通学路にて、木曽あずきはふと思い出した。
「……アレ買っていませんでしたね」
スマホを取り出し、時間を確認する。時は午前12時、正午を指している。学園は短縮授業で午前中で終わりだった。
「まだこの時間なら、現実世界に行っても問題はないでしょう。寧ろ、今なら現実世界に溶け込む最良のベストコンディションです。試したいですし」
木曽あずきは、現実世界に行く方法を知っていた。以前にばあちゃるから聞いていたのだ。
※
それはLIVEが終わって、一段落してからピノからの素朴な疑問からくるものだった。
『そういえば、前から気になっていたのですが、お馬さんってどうやってこちらの世界とあちらの世界と行き来してるのでしょう。お姉ちゃん方はどう思われま――って頭のお堅い人ばかりじゃないですか!!』
ピノの言う通り、その場に居たのは例の3人だった。他の部員は何処へ。
この国には、三人寄れば文殊の知恵というのがあるそうだが、彼女らの場合のどうなるかはさておき、問題はいろはとめめめだった。解凍されたマラカス妖怪状態のいろはと、ヘンなステップを踏みながらピノの視界にログインしたり、ログアウトしていた。
『なにしてるんでしょう、お2人方……。あれ、イオリお姉ちゃんはどこに……』
ピノはイオリを探した。結果から言うと寝ていた。二段ベットじゃないベットの下に寝るなど誰が思うか。
『まあ、イオリお姉ちゃんらしいですね』
寝ているイオリをそっとして、ピノは美術室を出るのだった。何時からここをアイドル部の部室だと思っていたか。にしても、最近の美術室は凄いな。だって、ベットがあるのだから。数行前を見返してもらいたい。以上だ。
話を進める。
NO ROOMを出たピノはここであずきに出会った。
『実は……』
ピノはあずきに、ばあちゃるの件について話した。親身に聞いていたかと思えば、話を聞き終えるとあずきは言う。
『なら、本人に聞けばいいじゃないですか。さあ、ご案内しますよ』
あずきはピノの手を引っ張って一回転し、方向を変え連れていった。どこへ。勿論、ばあちゃる学園学園長ばあちゃるの部屋にだ。
『――ばあちゃるさん』
ばあちゃるの部屋に到達した彼女たちはドアを開ける。ドアを開けた先には、ばあちゃるが居た。
『おや、あずあずとぴーぴーじゃないっすか! コホンッ……どうかしたのかね』
ピノが呆れた目でばあちゃるを見る。
『どうかしたのかね……という質問ですが、そっくりそのままお返しします』
『……』
『まあ、今は答えなくてもいいです。それよりも今はカルロさんの話を聞いてやってください』
『ぴーぴー! 質問かい?』
『え、あ、はい。実は前から気になっていたのですが、お馬さんはどうやってあちらの世界とこちらの世界を行き来しているのかなと思いまして』
ばあちゃるはピノとあずきを手招きした。そして、ピノには紅茶、あずきには水を差しだした。
『いや、水はないでしょう』
あずき、渾身のツッコミ。
『やっぱり……?』
『コーヒーもなければ、本格的な紅茶もなく、あるのはインスタントな紅茶のみとは……。メディア並みに舐め腐ってますね』
以下、自粛。はい。
『簡単っすよ……。だって、顔を隠すだけなんすもの』
※
「なんか、余計な回想もあったような気がするけど」
木曽あずきは回顧した。LIVEも含め。
「顔を隠すだけ……つまり、既に私たちにある価値を消せば、現実世界へ行けるというわけですか。この創作作品においては。
「……まあ、そうとなれば行動に移さなければなりませんね」
あずきは、いつか来るこの日のような事について対応品を持っていた。黒髪カツラ。サングラス。マスク。毛糸帽。ネックマフラー。地味な長袖一式。
夏には地獄のセットである。
「現実世界へのゲートについても、作らなくては。でも、あずきにかかればそんなのお茶の子さいさいです」
リュックサックからPCとさっきの変装道具一式を取り出し、PCを起動させる。起動させている内にあずきは着替えた。
「ここをこうして、こうすることによって……」
世界ゲートが完成した。あくまで簡易的なゲートであり、このままでは他人からも見れてしまう。あずきは世界ゲートにひと手間加えた。
「真完成しました。名付けて『亞空間転送装置』です。しかし、この変装暑い」
亞空間物体転送装置。また別の名を、夢見るゲートに。
「さて、スポーン地点はどうしましょうかね……。効果も調べておきたいので、目的地の近くの駅から二駅程離れた所にしますか。福間駅から二駅離れるとなると、高椅駅になりますね。ここに設定してっと」
PCのタイピング音が昼間の誰もいない広場で広がる。力強く実行キーを押すあずき。
すると、亞空間物体転送装置に繋がれた広場の倉庫のドアが変化した。どのように変化したかというと、質素なドアから上質なドアに変化した程度である。だが、この装置の凄いところは、あずき以外の人には干渉しないことである。流石、木曽あずき。
「潜ります」
彼女はそう言って、現実世界への……夢見るゲートを開いた。
~~
福間駅から二駅離れた高椅駅近くの公園にあずきは実体化した。
「ここが現実世界ですか……。なんだか、生き辛いですねぇー」
無理もない。公園とは言っても周りはマンションに囲まれており、電脳世界の広場よりも圧倒的に小さい。
あずきは公園にある案内板にて高椅駅を確認する。
「ふむふむ、なるほど。そこをそう行けば着くと……。では出発しますかね」
歩き出せ、あずき。全てはある目的のために。
「あの地の文さん? 朝ドラみたいなナレーションはいらないです」
はい。
「なんだたったら、私が地の文も担当しましょうか?」
え? あ、はい。お願いします。
私は高椅駅に到着しました。此処にて使うのは、ばあちゃる学園長からこっそりとくすねてきたICカードです。
流石に電脳世界のものを改変させるわけにはいけませんからね。
スマホを見ながら、電車を待つ私。周りから見れば、毛糸帽の地味な長袖を来たダサい女がいるという事実だけ……。上手くいっている。
電車へ乗り込む。うん、空調が効いてて涼しい。
スマホでエゴサしている内に高椅駅の次、寿駅に到着した。乗客の入れ替えが起こます。いかにも、日常の光景でありました。
全く気にしていませんでしたが、東都メトロ、言い換えると都営地下鉄が運営しているようでした。どうでもいいですね。
「もう少しで、福間駅ですね」
と、独り言を呟いてみる。暇であった。
いや、違いますね。もうすぐで目当てのものが手に入るという喜び。そして、それを手に入れた後の喜び。まだ買ってもいないのにその狭間にいる私。そういった心情が暇に現れたと言うべきでしょう。この場合。
目的の駅、福間駅に着きました。
地下から、地上へエレベーターを使う。決してトレベーターではないと思いたい。まあ、トレベータ―でも構いませんが。ただトレベータ―だと、垂直ではなく水平で一向に地上には出られない。
スマホで目的の店を確認し、足を急がせる。これは紛れもなく目当てのものがもう少しで手に入るという喜びからくるものでありましょう。と、心の中で考えている間に。
「着いた」
着いた。文字通りである。
中古CDショップ「Ψの館」に着きました。ここで私の最初に言った言葉を振り替えりましょう。
アレ買っていませんでしたね、と言ったはずだ。買っていなかったというときは、新品の可能性がかなり高い。しかし、私は中古ショップに居る。これは一体何故か。
答えは一つしかあるまい。真実と同じように。
この場合の答えは、ただの中古店ではないよということである。実はこの中古店、私の知る限りでは、私のいつも求めている「アレ」系をどこのCDショップよりも早く仕入れてくれているのである。新作品を。
つまり此処には、新作と中古が入り乱れているのだ。
「あった……」
お目当てのものを手に取る私。やっと見つけました。まあ、専用コーナーから探しただけですが。
CDの側面にはこう書かれていた。
『核P-MODEL』と。
「現物の感触、ヤババ」
あまりの限界さに訳のわからぬ言葉を言う自分。少し落ち着いてもらおうか。
「ふぅ……」
深呼吸をする。
ばあちゃるさんからも聞いていましたが、こんなにも重厚感が違うとは……。
他にも数点『P-MODEL』『平沢進』のCDを選んでレジへと持っていきました。満足です。
しかし。
「帰り方、全然考えていませんでした」
さて、どうしたものか。
ただそんなこともあろうかと、私は一手先を読んでいた。
スマホを取り出す。実はこのスマホ、正式名称は「亞空間転送装置に付随しないけど、別空間を通話できるスマホ」といって、スマホを改造しました。長いので、亞空間通話装置とさせていただきます。
亞空間通話装置を取り出した私は、りこさんに電話を掛けます。手伝ってほしいと。今の状況を説明し、ある操作をお願いしました。忙しい中、構ってくれたりこさんに感謝です。
『出来たよ、あずきち』
何が出来たかというと、また適当なドアを今度は電脳世界に繋げてくれたことです。
「ありがとうございます、りこさん」
『にしても、ミスするなんてあずきちらしくな――』
「切る」
恥ずかしいので切ります。
では、適当なドアを開け、家々の窓を破りながら帰りますか。
~~
戻ってきました。
今日は私にとって、いい経験になりました。
念願の核P3rdアルバム「回=回」も買えて、さらにはその他も買えましたし。
しかし、困ったことがあります。
「ばあちゃるさんのデスクから取ってきたICカード、どうやって返しましょうかね?」
どうやら、最後の最後まで私を楽しませてくれるようですね。この問題については、電脳世界同士ですので、あずきマジックで何とかしてみせましょう。
どうやら、希望字数を到達したようで。
それじゃ、今日のヒト科の進歩とは言い難いナニカがこれでおしまい。
「またこんど!」