「で?このバカどうする?」
血を噴き出し地面に気を失ったまま倒れているスバルに対して相変わらず辛辣な言葉を投げかける士。
「とりあえずの応急処置はしたけど傷が深すぎるわ。屋敷に行けば治療ができるんだけど……」
「じゃあさっさと行くとするか。そこに」
そういって手を右に突き出すと、灰色の壁のようなもの(オーロラカーテン)が開かれた。
その中からこちらを覗く二つの黄色い光が迫ってきて、その正体を現す。
士が保有しているバイク(マシンディケイダ―)だ。
「え?何これ?いきなり出てきたけど……」
「バイクって言って素早く移動ができる乗り物だ。そのバカを持って乗れ。後これを被るのを忘れるなよ」
バイクの座席部分を開け、エミリアにヘルメットを雑に放り投げる。
「え?この鎧を被るの?」
「いいから速くしろ」
「待て!」
士もヘルメットを装着しようとしていると、赤い髪の青年、ラインハルトが大声で士を呼び止めた。
「君、名前は何て言うんだい?」
「……門矢士。ディケイドだ」
「……そうか、君がディケイド……。分かった」
「聞きたいことはそれだけか?」
「ああ、十分だよ。士、今日はエミリア様を守ってくれたことに免じて君を特別に見逃す。けど、君とはいつか戦うことになりそうだね」
その最後のつぶやきに士は疑問の色を示したが、そのことを一旦置き士も質問をする。
「じゃあ俺からも質問を一つ。そのガキをどうするつもりだ?」
士が気になっていたのは、ラインハルトが抱えているフェルトのことだった。
今は気を失い、ぐったりとした様子でラインハルトの手の中に居る。
「この子は……いいえ、この方は僕の方で保護する」
「それはなんでだ?」
「今はまだ言えない。……ただその時になったら必ず話す」
「そうか。ならその時、とやらを楽しみにしとくぜ」
二人の厳しい視線がぶつかり合い、場の空気が凍てつくように張り詰める。
互いに警戒心を持ちながらそんな会話をしていると、
「もう!何二人でゆっくり話してるの!速く屋敷に行かないと!」
エミリアが話の間に割って入り、二人を正気に戻してきた。
「そうだったな。じゃあな、『剣聖』。いや、ラインハルト」
「じゃあね、士。エミリア様、お気を付けて」
座席に士とエミリアの二人が座り、ハンドルを力強く握る。
「しっかり掴まってろよ」
エミリアの手が腰に巻き付いたのを確認した後、エンジンをふかし風となってその場から二人は走り去っていった。
「……しかし、彼がディケイドか……」
(彼は……本当にディケイドなのか?)
ラインハルトは空を見上げながら、幼少期の事を思い出していた。
五歳くらいの頃、庭で遊んでいた時。
突然現れ消えていった、男の言葉を。
(いつか剣聖になったお前の元に悪魔が現れる。その悪魔の名は……
ディケイド)
「彼が本当に悪魔だとするなら……僕は士を容赦なく殺すことになる……。今日はフェルト様も見つかったし……夜空をこんな風に眺められるのは今日が最後かもしれないな」
そのつぶやきは夜空に浮かぶ満月にしか届かなかった。
街灯もない夜道を小一時間ほどバイクで駆け抜けていくと、突然巨大な光の塊が見えてきた。
「すっごーく速いわね。もう屋敷が見えてきたわ」
「あれか?……ずいぶん巨大な屋敷だな」
「当たり前でしょ。このあたり、メイザース領を管理している人の屋敷だもの」
「つまり領主ってことか……。嫌な奴そうだな」
「ロズワールは……いい人よ。見てもいないのに勝手なことを言わないで」
士が領主を貶すと、エミリアが頬を膨らませて反論してきた。
「はいはい。俺が悪かった。で、スバルの治療が終わったらどうするんだ?」
「とりあえずスバルは屋敷で預かるわ。ツカサはどうするの?」
「俺も屋敷に世話になってもいいか?」
「ええ、もちろんいいけど……家に帰らなくていいの?」
「俺に家はない。長い長い旅の中で適当に寝床を探している」
「そうなの?どれくらい旅を続けてるの?」
「さぁな。長すぎて覚えてない」
そんな話をしていると、屋敷の玄関近くにきていたのでバイクを止めオーロラカーテンにしまいスバルを担ぎドアを開く。
中に入ると、いかにも権力の象徴と言える造りになっていた。
「こりゃすごいな」
「でしょでしょ?」
すると上の階に続く階段から、リアルメイド服を着ている青い髪の女が降りて奇麗なお辞儀を見せた。
「おかえりなさいませエミリア様」
「ただいま、レム。……ラムはどこ?」
「まだ王都から帰ってきておりません。……その方達は誰ですか?」
士と腰に抱えられているスバルを不思議なものを見るような目で見てくるレムと呼ばれたメイド。
「俺は門矢士。そんでぐったりしてるこいつが菜月昴だ。よろしく」
「この二人は王都で……私の徽章を探すのを手伝ってくれた、恩人よ」
「徽章を?……分かりました。よろしくお願いいたします、スバル様、ツカサ様」
「そんでエミリア、俺はもう眠いんだがどこで寝ればいい?」
「二階に上がって右に曲がると空いてる部屋がたくさんあるわ。その中のどれか一つを使ってちょうだい」
「分かった。じゃあこのバカの世話頼んだぞ」
そういって士はレムにスバルを預けた後、螺旋状の階段を上って一室のドアを開きベッドに潜り込む。
そしてそのまま泥のように深い眠りについた。
ここからスバルと士の真の物語が、始まっていく。
一章の編集作業が終了いたしました!
何か変なところがありましたら、お伝えください。
かなーり説明回に時間を割いたため、王選候補者一人ずつの自己紹介はダイジェストみたいな感じでよろしいでしょうか?
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