今日から雨男に関する日記を付けようと思う。
先ず、あいつの特徴は
➀雨の日に現れる
そして、雨が止むと居なくなる。
➁格好はいつも同じ
黒ずくめの不審者。おなし←洗濯してる?
➂雨が好き。
私とは絶対に気が合わない。
➃恐らく、私以外には見えてない。
少なくとも学校の友達や家族には見えなかった。
あいつは私と話がしたいらしい。
次に雨が降ったらすぐに見つけ出してやる。
雨が降り出した。
見つけた。
「やあ」
「そんな所で何してんの?」
「何もしてないさ」
ヒカルが雨合羽を着て公園に来ると、雨男は滑り台の上に立って空を見ていた。
その場所にいる理由を聞いても前回同様まともな返事は無かった。
ヒカルは滑り台の階段側に腰掛けて雨男と同じように顔を上げた。
雨粒が顔を打つのは嫌な気分だが、今はまだ小雨で大した影響は無い。
話の種は、雨を眺めるのが嫌になったヒカルから切り出した。と言っても雨男と話すことは、雨の話以外に無いのだろうが。
「何で雨が好きなの?」
「それは無意味な質問だと思わないかい?」
「はあ…?」
相変わらず、はぐらかすような答え方ばかりする奴だ。ムカつく。
「好きって事に理由を付けても、白けるだけさ」
「何言ってんの。ワケわかんない」
「君は晴れが好きかい?」
「うん」
「それはどうして?」
「…雨が嫌いだから」
「そういう事さ」
いや、どういう事だ?
この男と話していても全く会話になる気がしない。
好きとか嫌いとか、そういう観点で話をしても、そもそも見えているものが違うのだから話が噛み合っていない。
仕方なくヒカルは話題を変えた。
「お前、何歳なの?」
「生まれたばかりさ」
「…馬鹿にすんなよ」
「してないさ。君は?」
「…14歳」
「じゃあ俺も14歳」
「この野郎」
駄目だ。
やっぱりこの男は自分をからかっている。まともに会話する気などさらさら無いに違いない。
ヒカルが溜め息を吐くと同時に砂場を踏む音がして、振り向くと雨男は滑り台を下りていた。
「…今更だけど、何で傘差さないの」
「雨に打たれたいと思ったことは?」
「あるわけないじゃん」
「俺はいつも思っているよ」
「変なヤツ。…雨なんて悲しくなるだけじゃん」
「それだよ」
「え?」
いつの間にか雨男はヒカルの隣に立っていた。
自分の雨合羽のせいで絶妙に顔が見えないが、笑ってはいないようにヒカルには見えた。
「多くの人が悲しい時に雨を意識する。悲しみと雨を絡めて考える。雨を悲しみの象徴とする」
雨には何の責任も無いのにね、と雨男はヒカルを流し見た。
「…何が言いたいの」
「雨が悲しみを集めてしまうなら、悲しみを受け止める者が必要だ。だから」
その為に僕がいる。
それが、今日最後の奴の台詞だった。
差し込んだ陽の光を感じてヒカルがフードを脱いだ時、既に雨男は消えていた。