緑の兄弟どもが行く 作:カロ
「つまり例の陸地はロデニウス大陸と呼ばれており、現在はロウリア王国、クワ・トイネ公国、クイラ王国の三国家が存在する訳かい」
「ああ、あの兵士の証言が正しければ、な。 それと大陸に暮らす知的生命体は人間だけではなく、亜人と呼ばれる種族も存在するようだ。 交戦した兵士の中にも猫のような耳を持った者がいたし、事実と見ていいだろう」
彼は捕獲した兵士を尋問する事で、この世界についてある程度の情報を得ていた。
話を聞く限りでは大陸の技術レベルは低くせいぜい中世レベル。
情報網も発達していない為にあくまでも限られた知識ではあるが、全くの手探りの状態からは進歩したと言えるだろう。
あれから尋問に答えてくれた兵士は、殺すことなく解放した。
特にこちらについての情報は与えていないし、彼自身、殺しが好きなサディストという訳でもない。
必要性がなければ、無駄な殺生をする意味はなかった。
ただそれは裏を返せば、必要性があれば平気で人も殺せるという、良くも悪くも連邦的な価値観に染まっているという事ではあるが。
情報と戦闘経験を得るという当初の目的を達成した事で、一時拠点としている森へと撤退した後、現地で採取したサンプルを積み、彼とアマンダは一時的にクイラ王国南部の海岸から、南東に八百キロ程離れた場所にあるイカロス島へと戻っていた。
得られた情報についての説明を、クリストフは興味深そうに聞きながら、時折頷く。
「少なくとも今回遭遇した相手に関して言えば、肉体的にスーパーミュータントよりも遥かに脆弱か。 で、これからどうするんだい?」
「そうだな……。 例え個々の戦闘能力はスーパーミュータントよりも弱いとは言え、クワ・トイネ王国だけでも人口は数百万人に及ぶらしい。 それに兵士の話では魔法を使うことができる魔道士という存在もいるらしいからな」
「魔法? ……それはどう言う意味だい」
「魔力という力を使い、様々な現象を引き起こす超常能力。 物語に出てくるような魔法と同じだ。 あまり詳しい情報は得られなかったが、十分な警戒は必要だろう。 ……だがその上で、俺は配下のスーパーミュータントをロデニウス大陸に進出させようと考えている」
確かにリスクはあるがスーパーミュータント達をこの島に閉じ込め続けて置くのにも、いずれ限界が来る。
それに自分達を脅かし得る外敵が現れた時の為に、力を蓄えておくには大陸から金属等の物資を調達する事が必要不可欠。
それに現地の人間や亜人のスーパーミュータント化や、この世界特有の生物、技術の研究を進めるには、遅かれ早かれ大陸に拠点を作らなければならない事などを彼が説明すると、アマンダとクリストフも納得した様子だった。
「後、望みは薄いかもしれないが、ねじやスプリング、電子回路の供給源がないかも当たってみよう。 ワークショップでもそれらは作成出来ないからな」
「ああ、ワークショップね。 戦前のどこかの大企業が開発した万能型工作装置……、素材の溶接、切削、圧延までなんでも出来るって触れ込みだが、それにしてもタレットまで作っちまうあんたは工作の天才と呼べるだろうね」
「その企業とVault-Tec社は業務提携を行っていて、殆どのVaultにはワークショップが設置されているんだ。 その為か、Vaultの職員用のPip-Boyにはワークショップで様々な機械を作る設計図がインストールされている。 俺はそれに従って工作しているだけだから大した事はない。 ……だが、ねじやスプリング等の部品は一から作ろうとすると装置がエラーを起こしてしまってな。 大方、製造元の企業が素材からどんなものでも作れるようにしてしまっては自社の製品が全く売れなくなるからとプロテクトを掛けたんだろう」
「全く余計な事を……、ただ中世レベルの技術しか持たない奴らから、その部品が得られるとは思えないね」
彼は兵士から聞いた話を思い出しながら首を振る。
「いや、この世界には高度な技術を独占する事で軍事的優位を保っている文明圏国家という国々が存在するらしい。 このロデニウス大陸の国家は全ては非文明圏に属するらしく、その文明圏とやらの国家から工業部品を調達出来る可能製はある」
「……うん、大陸進出の必要性については了解した。 ただ長期的な展望はあるのかい? まさか力を盾に闇雲に様々な勢力に喧嘩を売り、無計画に力を蓄えるだけじゃないだろうね?」
「それはあたしも聞きたいね」
二人の言うことは最もだ、と彼は思う。
理論的には寿命が存在しないスーパーミュータントにとっては、百年後、二百年後の未来でさえ決して他人事では無い。
確かに、ただ暴れ続けるだけではロデニウス大陸の住人達の技術の向上に伴い、いずれ駆逐されてしまうだろう。
「何をしたいのかと言われれば……、生きたいのさ。ただ安全な場所に隠れているだけではそれは果たせない。
この世界は良い、あの朽ち果てた世界とは違って生命に溢れ、豊かな自然がそのまま残っている。 ……しかし人類がこの星に生き続け文明が発達し続ければ、必ず地球のような悲劇が繰り返され、この世界は滅びてしまうだろう」
二人は沈黙しながら否定も肯定もせずに黙って彼の話に耳を傾ける。
「俺達がこの世界に来たのは何かの巡りあわせかも知れない。 生まれてからずっとインスティチュートの中で過ごしてきたお前達には理解できないかもしれないが、俺はこの戦前の地球のような美しい世界で生き続けたい、確かにそう思ったんだ。 ……ただ、その為に何をすべきか、はまだ定まっていない。 今の所はこの答えでいいか?」
数十秒間の無音の後、最初に口を開いたのはアマンダだった。
「ま、あたしにもこの世界の美しさくらいは分かるわさ。 それを守る、なんて大げさな事があたし達に務まるような事なのかは知らないけどね。 ……当分はあんたの方針で行くことに異論はないよ」
「………僕も同じ意見でいい。 スーパーミュータントとして生きるにしても、将来の生活の質を無視する訳にもいかないからな」
「よし、決まったな。 じゃあ、まずは大陸での本格的な略奪活動を始めるか。 統率力を高める為に組織の名前やシンボルでも作ってみるか? あまり複雑な名前や図案だとスーパーミュータント達が覚えられないだろうから、単純なものをな」
「名前はブラザーズなんて良いんじゃないかな? この島のスーパーミュータントは同じFEVのウイルス株から生まれた兄弟みたいなものだからね」
「いいな、言いやすくて」
その後はアマンダの発案により、組織のシンボルは縦線を三本ならべた図形。
彼が冬眠していたVault111を表すマークに決定した。
「よし、決まったな。 大陸で活動するにあたり暫くは下手な知性等は見せず、野蛮な怪人の群れとして振舞おう。 賢しい部分を見せると相手を警戒させて、こちらの素性について探りを入れられるかもしれないからな。
それよりは裏表のない愚かな存在と思われた方が都合がいい」
彼はアマンダを島へと残し、代わりにストロングを連れてクワ・トイネ公国内の拠点を目指し飛び立つ。
それはロデニウス大陸を舞台にした、略奪劇の最初の一歩だった。