み。休みだから。しっかりと休んでね。じゃあ」とか何の脈絡も無く言われたり。

「うーん……今日なんかあったけ」

 実を言うとこの男、自分の誕生日が頭から消失しているのだ。事件以降、レムがスバルのことを根ほり葉ほり聞くようになり、そこでレムに自身の誕生日を話したことは当然覚えているのだが、要領の悪いスバルは、この世界の文字である『イ文字』を覚えるのが精一杯のため、暦まで頭を回していない。

 そのため、今日がこの世界の四月一日だということを知らないのだ。

「士も見当たらねえし、調理室には何故かラムが中に入れてくれねえし、レム俺の仕事を全て奪うし……だぁー!分からん!」

「スバルー。いるー?」

「はーい。スバル君はここにいますよーっと」

 ぐだぐだと文句を垂れ流していると、不意に扉の外から聞こえてきた最愛の女の子の声に適当な返しをしながら、ドアを開く。

 そこにいたのは当然エミリアだったが、いつもとは少し格好が違う。

 いつも通りの白い服をベースに、美しい銀髪の上に耳の付いたパーカーのようなものを被っていた。

「どったのエミリアたん。俺はちゃんと言いつけを守って部屋で一人寂しく過ごし」

「スバル、今からおでかけしない?」

「……ふぇ?」

 いきなりのデートのお誘いに、いつもの態度を粉々に粉砕される。が、その言葉の意味を瞬間的に吟味し始め、

「い、いやーエミリアたん。あ、ありがとう。も、もちろんレムもももいいい一緒だよねー」

 動揺しすぎるあまり言葉がぐっちゃぐちゃになり、呂律もうまく回ってないが、とりあえず言い切ることができた。

「?何を言ってるの?私とスバル、二人だけよ」

「………………」

 二人だけよ。その単語がスバルの脳内を約一万回ほど駆けめぐる。この間驚異の0.4秒。

「この前のお礼として、スバルと出かけてあげるわ。……スバル?どうしたの?」

 そしてスバルは一人、呆然と、気絶していた。

 その数秒後にハッと突然目を覚まし、ボサボサの髪をといて、慌てまくり喜びまくりドキドキしまくりながらエミリアと出かけたのは言うまでもない。

「……どうやらスバル君たちが出かけていったみたいです」

「そうか。あの様子なら大丈夫そうだな」

 スバルは嬉しさの頂点に達しているため、エミリア以外の周囲のことが全くもって見えていないように士には見えた。

 これがサプライズの準備のための時間稼ぎということには、疑いもしないし気が付きもしないだろう。

 もっとも、エミリアはそんなことを考えておらず、スバルがエミリアを救ってくれたお礼にはそれが一番ピッタリだ。という士の助言を受けての行動なのだが。

「さて、俺たちも準備に移るとするか」

「はい。……ところで何を作るんですか?」

「マヨネーズケーキ……じゃなくて、ケーキとマヨ。後はそれらに合う料理を作る」

「けーき?まよねーず?何ですか、それ」

「ケーキってのは、まぁ誰かの記念日に食べるもんで、マヨネーズってのはスバルが大好きな調味料だ」

 そう言いながら手慣れた手つきで黄身、酢、レモンの絞り汁を入れ、かき混ぜていく。ちなみにこの世界では、卵のことをエッガ。酢をビネギー、レモンのことをリモーンと呼ぶらしい。

 そして同時進行で進めているバースデーケーキの生地、スポンジを予め温めておいた釜に入れ、焼き始める。

 この世界では薄力粉がどこを探しても見当たらなかったため、一から、いや、0から士が作成したのだ。

 その圧倒的な料理スキルには驚くことしかできないだろう。

 ケーキを熱しながらレムにも手伝ってもらい、着々とフルコースを作成していく。

「そろそろよさそうだな……」

 体内時計で大体の時間を計り、釜からスポンジケーキを取り出す。狐色でも白色でもない、ど真ん中の綺麗な黄色。自作の薄力粉のため、ケーキが膨らむかどうか怪しかったのだが、予想と反してとても綺麗にぷっくらと膨らんでくれている。

「よし。後は土台のケーキを重ねて……」

 実はこの男、料理を楽しんでいるのである。士は基本的にこのような労働は毛嫌いしているが、何故か今だけはこの行為を楽しい、と感じていた。

 どうせやのならば、できるだけいい結果を出してやろう。というのが士の思想なのだ。

 このケーキも、ウェディングケーキほど大きく、そして豪華にする予定である。

 しかしそれほどまでに大きいケーキを作るのはさすがの士でも至難の技ので、スポンジケーキをいくつも作り、それを小さい順に乗せていくのだ。

「……後は、生クリームをまんべんなく塗って、苺を乗せてやれば……。完成だ」

「こちらも終わりました。……これはすごいですね」

 厨房のテーブルの真ん中に佇んでいる巨大なケーキに、レムの瞳が見開いている。

「だろ?俺もこんな料理を作るのは初めてだ。……もうこんな時間か。そろそろ二人が帰ってくる、今すぐ支度をしに行くぞ」

「はい、了解です」

 数々の料理をレムの豪腕で台車へとのせ、食卓まで運んでいく。

 そして食器を並べそこへ人数分、料理を入れて行っていると、突如玄関ホールの方角から、

「あーっ!今日は最高の日だったぜ!」

 という馬鹿丸出しのような大声で叫んでいる青年と、銀髪の少女の姿があった。

「レム。屋敷にいる奴ら全員を集めてきて」

「もう全員いるーよ」

「うぉ!?」

 いつの間にやら士の背後に位置していたラムとロズワール。そこにベアトリスの姿はなかった。

「おい、あのガキはどこだ?」

「呼びには行ったんだけどぉーね、何だかご機嫌ナナメなよぉーでね。出てきてはくれなかったよ」

「そうか……」

 あれ以来、士とベアトリスは一度たりとも会っていない。いや、会えていない、と言った方が正しいだろう。

 前のように士が適当なドアをいくら開けても、ベアトリスの元へ行くことができないのだ。そこで初めて士は思い知った。

 今まではベアトリスが多少なりとも心を開いていてくれたからこそ、あの場所へと向かうことができたのだ。つまり、今それができないということは、完全に士がベアトリスと決裂してしまったことの現れなのだ。

「もしかして、彼女と喧嘩でもしたのぉーかい?」

「……お前には関係ない」

「おやおや、手厳しぃーね」

 俺に質問するな、と言うオーラを出し、ロズワールのダル絡みを一時中断させる。

 そして、だんだんとスバルがエミリアの誘導でこちらへと歩いてくるのが気配で分かった。

「スバル、すごーく喜んでくれると思うの。ほら、速く速く」

 ピョンピョン飛び跳ねながら##を指さしているエミリアに金魚の糞のように黙って付いてくるスバル。

 何がこの中にあるのだろう。色々な妄想をしながらドアに手をかけ、ゆっくりと開く。

「エミリアたん。ここに何がある……」

 不意にスバルの頭に紙切れのような物が軽い物が破裂するような音と共に飛んでくる。

「うわっぷ!?な、何だ?」

 そしてその紙切れを頭の上から払いのけ、目の前の光景を困惑したまま目に入れる。

「ハッピーバースデー!スバル!」

「え……」

 いつもの長いテーブルの上に所狭しと並べられたごちそう。そして皆の誰かを祝うような笑顔と拍手。それらに圧倒され、スバルはただボーッと幸せな光景を目に焼き付けていた。

「え、でも俺……え?きょ、今日は俺の誕生日だったけ……?」

「日本とこっちでは、だいぶ月日の感覚が違うらしい。だから、今日が四月一日。お前の誕生日なんだとさ」

 心底不思議そうな顔を浮かべているスバルに、士が補足をする。

 その一見屁理屈ともとれる理論にうなり声をあげながら、

「……うーん。なんか釈然としねえけど……。って、おお!これ、マヨネーズじゃねえか!これどうしたんだ?」

「俺が作ってやったんだ。感謝しろ」

「全く。バルスのためにラムも働いてあげたのよ。感謝なさい」

「お前は俺とレムが作った料理をつまみ食いしてただけだろーが」

 そう。ラムがスバルの為に手伝ってくれていない。やっていたことと言えばつまみ食いくらいなのだ。

「バルスに食べさせるにはもったない料理ばっかりだったから、ラムが食べてあげただけよ」

「迷惑だから止めてくれと何回も言っただろうが」

「ふぅーむ。私が見た限り、ラムは随分ツカサ君と仲がいぃーねぇ」

「どこがだ」「どこがですか」

 ロズワールが茶化すように言うと、二人は息ピッタリでそれを否定する。

「いくらロズワール様でもその言い分は聞き入れることはできません」「左に同じだ」

「姉さま、ツカサ君。速くしないと料理が冷めてしまいますよ」

 言い合いが段々とヒートアップしていくのを止めるため、レムが程良いタイミングで間に入り込み、スバルの誕生日会を優先させる意志を見せる。

 とてつもないシスコンであるラムはそれに従い先ほどの言い争いがなかったかのように席へと着き、それを先頭にして次々と他の皆も席へと座っていく。

「えー、それでは。私の使用人であるナツキ・スバル君の誕生日を祝って、乾杯!」

 ロズワールの一言で、皆置いてある飲み物を一斉に喉に通し、食事を始める。

 士とレムの作ったごちそうを美味しそうに食べながら、談笑をしていると、あっという間に時間は過ぎ――。

「すばるくんすばるくんすばるくん……」

「うぉ!?レムどったの?」

 パーティーの開始から二時間半ほど経った頃、レムが突如スバルの名前を何度も呼びながら、スバルの肩にのし掛かった。

 よく見ると、いつもの白い頬はほんのり赤みがかっており、吐息からはアルコールの匂いが漂ってくる。

 そして手に握られているグラスには、赤い液体、ワインのようなものが注がれていた。

「レムさんもしかして……酔っ払っちゃってる?」

「レムはぁ……酔てなんかぁ……いましぇん!」

「あちゃー、こりゃ完全に酔ってますね。呂律も回ってないし」

「えへへー。しゅばるー」

「ぎゃっ!?」

 レムの乗っかっている肩とは逆の肩に、エミリアの美しい銀髪が乗る。その姿はまるで幼い子供が赤ちゃんに甘えているかのようだ。

「え、エミリアさんも酔ってませんか?」

「しょうだよー。私だってもう大人なんだからーおしゃけ飲んでもいいんだよー!」

 スバルにとっては両手に花なのだろうが、端から見れば極上の美女二人と付き合っているたらし野郎にしか写っていないのだろう。

 事実、ラムから送られてくる視線はいつもよりも殺意が三割ほど増しており、士から向けられる視線も、どこか呆れかえったようなものになっている。

「どんな方法でレムを懐かせたのか知らないけれど、とんだ変態ね。死になさい」

「いつの間に冴えない高校生からそんなモテ男になったんだ?」

「知らねーよ、俺だって」

「エミリアしゃま……」

「レムぅ……」

 スバルをかいして二人が抱き合っている光景は、もはや尊いだとか、美しいとかいう次元を優に越えていた。

「このハイパーゆるゆり空間を俺としては壊したくないわけだが……二人がこんな調子だし、そろそろ俺はお暇するよ」

「えー。スバル寝ちゃうのー?」

「しゅばるくん……ダメですよ。まだ寝たら……」

「いやーでも……二人もそろそろ寝た方がいいんじゃ……」

「だったら、私スバルと一緒に寝る!」

「え?」

「でしたら、私だって、しゅばるくんと寝ます」

 片手を天へと突き出し、エミリアが放った言葉と、それに対抗するように頬を膨らませながら、レムが放った言葉にロズワール以外の全員の

時が止まる。

 その中でも一番先に思考をリスタートさせ、十割り増しの殺意をこの場に充満させたのは、ラムとパックのコンビである。

「リア……それは流石の僕でも容認できないよ」

「レム……バルスに洗脳されているのね。可哀想に。今バルスを殺して目を醒まさしてあげるわ」

 ラムの周りに風がまとわりつき、パックの周囲に冷気が発生する。

 瞬きをした瞬間に自分は殺されている。そうスバルの大脳が判断を下し、警戒心を一瞬でMAXに引き上げる。

「ちょ、ちょっと二人とも!落ち着いて頼むから!殺されるのは困るから!」

「安心しなさい。死よりも苦しい痛みを味あわせてから殺してあげるわ」

「まずは一つ氷像を作るとしようか。死なない程度に」

「待って!待ってくださいお願いします!つ、士!助けてくれ!」

「知るか、自分で何とかしろ」

「薄情者!」

 目を光らせながらジリジリと詰め寄ってくる二人。その姿はまるで鬼。いや、片方は本当に鬼なのだが。

 ロズワールは楽しそうにこちらを見ており、士もこちらに興味を示さず料理を黙々と食べている。

「だめでしゅ、姉さま。しゅばるくんをイジメないでください」

「ぱっくー。スバルを凍らせたらだめよー」

 そんな中スバルを養護してくれたのは、この事態の引き金である当の本人だけだった。

「れむはぁ、しゅばるくんと寝たいんです!一回だけでいいですからぁ……だめですか?姉さま」

「私もスバルの温度すごーくしゅきなの。だからぁ今日一日だけでいいから、スバルと一緒に寝たいのー。……だめ?お父さん?」

 シスコン最強のラムと、娘を溺愛しているパック。そんな大事な人たちに上目遣いで、しかも可愛さの極みであるポーズで、甘い声でお願いされては、何でも言うことを聞いてしまうのだ。

「バルス」「スバル」

「は、はい!何でしょうかお二人とも!」

「寝るだけなら許可してあげてもいいわ」「許可してあげてもいいよ」

 まさかのOKが保護者から出てきてくれて、本来ならば死ぬほど喜ぶ所なのだが、今ここでガッツポーズなどしようものならば、恐らく比喩表現でなく本当に殺される。そのため、スバルは縮こまりながら、二人の言葉の続きを待つしかなのだ。

「「ただし、」」

「レムを汚したら」「リアを汚したら」

「「殺す」」

「は、はひぃ!こ、ここに誓います!決して手は出しませんと!で、ではお休みなさい!」

「あー。待ってスバルー」

「しゅばるくんしゅばるくんしゅばるくん……」

 二人の女子はスバルの袖を掴み、二つの殺意の塊から逃げるようにスバルは食堂から退席していった。

 

 

 そして話は冒頭へと戻る。

(と、とにかく二人を引き剥がさないとマズい!息子がエクスプロージョンしちまう前に速く!)

 しかし動くとどちらかの胸の触感を味わうことになってしまい、スバルの息子がさらにマズいことになる。

 そのため頭では分かっていても、動けないのが現状だ。

「スバル、くん……行かないで、ください」

 顔を赤らめながら、どうしたものかと思考を張り巡らせていると、不意にレムが消え入りそうな声で、そんなことを言ってきた。

 右を向き、その顔を覗いてみる。

 閉じられている青い瞳から一滴、涙がポツリと零れた。

「……レム?」

「置いて……行かないでください……」

 もう一粒、二粒と涙がポロリと落ちていく。

 胸の感触ばかりに気を取られていたため気が付かなかったが、スバルに添えられているエミリアとレムの腕は、何故か小刻みに震えているのが分かった。

「ス、バル……無茶、しないで……」

 左からも聞こえてくる情けない声。エミリアの方を向いても、スバルの目に入ってきたのは、閉じた瞼からこぼれ落ちる滴。

「二人とも……」

 エミリアとレムは、口には出さないものの、スバルの身を誰よりも心配していたのだ。

 当然と言えば当然だ。今のレムにとって、スバルは姉と同じほどの存在価値を持っている。エミリアも心の支えが一つ増えたことと同義。

 それが指先一つ触れただけで、命の火が消えそうな状態になってしまったのだから、二人の恐怖は計り知れないものだろう。

 二人ともそれを表に出すようなことはしていないが、酒に酔い、つい本音を漏らしてしまったのだ。

「……ああ。どこにも行かねえよ。どこにも……」

 二人の髪を同時に撫でると、安心したかのように寝息を吐き、スバルに抱きついている腕の力をほんの少し強め、涙はもう流れなくなっていた。

「……ったく。邪なことを考えてた自分が、馬鹿みてーじゃねえか」

 照れくさそうに顔を赤らめながら、そうこぼす。

 スバルはこの日、ある決心を固めた。

 もう、誰も切り捨てる道だけは、絶対に選ばない、選びはしない、と。

 そして――。

 何度死のうが、何度苦痛に苛まれようが、何度運命が牙を剥こうが、ナツキ・スバルは大事な人々を守り抜いて見せると、決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これは何だ?」

 どこか遠く、士やスバルたちが知らないとても暗い場所で、その密談はひっそりと行われていた。

 黒いローブのようなものを被っている男の手に握られているのは、いくかの黒い時計。それを不思議そうな眼差しで見つめている。

「せっかくお前を救ってやったんだ。こいつら以上の働きをしてもらわないと困るんだよ。それと……」

 その男の前には、椅子に王様のような態度をとって座っている男。その手から黒い一冊の本が伸びる。

「これは、福音……?」

「お前なら、あいつらを引きずり込む上でこれが大事になるのは分かってるだろう?」

「ったく。前の世界で俺がやってたことと同じことをさせんのかよ」

「そう言うな。あいつらの勢力はすさまじい。それを利用できれば……門矢士を消せる」

 男は忌々しそうに、士の名を呼ぶ。その胸中にあるのは、門矢士への怒りのみ。

 そう、それだけで男は士を殺そうとしているのだ。

「じゃあ早速……行くとするか」

(アギト……)

 その音と共にライドウォッチを体内へと取り込み、男は怪物へと変貌した。

 赤い複眼に二本の歪んだ角。体は黒い緑色で覆われており、口からは閉じた牙が覗いている。

「王選……開始だ」

 静かに怪物はそう呟き、暗闇の根城から勢いよく飛び出していった。




Re:ゼロから始める世界の破壊者!次回、第三章突入!
「ッチ。また付いてきたのか、お前は」
「え、誰々?」
「やぁ、久しぶりだね、士」
「ワタシは魔女教、大罪司教『怠惰』担当、ペテルギウス・ロマネコンティ……デス!」
「なぜディケイドがあのハーフエルフの下に!?」
「貴様の犯した愚行は、万死に値する!」
「士ぁー!」
そして現れる……
新たな敵。
「ナツキ・スバル。甘い、お前は甘すぎる」
「がぁぁぁぁぁぁ!!」
全てを破壊し、全てを――。


こんな感じで行けたらな、と考えています。期待せずに、でもお気に入り登録はしておいて、お待ちください!

かなーり説明回に時間を割いたため、王選候補者一人ずつの自己紹介はダイジェストみたいな感じでよろしいでしょうか?

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