逃げた。私は逃げた。何も見ないように全力で。血だらけのロム爺から目をそらすように逃げた。
そして今頃はあいつらは――――
「なにを考えてんだ、アタシは。逃げれてラッキーじゃねーか。そーだろ?」
あの場にいれば、自分が命を落としていたことは明白だ。
ロム爺すら一撃で倒した女を相手に、私がいる理由なんぞないだろう。それは銀髪のハーフエルフも同じことで、精霊の援護をなくした彼女が太刀打ちできる相手であるはずもない。
スバルなど、もっとわかりやすくダメダメだ。
手指が綺麗で武器なんて握った試しもなさそうな上に、綺麗な黒髪と肌は傷付いた経験もないのだろう。
つまり自分とは真逆の世界で生きてきたのだ。本来そういう奴らはフェルトが最も忌み嫌う人間だった。
なのにどうして、
「――誰か、誰かいねーのかよ!」
私は叫んでいるのだろう。
おかしな感情だった。意味がわからなくて、フェルトは涙目になりそうな自分の瞼を必死で擦る。
ロム爺ならいざ知らず、あんな出会ったばかりの少年が死んだところで何が悪い。育ちのよさそうな格好で、バカみたいな発言が多くて、考えなしもいいところだ。
しかし、少年の行動に、何かを感じてしまった自分がいるのだ。それがあるから、それが熱を求めてやまないから、叫び出したい激情を抱えたままフェルトは走った。
そして通りをいくつも抜けた先で、
「――お願い、助けて」
「わかった。助けるよ」
赤い炎のような青年と出会い、運命を揺るがした。
「か、かめんらいだー?」
「何だ?この世界にはいないのか?」
「え、ええ。初めて聞いたわ」
「ここはライダーが居ない世界、か。まぁ、そんなことは置いといて……行くぞ」
「……ええ。少し拍子抜けしちゃったけどね。行くわよ!!」
刹那、士の姿が床を蹴ると同時に踏み込んだ場所が砕けその速度に乗せた蹴りは、エルザを後ろへと勢いよく飛ばした。
爆風の余波がスバルにまで襲いかかり、風にあおられてスバルは絶句する。
なんの変哲もない前蹴りに見えたものが、その威力の余波だけで家屋を揺るがす風を生んだのだ。直撃を受けたエルザの体は木の葉のように飛び、壁を足場に勢いを殺し、転がるように地面に降り立った彼女の顔にも驚愕が張り付いている。
「噂通り……いえ、噂以上の存在なのね、あなたは」
「……そりゃどうゆう意味だ」
「あら、とぼける気なの?何年も前にあれほどの災厄をこの地に振りまいたくせに!」
訳の分からないことを言いながら壁を蹴り士へと急接近。士の持つ武器と殺人鬼のナイフがぶつかり合う。火花が走り、乾いた音が辺り一帯に響く。それほどの力を持って二人は戦っている。
するといきなりバネ仕掛けの人形のように、殺人鬼の体が大きく跳躍。天井を足場にするように逆さまになり、膝を伸ばす再跳躍で士目掛けて飛びかかることを繰り返す。が、その姿が全くもって見えないのだ。それほどの超スピードで動いているというのに、士は斬撃を全て完璧に防いでいた。
「どうした?それでお終いか!」
二つの凶器がぶつかり、殺人鬼の足が地面に着地した瞬間、殺人鬼の手を取り自身の体へと引き寄せ、強烈な腹蹴りを入れる。
「クッ……まだまだよ!」
攻撃をもろにくらい、少しばかりフラフラとしていたがそんなこともつかの間。懐からさらにもう一本ナイフを取り出し、一本を士へ投擲。
当然そのようなこけおどし、変身した士には通用しない。
「当然、生じた隙には乗じさせてもらうわ!」
ナイフを弾くことによってできるであろう一瞬の隙。それをヤツが逃すはずはない。つまりそれを弾けば士は、もう一方のナイフによる二発目の攻撃を迎え撃たなくてはならなくなる。
「その程度か……。ガッカリだ」
しかし士はそれを見越していたのか、既にドライバーへと新たなカードを差し込んでいた。
(ATTACK RIDE BLAST)
数十個ほどのライドブッカーの幻影のようなものが形成され、それらと本体から一斉に弾丸が放たれる。
最初に放たれた弾はこちらへ一直線に向かってくるナイフを力なく地面へと落とし、二発目は殺人鬼に当たる前に斬られて消えてしまったが、ナイフを一回振るってしまったヤツは、三発目以降を体で受け止めることしかできなかった。
「グハッ……」
衝撃でエルザが吹き飛び、木でできた壁に盛大にめり込む。
その結果、盗品蔵はその半分ほどが壊滅したのである。
「「す、凄い……」」
スバルとサテラが口をそろえて感嘆詞を漏らす。
だが、そんなモノを喰らってまで瓦礫の中からエルザが半死半生の状態ではあるが、飛び出してくる。
「まだ生きてたのか。すごいな」
「やるわね……流石、世界の破壊者ディケイド」
「……何故俺の名前を知っている?」
「ええ、疑問に思うのも無理はないわね。何故私が(国が絶対にタブーとしたディケイドの存在)を知っているのか。不思議でたまらないでしょうね」
「国がタブーとした存在……?」
その言葉を聞き、マスク越しで見えてはいないが、恐らく困惑している表情を浮かべる士。
その間を殺人鬼は見逃さなかった。
何かにとりつかれたように一目散に突進してくる殺人鬼。
ワンパターンな行動だ。その攻撃は既に士にはお見通し。完璧に攻撃を防ぎ、カウンターをして勝負を決める。
が、今回の狙いは士ではなかった。
「なっ……!?」
そう、銀色に輝く閃光が一直線に向かうのは、サテラ。
「しまった……!」
士がその言葉を放った瞬間殺人鬼の顔がニヤリと勝ちを確信したように醜く歪んだ。
どうする……!?
彼女が死んでしまったらここまでの過程が全て水の泡となってしまう。しかしこの距離ではサテラを守る行動をしたとしても、それが意味を成すことはない。
そのことを士が思う前か、後かは誰にも分からないだろう。
言うなればそれは、本能だった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!唸りやがれ俺の中の何かァァァァァ!!」
手に持っていた棍棒を腹の前に突き出し、サテラと殺人鬼の間にスバルが割って入る。
スバルの行動は結果としては成功に終わった。
だが突進の勢いは完全に消えることなく殺人鬼がナイフを振るった方向に体が吹き飛び壁に激突した。
「かっはぁ……」
「こ……このガキぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「そこまでだ」
後方で暴れていた殺人鬼の肩をガシっと掴み、スバルと同じ速度で反対側の壁の方へとその体を投げる。
「ぐ……。このぉぉぉぉぉ!!」
「悪いがあいつらを殺されちゃ迷惑なんでな。いろいろ聞きたいことはあるんだが……とっとと終わらせる」
またもやライドブッカーからカードを出す。しかしそのカードは他の物と色が違い、描かれている絵はディケイドのマークだった。
(FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE!!)
「な、なぁにこれ?」
エルザの前から、士まで黄色いカードの円が一直線に伸びる。
「ハァァァァァァァァァァァ……」
気合を入れるような声と共に士がジャンプし、それに合わせて黄色いカードも士と同じ高さに行く。
「トリャァァァァァァァ!!」
頂点に達した瞬間に強烈なキックを放つ。
「っく……そんなものぉぉぉぉぉぉぉ!!」
体の前にナイフを突き出し先ほどのスバルと同じようにその攻撃、(ディメンションキック)をガードする。
しかし、
「グッ……ギャァァァァァァァァァァァ!!」
ディメンションキックのあまりの威力に、ただの鉄の塊が耐えきれるはずもなく。
そのナイフをいとも容易く粉々に砕き、蹴りはエルザへと直撃した。
かなーり説明回に時間を割いたため、王選候補者一人ずつの自己紹介はダイジェストみたいな感じでよろしいでしょうか?
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