知っている方も多いかもしれませんが、一人でも多くの知らない方に真実を知ってもらいたいためここに書かせていただきました。
「――ええ、お留守番!?」
朝食の席が終わり、部屋に戻って一息ついたところで、今日の予定を告げられたスバルは驚愕に声を上げさせられていた。
驚くスバルの眼前、室内にいるのはエミリアとレムと士の三人だ。
「当然だろ。流石に王城に俺たち二人が乗り込むわけにはいかない。それにここに来たのはお前の治療が目的でもあるんだぞ」
「えー。でもさぁ……」
「レムだって付いて行かないんだ。黙って聞き入れろ」
いつもの対応でなだめられるスバルは視線をレムの方へと向けて助けを求めるが、それはペコリと可愛らしく、そして申し訳なさそうなお辞儀で丁寧に断られた。
そして数分後に、レムはロズワールとエミリアを笑顔で、スバルは嫌々ながらも手を振って遠くに消えていく二人を見送った。ちなみに士はその後ろでポケットに手を入れ突っ立っていただけである。
「あーあ。俺も行きたかったなー」
広い客室のベッドに横たわってブツブツと文句を垂れ流すスバル。屋敷の物ほど豪華ではないが、日本でこの質と大きさのベッドを買うならば、恐らくスバルの全財産でようやく買えるくらいの値段だろう。
そんなベッドでも多少寝にくいと思っているのは、スバルの脳内が贅沢になれてきているからなのだろう。
日本に帰った時、自分の部屋を物凄く狭いと感じるんだろうななどと考えながら文句を言うスバルに嫌気がさしてきたのか、ベッドの隣に椅子を引いてきて、士がそこに腰を掛け、
「ったく。何でお前はそこまでしてエミリアに執着するんだ。もう少し立場をわきまえろ」
スバルは本当に命知らずなところがある。この世界での身分の上下は、かなり激しいものだと馬鹿でも分かるはずなのだが。いや、分かってもらわないと困る。
それなのにスバルは自分の雇い主であるロズワールにもタメ口を聞き、未来の王女候補であるエミリアを口説こうとする。もはや呆れを通り越して、尊敬までできるレベルだ。
士の呼びかけを待ってましたかのようにスバルがベッドの上で立ち上がり、
「そう!俺とエミリアたんの間には、決して埋めることの出来ない立場の差がある!それを乗り越えて結ばれるという王道的展開!異世界ラブコメのジャンルの内の一つ!だからこそ俺は――」
「ツカサ君、客人です」
スバルの熱弁を急速冷凍してくれたレムに胸の中でお礼を言いながら、水を差されげんなりしているスバルを背にドアの方へと進んでいく。
そしてドアを開けた瞬間、士はそこに立っている人物の笑みを見て急いでそのドアを閉めた。
「全く、この世界に来てからというもの、随分と僕を邪険に扱うじゃないか」
「お前の胡散臭い笑みは、いつだって嫌いだ」
やれやれと言ったようなポーズをとりながら海東は当然のように室内に侵入し、士が座っていた椅子を部屋の中央に置いてそこに王様座りで腰を掛ける。
しかし椅子に座った瞬間、先ほどまでの柔和ともとれる表情とは真逆の険しい顔に一瞬で変化した。
海東がこういった顔をするときは、大抵何か不穏なことがある時と決まっているため、士も気を引き締めて海東が言葉を発するのを待つ。
「今日は少し真面目な話になるんだ。士、一緒に王城の警備に来てくれないか?」
「……何で俺が」
「昨日のあの事件の後、犯人の捜索をしていた騎士三人が行方不明になったんだ」
その一言でこの場の全ての視線が海東に集まり、そして空気がこわばり始める。
「これは王選関係者を狙った犯行と推測できる。つまりはクーデターだね。王候補が殺されたとなれば、当然国は混乱に陥り、パニックになる。恐らくそれが犯人の狙いだ。だから士、君も一緒に来てくれ。君がいれば、少しは安心できる」
「なるほどな、大体分かった。だが素性の知れていない俺をただでさえ警戒を強めているであろう王城にどうやって入れるつもりだ?」
国家の存亡をかけるかもしれない時に、わざわざただの下人を入れるとは考えずらい。海東の言うことが真実ならば、警備だってかなり強固なものになっているだろう。
しかし海東は、その答えを待ってましたと言わんばかりに、
「そこのところは大丈夫さ。前にも話したかもしれないが、僕はこの国ではそこそこ偉くてね。僕の友人と言えば、一発で侵入できるさ」
海東の友人だと城の人々に思われてしまうのは癪だが、エミリアの身に危険が迫っているとなれば、流石に傍観しているわけにはいかない。
「仕方がない……。行くか」
嫌々ながらも二人が椅子から立ち上がり海東と共に部屋から出ようとすると、
「ちょっと待ってくれよ!俺も行く!」
「……スバル。これは遊びじゃないんだ。それはお前も分かるだろ」
スバルが慌てる気持ちも分かる。身寄りも何もない世界に来て自分を受け入れてくれた人が、命の危機にさらされているというのだから。
だが、相手はかなりの力を持っているであろう人物。そんな相手にもし遭遇してしまったら、一番無力なスバルの身が危ないのだ。
「だけどエミリアが危険にさらされてるんなら、見過ごすわけは行かねえ」
「ダメだ。お前はここで留守番してろ」
「でも!」
「今回は村での小さな事件とは訳が違うんだ。お前がいても足手まといなんだよ」
あまり聞かない士の叫び声に一瞬だけ怯えたような表情を見せた後、スバルは俯いて黙り込んでしまった。
そんな状況の中マイペースに部屋の外へ行く海東に続いて、士は部屋を出ていき、青髪のメイドと手のひらに爪を喰い込ませて自分の無力さを悔しがる少年だけが部屋の中には残された。
「……不気味な光景だな」
海東の手引きにより、するりと王城の中に侵入できた士は、周りの人々の海東への対応について不思議そうな顔でそれを見ていた。
道行く人々が海東に礼をし、それに手を少々振って笑顔で答える。
文字通り世界を股に掛ける大泥棒がこのような対応をされるのならば、士は王様レベルで接待されるのではと考えながら、横幅10mほどでレッドカーペットが敷かれている掃除がキツそうな廊下を歩いていた。
「言っただろ?僕はそこそこ偉いって」
「信じたくはないが、そうみたいだな」
煌びやかな装飾が所狭しとされており、そこに佇む召使いなどが俗世とは違う優雅な雰囲気を醸し出すのだろう。普通ならば。
だが士たちの周囲の人々は、どこか殺伐とした空気を纏っており、緊張の糸があちらこちらに張り巡らされているのが肌で感じ取れる。
そして果ての見えない廊下を進んでいると、ある違和感に士は気が付いた。その緊張した空気の原因と言ってもいいかもしれないものに。
「随分と兵士が多いな」
如何にも高貴な身分の人物がいる中で、一人二人三人と何人もの屈強な兵士があちこちに並んでおり、殺気のこもった眼差しで周囲を警戒しているのだ。
「お前はあの中にいなくていいのか?」
「僕の担当は玉座の間だ。この辺りの警備は、一般の兵士が受け持ってるからね。お、丁度見えてきた」
海東の指の先にある両開きの扉は見上げるほどの大きさであり、自然と扉の中の場所の荘厳さを外からでも認識することができる。
その脇には先ほど通ってきた通路にいた人々の数を足しても足りない量の兵士が佇み、士のことを不審な目で見ていた。
「カイトウ、どうした?……そちらの方は……」
「マーコス。僕の連れだ。中に入れてやってはくれないか?」
「……マイクロトフ様のご意見をうかがってからでなければ通すことは……」
「エミリア様直属の関係者なんだ。僕たちよりも立場は上だよ」
「しかし……」
「大丈夫、万が一何かあれば、僕が責任を取る」
まだ士のことを目の前の騎士は怪訝そうな目で見ているが、海東の譲らない姿勢に屈したのか、一つ大きなため息をついて、重そうなドアを開く。
「僕はここで他の騎士たちと一緒に居なければいけない。士だけ中に入りたまえ」
海東に促されるまま、士は扉を無言でくぐり抜けた。
赤い絨毯が無駄に多く敷き詰められている空間。
贅の限りを尽くしたかのような装飾がそこら一帯に施されているが、物は必要最低限しか置かれていない。
そして部屋の中央の一番奥、そこにはささやかな段差と、わずかばかり高さのある位置に備えつけの椅子が設置されている。
その付近に立っている人々。その中に、ひと際目立つ銀髪の髪の色の少女がおり、玉座の間の中心部へと歩いていく士と目が合った。
「ツカサ!?どうしてここに……」
「……成り行き上、と言っておく」
流石にこの場にいる全員が命を狙われている可能性があるなどとは言えるわけがないため、言葉を濁して驚愕した表情のままのエミリアの質問に回答する。
しかしそれ以上に会話は発展せず、少々気まずい空気が流れ始めた時、
「ふぅーむ。どうやら君は運がすこぶるいいようだぁーね」
いつの間にやら士の隣に立っていた道化師の声により沈黙が破られる。この声色には相変わらず多少ストレスがたまるが、空気を変えてくれたことには少々ながらも感謝を払っていた。口にする気はさらさらないが。
「王城の、それも玉座の間に忍び込んで平然と何事もなく立っている人間は、君が初めてじゃないのかぁーな」
「人聞きの悪いことを言うな。俺はただアイツの頼みで……」
「どうして……」
ロズワールに貼られた侵入者と言うレッテルを剥がそうと言葉を考えている士に、エミリアは口の中だけで消えてしまいそうな呟きを作る。
「どうやって、じゃなくて、どうしてツカサがここにいるの……?」
「だから、成り行き上仕方なくだな……」
「誤魔化さないで、ツカサ」
美しい紫紺の瞳からハッキリと読み取れる真剣な意思。それが士の視線とぶつかり合う。
どうせ隠し通しておくことなど不可能という考えがあったからなのだろう。エミリアのその目を見て、こっそり耳打ちで教えようと思ったその時。
後ろのドアが先ほど士が入ってきたときのように勢いよく開き、赤いドレスを身にまとった女性、プリシラとその側近と思われるアル。そして――。
「……スバル?」
「ゴメン、来ちゃった」
「お前、どうやってここに……」
舌を出し、頭に軽く手を当てて全く需要の無いテヘペロを見せるスバルに、先ほどのエミリアのような表情で指を指しながら驚く士。
王城内は海東と一緒に歩いてきたときに見た通り、かなりの数の警備が置かれていた。無知なスバルが密入城などすれば一瞬で発見され処罰されるはずなのだ。
一体どうやって。その士の思考は、スバルの後ろに腕を回し顎を頭にのせる少女によって一時中断された。
「妾の小間使いに何か用か?……おや、貴様は昨日の」
「おい、何でお前がスバルを連れてるんだ」
「そうだそうだ!何で俺がいつから小間使いに……」
「ほう、妾の小間使いでないと。ならば王城内を堂々と歩き回れる貴様の身分は、いったいなんであるというんじゃろうな?」
「っく……そこ言われちまうとな……」
プリシラの脅しの内容を脳内で吟味したところ、恐らくスバルは無理やり城内に侵入した後にプリシラに発見され、なんやかんやでここまで連れてこられたのだと予想。
ため息を一つ吐いてスバルの元へと行き、無理やり腕を引っ張ってエミリアの傍へと引きずり込む。
「こっちの従者が迷惑をかけてすまない。こっちからはキチンと言い聞かせておく」
スバルがこちら側の人間であるという部分の声を大きくしながらプリシラへと言い放つ。それを見プリシラはて少しの微笑を浮かべ、
「まぁ、いいじゃろう。そこな道化と混ざり者のおかげで、それなりに楽しんだ」
「勘弁してくれや、姫さん……」
「あざっす、士。おかげで助かったぜ」
「全く、困った奴だ」
つい十秒前まで一歩間違えれば処刑されてもおかしくなかったというのに、へらへらと笑いを浮かべて減らず口を叩けるメンタルは、スバルが数少ない士を上回っている点だ。
「どうして……スバルもここに……」
「あーえーっと……約束破ったのはワリかった」
スバルの脳細胞がフル回転を始め、イイ感じの言い訳を探している途中、思わぬ所から助け船は飛んできた。
「――皆様方、お揃いになられました。これより、賢人会の方々が入場されます」
スバルとエミリアの会話を引き裂くようにして玉座の間に響いた声に続いて、扉が開かれたくさんの人々が入場してくる。
海東にマーコスと呼ばれていた騎士を筆頭にし、数名の老人たちが入ってくる。
全員が場と身分に則した装いに身を包んでおり、振舞いと物腰からかなり位の高い人物たちなのだろうと察せることができる。
しかしその中でも士とスバルが目を引かれたのは、その団体の中心にいる人物だ。
スバルよりも低い身長ながらも、まるで鋭い刃の切れ味を思わせる眼光の持ち主。その覇気はただの老人が纏えるものではなく、歴戦の猛者と言うことを体全体で表現していた。
「あの方が賢人会の代表――つまり、王不在の現在のルグニカにおいて、最大の発言力を持つ人物。マイクロトフ様ってわーぁけ」
「うぉ!?」
「いつも俺たちの後ろに静かに立つな」
「おやおや?驚かせてしまったかぁーな?」
ピエロメイクの男が気づかないうちに後ろに立って話しかけてくるというのは、恐らく誰も慣れることはないと思う。
「まぁいい。それよりも、アル。何でスバルを連れてきたんだ?」
「それは俺じゃなくて姫さんに聞いてくれや。それよりも、俺らはあっちだぜ、兄弟たち」
「……何で俺がお前の兄弟になってるんだ」
「こまけーこたぁ気にすんな」
後ろでスバルが、前でアルがサムズアップしているのを見る限り、士の知らない所で二人に何かあったに違いない。
その顔をこづきたくなったが、それを堪えてアルの背後をつけていく。と、いつの間にやら王座の間の壁際に騎士が整列を始めており、揃いの甲冑を着込む彼らとは異彩な雰囲気を放つ四名もそちらに姿を見せていた。
「……何で俺たちも向こう側なんだ?」
「彼の言う通り細かいことは気にしないで、行ってきたらどぉーだい?」
「ちょ、ちょっとロズワール。それは……」
「残念ながら、今はエミリア様の正論に従っている時間はありません。当然ながら、口論をしている時間も。他の候補の方々が集まられています。そちらの方に」
ぴしゃりとしたロズワールの冷たい言葉に渋々応じ、指を指している方向へと歩いていく。
が、その途中でこちらを振り返り、
「絶対、あとでちゃんと話するからね」
とスバルに念押しするかのように告げ、ロズワールに指定された場所に佇んでいる三人の少女の下へ駆けていく。
それを見送ると、ロズワールはアルとは反対の方向に歩いていき、見るからに文官といった風情の優男数名の陣営に加わり、二人はアルについて行く。
するとそこには――。
「やぁ、ツカサ」
「お前は……」
つい五分前に士と別れたばかりの海東の姿と、その隣に佇んでいる見覚えのある赤髪の青年がいた。
「ラインハルトだったか?」
「覚えてもらえてて光栄だよ」
「何だ、士と知り合いだったのかい?」
「ああ、この前王都でエミリア様と一緒に出会ったんだ。あの時は僕が来るまでエミリア様を守り通してくれてありがとう」
片手をあげ、士に定型のような礼をするラインハルト。だが、そういう堅苦しい挨拶を士はあまり好まない。
「おーう、ラインハルト!で、合ってるか?」
だが、どこかのバカのように軽すぎるノリなのも士は嫌いだ。
「一応会った事あっけど……。俺の名前はナツキ・スバル!よろしくな」
突然現れ突然大声で自己紹介をし突然手を差し出され握手を強要するのは、正直言って常識の無い者がする行動だ。そんなことすでに分かり切ってはいるが。
士との話に割って入ってくるスバルを、少しだけ考えるような目で見つめた後、ラインハルトは何か納得したようにうなずき、
「元気そうで何よりだ。なんせ随分と、酷い容態だったからね」
「あんときはマジで死んだかと思ったぜ。そっちこそ、士を助けてくれてサンキューな」
「礼には及ばないさ。僕はあの場で僕がとれる最善の行動をとっただけだよ。君の方こそ、素晴らしい行動力だった。あの状況で飛び出せる人間なんて稀有なものさ」
「ヤベェ、ほとんど初対面と変わらないってのに一瞬でパーフェクトイケメンってのが分かっちまう……」
圧倒的な爽やかさを見せつけられ愕然としているスバルを微笑を浮かべながら迎えるラインハルト。二人の差は第三者の視点から見ても圧倒的だろう。
そんな抗いようのない差を見せつけられた直後、海東にマーコスと呼ばれていた男がこの場一面に広がる声を上げた。
「――賢人会の皆様。候補者の皆様方、揃いましてございます。僭越ながら近衛騎士団長の自分が、議事の進行を務めさせていただきます」
切り悪くて申し訳ない……。短くて申し訳ない……。
投稿遅れて申し訳ございません……
あ、今回のアンケートで今後どうするか決めるので、どうか質問ください
今度は10日後くらいに出します……。
かなーり説明回に時間を割いたため、王選候補者一人ずつの自己紹介はダイジェストみたいな感じでよろしいでしょうか?
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YES
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NO