Re:ゼロから始める世界の破壊者   作:muryoku

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えーとですね、一話から読み返したら雑すぎでしたので、再度編集作業に入らせていただきます。申し訳ございません!


第三話 路地裏での会合

「お、おい士。あれほっといていいのかよ?」

「面倒ごとには関わらない方がいい。事情聴取されれば、厄介なことになるからな」

 二人はこの世界の住人ではない。もしこの世界で戸籍制度などがあれば、二人はすぐに身元不明の国への侵入者と怪しまれ、ブタ箱へとぶち込まれることになるだろう。

 おまけにディケイドはこの世界では敵と認識されているため、ああいう国直属の騎士たちが動くような事件にはできるだけ関わらない方がいいのだ。

「――てめえ、クソアマ! ふざけてんじゃねえぞ!!」

 例え事件に関わりたくないと考えていても、裏路地から聞こえてくる物騒な声には駆け付けなければいけないのが難儀なところではあるが。

 外れ道を通過しようとしたときに見計らったかのように聞こえてきた声に、どこか士は聞き覚えがあった。

「……なぁ、この声俺聞いたことあんだけど」

「奇遇だな。俺もだ」

 それはどうやらスバルも同じらしい。少々の苦笑いをしながら、士の後に続いて路地裏へと入っていく。勢いよく入っていく。

「ふざけてんなよ、女ぁ! その綺麗な顔を吹っ飛ばしてやろうか、あぁ!?」

「騒ぐでない、下郎。先ほどの轟音に恐れをなして縮こまっていた者の恐喝など、いい笑いものにされるだけじゃ」

 裏路地に入ってすぐに見えたのは、唾を飛ばして怒気を振り乱す男に対し、その声は透き通るような凛とした音で猛毒を宿す少女の姿。

 鮮やかな橙色の髪は太陽を映したように輝き、バレッタでひとつにまとめられて背中へ流されている。華やかな真紅のドレスは舞踏会や貴族の茶会などでならその美しさを存分に発揮するため、このような場所ではその真価を発揮することはできないだろう。

 腕を組み、少女は豊かな胸を持ち上げるようにして悠然と構える。男たちがその仕草をさらに余裕によるものだと解釈、勝手にボルテージが上がるのが傍目にわかり、跳びかかろうとする寸前に、

「お前らはまだこんな事やってんのか」

「ああ!?なんだテメェ!」

 あれほど士にボコボコにされたというのに、平然とメンチを切るチンピラ三人衆に少しだけ驚くが、それはすぐに理解に変わる。

「ああ、お前らとは(初対面)ってことになってんのか」

「何訳の分かんねえこと言ってやがる!」

「まぁいい。だったらもう二度と忘れないように、骨の髄まで刻み込んでやるよ!」

 瞬時に一番背の小さい男へと近づき、顔面に蹴りを入れて少女の後ろまで吹き飛ばし、一番体格の大きい男にはボディーブローを入れて地面へと強制的に伏せさせる。

「く、来るんじゃねえ!」

 中くらいの細身の男も同じように倒してやろうと考えていたが、ナイフを構えられたことによって士の動きが少しだけ止まる。

 それを見て少し口角を上げた男は、ナイフの先を士に向けたまま、

「う、動くなよ。動くんじゃねえぞ!」

「悪いが、それはお断りだ」

 しかし士は凶器を向けられているというのに微動だにしないまま、男へと歩みを進め始める。先ほどとは違い、ゆっくりとした動きによって相手にプレッシャーを与え牽制するが、

「く、来んなー!」

 ナイフを直線的に動かし、士の腹部に穴を開けようと近づくナイフ。このままいけば士の胴体には、小さいながらも風を通す穴が開くだろう。

 当然そんなことになる前に、ナイフを手の平で掴んで静止させる。

「武器の扱い方がなってない……な!」

 士の掌から滴る血液が付着しているナイフに握力をかけ、根元からポッキリとへし折る。直後、男の顔はどんどん蒼白の色に染まっていき、士の容赦ない顔面パンチで見事KOされた。

「流石士先生!頼りになる!」

「調子のいいやつだな。で、お前、ケガはあるか?」

「なんじゃ、物乞いのような目をしおって。貴様にやるようなものはなにもないぞ」

「おいおいお嬢さん。せっかく士先生が助けてくれたんだから、そのことへのお礼ぐらい言ってもいいのよ?」

「助けた?」

 小首を傾げて不思議そうな顔をする少女。

 彼女はしばし思案するように瞑目し、それから合点がいったとばかりに「ああ」と小さな吐息を漏らし、

「さっき貴様があの下郎共を蹴散らしたのは妾を助けるためか。ふむ、気付かなかった」

「いやどう見たってそうでしょうが!何々、もしかしてお礼言えない病気!?」

「お前はただ後ろで見てただけだろ」

 士の指摘を無視して頭を抱えて腰をひねり、衝撃を受けたことを体で表現するスバル。が、少女はそんなスバルの様子を退屈そうな眼差しで見て、それからけっきょくなにも言わず、

「やれやれ、時間を無駄にした。妾の有限の時間を奪うとは罪深い話じゃな」

「あくまでお礼を言う気はないのね……」

「勘違いするでない。別にそこの男がいなくとも妾にはなんの問題もなかった。どうにでもなった問題を、たまたまどうにかしたのが貴様であったというだけのこと。それを己の手柄のように誇るなど、滑稽でしかないぞ」

「意味わかんないんだけどどゆこと? 助けてもらわなくても、妾様は超強いんだから全然平気だったんだからねっ! みたいなこと?」

「違う、もっと単純なことよ。――この世界は妾の都合の良いようにできておる。故に妾に不利益は起こらん。妾が助かったのは妾のおかげである。それを貴様は己の手柄のように、横取りなどと恥ずべきことだと思わんのか?」

 奇麗なピンク色の唇を動かして飛び出た言葉に、士はある男の姿を浮かべ、失笑をしていた。

「なんじゃ、何が可笑しい」

「悪いな、俺の知り合いにもそんな奴がいてな」

 おもむろに士は肘を直角に曲げ、人差し指のみを立て天を指しながら路地裏全体に響くようにこう言い放った。

「おばあちゃんが言っていた。俺が望みさえすれば、運命は絶えず俺に味方する。などと言っててな、お前と似てるんだよ」

「ほう、中々傲慢な人間よの。そやつの名は」

「天の道を行き、全てを司る男、天道総司と言っていた」

「妾以外にもそのような事を言える輩がいるとは。大層傲慢なことじゃな」

「え?それほんとに婆ちゃんが言ったの?」

「奴によるとそうらしい」

 スバルの頭に特大のクエスチョンマークが浮かんでいるが、そうなるのも無理はない。なにせ士も最初に天道の口から出た時、同じ疑問を浮かべていたのだから。

「さて、俺たちはもう行くぞ。お前にケガは無いようだしな」

 短い別れの言葉を言って、少女に背を向ける士を先ほどのように慌てて追いかけるスバル。

「待て、そこの目つきの悪い使用人」

 背後からの低い声での呼びかけに、思わず士を追いかける足を止めたスバルは己の不徳を責める。

 聞こえないふりをしてそのまま歩き去ってしまえばよかったものを、立ち止まってしまったからにはその言い訳ももう通用しない。

 せめてもの反抗に、スバルは後ろを振り返ることはせずに声だけで、

「な、なんすか?」

「その袋に入ってるものは何じゃ、見せよ」

 悠々と前に回り込んできて、少女は胸に抱え込んでいた袋を下ろすよう指で示す。

 ここで素直に中身を見せる必要はないのだが、こんな変人と長く関わるのは御免だと判断し、その指示に従う。

 中に入っていた赤の果実を手に取り、不思議そうな表情を浮かべ、

「この果実は何じゃ?」

「何って……ただのリンガ何ですけどもね」

「嘘をつくでない。リンガとは白い果実のはずじゃ。断じて、このような赤い見た目の果実ではない」

「いやいや、確かに皮剥けば白いけどさ。……まさかとは思うけど皮剥く前のリンガ見たことねぇの?」

「ふむ、確かに食卓に並んだ時以外、リンガを見たことはないな。わかった、寄越すがいい」

「ちょっと何言ってるか分かんない」

 何で分かんねえんだよというツッコミが普段ならば聞こえてきそうだが、今回は絶対に相方の人も頷いてくれることだろう。この言葉を素で言ってしまったのは人生の中で初めてだ。

 度を過ぎて宇宙にまで到達しそうな身勝手さには、度を過ぎたお調子者のスバルですら苦笑い浮かべられない。

 寄越せと言う意思表示を前面に突き出している左手とは反対に、右手には宝石で装飾された短剣がいつの間にやら抜かれており、カツアゲから守った少女がこちらにカツアゲをしてくるという何とも珍しい、いや、異常な状況になっていた。

「へいへい、分かりましたよ」

 少女を刺激しないように掌にリンガを優しく置くと、それはすぐに少女の掌の上で二つに切り裂かれる。

 逆手に握った短剣を、思ったよりも手慣れた仕草で扱う少女。二つに割られたリンガが白い断面をさらすのを見届け、彼女はわずかに掌にこぼれる滴を舌で舐め取り、

「ほう、この味は確かにリンガじゃな」

「ご満足いただけましたかね?じゃ、俺はこれで……」

「気に入った。残りも全て寄越せ」

「DA★MA★RE!」

 ドン☆というオノマトペが表示されそうなセリフを吐き、癇癪に体をばたつかせてスバルは少女に詰め寄ると、

「リンガ一個やっただろうが!てかそもそも他人から物を貰っちゃいけませんって小学校の頃に習わなかったの!?聖人君子みたいな俺でも、そろそろ我慢の限界よ!?」

「どこが聖人君子だ」

「はい士はシャラップ!ちょっと静かにしてて!」

 地団太を踏んで先ほどのチンピラ三人衆よりも少女に対しての怒りをあらわにするするスバルを、まるで動物園の檻の中にいる猿を見るような目で、

「先に妾に関わってきたのは貴様のほうではないか。そのくせして他人などと言い張るのか?」

「確かにそうじゃん!」

 厳密に言えば一番最初に関わったのは士なのだが、という反論が喉から出かかるが、そのワードはこの場をさらにカオスな状況に変えてしまうと判断し、嫌々ながらもゴクリと喉を奥へと押し込める。

「無駄話はよい、ならばこうせよ」

 熱弁するスバルに興味を払わず、少女は一方的な態度のまま話を続ける。

 彼女はスバルの抱えるリンガの袋を指差すと、その唇を横に裂いて嫣然と笑い、

「賭けでどうじゃ?そうさな、投げた硬貨の裏表を当てるような簡単な賭けでよい。一回につき、リンガ一個を賭ける。どうじゃ?」

「何言ってんのアンタ。それ俺にメリットないじゃん。ただ泥棒されたのとイコールで繋がっからな、それ」

 コイントスを提案されて、しかしスバルは彼女の宣言を鼻で笑う。

 譲歩したとでも言いたげな態度ではあるが、そもそも前提からしておかしい。

「もちろん、貴様への見返りも用意する。そうじゃな……妾の胸を触らせてやる。それでどうじゃ?」

 スバルの脳が度重なる目の前の少女の異常行動によって、ついにオーバーヒート。しかし回転の速さのみが取り柄であるスバルの脳は、すぐさま冷却され言葉を紡ぎ始める。

「もっと自分を大事にしろ。バカ言いやがって……そんな色香に俺が惑うかよ!」

 

 

 

 

 数分後。

「これで妾の勝ち。七連勝じゃな」

「ウゾダドコドーン!」

 路地裏で連戦連敗し、ギャンブルで身を持ち崩すスバルの姿がそこにあった。それを見て士は再度、フラグという物は存在するのだと改めて思い知った。

「くっそがー!何でだよ!?何で百発百中なんですか!?」

「戯言はいい。続けるか?それともここでやめるか?」

「当然、続けるに決まってんだろ!ここまでやって引き下がれっか!」

 コンコルド効果のドツボにハマり、やめるにやめられないスバル。一見、先ほどの会話を聞いていると邪な考えでこのギャンブルに乗っていると見えるだろうが、スバルの胸中はこの我がまま嬢様に敗北の二文字を叩きつけてやりたいという、なんとも負けず嫌いな理由でこのギャンブルに臨んでいる。

 もっとも――。

「右の手じゃな」

「ギャー!」

 勝てるかどうかは別であるが。

 震える右の拳を開き、掌の中のコインを勝ち誇る少女の前に差し出す。

 少女の微笑が深くなるのを見て、スバルは屈辱に肩を震わせて俯くのが精いっぱいだった。リンガの入った袋が彼女の手の中に移り、その中から二個のリンガがスバルの眼前にちょこんと置かれ、

「これであと残るリンガは二つ。さて、どうする?」

「こうなったら……。俺らの故郷の遊び、ジャンケンで勝負をしないか?」

「じゃんけん?」

「ジャンケンってのは、最初はグーって言う掛け声をかけながら決まった形に手を出して、その手の形の優劣で勝敗を決める決闘法だ。手の形は三つあって、『グー』『チョキ』『パー』の三種類。グーがチョキに強くて、チョキはパーに強くて、パーはグーに強い。おわかり?」

「なるほど、わかった。それなりに面白い趣向じゃな。では妾はパーを出そう」

「いきなり宣言ですか!?ルールの応用力すげえな、そこだけは認めるわ」

「無駄な時間をとらせるな。じゃんけん……」

「ちょ、ちょま」

 姑息な作戦を立てていた腹の内が見透かされ、逆に利用されて焦るスバル。しかし一度始まった掛け声を止めることは叶わず、少女が手を振り上げるのを見るとスバルも合わせて手を振り上げ、

「ポン!ってあー!」

「妾の勝ちじゃな。全く、せっかく貴様に花を持たせてやろうと教えてやったと言うのに」

 スバルはチョキを出し、パーを出した少女に完全敗北。これによって残りのチップは後一個だけになってしまった。

「これでリンガは後一個じゃ。さぁ、最後の勝負をしよう」

 項垂れているスバルに目もくれずに、少女は最後の勝負を持ちかけてくる。当然のようにスバルが望むところだ、という前に、

「待った」

 路地裏に響いた士の声で、二人の動きが一瞬だけ停止する。

「そいつの代わりに俺が相手をしてやろう」

 自分を親指で指しながらスバルを押しのけ、少女の眼前へと構える。二人の視線がぶつかり合って、火花が散っているようだ。

 後ろのスバルの方に体を向け、袋の中に手を突っ込んでリンガを手に取り、袋を持っていない右手にリンガを置き、スバルにアイコンタクトを送るとなぜかスバルは空っぽになったはずの袋を見て、頷いた。

「ルールはさっきお前らがやったように、俺がコインを投げる。そしてどこにコインが入っているか当てるっていうルールでどうだ?」

 すると少女はその強気な挑戦者へと微笑を浮かべ、

「いいだろう。最後のリンガも、妾が貰うことになりそうじゃ」

「それはどうかな?」

 先ほどスバルが使っていたコインを取って、上へと弾き飛ばす。宙をくるくると、縦回転しながらコインが上昇する。

 回転するコインの上昇が頂点に達し、刹那の間だけ銅貨は宙空に縫い止められたように動きを止め、落下。士の手元に硬貨が地面に落ちる直前ですくうように両手を交差させ――、

「さぁ、コインはどこだ?」

「ハッタリはいらん。右じゃ」

 瞬時に得意げな顔で答えてくる少女。それに一瞬息をのむスバル。しかし――。

「残念だったな」

「なっ……」

 士が開いた手の中には、コインは入っていなかった。少女の予想は、外れたのだ。

「お前の予想は外れ。俺たちの勝ちだ」

「待て。それだと賭けが成立しておらんではないか。貴様は言ったはずじゃ。どこにコインが入っているか当てろ、と」

「そう。だから……コインはここにある」

 スバルの持っていた紙袋を奪い取って、少女に強引に渡すと、少女は驚いた顔をして中を覗く。

 その中には、銅の色をしたコインがしっかりと入っていた。

「俺は言っただろ?(どこ)にコインが入っているか当てろ、と。どちらかの手に入っているなんて言ってない」

「ぐぬぬ……」

 と、勝ち誇る士に悔しげにうなる少女。実際、先ほど宙を舞ったコインは士のポケットの中に入っている。袋の中に入っているコインは、先ほどリンガを手に取る時に入れたものだ。

 しかし、もうすでに勝負は終わっている。ここでポケットの中に入れたコインの存在がバレようとも、士は両の手ではなく、(どこ)にあるか宣言したのだから。

 それに乗った時点で、両手のどちらかにコインがあると思っていた少女の負けは、確定していたのだ。

 が、彼女はすぐに「仕方があるまい」と肩をすくめると、腰に手を当てて胸を張り、

「貴様の言う通り、通してしまったからには今さら引けん。よって、賭けは貴様の勝ちであると言えよう。では、望み通りにするがいい」

 ほれ、とばかりにずいと前に出てくる少女。その豊かな胸を強調するような姿勢と、支えるものがないのかドレスに包まれた胸が軽く揺れる。

 しかし、それに士の手が伸びることは無かった。

 なぜなら――。

「――やっと見つけた」

 目の前の少女が胸を差し出してきてすぐ、路地裏の出口に太陽の光に照らされ、純白の髪の毛を揺らす少女が現れたからだ。

「あ、エミリ……」

 ア、という前に、スバルはこちらを見て柔らかい吐息を漏らす彼女の隣に、人影が立っているのを見て絶句。

 がっしりとした体つきからして男と断定。その頭部は漆黒のフルフェイス型の兜に包まれている。

 それだけならさほど目立つ装いとはいえない。場所が王都であるだけに、通りを行き交う人々の風貌は多種多様だ。しかし頭部の屈強な防具とは真逆に、体の部分を覆っているのは、ボロ布にしか見えない服。

 それは本当に単なる軽装だ。上着だけでなく下履きも同じ系統のそれであり、あまつさえ履物は草履だ。

「えーと、誰?その人。かなりヤバめなファッションしてっから、俺の脳内勝手予想ではかなりヤバい人と判定する!」

「語彙力のねーガキンチョだな。ヤバいしか感想出てねーじゃねーか。それに目上の人への態度がなってねーな?お前」

「別にいーだろ。人のツレと一緒に歩いてる男なんざに敬語を使うことなんて、お世辞にもできやしーねよ」

 やれやれと首を振りながら、エミリアの不用意さに少々呆れつつも、そんなところも可愛いという思考がぶつかり合う。

 そして男とスバルのそれ以上の会話は中断された。その出どころは今の会話に参加していた二人ではなく、

「遅いわバカ者」

「へぶら!」

 いつの間にやら取り出されていた扇子で、男の腹を叩く。文字にすると軽く小突いているかのように思えるが、そんな優しいものではない。恐らくこの場の全員の耳に空を裂く音が聞こえたことだろう。

「ひ、姫さん。一人で勝手に歩いてってずっと探し続けてたんだぜ?俺」

「口答えをするな、アル。貴様が妾に付いてくればよい事じゃ。それだけのことをできなかったバカ者を褒めることなぞ、誰がするものか」

 前に踏み出し、尊大に言い放つ少女に男――アルと呼ばれた男が掌で腹部を抑えながらも橙色の少女の頭を乱暴に撫でると、その体を自分の隣に引っ張り、

「いてぇ思いはしたが、見つけられてよかったぜ。これもそこの姉ちゃんに付いて行ったおかげだな。ありがとよ」

「いえ、私は別に何も……」

「んー!その謙虚な態度、仕草!あらゆる全てが可愛い!まさしくE・M・T!」

「静かにしろ」

 エミリアの可愛さに騒ぎ立てるスバル。その後ろにいた士が突然前へと歩きだし、途中でスバルの脳天に軽いチョップを入れ、少女と男の目の前に立つ。

「何じゃ?……ああ、あの約束かの」

「ちょ、おい姫さん。何やってんの」

 事情を知らないアルは見ず知らずの男に胸を触らせようとする自分の主に困惑の色を見せて問いかける。

「こやつとの賭けの代償じゃ。ほれ」

「いいや。俺はそういうのに興味はない」

「なに?まさか貴様……いざ胸に触れるとなった段階で、怖気づいたのか?」

「勘違いするな、未来の王女様候補の(・・・・・・・・・・・・・・・・)胸を触るなんてことをしたら、打ち首になってもおかしくないからな」

「……ほう」

「え?」

 士の口から飛び出た、冗談のような発言に、なぜか一気に柔和だった空気が張り詰めていくのをスバルは感じ取っていた。

 ギャンブル中の少女がスバルと見るときのように全てを見透かした目で少女の方を向きやり、挨拶代わりと言わんばかりに短剣に指を指す。

「まずはその剣。明らかに上流階級の奴らが持っていそうな趣味の悪い装飾。その態度に高級そうなドレス。そしていかにも箱入り娘と言った常識の無さ。明日は王選の開始日。そして街中で見たポスターに、ある人物の特徴が書いてあった。それがお前と完全に一致していたんだよ」

 スバルが果物屋の店長と無駄話をしている最中、士は掲示板のようなものに張られている紙に視線を向ていたのだ。

 そこまで言ったところで一度話を切り、息を吸い込み眼前の少女にトドメとも思えるように勢いよく指を突き立て、

「詳しくは見てないが、そのポスターには王選候補者という文字がしっかりと確認できた。そしてこれらを組み合わせた結果、お前が王選候補者の内の一人と推理したんだ。違うか?」

 その推理が完全に的中したのか少女は突如笑い始め、そして先ほどまでとはまるで違うような、強者の風格のオーラを前面へと剝き出してきた。

 スバルの額に脂汗が浮かび始め、士は警戒心を高めるように視線を強いものにする。

「よくぞ気が付いたな。いかにも、妾が王選候補者の内の一人、プリシラ・バーリエルじゃ」

「タメ口で話しててすんませんでしたー!」

 その推測を事実と決定づける言葉が少女、プリシラの口から飛び出た瞬間、スバルは一切無駄のない動きで地面に頭を付けて土下座した。

「先ほどまでのあの無礼さはどこへ行ったのだ、貴様」

「相手が王女様候補ってわかってたら、この俺ですらもうちょい敬語使うよ!何でそれ先に教えてくんなかったのかな!てか何で一人で行動してんだよ!そこの男は何やってんだよ!」

「俺は悪くねえぞ。姫さんがとことこ勝手に歩いて行くのがワリィんだ」

「妾は他人に縛られるのが嫌いじゃ。誰かに守ってもらうなど、もってのほか」

「ああそうですかい!何とも自由でいい事ですねチクショウ!」

 相手側の身分はこちらと天と地ほどの差があるというのに、結局ほとんどタメ口のまま話すスバル。恐らく、あの無礼さはすでに骨の髄まで染み渡っており、どんなに優秀な医者でも直すことはできないのだろう。

「ま、お前さん方も、王選候補者の使用人ってとこだろ?そこの嬢ちゃんと親しいようだし」

「敵に教える義務はない」

「そういう固いこと言うなって。風が吹けば?」

「は……?」

 前と後ろで全くもって繋がっていない言葉に、困惑する士に対して、スバルは手を挙げて、

「桶屋が儲かる!」

「三人寄れば?」

「文殊の知恵!」

「昨日の敵は?」

「今日の友!」

 力強く言い切り、スバルはアルの顔を見上げ続ける。

 漆黒の兜の中で、その表情の変化はこちらには伝わらない。が、彼は首を横に振ると、隻腕の肩をすくめて、

「なーるほどな。こいつは参ったぜ」

「……まさか、お前」

「ま、そのまさかなんじゃねーの?」

「なんじゃ、貴様らだけで納得しおって。妾にも説明せい。今のわけのわからんやり取りになんの意味がある?」

 納得した様子の三人に不満げなのは、この場に置いてけぼりの橙色の少女だ。

 彼女はアルの態度と、少なからずその彼と同じような感触を得た表情のスバルと士の方を交互に見やり疑問を浮かべる。それにスバルが微笑みながら、

「俺たち、どうやら故郷が同じっぽくてな。それの確認作業みたいなもんだ」

 予想外の事態に困惑している三人。どういう経緯でここに来たのか。何年この地で過ごしているのか。聞きたいことは山のようにあるが、士が脳内で質問をまとめていると、不意に背中に人の肌が触れた。

 そして、

「……色々とお前に聞きたいことはあるが……今日は俺たちの方の姫様がちょっとばかり体調がすぐれないようでな。急だがここでお暇させてもらう」

 先ほどアルの言葉に応じてから、エミリアは二人の後ろで震えながら縮こまり、フードで顔を隠していた。恐らく、王選のライバルに自身の姿を見せたくないのだろう。

 ならば、その意思を酌んでやるのがここでの最善手。

「ああ、だから街ン中歩いてるときも少し震えてたのか。じゃ、姫さん。どっちから行きます?」

「こっちからじゃ。さっさと行くぞ、アル」

「ああ、待てよ。尊大娘」

「ずいぶんと妾に舐めた口を。アルに命じてその首を……」

 物騒な声には反応せずに、スバルは紙袋の中に手を突っ込んで赤い果実を一つ少女へと投げる。

 しっかり彼女がそれを受け取ったのを見届けるとスバルは笑い、

「やるよ、これは敵味方とかじゃなくて、一期一会ってやつで」

「いちごいちえ?」

「意味はアルって奴に聞けば分かるよ。じゃあな!」

 エミリアの肩を掴んで少々乱暴に路地裏の出口へと引っ張っていく。内心かなりドキドキしながらも、こんなチャンスはそうそうないと思考し、心を静める。

 その後ろからは、いちごいちえとは何じゃと聞く少女の声と、それに答える男の姿があった。

 

 

 

 

 

「あのさ、エミリアたん。あいつらいなくなったけど、そろそろ話せる?」

 周囲の様子をうかがいながら、スバルは同じく立ち止まるエミリアにそう声をかける。ここまでも無言を貫いていた彼女は、深くフードを被り直したせいでスバルにすらその表情を見せていない。

「え、ええ。ごめんね、少しボーっとしてて」

「いいよ別に。やっぱり……王選候補者と会うのって、ちょっち気まずい感じ?ああ、別に無理して答えなくてもいいよ」

「……うん、少し」

 パーカーの端から覗くエミリアの不安げな表情の原因は、恐らく半魔の子として辛い日々を送ってきたのが関係しているのだろう。

「あーあ。王選に半魔が出るってのは、嫌だね」

 不意に、大通りの下り坂を歩く三人の耳に、そんな言葉が飛び込んできた。

 掲示板のようなものの前で立っている男たちが、記事を見ながら話をしている。おそらくそこが出どころだろう。

「ホントだよな。もしなんかの間違いで王になったりしたら、どうする気なんだ」

「おい、あんま恐ろしいこと言うんじゃねえ」

「ったく。連中は何を考えてんだか。半魔を参加させること自体、信じらんねえ」

 その声はどんどん周りの人間たちにも拡散していき、大きくなる。人間の汚い部分が、さらけ出され、心にもない事を口に出し始める。

 その声は次第に大きくなり、その声が聞こえてくる度にエミリアは体を震えさせ、瞳を濡らしていた。

「そうだよな、あんな奴、死んじまえば」

「それ以上、口を開いてみろ」

 いつの間にか士が二人の背後から遠のき、男たちの集団の真後ろに立っていた。

「な、なんだよ。アンタ、あの半魔の肩を」

「半魔と呼ぶな。エミリアだよ、あいつの名前は」

 男たちを押しのけ、張られている記事を掲示板から引きはがす。そこに書かれていたのは、エミリアに対する誹謗中傷や、根も葉もないうわさ。それを細切れに破き、周りにいる男たちへと投げつける。

「テメェ、何しやがる!」

「お前らもこうなりたくなけりゃ、とっとと散るんだな」

 当然男どもは憤り、先ほどまでエミリアに抱いていた感情を、士の方へと怒りという物に変えてぶつけてくる。

「舐めてんじゃね……」

 士に掴みかかろうとした男の首筋に、一瞬で抜かれたソードモードのライドブッカーを突きつける。皮膚が一部分薄く切れ、剣先に血が流れだす前に、男は腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。

「今、ここで選べ。死ぬか、逃げるか」

 悲鳴を漏らしながら、その場にいた士以外の全員が蜘蛛の子を散らすように急いで逃げていった。

 そんなひと悶着があった後、エミリアの下へと歩いていき、肩に手をのせて、

「あんな奴らの言うことは気にするな」

「そうだよ、エミリア。君がそのことで悲しむ必要なんてない。俺たちは、ずっと君を守るから」

「……うん。ありがとう。二人共」

 ざわめく人々を後ろに、二人はエミリアを慰めながらレムの待つ宿へと帰っていった。

 

 

 その頃、海東とユリウスは、広場で捜索についての報告をしていた。

 二人の表情はどこか暗く、何か頭を抱えている。額に手を当て、天を仰ぐようなポーズは、何か問題が発生したのだと一瞬で悟ることができる。

「困ったものだね。まさか、三名の騎士が行方不明になるなんて」

「そして犯人の手がかりはどちらもなし、か」

 近衛騎士団の兵士たちは、ほとんどが訓練を受け、洗練された強さを持っている。下っ端だとしても、成人男性を一度に五人相手にできるほどの力を持っているのだ。

 しかし、今回行方不明になったのはかなり上の位を持つ、それも兵士より一つくらいが上の騎士。それらがテロのような事件と共に消え去った。

「明日は王選開始日だというのに……どうしたものか」

 額に手を当てたまま、苦々しい顔をしてユリウスが口を開く。

 とは言ったものの、今更ここで王選の開始をずらすことはできない。今この瞬間にも、この国に王は存在していないのだから。

「終わったことをいくら考えても仕方がない。王選関係者が集まる場所には、兵士をこれまで以上に置いておかなければ、最悪の事態になりかねない」

 ただでさえ国民には不安げな雰囲気が漂っているというのに、王候補者が殺害されたとなれば、それはルグニカという国の存亡に関わりかねない。

「……ああ、手配は私がしておこう。カイトウ、明日は君も王城に来てくれ。君がいれば、少しは安心できる」

「分かった。僕は捜索を続けている兵士たちを、訓練場へと連れていくよ」

 二人の間には、会話をしている間、終始緊張が走っていた。

 二人とは真逆にそれを楽しそうに見ている傍観者がいるとも知らずに。

「情けねーな騎士サマ共。俺には逃げられて、挙句の果てには騎士をこっち側に付けられるなんて、考えもしないんだからよ」

 黒いローブの男は、昔を懐かしむように、片方の『最優』を見つめながら、

「お前はホント、成長しないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




真骨彫ダキバ、速く出してくれ……

かなーり説明回に時間を割いたため、王選候補者一人ずつの自己紹介はダイジェストみたいな感じでよろしいでしょうか?

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