Re:ゼロから始める世界の破壊者   作:muryoku

46 / 47
ほとんど原作通りの説明回となります


第五話 一触即発

「此度の招集は次代の王の選出――王選に関わる方々への重大な通達があってのことです。王城までご足労いただき、賢人会の皆様にもお集まりいただいたのはそのため。事の起こりは約半年前――先王を始めとした、王族の方々が次々とお隠れになったことに起因しております。王不在の事態は王国としてなによりの窮地、特に親竜王国ルグニカにとっては、『盟約』と深く関わることになります」

 

 盟約。それが何なのかスバルと士は理解できないが、王国がドラゴンと交わしたとされるなんらかの約束事のこととは分かる。屋敷で何度か耳にしたからだ。

 とは言っても、二人が知っているのは、その僅かな上澄みの部分だけであり、王選の内容に関しても無知と言っても同様。

 故に、この国の人間ならば欠伸をかくような聞き飽きた話でも、二人にとってはありがたい講義なのである。

 

「つっても、よく分かんねえままだけどな」

 

 中央に立つマーコスの講義を妨害しないように小さな声で呟くスバルに、士は手をひらひらとさせ、

 

「こういう長い話は大体分かっとけばいいんだ。大事な部分以外は聞き流せ」

 

 もはや士の口癖となっている、【大体分かった】の定義をかなりかいつまんで説明していると、二人が気が付かない内に話は進んでいたのか、マーコスが歩き始め候補者の前に立ち、一礼。

 

「皆様、竜殊の提示を――」

 

 呼びかけに呼応して、少女たちがそれぞれ自らの徽章を前に掲げる。

 いずれの徽章も手の中で眩い輝きを放ち、王の間を照らし始めていた。

 

「こうして、候補者の皆様にはいずれも竜の巫女としての資格がございます。それらを見届けました上で、我々は竜歴石に従い――」

 

「あんな?」

 

 厳かに議事を進行するマーコスの声を切り裂くかのように、おっとりとした声が響く。

 振り返るマーコスに声をかけたのは、竜殊を青の光に瞬かせる少女――紫髪に白いドレスの人物だ。

 彼女は竜殊を掲げたままではんなりと小首を傾け、

 

「団長さんがぴしーっとお話進めたいんはわかるんやけど、ウチも忙しいんよ。カララギでは『時間は金銭に等しい』って言うてな?わかりきった話を繰り返すくらいなら、ウチらが集められたお話の核心が聞きたいなーってのが本音かな」

 

 独特のイントネーションで言葉を紡ぎ、最後に笑顔で要求を締めくくる。

 それに対して一番の驚きを見せていたのはマーコスではなく、士とスバルである。

 

「関西弁……?嘘だろ?」

 

「お、兄弟もそう思うか。カララギってとこだとあれで通ってるらしいぜ」

 

「……この世界の言語の基準は何なんだ?」

 

 ぼそりと呟くスバルに、隣のアルと士が同じく小声で同様の感想を口にする。

 

「わ、私はちゃんと話を聞くべきだと思うけど……」

 

 一方、士たちとは別の意味で衝撃を受け動揺している王座の間に、慌てふためくような声が広がる。しかし、

 

「悪いけど、ウチはアンタ様の意見は聞いてない」

 

 王座の間をこんな空気にした張本人によって、その提案は拒まれた。その切り捨てるような物言いに、悲しみの感情が浮かぶ横顔を見かね、

 

「んだと、このやろむぐ」

 

 スバルの怒号が喉元まで出かかった所で、士がその口を塞ぎ中断させる。

 

「命知らずにも程があるだろ。もう少しおとなしくしろ」

 

「で、でもよぉ!」

 

 辺りに聞こえないようにひそひそと呟きながら言い争いを始める二人。それを周りの騎士たちはジッと見つめ、それを見かねたのか、アルが突如、

 

「うははーい!オレ、王選がどうとか知らないから先が聞きたかったりすっかなー!!」

 

 彼は先ほどまで二人に集まっていた人々の意識の向きも変えさせ、広間中の視線を一身に浴びながら、隻腕で己の漆黒の兜の金具をいじってリズミカルに金属音を立てる。

 

「プリシラ様。彼はあなたの騎士とうかがいましたが……説明は?」

 

「妾がせずとも長話好きの貴様らが勝手にするじゃろ? 妾は妾の無駄を省いたにすぎん。繰り言など寝言と変わらん。寝言など、寝ててもするな。妾が凡俗を意に従えるのは天意である。喜び、掌で踊るがよいぞ。続けよ、マーコス。妾の騎士に、妾が如何にして王となるのか教えてやれ」

 

「……他人に丸投げするんをそこまで言えたら立派なもんや。なら、ウチももうなんも言わん」

 

 アルのナイスなアドリブと相変わらずのプリシラの性格により、何とか広間の空気が回復しだす。

 

「了解しました。では少し脱線しましたが、話を戻しましょう。――竜の巫女の資格を持つ皆様がこうして集められたのは、竜歴石に新たに刻まれた預言によるものです。石板に刻まれた預言はこうありました。『ルグニカの盟約途切れし時、新たな竜の担い手が盟約の維持と国を導く』。そして預言にはこう続きがあります。『新たな国の導き手になり得る五人、その内よりひとりの巫女を選び、竜との盟約に臨むべし』と」

 

「……ん?五人?一人足りなくね?」

 

「そう、五人だ」

 

「ぬ!?」

 

 スバルの疑問にいつの間にやら後ろに立っていたラインハルトが頷きで応じる。全く気配を感じなかったのは、彼の凄さなのか。はたまた、スバルが弱いのか。

 

「つまり、四人しか候補者がいなかった現状――王選はまだ、始まってすらいなかったということさ。そこは五人目の候補者を見つけられずにいた、近衛騎士団の不甲斐なさを責めてもらうしかないんだけど」

 

「お、おう。でも結局のところ、何千人で一つの国中を探して五人見つけろって、相当厳しいだろ?」

 

 実際、通信手段が確立されて、国民調査がいっぺんに行える環境が整っているとかな日本などでないと、かなり難しい条件であると思う。日本でですら、そういった条件をくぐって例外となり得る存在はいくらでもあるだろうと予想できるのだ。

 そんなスバルの考察を無視して、状況は流れていく。

 

「――騎士ラインハルト・ヴァン・アストレア! ここに」

 

「はっ!」

 

 先ほどの厳粛とした雰囲気とは違い、大声でスバルの後ろの人物を呼ぶマーコスに、ラインハルトも負けず劣らずの声で応答する。

 ビクッと震えるスバルの隣を過ぎ去って、滑るような身のこなしで中央に進み出ると候補者の四人に一礼を捧げ、それから騎士団長のマーコスの前へ。

 

「では、ラインハルト、報告を」

 

「はっ。竜の巫女、王の候補者――最後の五人目、見つかりましてございます」

 

 ラインハルトの放った言葉に、広間中にざわざわと声が広がり始める。最初は微々たるものだったが、それは次第に拡大していき、とどよめきが立ち並ぶ。

 

「お連れしてくれ」

 

 騎士たちのどよめきに比べれば圧倒的に小さな声であったが、それは広間のざわめきを飛び越えて大扉まで楽々届く。その声を受けた門前の衛兵が敬礼し、それから扉がゆっくりと開かれる。

 

 そして、そこから現れたのは――。

 

「その名を、フェルト様と言います」

 

 盗品蔵で出会った少女が、真っ黄色のドレスを着て中へと入ってくるのを、士とスバルは驚きの眼差しで見つめていた。

 

「フェルト様、ご足労いただきありがとうございます」

 

「――ラインハルト」

 

 恭しく一礼するラインハルト。その彼に、身長差があるために下から見上げる形になるフェルトが顎を持ち上げて呼びかける。

 

 涼やかな声音に呼ばれ、ラインハルトが「はい」とこちらも通る声で応じる。フェルトはそんな彼の態度にそっと微笑んだ。

 

「――てめー、またアタシの服隠しちまいやがっただろ!?」

 

 奇麗なドレスとは真逆の汚い言葉を吐き、ドレスの裾を持ってラインハルトへと蹴りを入れる。

 弧を描き、ラインハルトの顎にぶつかるかと思われたそれはいつの間にやらラインハルトの掌の中にすっぽりと収まっている。

 

「驚きましたよ。突然、なにをなさるんですか」

 

「さらっと止めといてしれっと言ってんじゃねーよ! アタシの服! 隠したのまたアンタだろ? おかげでこんなうっとうしいひらひらした服着せられたじゃねーか!」

 

「恥ずかしがってんじゃねーよ、嫌いだっつってんだよ! 服だけの話じゃねーぞ、お前もだ! 騎士様が拉致監禁とかそれこそ恥ずかしいと思わねーのかよ!」

 

「それが王国繁栄のためならば」

 

 先ほどまでの厳粛な雰囲気とはかけ離れたやり取りを中央でする二人に、周りの人間たちの視線が集まる。

 それをこの事を起こした張本人は強い目つきで睨め付け、

 

「なんだよ、じろじろ見てんじゃねーよ。見世物じゃねーし、見世物だと思うんならお捻りのひとつでも投げるもんだろ、金持ち揃いみてーだし」

 

 一目で上流階級とわかる人々に敵意を浮かべ、それこそこの場でもかなり上等に位置するだろうドレスに袖を通しながら、いかにも柄の悪い態度でフェルトがぼやく。

 

 周囲の人間をきつい視線で見渡していると、フェルトの視線が士とスバルと絡んだ。

 

 彼女はふいに眉を寄せ、それから記憶を探るように瞑目し、ほんの数秒でその記憶を探り当てたように顔を明るくすると、

 

「お! なんでこんなとこにいんだよ、兄ちゃん!」

 

 軽い突き放しでラインハルトの胸を押すと、彼女はそのままの勢いでのしのしとスバルの方へ向かってくる。高級そうなドレスが悲しくなるほど乱暴に扱われ、丁寧にそのコーディネートをしただろう侍女たちが顔を押さえて目を背けている。

 

「よぉ、久しぶりだな。元気してらんだばっ!」

 

「おっと」

 

 突如として放たれた正拳突きは、スバルの腹にはクリーンヒット。士はそれを先ほどのラインハルトのように軽々と受け止める。

 いきなりの凶行に意味がわからないで呻くスバル。しかし、士はフェルトの攻撃の意味を理解したのか、フェルトの耳に顔を近づけ、

 

「おい、口封じにしてはもっと違うやり方があったろ」

 

「……やっぱ兄ちゃんは勘イイな」

 

「……おい、どういう意味だよ……。俺さっぱりなんだけど……」

 

「こいつがもし本当に王候補なら、エミリアの徽章を盗んだこととかが響いてくるだろ。そしてその事情を知ってる俺たちは……」

 

「あー……そういう事ね」

 

 士に耳打ちで全ての事情を説明され、腹を抑えながら相槌を打つ。

 今のフェルトの立場からすれば、二人は邪魔者でしかない。にしても、この大勢の人の面前で大胆な口封じをしてくるとは、考えてもいなかったが。

 

「安心しろ、あの事は誰に言わないでおいてやる。お前のおかげで、就職先が見つかったようなもんだからな」

 

 その就職先で大変な目にあったのは、ジャージの隙間から見えるスバルの無数の傷跡でフェルトも理解してくれていると思う。恐らく。

 

「フェルト様。旧交を温められるのもよろしいですが、こちらへお願いします」

 

 実際には犯罪の揉み消しが行われていたのだが、傍目には和気藹々に見えたのかもしれないやり取りをする二人に割り込んだのは、その場の空気に依然呑まれず、淡々と議事を進行するマーコスだ。

 

 その巌の表情にフェルトはまだ何か言いたげな様子だが、彼のすぐ側に立つラインハルトが申し訳なさそうに腰を折ると、怪訝そうな顔で再び前へ。

 

「いちち……ひでぇ目にあったぜ……」

 

「お前は相変わらず殴られるのが好きなんだな」

 

「好きで殴られてるわけねえだろうが!」

 

「だったら少しくらい反応速度をよくしろ。素人の攻撃すら受け止められなかったら終わりだぞ」

 

「その素人よりも弱い奴にそのレベルを求めないでくれよ!」

 

「貧民街の浮浪児だと……正気か、騎士ラインハルト!?」

 

 二人がいつも通りの言い合いをしていると、突如先ほどまで静かだった王の間に広がる叫び声に驚き、二人の話が中断される。

 

 その声の主は先ほどから文官集団の後押しを得て、いくらか息巻き始めている中年の声だ。

 

 彼は身振り手振りを加えた動きで大仰にフェルトを示し、

 

「未来のルグニカを担う王を選出するこの儀に、よりにもよって浮浪児を招き入れるなど言語道断だ。君は玉座をなんと心得ている!?」

 

「――――」

 

「都合が悪ければだんまりか。これが現剣聖の継承者とは、アストレア家の名誉も地に墜ちたものと判断せざるを得んな」

 

 壇上に敬礼を捧げたまま、ラインハルトは言われるままの言葉を受け止めている。その涼しげな横顔には負の感情の一切が見られず、言い募る中年の方も柳に風といった様子に口をつぐみ、苛立たしげに舌を打つ。

 

「何だアイツ……自分勝手な事ばっか言いやがって」

 

「ああ、同感だ」

 

「リッケルト殿、ちょこーぉっと熱くなりすぎじゃーぁないですかね?

 

「戯言を……ロズワール。卿の態度にも納得していないぞ。私だけでなく、宮中の多くのものがだ。これまでは非常時故に仕方なしと見過ごしてきたが、こうして例外ばかりが目につくようではお話にならん。浮浪児を玉座に担ぎ上げようとするアストレア家はもちろん、半魔を王に推挙する卿の愚挙も……」

 

「――リッケルト殿」

 

 半魔という言葉を口にした瞬間に、凍える声が広間に静かに響き興奮に赤くなっていたリッケルトの顔色が蒼白に変わる。

 

「ハーフエルフを半魔などと呼ぶのは悪しき風習ですよ。ましてやエミリア様は依然王候補――分を弁えていらっしゃらないのがどちらなのか、おわかりですか?」

 

 先ほどの道化師とは全く違う声色に、そのまま押し黙ってしまうリッケルトと呼ばれた中年は、ロズワールに言い返すようなことはせず、マイクロトフの名を呼び、

 

「どうぞご再考を。この場において、王候補をみだりに選出するのは早計と言わざるを得ません。竜歴石を形だけなぞることにどれほどの意味が……」

 

「――騎士ラインハルト」

 

 リッケルトの言葉を無視し、マイクロトフは前で跪いている赤髪の騎士に問いかける。

 

「まさか御身は、彼女がそうであると?」

 

「確信はありません。確かめる手段はすでに失われております。――ですが、これだけの符号を偶然と呼ぶのには抵抗があります」

 

「ならばなんと?」

 

「――運命である、と」

 

 一片の迷いも見せず言い切るラインハルトに、何か感じるものがあったのか白髪の老人は静かに瞳を閉じる。

 

 その二人のやり取りの内容が、傍で聞いているスバルにはさっぱりわからない。周りはわかっているのかと顔色をうかがうが、顔色の見えないアルはもちろん、フェリスやユリウスも同様の状態のようだ。

 

 そんな二人に痺れを切らしたのか、リッケルトが声を荒げ、

 

「意味のわからない言葉遊びだ! 騎士ラインハルト、貴殿は正しい騎士としての道すら見失ったか。浮浪児を連れてくるような曇り眼にはそれも似合い……」

 

「身分という上辺だけで判断し、大切なことを見落とすようでは御身の目は節穴ですな」

 

 今までのリッケルトの熱弁を全て消し去るマイクロトフの言葉に、こわばった顔のままリッケルトが尋ねる。

 

「こ、これはおかしなことを。マイクロトフ様もお人が悪い。私の目のどこが濁っていると」

 

「ふぅむ。でしたら、フェルト様を見ていてお気付きになりませんかな」

 

「見ていて気付くことなど……まだまだ幼い。王座に就くことなどより、もっと学ばなければならないことが多すぎて……き、金髪の髪に深紅の双眸!?」

 

 リッケルトが動揺の原因を口にすると、その意を察した文官たちにも同じだけの衝撃が広がっていく。ピンとこないのはこの世界の常識に欠けている二人のみ。

 

「そんなにそれが重要なのか?」

 

「俺に聞くなよ兄弟。結構長く住んでるけど俺あんまりこの世界の事情にゃ詳しくねえんだ」

 

 士に聞いても分からないことは明白の為、この世界に長く住んでいるアルに尋ねてみるが返ってきた答えは大差ないものだった。

 

「まさか騎士ラインハルト、貴殿が言いたいのは……」

 

「十四年前に城内に賊が侵入し、先代の王弟――フォルド様のご息女が誘拐される事件がありました。そのまま賊には逃亡を許し、ご息女の行方もわからないままに」

 

「ふぅむ。前近衛騎士団の解体と、再生の切っ掛けとなった一件でしたな。確か御身の親族も無関係ではなかったと思いましたが……」

 

「本来は知り得ないはずの情報を知っている。それで察していただければ」

 

 ラインハルトの言葉少なな応答に、マイクロトフはただ頷きを持って応じる。

 が、リッケルトの方の混乱は収まる素振りが見えない。彼は手を振り乱し、

 

「馬鹿馬鹿しい暴論だ!巫女の資格を持つ少女を見つけ出した貴殿が、その少女の髪を染色し、瞳の色を魔法で変えたとでもした方がよほど無理がない。――そんな命知らずな真似、してはいないだろうが」

 

「剣にかけて」

 

 ラインハルトは床に置いていた剣を立て、鞘からほんのわずかに刀身を覗かせ、音を立てて納刀。誓いを立てる。

 

 そんな整然としたありようにリッケルトは何か諦めたかのようにため息をつき、フェルトのほうを向く。

 

「竜の巫女としての資格を持つことは別として、貧民街の出身。――そして、あるいは失われたはずの王族の血統の可能性。貴女がさらされる苦難の重さは想像を絶する。その覚悟が、おありか」

 

「は?知らねえよ。アタシは王様やるなんて一言も言ってねーよ、勝手に決めんな」

 

 リッケルトが諦める形で終わりかけていた論争は、今までの流れを全て無視するフェルトの一言で継続が決定した。

 そのあんまりな物言いにリッケルトは少しだけ口を開けて間抜けな顔をさらし、ラインハルトは困ったように額に手を当て、

 

「フェルト様はまだそのようなことを」

 

「アタシからすりゃー、アンタの諦めの悪さの方が説明つかねーよ。いいか? アタシは嫌だ、つってんだ!」

 

「――いつまでもうだうだと、つまらんことこの上ない話じゃな」

 

 主張を曲げずに言い合う二人の言い争いに水を差すように響く少女の声。これまで沈黙を守り続けていた王候補陣営、その中で腕を組んで退屈そうに目を細めるプリシラだ。

 

「形だけでも開幕に必要な五人は揃った。あとは始まりさえすれば、相応しくないものは自然と省かれるじゃろう。どうせ最後に残るのは妾なのじゃ。他の余分な連中の王の資質など、あろうがなかろうが関係あるまい」

 

「ああ?」

 

 プリシラの暴言めいた暴論に、ヒートアップしたままだったフェルトが反応する。彼女は小さな体をさらに縮め、真下からプリシラを見上げるチンピラスタイルで、

 

「さっきっからおめでたい格好した女だと思ってたけど、そんな動きづらい服でケンカ売ってんのかよ。アタシはすぐ足が出るんで有名だぞ」

 

「頭が高い。妾を誰と心得る」

 

「はっ、知るわけね……ッ」

 

 かなり三下臭い脅しをかけたフェルトに、プリシラが傲然と声を投げる。それを鼻で笑い飛ばそうとし、ふいにフェルトの表情が当惑と驚きで曇った。

 

 フェルトは金色の髪に手を差し込み、「あれ」と小さく呟きながら、まるで目眩を起こしたかのようにその場で身を揺らし、

 

「姉さん、そいつは――」

 

 アルの叫びにより、そのフェルトの異変が隣の少女による物と皆が気づき、どよめき始める。

 

 風を体現したかのような素早さでフェルトを支えるラインハルトにより倒れかける小さな体がそっと支えられる。

 

 そしてラインハルトと同じとまではいわないが、いつの間にやらスバルと士の間から飛び出したアルがプリシラとラインハルトの間に立ち、クルシュは軽く身を屈め、なにも下がっていない腰に手を当てて、まるで見えない剣を抜こうとでもするかのような抜刀の姿勢。

 ひとり、候補者の集まりから「堪忍してやー」と頭を抱えて距離を取っているのがアナスタシアであり、それを見るに彼女には戦闘力がないらしい。

 

 そして、スバルと士が仕える銀髪の少女は、

 

「陽魔法の過干渉――こんな使い方して、なに考えてるの!?」

 

 淡い輝きがふらついたフェルトを包み込み、その体に癒しの波動を伝える。

 

「妾の生まれながらに持つ加護を少しばかり分け与えただけじゃ。その程度でその反応とあれば、自然とそのものの器も知れよう」

 

「悪いことをしたら謝るものでしょう? 叱られてみないとわからないの?」

 

 全くブレないプリシラの答えに、エミリアが普段の調子を取り戻しながら言い募る。その内容に一瞬、プリシラはきょとんとした顔をし、すぐに笑いを堪え切れないといった様子で破顔。そのまま笑いを得た表情で、

 

「ああ、これは面白い。今のは久々に楽しめたぞ、褒めてやってもよい」

 

「イチイチ不愉快な子ね。なにを……」

 

「悪いことをしたら謝る、とな。ならばさながら、貴様の場合は『生まれてきてごめんなさい』とでも謝罪してみせるか? 銀色のハーフエルフよ」

 

 エミリアの受けた衝撃が、遠くでこの状況を見守っている二人にも伝染する。

 

「わ、私は……魔女と関係なんて」

 

「そんな言い訳が誰になんの意味を持つ、意味がある? 貴様は世界の禁忌の存在の映し身で、人々はその姿を目にするだけで恐ろしくてたまらない。だからこそ、そんな上辺を取り繕うだけの布切れに頼り切っておるんじゃろ――」

 

「その辺にしといてもらおうか」

 

「お、おい!士!」

 

 アルに続いて騎士たちが集まっている場所から聞こえてくる声に、エミリアに向けられていた視線が士の方に集中する。

 

「随分とあんまりな言い分じゃないか。そんなに自分が偉いのか?」

 

「なんじゃ、この前の男ではないか。当たり前じゃろ、世界は妾を中心に回って――」

 

「二人共同じ王の候補者だろ。お前とエミリアに立場の違いはないはずだ」

 

 一度ならず二度までも自分の話を妨害されたプリシラは、明らかに不機嫌な顔をして、士に近づいていく。

 

「姫さん、やりすぎ。あんまし敵増やされても困んだよ、マジ」

 

 しかしそれは、自分の主の行動に流石に危機感を覚えたのか、プリシラの隣に立っていたアルによって抑えられた。

 

「特に剣聖と対立とか特大の厄ネタもいいとこだ。素直に謝っとこうぜ?」

 

「妾の従者ともあろうものが情けないことを抜かすでない。剣聖がどうした。たかだかこの国で最強というだけじゃろうが、どうにかせい」

 

「良くて一分。悪くて五秒でお陀仏だよ」

 

 彼我の戦力差を冷静に見極め、アルは早々に白旗を掲げて無抵抗を表明。プリシラはその態度に呆れた様子。

 

 アルと向かい合うラインハルトとフェルトの二人は驚きと困惑を隠し切れない顔だ。

 

 そして何とか、一触即発の状況はひとまず回避することができた。

 

 仕切り直すにも切っ掛けのほしい場面ではあるが、すぐに事態が悪い方向へ転がり落ちることもあるまい。

 

 誰もがこの膠着状況をどうにかすべし、と頭を回転させる中――その甲高い音は、小さい音にも関わらず広間中の人々の鼓膜を確かに叩いた。

 

「――全員、お気は済みましたかな」

 

 

 弾いたコインを陶器の中に落とし、全員の注意を引いたのは白髪の老体――マイクロトフだった。

 

 椅子から立たずにそれをした彼は全員を見回し、それからエミリアの治療を受けて頭を振るフェルトに視線を合わせると、

 

「フェルト様、お体の方はご無事ですかな」

 

「……どーにかな。クソ、ナイフ取り上げられてなかったらひでーかんな」

 

 マイクロトフの気遣いに応じ、フェルトは態度悪いまま悪態をプリシラへ向ける。ラインハルトがエミリアへと礼をし、クルシュが戦闘態勢をほどき、士がスバルがいる位置まで戻ると、ようやくアルも隻腕の肩を回して安堵の様子。

 

 事の発端であるプリシラだけが変わらず退屈そうな眼で、反省の色が一片も見当たらないのが腑に落ちないが、ひとまずの一悶着は終結。

 

 それを見届けて、マイクロトフが改めて宣言する。

 

「では本来の議題――王選のことについて、候補者の皆様を交えて、賢人会の開催をここに提言いたします」

 




評価0が結構こらえる……。

かなーり説明回に時間を割いたため、王選候補者一人ずつの自己紹介はダイジェストみたいな感じでよろしいでしょうか?

  • YES
  • NO
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。