ジョジョの奇妙な冒険――タンザナイトは穢れない―― 作:伝説の超三毛猫
時は2016年、4月。日本の、M県・S市杜王町の某所にて。
「それで……康一さん、仗助さん。今度は、俺は何をすればいいんですか?」
朝早くから呼び出され、現代のアパートって感じの軽く洋風な廊下を歩いていった奥にある、いかにも社長室って感じの部屋に俺―――
呼び出した部屋にいたのは二人。
ひとりは、ハイカラに改造されたスーツを身に
もうひとりは、スーツこそ独特に改造はされていないが、身長がとても低く、俺の腰くらいまでしかない男性。雰囲気は普通な印象を受け、それがこの場では逆に浮いてしまっているように感じる。こちらの名前は、
「わざわざ悪いなジョージ、どうしてもおめーにやってもらいてー事があってよ」
「構いませんよ。幼い頃からお二方や
「そう言ってもらえるとこっちも助かるよ」
ちなみに億泰さんというのはこの場にはいないお二人の友人のことだ。本名は
「物心ついた時から見えるこのヴィジョン……
そう呟いた俺が念じると、
身長は常に俺と同じくらいで、蒼・銀・紫を基調としたメタリックなボディ、手には楕円形のタンザナイトの宝石のようなものがちりばめられ、顔は日本の武将が着けているかにような兜に覆われ、額には正三角形が三つ並んだ銀の
ひとことでそいつを表すならば、『格闘派の武士』。日本刀はどこへ置いてきたって問いただしたいが、
スタンド。それは、人の精神の具現。
ただし……この力は、人をも殺しうる力。ゆえに、安易に振るってはならない。そう教えてくれたのも仗助さん達だ。いつだったか、試しに振るったスタンドの拳が岩を蝋石を割るかのように簡単に粉砕した時は俺の持っている力に戦慄した。
「何言ってんだ。教えたのは俺だが、それを守って、力にしてるのはおめーだろ?」
「そうだよ、錠磁君。君の『ミラクル・タンザナイト』は紛れもなく君の力だよ」
ちなみに、仗助さんからはスタンドの使い方だけではなく、名前までつけてもらった。至れり尽くせりである。
「いえ、お二人のご指導あってのものです―――と、譲り合いはこの辺にして、本題に入りませんか?」
「あぁ、そうだな。本題なんだが……」
スタンドを引っ込めた俺の提案で「本題」に入った仗助さんの顔は、「親戚のお兄さん」から「スピードワゴン財団日本支部支部長」のそれへとあっという間に変わった。それに伴い、康一さんの表情も部屋の雰囲気も少し固くなった気がする。
一体、俺に何を頼むんだろうか……
「とある人物から、借金を回収してきてほしい」
「しゃ、借金ンンンンンーーーーーッ!!?」
何を考えているんだこの人は!? 積極的に財団に協力しているとはいえ、俺はまだ15歳だぞッ!?
それなのに、借金の回収なんて重すぎるッ!!
「ちょ、ちょっと待ってください仗助さんッ! なんで俺なんですか? 借金を回収するのなら、他に適任がいるはずじゃあないですか! た、たとえば……そうッ! 小林さん*2……とか!」
「確かに小林さんは借金関連には詳しいけれど、どうしても日程が合わなくって、しばらく
「承太郎さん*3も日本に来れねーし、億泰も忙しい。それに、この借金にはおめーん
「俺の家が……? 北条家がそいつに金を貸してる、とか?」
「それだけだったらよォ~、おめーのお袋が何とかすりゃあいい話だ。
ただ、そいつは……スピードワゴン財団の職員をダマくらかして、ヤツの家の借金を全部建て替えさせやがった」
「何やってんすかそいつ……」
つまり、
最近
ただ、建て替えさせたところで、その人自身は得しないはずなんだけど……一体何を考えているんだ?
「おまけに、奴はかつてスピードワゴン財団の職員で、スタンド使いだった」
「は!!?」
なん……だと……今! なんて言った……ッ!?
「財団の職員……だと……!? それに、スタンド使いって………!!」
「俺と康一もそこへ行く。ただ、それなりの準備が必要なんだ。
ジョージ、お前には、先に奴の住んでいる場所に―――東京に、行ってくれねぇか?」
☆☆☆☆☆
「と言われて、東京に来たはいいものの……」
あれよあれよと言う間に引っ越してきた場所は、東京都のA区と呼ばれる場所。人口・82,364人、面積10.5平方キロメートル、人口密度7,300人/km2。東京都の比較的外側に位置する街だ。
「意外と、俺のイメージしてた東京とは違う街並みだな………」
俺はてっきり、東京都といえばって感じの、見上げれば首を痛めそうな高層ビルが所狭しと建ち並ぶ地域だと思っていたのだが、そうではないらしい。
東京都内のベッドタウンの一つとして栄えたというこの区域には、住宅街は勿論のこと、映画館やケーキ屋「REVIVAL」をはじめとした数多ある飲食店、ショッピングモールなど、住人のニーズに応えた様々な建物が並び、そのほとんどが見上げる必要のない高さであるから、あまり堅苦しい雰囲気を与えない。
今年から、俺はここのとある一軒家に住むこととなった。後から北条家の使用人が来るまでは実質一人暮らしになるだろう。
(まぁ、スタンド使いがいるって分かってる以上、母さんまで巻き込む訳にはいかないもんな)
母さんは、この突然の引っ越しを意外にも「使用人付き」という条件だけで許してくれた。どうやら、仗助さん達が裏で話をつけてくれたみたいだ。母さんはスタンド使いじゃあないというのに、どうやって説得したんだろうか。
俺はこの街で、高校生として生活しつつ、スタンド使いから借金を回収しなくてはならない。その人物の住所の特定からしなければならないから大変かと思われたが、仗助さん達財団の方で、借金をしている人物の大まかな情報と家族構成は調べておいてくれたみたいだ。
「…
まだ見ぬ前途多難さに、ため息を一つつきながら、新しい制服の袖に腕を通す。
さて、転校生デビューはバッチリ決めないとな。これで高校生活が左右するも言っても過言じゃあない。
ただ―――
「たった一日でぶどうが丘から転校してきたなんて言っていいのか………?」
受かって行く筈だった高校をたった一日で転校せざるを得なくなったのは流石に堪えた。ちょびっと泣いた。
「はじめまして。北条錠磁です。杜王町では『ジョージ』とか『ジョジョ』って呼ばれてました。よろしくっす」
入った教室でそう自己紹介をした直後の休み時間。「どこに住んでたんだ?」とか「趣味は?」とか「杜王町ってどんな町なんだよ!?」とかの質問責めに遭った。いつの時代も転校生というものは注目されるようだ。俺はそれに、「杜王町はいい町だぜ、観光名所も多いしよォ~」とか、「趣味はコミック本集めかなぁ~」とか、明るくウィットに富んだ返しをしていく。
学園モノの漫画では、高確率で転校生が登場することから、その異質さと、そこからくる目新しさがどれだけ需要があるかが伺えるだろう。
でもちょっと疲れるわ、コレ。
「………。」
その『目新しい転校生』とそれに群がる生徒たちを前に、俺には関係ないね、と言わんばかりになにかの単語帳をスマホを取り出してゲームをするような感覚で広げている同級生が一人、後ろの方の窓際に座っていた。鋭い三白眼と枝分かれしたアホ毛が目に付くが、それ以外は普通の黒髪の日本人の特徴と変わらない。
「なぁ、あいつは……?」
「やめとけ!やめとけ!
あいつは付き合いが悪いんだ。」
窓際の彼について聞こうとしたんだが、他の同級生にそう遮られてしまう。
「『どこかに行こうぜ』って誘われても『勉強がある』って必ず断るんだ。楽しいんだか楽しくないんだか…
『
勉強はまじめにこなしウチでは成績トップだが、今ひとつ情熱のない男……
悪いやつじゃあないんだが社交性なんてないに等しい………つまらない男さ」
そう言って窓際の男―――上杉を紹介するのは、俺よりもふた周りくらい小柄な男。160くらいの身長に整った黒い髪と目立った髪や顔つきはしていないが、常に口元を隠している赤いマフラーが、彼をちょっと特徴的に見せた。
それにしても………上杉風太郎、か。昼休みあたりにでも、話を聞きに行くか。
「………ところで、君は?」
「
……歓迎するよ、北条君。
いや………ジョジョの方がいいかな?」
「あぁ、ありがとう、服部。」
服部と握手を交わした俺は、これからの学校生活や借金の回収が順風満帆に上手く行くことを予感していた。
―――そんなこと、ありえないと言うのに。
☆☆☆☆☆
「焼き肉定食、焼き肉抜きで」
昼飯を食べようと思った時、食堂のカウンターから聞こえた声に俺は戸惑いを隠せない。
焼き肉のない焼き肉定食なんて、ゴリラのいないドンキーコングみたいなものじゃあないか。
そう思いながら声の主へ視線を移すと、そこには朝見た、鋭い三白眼と枝分かれしたアホ毛の男―――上杉風太郎がいた。
服部から「社会性はないに等しい」と言われていたが、こっちには接触する理由がある。
仗助さんから貰った上杉勇也のデータ。
そこに、彼の家族構成が載っていたのだ。
上杉勇也には二人の子供がいる。
風太郎という息子とらいはという娘だ。もしここで仲良くなれれば、勇也さん相手に話しやすい話題が出来上がるというものだ。
個人情報の保護など、財団の力の前では筒抜けも同義らしい。
そんなプライバシーもへったくれもない情報収集力に少し恐怖を覚えながらも、話しかけようとしたその時。
ぬッ、と。
「!!?」
プレートを持った風太郎の足元の影に、
(な、何だ今のは!? 一瞬だったからよく見えなかったが、何かの人型のように見えた………!)
動揺している隙に、風太郎はさっさと食堂の端っこへ移動して、寂しい昼食の乗ったプレートを置いてしまっている。
慌てて自分も注文した焼き肉定食(もちろん焼き肉付きだ)を受け取ると、偶然を装い風太郎の二つ隣の席に陣取る。
「君が、上杉君だよね?」
そして、勇気を持って話しかけた。
声をかけた目つきの悪い同級生は視線をご飯と味噌汁だけの寂しい昼食と片手の単語帳からこちらへちらっと移る。
「………。」
しかし、そのまま何事も無かったかのように単語帳へと目を戻してしまった。
……まさか、無視しやがったのか? と思い、
「お、おいおい。会話ぐらいしてくれたっていいだろ?」
無視された苛立ちを抑えながら再び呼ぶと、そこでようやく
「…今朝の転校生か。何の用だ?」
風太郎が返事を口にする。
「いやあ、用ってほどじゃあないんだけど、仲良くしたいなァ~なんて……」
「興味ない。」
「ちょっと、そんな冷たくしなくてもいいじゃあねーか。ただ話したいだけなんだしよ~。」
「時間の無駄だし、勉強の邪魔だ。」
敵意の
高圧的で、不遜な態度。そんなものを向けられたら、嫌でも分かってしまう。
こりゃあ、友達ができないワケだ。服部に「社交性なんてないに等しい」なんて言われてしまうのも頷ける。
冷静に分析しているように見えるが、俺はそれなりに頭に来ている。なんでこんなガリ勉の陰キャに馬鹿にされなきゃあならないのか。
俺自身、風太郎に近づいたのは下心からだから悪いところはある。だが、だからといってここまで全面的に拒絶されていい気分になれるワケがない。
だから、ちょっと驚かせてやろう。
「……『ミラクル・タンザナイト』」
その囁き一つで、俺の体からあの武士が現れる。
蒼・銀・紫をベースにしたメタリックな鎧武者。その拳には、楕円形のタンザナイト宝石のような石が散りばめられている。
スタンドは、スタンドを持っていない人間には見ることができない。目の前にはミラクル・タンザナイトがいるというのに、風太郎はまったくの無反応だ。父親がスタンド使いという点でもしかしたらと思っていたけれども、どうやら風太郎はスタンド使いではないようだ。それとも、見えていないフリをしているのだろうか?
もし彼に俺のスタンドが見えていたらそれはそれで驚かせられただろうが、反応がないならないで手はある。
そのアホみたいなアホ毛を、思いっきり引っ張ってやる。
ミラクル・タンザナイトの右手がゆっくりと風太郎の頭に伸びる。そして―――
グィッ!
「痛てッ!?」
突然やってきた頭への痛みに風太郎が声をあげた。
そんなに痛くしたつもりはない。俺のスタンド、ミラクル・タンザナイトは、精密動作には自信がある。ちょっと痛いが、引っ張られた驚きの方が大きくなるよう力加減はした。頭皮が破れるなんてしないはずだ。
「おい、北条! 何故今俺の髪を引っ張った?」
「ン? なんで俺だと思った? この距離だと、俺はお前のアホ毛を引っ張ることなんてできないぜ?」
今の俺と風太郎の席関係では、アホ毛を引っ張る事はできない。
それをいいことに、思いっきり風太郎からのお咎めにすっとぼける。
「一番俺に近い席のお前が怪しいだろ!」
「それこそ有り得ないぜ。ここに座ったままじゃあ手が上杉君に届かない。」
実際に座ったまま俺自身の手を伸ばせば、風太郎の肩をギリギリ触れるくらいまでしか届かない。頭に触れられるまで手を伸ばすには、席を立つ必要がある。
「なら、席を立ったんだろ!」
「席を立った音を聞いたかい? 俺は、席を立っちゃあいないぜ?」
「いいや、絶対席を立ったんだ!」
席を立った、立ってないと押し問答をしているその間にも、ミラクル・タンザナイトの手を風太郎の頭に近づける。まだイジリ足りない―――
ガシィッ、と。
「!!!?」
「絶対席を立ったんじゃ……どうした?」
急に腕に走った、掴まれる感覚に背筋が凍る。
俺の左手を見ても、
まさかと思い、顔を上げると…そこには―――――――
『今、風太郎ニ“攻撃”シタナ?』
俺のスタンドの腕を、黒い手が掴んでいた。
そいつの顔は見えない。野球帽のつばで隠れている。全長5、60センチほどの少年のような人型が席の上に立っている。革ジャンにダメージドジーンズと、1980年代のアメリカンストリートで流行したファッションのようなデザインをしており、声はどこか機械質だった。
『コレヨリ、“
風太郎の護衛。それに、敵の排除、と。
ストリートにいそうな不良がまっすぐ俺に向かってそう宣言する。
間違いない。こいつ、スタンドだ!
あまりに突然の宣戦布告に、冷や汗が頬を伝う。ここに来てようやく俺は、スタンドで身内にスタンド使いがいる風太郎にちょっかいをかけた軽率さを後悔した。
『ミラクル・タンザナイト』
【本体】
【破壊力─B スピード─B 射程距離─D(能力射程はC) 持続力─C 精密動作性─A 成長性─B】
・蒼、銀、紫でデザインされた鎧武者のようなスタンド。兜の
【能力】
・???(まだ見る事のできない情報です)
To Be Continued…⇒
NEXT JOJO's BIZARRE ADVENTURE
『ビート・イット その①』