緑の兄弟どもが行く 作:カロ
イカロス島要塞の地下でストロングとアマンダ、クリストフ、そして彼の四人が顔を突き合わせて話し合っている。
話題は、連邦に戻ろうとベルチバードに乗った彼が見てきたものだ。
「無線でも報告したが、連邦があるはずの座標に行ったが陸地は見つからなかった。 これは何か尋常では無い事態が起こっていると思ってな。 その後も飛行を繰り返し、出来るだけ広い範囲を探索していた所、陸地を見つけた。 砂漠と荒野が続くのみで建築物は確認出来なかった事から、連邦では無さそうだったな。 地上からの攻撃を警戒して最大高度近くからの探索だし、小規模な建物は見逃している可能性もあるが」
「……まあ、驚くべきことではないかもね。 あんたから、無線による連絡を受けたとき星を利用しての天測で現在地点を突き止めようとしたんだけど、結果は全くの無意味だった。 なんせ明らかに地球とは星の配置が違うんだからさ」
クリストフもアマンダの言葉に頷く。
「現時点で得られた情報から合理的に考えると、僕たちは地球とは別の惑星に転移してしまった可能性が非常に高い。 理由は不明だが………、瞬間移動技術を実用化させているのは僕が知る限りではインスティチュートだけだ。 もしかしたら、彼らの僕達に対しての攻撃かもしれないな」
「邪魔者は遠くへ放り出す、という訳か。 ………ま、これ以上悩んでも仕方ない。 今は目下の問題を考えよう。 現時点では俺たちがどのような状況に置かれているのかは不明であり、情報収集が最優先だ。 ………そして外敵からの防衛もな。 今、スーパーミュータントは何体いた?」
「二百九十七体。 あとはミュータントハウンドも121体……、いや、120体だ。 君が便宜上の群れのボスを引き受けてくれたおかげで統率は上手くいっている。 だけど当初は、多少苦労したよ。 スーパーミュータントは人間式の軍隊のように階級による指揮系統に馴染ませることは難しい。 彼らが敬意を払うのは唯一強い存在のみであり、大規模な集団を組織するには強力な個体が統率するのが最も適しているからな」
「よし、それではクリストフとストロングは要塞に残り拠点の守りを固めてくれ。 アマンダは俺と共に発見した陸地に探索に行こう。 未知の土地を調査するには、アマンダの生物学の知識は重要だからな」
「はいよ。 ……ま、この世界の環境なら生物が存在する可能性は高いだろうからね。 私達ですら、感染すれば死を免れない細菌なんかがいなければいいけど」
「……ふ、それを祈ろう」
流石にスーパーミュータントの免疫力を突破する細菌やウイルスが存在する可能性は低いとは思うが、この世界について何も知らない今、油断は禁物だ。
彼は改めて気を引き締めた。
「ああ、ちょっと待ってくれ」
クリストフが思い出したように声を上げる。
「陸地に食料となる物がないかも確認して欲しい。 今までは島に住む変異生物や、襲撃してくるマイアラークの群れが主な食料源だったが、付近の海の様子も大分様変わりしているようだからな。 今後はマイアラークの襲撃がなくなる可能性もあるし、新たな食料源を確保しておきたい」
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彼とアマンダは地上に降り立って調査を行う前に、新たに発見した陸地に関して上空からの調査を行い、大まかな地理を把握する事に決めた。
当初発見したのは砂漠と荒地のみの荒涼とした土地だったが、そこから海岸沿いに一時間程北上していくと大地の様子が変わってくる。
「緑の大地……」
人工冬眠から覚めてから、もう見ることは無いだろうと思っていた光景に、彼は思わず呟きを漏らす。
広大な草原に、青々とした森。
最終戦争後の地球の状態を考えれば、まさに理想郷としか言いようのない光景がそこに広がっていた。
ただその景色に見とれる彼だったが、その視界の隅に黒い点が飛び込んでくるのを捉えた。
「警戒、飛翔体を発見した」
彼は浮ついていた気分を一転させ、瞬時に脅威に対する警戒体勢へと心身の状態を持っていく。
スーパーミュータントとしての優れた視力が飛翔体の正体を判別した。
「空を飛ぶトカゲのような生物……、の上に人型の生物が乗っている。 レイダーの中にも変異生物を飼いならす者がいたが、それと似たようなものか?」
「危険度はどう見る?」
「速度はベルチバードの巡航速度より遅いし容易に振り切れるだろうが………、一旦帰るか? 知的生物と思われる存在を見つけられただけでも収穫だし、相手の実力がわからない状態で敵対したくない」
「まあ、あんたの判断には従うさ……」
ベルチバードの進路をイカロス島の方向へ向け、飛行生物を易々と振り切って帰路に付く。
その途中でアマンダが口を開いた。
「あんた、これからどうするつもりだい? もしこの世界に国家のような大規模な集団があったとして、イカロス島のスーパーミュータント達がまともに交流するなんて無理だよ。 あんたが統率してもスーパーミュータントはスーパーミュータントだ。 その暴力性は絶対に変えられないさ。 ………まあ、あんたなら、どんな場所でも一人で生きていける気はするけどね」
「………どうかな。 俺はこの世界にとっては異物だし、な。 ただそれだけの理由で脅威として排除される存在になる気がするよ。 ………それにイカロス島の奴らをスーパーミュータントにしたのは俺だ。 どうせ居住地を守る為に殺さなくてはならないレイダーなら、むしろスーパーミュータントとして新たな生を送らせた方がいいかもしれないという……、俺の傲慢だ。 奴らを見捨てる訳にもいかないさ」
地球のものとは異なる青く澄み渡った海の上を渡り、彼らはイカロス島要塞へと帰還していった。
(スーパーミュータントの集団では、どのような勢力とも友好関係を築く事は不可能………。 但し安定した食料の供給と、武器弾薬を作るための物資の作成を考えると新たな陸地への進出は必要だな。 むしろどのように上手く敵対していくかを考えるべきか)
そして、その三日後。
夜も大分深まった頃、イカロス島要塞内に作られたベルチバード発着場に彼を含めた四体のスーパーミュータントが集っていた。
体は分厚い鉄板や太い鎖で作られた無骨なスーパーミュータント用の鎧で覆われているが、その手には鈍器や刃物等の近接攻撃用の武器が握られており、銃で武装している者はいない。
ベルチバードの最大積載重量は2500キログラムであり、平均して体重三百六十キログラム程度のスーパーミュータントであれば、六~七体は乗る事が出来る。
ただそれは装備を考えない時の重量であり、実際にスーパーミュータントをベルチバードで輸送しようとすれば、その巨大な体躯もあり、一度に四体が限度となっていた。
「今回の遠征では、俺とアマンダ、そして他の八人で向かう。 残りのメンバーは後で迎えに来よう。 目的は昨日説明したように、この世界の陸地の探索、及び知的生物がいたとして、その文明レベルと戦力を図ることだ。 クリストフとストロングは拠点の防衛を頼むぞ」
「退屈だ、でも仕方ない。 今度は俺も戦うぞ」
「ああ……、そうなる可能性は高いな」
一般的なスーパーミュータントは自力で食料を生産するという思考も適性も皆無であり、結局のところ、狩猟か略奪しか生きていく方法はない。
だが無計画に暴れてはいつか必ず限界がやってくる。
流れに身を任せた結果とは言え、配下となったスーパーミュータント達と、自分がこの世界で生き残るために。
彼はベルチバードの操縦桿を力強く握った。
敵に発見されるのを避ける為に夜間無灯火での操縦だが、スーパーミュータントの視力があれば月明かりでも十分に操縦出来る。
夜の帳が降りた発着場で、ベルチバードのプロペラが空気を切り裂く音が響き渡った。