オーバーロード 骨と珍獣とスライムと   作:逆真

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新展開

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「――う、ん?」

「あー、終わっちゃ、ったあ、あ?」

「すやぁ……」

 

 すぐさま異変に気付くモモンガとポケット。ヘロヘロは寝たままだ。

 

 時計を再確認するモモンガ。サービス終了時間が過ぎていることを確認すると、ポケットの方を見る。

 

「……どうやら、我らが糞運営はやってくれたようですね」

「みたいですね」

 

 サーバー延期かよ、と内心で罵倒する二人。

 

 起きるのが延期するのは分かるが、落ちるのは延期するとはどういうことだ。メンテナンス開始が遅れたことなどなかった癖に。最後の最後にこんな大失敗をしてくれるとは何という糞運営。

 

 顔を合わせて苦笑をする二人だったが、ここで違和感に気づく。ポケットはぼんやりと、モモンガははっきりと。

 

 あれ? 顔、動いてねえ? と。

 

「どうなさいましたか、モモンガ様。ポケット・ビスケット様」

「如何されたでありますか? 良ければ小官にご命令を」

 

 両サイドから聞こえてきた声に、二人はそれぞれ近い方に振り返る。

 

「いま喋ったのは、アルベドか?」

「はい。左様でございます、モモンガ様」

「君なのか、アリス?」

「肯定であります、我が創造主ポケット・ビスケット様」

 

 NPCが動いている。それも明らかにプログラミングの範疇を超えた反応を返している。

 

 再度顔を見合わせるモモンガとポケット。そして、未だに夢の中に落ちているスライムに視線を移す。

 

「ヘロヘロさん! 起きてください!」

「緊急事態で、いづぅ!」

 

 揺さぶろうとヘロヘロの身体に触れた途端、ポケットはその手を引っ込めた。激痛を感じる手のひらを見れば、手の皮が火で炙ったように爛れていた。

 

「え、待ってください、ポッケさん。いま、痛いって言いました?」

「そうですけど。見てくださいよ、これで痛くないわけないでしょう。うわ、えぐい。何という強酸……。いやごめん冗談抜きで痛い。救急箱!」

「もう一度確認しますけど、痛いって言いました? ヘロヘロさんに触って?」

「だからそう、言っている、じゃ、ない、です……か?」

 

 仮想現実であるはずのユグドラシルで、痛覚がある? それも明確な激痛を感じているだと? この肉が爛れた嫌な臭いも現実のものか?

 

 困惑と混乱で激痛すら忘れかけたポケットだったが、すぐ隣の少女の声で現実に引き戻される。――この現状を現実というのならばという話だが。

 

「うぎゃあああああああ!? 何やっているでありますか、ポケット様! えっと、ここにいるメンバーだと……ルプスレギナ殿、回復! 急いで回復魔法をかけるであります!」

「は、はい! 直ちに!」

「――いや、必要ない」

 

 まさかと思いつつ、ポケットは自らの特殊技術を発動させる。

 

「特殊技術発動、自己再生」

 

 自身のHPを回復するというシンプルな能力の特殊技術だ。状態異常を含めたものまで回復する上位互換の能力がいくつかあるが、一日の使用限度数が多いためそれなりに使用する特殊技術だ。

 

 爛れた皮膚が再生され、元の綺麗な手に戻る。痛みも消えた。手のひらの開閉を繰り返し、機能に問題がないことを確認する。

 

「うむ。問題なし」

 

 問題しかない状況で何を言っているのだろうと、自嘲する。

 

 と、ここで流石に騒ぎのせいでヘロヘロが起きる。

 

「ふわぁ、何ですか。うるさいですね。……あ! もしかしてサービス終了まで秒読みですか?」

「そうですね。時計を見てください」

「…………時間すぎてません? 落ちるの延期とかマヌケすぎでしょ」

「そうですね。ついでに回りも見てください」

「は? 周りって……」

「お目覚めでございますか、ヘロヘロ様!」

 

 目を覚ました様子のヘロヘロの目に入ったのは、彼に創造されたソリュシャン・イプシロンだ。

 

「ソリュシャン……?」

 

 名前を呼ばれた途端、彼女の顔色が変わった――ような気がした。実際はスライムなので変わるはずがない。

 

「はい、貴方様に創造されたソリュシャン・イプシロンでございます。御身のご帰還、心よりお待ちしておりました!」

 

 その声には明確な喜悦が込められていた。そして、「帰還」という言葉。このことから、少なくとも彼女には記憶があるということだ。ヘロヘロがいたという記憶と、ヘロヘロがしばらくいなかったという記憶が。

 

 ポケットは改めて周囲を確認する。

 

 場所はナザリック地下大墳墓第十階層の玉座の間。壁の色や配置されたオブジェなどに変化は見られない。次にこの場にいる者。モモンガ。ヘロヘロ。そして、この場に配置されたNPCであるアルベドとアリス。そして、サービス終了直前にこの部屋に連れてきた執事やメイドたち。

 

「あの、何がどうなっているんですか、モモンガさん。ポッケさん。これは夢、なんですか?」

「ヘロヘロさん。それにポッケさん」

「何です、モモンガさん」

「とりあえず、俺に任せてもらっていいですか?」

「お願いします」

「以下同文」

「――セバス・チャン!」

「はっ!」

 

 鋼の如き執事がモモンガの声に反応する。

 

「異常事態が発生している可能性がある。戦闘メイドの一人をつれて大墳墓から出て周辺地理を確認せよ。知的生物がいた場合は友好的に交渉してここまで連れてこい。もし帰還が困難になった場合、プレアデスに情報を持って帰らせろ」

 

(何その喋り方!?)

(魔王ロールだ!)

 

 ギルメン二人が内心でツッコミを入れるが、執事はその様が極当然とばかりに受け入れる。

 

「かしこまりました。直ちにご命令を実行します」

「プレアデスよ。セバスについていく一人を除き、他のメンバーは第九階層の守護に行け」

「承知しました、我が主よ!」

 

 全員が同じタイミングで了解したように聞こえたが、一瞬だけ、誰かの声がズレていたことにポケットは気づいた。ソリュシャンだろうか。聞き分けられたからではなく、状況的にそう推測しただけだが。

 

「一般メイドたちは第九階層に戻り、通常の業務に戻れ。アルベド! アリス!」

「はい、モモンガ様」

「アルベドは第四と第八を除く階層守護者に、第六階層の闘技場に来るように伝えろ。時間は一時間後だ。アリスは第九階層に異常がないかを確認せよ」

「かしこまりした、御方」

「御意に、であります」

 

 

 

 

 

 

「状況を整理しましょう」

「整理? 分かりました。一文で簡潔にまとめましょう。『ゲームが現実化した』」

 

 その言葉に、諦めたような笑いが満ちた。

 

「……やっぱりそうなります?」

「これがやっぱり夢か幻覚だとか、違法なバーチャル実験が開始されたとかではない限りは」

「ですよねー」

 

 場所は相変わらずナザリック地下大墳墓玉座の間。NPCたちをすべて追い出して、アインズ・ウール・ゴウン最後の三人となったものたちは顔を合わせる。

 

「では、改めて状況を整理しましょう。お二人とも、気づきを一人ずつ言ってみましょう。ゲームの差とかそんな感じのものを。第一に、GMコールができません。というか、コンソールが開きません」

「では、私から。私がゲームで創造したNPCたちが、メイドたちが動いていました。あれはプログラムの動きじゃないです。不可能です。彼女たちは間違いなく、生きています」

「では、次はぼく。魔法や特殊技術が使えます。コマンド入力とかじゃなくて、不思議パワー的なアレで」

「不思議パワーって何ですか……。まあ、そうとしか言いようがないんですが」

 

 その後簡単な実験を行い、いくつかの現実が見えてきた。

 

 ゲーム内ではありえなかった痛覚や嗅覚があるという点だ。視覚の映像によって脳の錯覚が起きていると考えるにはリアルすぎる。アイテムボックスから果物を取り出してかじってみたが、味覚があった。

 

 加えて、どうやら魔法を使用すると精神的に負担を感じる。これが「MPが減少している」状態なのだろう。

 

 魔法や特殊技術だけではなくアイテムも効果を発揮するようだ。

 

 常時発動型の特殊技術――パッシブの切り替えが自身の意志で自由になっている。

 

 同士討ち――フレンドリーファイアが解禁されている。

 

 情報系の魔法でギルドメンバーや交流のあったプレイヤーとの連絡を試みたが、成功しなかった。

 

 明らかに人間の身体ではなくなったモモンガとヘロヘロだが、その身体を動かすことに不都合はない。また、モモンガは感情がある一定の領域に達すると強制的に鎮静化される。これはアンデッドの精神抑制の特性が現実化したものだと思われる。

 

 姿形こそ普通の人間と変わらないポケットだが、その正体はまぎれもない異形種。それも五メートルの巨体だ。ポケットは形態変化にいくつかの条件があるため簡単には試せないが、「質量」はどうなるのかという問題がある。現在は見た目相応の体重しかないようだが、形態を変えたら体重は増えるのか変化しないのか。変化するのだとしたら、その質量分はどこから持ってきているのか。

 

「あ、モモンガさんのアンデッドの特性が精神にも現れているって話で思いついたんだけど」

「どうしました?」

「いまのところ、ゲームが現実化したと思われるじゃないですか」

「そうですね」

「NPCたちもデータとしてじゃなくて一個の生命としてそこにいるじゃないですか。オートマトンやアンデッドを生物としてカウントするかどうかは別として。本人たちは、ゲームが現実化したという認識はなかったぽっいですけど」

「何が言いたいんですか、ポッケさん」

「いや、ほら、ぼくたちの種族の内面的特性の問題もあるんだけど――というか、ぼくたちの書いたNPCたちのフレーバーテキストってどうなっているのかなってね?」

「え……?」

「はい?」

 

 モモンガは背中に冷や汗が流れる感覚がした。実際は汗腺も肉もないのでそんな感覚はしないのだが、人間であった頃の残滓がそう錯覚させたのだろうか。

 

「え、は、ちょ、ちょっと、待ちましょうか。じゃあ何ですか? 俺のパンドラズ・アクターが俺の設定したまま――あの当時俺がかっこいいと思って設定したままの性格をしているってことですか?」

「だってぼくの作ったアリスはぼくが設定したとおり『であります!』って口調だったよ?」

「確かモモンガさんのNPCって敬礼とかドイツ語とか……」

「この問題は後にしません?」

「まあ、この後第六階層に集めた守護者たちと話すんでしょう? それで明らかになるんじゃないです? まあ、ぼくはほとんど覚えてないんですけど」

「それは私もですよ。第六階層って姉と弟のどっちが階層守護者でしたっけ?」

「どっちも階層守護者ですよ。逆に、第一から第三まではペロロンさんのNPCがひとりでやっていて……名前なんでしたっけ?」

「シャルティアですよ。シャルティア・ブラッドフォールン」

「それだ」

 

 モモンガが設定の話を後回しにしたのは、単に自分のNPCに関しての問題があったわけではない。

 

 モモンガには言えなかった。まさか、アルベドの設定を書き換えたなどと。しかもその内容が『アリスと仲良しである』などと、よりにもよってタブラを嫌っていたポケットには言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 一通りの話が終わり、ギルドの指輪の力を使用して、第六階層へと転移した三人。

 

「仮に、ですけど、NPCに襲われたらどうします?」

「もしそうなったら逃げの一手です。お二人ともいいですね?」

「了解です。さっきのアルベドやソリュシャンの様子を見るに、それはないような気がしますけどね」

「油断は禁物ですよ」

 

 ナザリック地下第墳墓は全十層からなるダンジョンであり、第六階層はジャングルになっている。森や湖もあるが、何と言ってもこの闘技場が一番の見所だろう。

 

 そして、三人を最初に出迎えたのはこの階層守護者たちだった。

 

「ようこそ、モモンガ様! ポケット・ビスケット様! ヘロヘロ様!」

「よ、ようこそいらっしゃいました」

 

 動きやすそうな男装の少女アウラ・ベラ・フィオーラと、杖を持った女装の少年マーレ・ベロ・フィオーレ。共にエルフの派生種族である闇妖精であり、人間でいえば十歳程度だ。男装あるいは女装なのは製作者であるぶくぶく茶釜の趣味である。

 

「ヘロヘロ様! お久しぶりでございます!」

「お、お久しぶりでございます」

「はい、お久しぶりですね」

 

 久々のギルメンとの再会を喜ぶ二人。

 

 スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンのテストという名目で色々している内に、全ての階層守護者がそろった。

 

 第一階層から第三階層の守護者、銀髪の美少女吸血鬼、シャルティア・ブラッドフォールン。実は、最初の階層守護者である彼女こそが全守護者の中で最強スペックを誇るガチビルドだ。総合的な数値で見た場合、彼女の性能は頭ひとつ抜けている。

 

 第四階層の守護者は巨大ゴーレムであり、厳密にはNPCではないため、この場には呼んでいない。ゲームが現実化した以上、あれにも意識がある可能性はあるがわざわざ呼び出して確かめる必要もない。

 

 第五階層守護者、ブルーライトの巨大な昆虫、コキュートス。魔法剣士。フレーバーテキストでは、武人としての面が強調されていたはずだ。

 

 第七階層守護者、スーツを着た悪魔、デミウルゴス。ナザリック随一の頭脳を持つひとり。

 

 第八階層守護者はその特性上、ここには呼べなかった。緊急事態に備えるという意味でだ。

 

 第九階層と第十階層には階層守護者がいないが、守護者統括のアルベドとその補佐であるアリスがそれに該当すると言える。

 

 彼らは揃うとまるであらかじめ練習していたかのように、彼らは一直線上に並び、臣下の礼をする。

 

「御命令を、御方。階層守護者各員、いかなる難行といえども全身全霊を以って遂行します。創造主たる至高の四十一人の御方々――アインズ・ウール・ゴウンの方々に恥じない働きを誓います!」

『誓います!』

 

 それを受けての三人の反応はひとつ。

 

 何、こいつら。重っ。

 

 モモンガは暗黒のオーラを発動させてしまい、ヘロヘロも冷や汗のように酸が湧き出て、ポケットは変な表情をしないために自身の腕をつねった。

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