プロローグから3日前・ワシントンDC・スミソニアン博物館
そこらじゅうに飾られた精悍な男達の写真や書簡等の記録、星条旗を模したモチーフ。ここスミソニアン博物館ではキャプテンアメリカの生存を記念してイベントが行われており人で溢れかえっていた。
そんな中、黒と赤のアジア人が二人展示を見て居る。酷くリラックスしたその二人に意識を送る人間は居なかった。
それもそうだろう。博物館まで展示を見に来ているのにわざわざ何処にでもいるアジア人二人を気にする人間など居る筈もない。だが、見る人間が見れば気付いた筈だ、男達のジャケットが僅かに膨らんで居る事、黒い男の帽子の下から覗く、その視線の鋭い事。
だが、博物館は平和だった。つまりそれが全てだ。
キャプテンアメリカのスーツを展示したケースの前で二人は立ち止まり「で、ルパン」そんな言葉とともに黒い男が話し出した
「突然人の事呼び出しといて観光か?ホントなら俺ぁ暫く休みの予定だったんだ」
「まぁそー言うなって次元、飴なめるか??」
ほらよ、そう言って赤いジャケットの男が懐から取り出したキャンディの包み紙にはキャプテンアメリカが印刷されている。
「なんだぁ?これ?」
「限定品らしーぜ?ソーダ味」
怪訝な顔で「要らねぇよ」と飴を断るとタバコを懐から取り出し火をつけようとして全館禁煙の表示に渋い顔で懐に戻した。
「いやぁーね?俺も暫く休みの予定だったんだけどもさ?」
ちょっとばかし予定が変わってな?行こうぜ、そう言って歩き出すルパンと次元の去った後、キャプテンアメリカのスーツの展示ケースにはとぼけた顔の印刷されたカードが一枚
≪明日の24時アメリカの英雄を頂く。ルパン三世≫
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同・アジト内
「で、ルパン」ボロボロで、それでもなお高級そうなソファに座り込み、旨そうにタバコを吸いながら次元が問い掛けた
「なんでまたあんなボロいスーツを盗もうってんだ?アンティークとしちゃあ価値が有るだろうが他にもマシなもんならあるだろ?」
ルパンは琥珀色の液体を二つのグラスに注ぎ対面のソファに座り込む。一つを次元へ、一つを自分へ。
「長げぇ話になる、まぁ飲もうぜ」
グラスを煽る男二人を裸電球が怪しく照らしていた、半地下のアジトの中、天井近くに取り付けられた小さな窓から僅かに遠くのサイレンの音が聞こえてくる。
酒のお陰か、回りの良くなった舌でルパンが喋り出す。
「俺が駆け出しの頃だ、修行中の身ってのもあったが南米の方で捕まった事があってな?そん時に刑務所の中でドイツ人の爺さんと知り合いになった」
続けろとばかりに新しいタバコに火をつけ次元は酒を煽る
「それで?その爺さんが一体なんだってんだルパン」
「話はこっからさ、爺さんいわく爺さんの親父さん、まぁややこしいから親父さんで通すとして、普通の会計士だったって話なんだが、第二次世界大戦中に軍に協力させられてたらしくってな??その親父さんから寝物語に聞かされたってのが今回狙ってるお宝、ナチスドイツの一派、ヨハンシュミット率いるヒドラの隠されし財宝って訳なのさ」
「おいルパン、そいつぁ与太話じゃねぇのか?大戦中の埋蔵金なんて話は腐るほどあるぜ?」
それがそうでも無ぇのよ、ルパンはソファにもたれ楽しげにグラスの中の氷を光にあてる、カラリと氷が音を立てた。確信が無きゃこんな真似はしない、次元もルパンも儀式めいたこの時間がそれなりに好きだった。
「当時、世界は荒れに荒れて居た、そんな中何の力も権力も持たない自分達の身を守る為、粛清や密告の蔓延るドイツ国内の会計士達は組合を作った。まぁ実態は組合って言うよりは監視組織の方が近いかも知れねぇ、上は戦艦の弾薬から下は薪の購入代まで当時の軍に関わる国中の金の動きを把握すれば軍事作戦に巻き込まれる事なく終戦まで生き延びる事が出来る」
何をするでもねぇさ、ただ生き残る為に見張る。爺さんいわく、親父さんはその名前も無ぇ組織の一員だったって話だ。
「でだ、組織の一員として真面目に働く傍らで監視を続けてる中で、ナチス軍内部に金が入ったまま出てこねぇ場所があることに気付いた」
「俺にも読めてきたぞ、それが今回のお宝って訳か」
ヌフフフフと笑いながらルパンがお互いのグラスにお代わりを注いだ、大の男が二人で膝を付き合わせて悪巧み、酒が進まない筈もない。
「その通り、爺さんいわく車の燃料代に給料の振込先、積み荷の明細に対して不自然な迄に多い護衛の数、相当細かい所まで組織の人間は見張ってたらしい」
楽しくなって来やがった、そう言いながら次元はまた新しいタバコに火をつけ酒を煽った。
「俺もわかる範囲で調べはしたんだがよ?手に入った資料にしてもある程度の擬装の跡はあったが帳尻があってねぇ、明らかに溜め込まれた後がある。あの頃に行方が分からなくなったお宝と時期を照らし合わせると金銀財宝に美術品、確認出来るだけでも相当なもんが溜め込まれてるぜありゃあ」
「だがなぁルパン、そんな代物が今の今まで誰も手を付けずに残ってたってのは、何か訳有りなんじゃねぇのか??」
そうなのよ、それが今回の急な仕事の理由でな?
「爺さんいわく金の流れが一つの基地に集中しているってのは調べが着いたらしいんだが。その基地ってのがなんせ戦争の勝敗を決める当時最先端の研究をしていたヒドラのものだ、所在は軍内部でも厳重に秘匿され当時ただの会計士だった組織の人間にも知りようが無かった」
当然爺さんもそこんとこはさぁっぱりらしくてな??俺も頑張っちゃみたが、山の奥深くに存在しているってボンヤリしたとこしかわかんなくてよ、場所を知ってる人間や資料も時間と軍事機密のせいで残っちゃ居ない。おまけに忘れ去られた結果お宝も山奥で眠ったままになっちまってる。
まぁ、駆け出しだったのもあって当時の俺は其処で諦めちまったって訳。
ソファに深くもたれ溜め息を吐くようにそう言いルパンが俯く。話を盛り上げたがるのはこの男の悪い癖だと、そんな事を思いながら同時に嫌いじゃないとも思いつつ次元が問い掛ける。
「なるほどな、ルパン話はわかったが、それがなんだって今回仕事に繋がる訳だ?古くさいスーツとお宝の何が関係し……なるほどな」
そういう事、ルパンはヌフフフフと笑いながら懐からキャンディを取り出し次元に放る。
「今日スミソニアン博物館で見たろ?熱心にヒドラと戦って秘密基地の殆どを壊滅させたアメリカの英雄。スーパースター様なんで正面からじゃ会っちゃくれないだろうけんどもな?」
自分が昔着てた衣装が盗まれる、なんてデバってこざるをえねぇさ。
キャンディの包み紙にはキャプテンアメリカが印刷されていた。