【短編】悪魔な白猫は純真過ぎる少女を守りたい 作:ウルハーツ
「こねこ♪ こねこ♪ こねこねこ♪」
駒王学園の制服を着た背の低い大凡高校生とは思えない1人の少女が適当に思い付いた歌を歌いながら笑顔で通学路を歩いていた。そんな彼女の姿に向けられる数々の視線はどれも温かいもの。そしてその視線の1つは彼女の真横から向けられるものもあった。
「ご機嫌、だね」
「うん! 実はね! 家のシロが昨日、ついに子供を産んだの! 可愛くて可愛くて……えへへ」
少女よりも僅かに高い身長をし乍らもやはり高校生とは思えない程に幼い見た目をした白髪の少女、塔城 小猫。彼女は自分の隣で眩しさすら感じる程に綺麗で明るい笑顔を浮かべる同級生……
「今度小猫も見に来て! すっごくすっごぉーく可愛いから!」
奏の言葉に小猫は悩む様子も無く頷いて答える。それからご機嫌な彼女と歩き続ける間、小猫が向ける視線は周りと同じく優しいものだった。……そして駒王学園へ到着すれば、2人は同じ教室で授業を受ける。休み時間も基本的には一緒に過ごし、その日の内に今度が【今日】になるのは簡単な事であった。一応部活に入っていた小猫は最初に部長へ相談すると断りを入れ、休み時間に確認を終えた小猫。部長からは『友達との時間を大事にしなさい』とありがたい言葉を頂き、小猫は奏の家へ共に向かう。
「ただいま~! シロ~!」
家へ到着してすぐ、奏は玄関で靴を脱いで真っ先に溺愛する猫の元へ向かい始める。自宅だからと気にしていない様子で乱雑に置かれる靴に小猫は溜息をつくと、自ら脱いだ靴も含めて揃えてから中へ。リビングに入った彼女の目の前に映ったのは、膝の上に平均的なサイズの猫を乗せてその周りに小さな小さな子猫が2匹集まる光景であった。……とても和やかでとても幸せそうで、小猫の心は一気に温まる。
「小猫! ここに座って!」
「? 分かった」
奏に催促されて彼女の隣へ座る事になった小猫。奏は小猫が座る前に小さな猫を手で持ちあげ、座った彼女の膝上に乗せる。小さな声でみゃーみゃーと鳴きながら擦り寄る小さな猫の姿に小猫は言葉にならない程の何かを胸の内に感じ始めた。
「シロもこれでお母さんなんだね~。あれ? そう言えばお父さんって何処に居るんだろう?」
「……」
「子供ってお母さんだけで出来るのかな? ……? そもそも子供ってどうやって」
「そんな事より、この子達の名前。もう決めた?」
「あ、ううん。まだだよ。1匹は自分で決めるつもりだけど、もう1匹は小猫に付けて貰いたいの!」
「……私に?」
話を逸らす事に成功した小猫は奏の言葉に首を傾げる。現在小猫の膝上には1匹の猫。もう1匹は奏の腕に抱かれており、親猫であるシロは優しく見守っている様であった。飼い主である奏は勿論の事、何度かお邪魔している小猫にも心を許している証である。
「う~ん、どんな名前にしようかな~? スフィンクスとか?」
「何でそうなるの…………」
小猫は奏の候補を聞いて疑問に思いながら、両手で小さな猫を持ちあげてジッと見続け始める。それからしばらくの間名前について考えた2人。やがてそれが決まった時、奏は新しい名前を呼びながら3匹を同時に抱きしめる。まるで受け入れる様に鳴く猫達の姿に小猫は今朝同様に優しい目を向けるのだった。
「とても可愛かったです。飼いたくなってしまう程に」
「そう。それは私も見て見たいわね」
オカルト研究部。駒王学園にあるその部活に在籍する小猫は翌日、部長であるリアス・グレモリーや部員である姫島 朱乃に昨日の出来事を説明していた。休む為に1度話をした事もあり、猫を見に行った事は知っていた2人。小猫の説明と感想に余り変わらない表情の奥に僅かな笑みがある様に感じて、2人は彼女へ優しい目を向ける。
「彼女なら私と同じ教室に居ますよ」
「友達の貴女ならいざ知らず、初対面でいきなり『貴女の家で産まれた子猫を見せて?』何て流石に言えないわよ」
「? 部長は猫が見たいんですか?」
「え?」
「?」
だが優しい目を向けていた2人は小猫の言葉に疑問を抱いた。まるで何かが噛み合っていない様な違和感。先程まで猫の話をしていたにも関わらず、まるでリアスが見たいと言ったのが猫である事に不思議そうな様子で聞き返した小猫。戸惑うリアスを前に今まで聞きに徹していた朱乃が口を開いた。
「小猫ちゃんは猫を見に行ったんですわよね?」
「はい、そうです」
「それで猫が可愛かったと」
「そうですね。猫も可愛かったです」
「……も?」
小猫の言葉に再び疑問を抱いた2人。だがその疑問の答えは殆ど出ていた。唯、それを認めるには抵抗があるだけである。が、曖昧で終わらせるのも嫌だったリアスは到頭それを質問した。
「こ、小猫? 確認なのだけど……何を飼いたいと思ったの?」
「? 奏さんですが」
≪!?≫
この日、リアスと朱乃は2人をお姉様と呼んで慕う駒王学園に在籍する生徒達にはとても見せられない程に間抜けな表情を浮かべる事になった。そしてその日以降、杉村 奏を見守る人物が時々現れる様になるのは当然の事なのかも知れない。
ある日の事。新しい眷属と共にとある存在を滅する為にリアスは街の外れにある廃屋へ足を運んでいた。色々な秘密を抱えている彼女は街の住人達には気付かれない様にそれを行う必要があり、目的の存在を探そうとする。だが彼女が見つけるよりも先に気付いたのは小猫であった。
「……この匂い」
「小猫?」
何かを匂いに気付いた様子の小猫が歩き始め、1人には出来ないと全員で彼女の後を追い始めるリアス。やがて小猫が身を屈めて何かの様子を伺う様な体勢になった事で、リアス達も同じ様に身を隠しながら小猫の見る視線の先を注目した。……そこに居たのは2人の人影。いや、1人は人とは到底呼べない姿をしていた。
「あれは、はぐれ悪魔バイサー! 一緒に居るのは……!? 奏ちゃん!?」
「そんな! 何で彼女がここに!? 今すぐ助けなければ!」
「待ってください」
その正体に気付いた朱乃の言葉で飛び出そうとしたリアス。だが小猫はそれを制止する。リアスが滅そうとしている存在、それこそが今現在奏と一緒に居るバイサーであった。上半身は裸の女性だが、その下半身は四足歩行の獣。ケンタウロスとも呼称出来そうなその見た目は所謂人外であり、リアス達の元に届いている情報では残虐非道な存在だと伝わっていた。今すぐにでも助けなければ奏はバイサーに食べられる可能性が高い。そう思った故に、2人は行動しようとするが……小猫の行動に2人は戸惑わずにはいられなかった。
「何を言っているの!? 今すぐ助けないと彼女は!」
「よく観てください」
「え?」
小猫の言葉でリアスは視線をもう1度1人と1体へ向ける。……そこにあったのは人間と人間を襲おうとしている悪魔。の様で色々と違う光景であった。
「美味そうだなぁ」
「うん! 美味しいよ! お馬さんも食べる?」
『にゃぁ~』
「お前、私を見て何も思わないのか?」
「? う~ん、足が速そう!」
「いや、そうじゃ無い。……何なんだ、この人間は」
「どうしたの? 何か辛いの? 辛い時は美味しいのを食べると良いんだよ? はい、お馬さんにもあげる!」
「何だ、これは?」
「プリンアラモード! 甘くて美味しいんだよ! はい、スプーン」
人外であるバイサーは人間を食べる事もあった。いや、寧ろ好んで食べる事の方が多い。だが奏を見下ろしながら言った言葉に奏自身が怯えるどころか、手に持っていたカップの容器を前に笑顔で答えた。頭の上には小猫の名付けた小さな猫が乗っており、バイサーは目の前の出来事を前に困惑した様子を見せる。そしてまるで調子が狂うと苦い表情を浮かべれば、心配そうに声を掛けた奏が手にぶら下げていた袋から同じ容器とスプーンを取り出してバイサーへ渡し始める。
「お前の方が甘くて美味そうだがなぁ」
バイサーはそう言いながら奏から容器とスプーンを受け取り、それを口にする。すると奏は彼女の隣に座り込んで同じ様に食べ掛けのプリンアラモードを食し始めた。逃げも怯えもしないその姿にバイサーは眉間に皺を寄せ、やがて馬の足を曲げて同じ様に座り込む。小さな少女と下半身が馬の女性では、座っていても大人と子供の以上の身長差があった。
「美味しいでしょ?」
「……あぁ」
「美味しく無いの?」
「あ、いや。う、美味い! 美味いぞ!?」
「そっか……えへへ、良かった!」
笑顔で声を掛ける奏に美味しくとも微妙な表情を浮かべていたバイサー。だがその様子を前に不安そうな表情を奏が浮かべ始めれば、バイサーは思わず焦って彼女のご機嫌を取ってしまった。安心した様子で再び食べ始める奏を前に、バイサーは『何をやっているんだ、私は』と思わず自問自答する。……そこでようやく、今まで聞きに徹していた人物の1人が姿を見せた。
「奏さん」
「? あ、小猫! どうしたの、こんな所で!」
「それは此方の台詞。見たところ、買い物帰り……かな?」
「うん。寝る前にプリンが食べたくなって、家に無かったからコンビニに買いに行ったの。でも無くて遠くのコンビニまで行って、そしたらこの子が勝手に何処か行っちゃうんだもん。あ、でもそのお蔭で喋るお馬さんと会ったの!」
「……」
「……」
見つめ合う小猫とバイサー。物陰で小猫に『待っていてください』と言われ、ハラハラしながら事の成り行きを見守っていたリアス達は奏がここまで来た経緯を理解する。簡単に纏めれば、買い物帰りに飛び出した飼い猫を追い掛けて迷い込んだのだ。しばらく見つめ合った小猫とバイサー。やがて小猫が視線を奏へ移すと、声を掛けた。
「もう真夜中。帰った方が良い」
「あ! 明日寝坊しちゃう。小猫も何してるかわからないけど、また明日学校でね!」
「ん。また明日」
「おい、人間。これは」
「それはお馬さんにあげる。バイバイ!」
小猫の言葉を聞いて立ち上がった奏は手を振りながらその場を去ってしまう。そして残されたのはバイサーと小猫だけ。奏が居なくなった事で彼女の背後からリアス達も姿を見せ始め、バイサーは僅かに笑みを見せた。
「私を殺しに来たか」
「はぐれ悪魔バイサー。グレモリーの名の元に、貴女を滅するわ」
「……そうか」
リアスの言葉にバイサーは怯える訳でも怒る訳でも無く、抵抗すら見せずに手元にあるプリンアラモードを見る。そしてスプーンで掬って口へ1回。その甘さを感じ乍ら、彼女は何かの感情を含んだ息を吐いた。
「可笑しな人間も居た者だ。……今まで人間を当たり前の様に食べて来た癖に、今更人間を考える私も可笑しいのかも知れないな」
「……」
バイサーの言葉に誰も口を開く事は無かった。彼女はスプーンを床へ放り捨てて容器を口の上で逆さにする。当然重力に従って全てが彼女の口へ落ちて行き、一口で残りを食べてしまったバイサーは喉を鳴らしてそれを飲み込むとリアスへ視線を向けた。
「殺れ」
「……さようなら」
彼女の言葉と同時にリアスは滅びの魔力と呼ばれるそれをバイサーへ向ける。……その日、はぐれ悪魔バイサーの討伐は完了した。
「ふぁ~あ」
「眠そう」
「う~ん。結局寝れたの2時過ぎだったんだもん。ふぁ~あ……うぅ、授業中に眠っちゃいそう」
「大丈夫。起こす」
「ぅん、ぉ願ぃ……すぅ……すぅ」
翌日の駒王学園1年生の教室にて、眠そうに会話をする奏と話をしていた小猫は目の前で到頭話しながら寝付いてしまった奏の姿を前にジッとその様子を伺う。そして周囲を見れば他の生徒達と話をするクラスメイト達の姿。誰も自分を見ていないと理解した彼女はゆっくりと奏の頭に手を乗せて撫で始める。
「ぅ、ん……」
「……可愛い」
≪ぐはっ!≫
実は見て無い様に見せ掛けていただけで2人を気にしていた生徒達は男女問わず一斉に口や鼻から愛を噴き出した。だが例え死にかけても小猫に見ている事がばれない様にする技術は素晴らしいもので、教員がやって来るその時まで小猫は奏の頭を撫で続ける。
『小猫。特に何かするつもりは無いけど、一応奏ちゃんの周囲に気を付けてあげて。1度でも世界の裏に関わった以上、何かに巻き込まれても可笑しく無いわ』
「絶対、守るから」
奏の一人称に相応しいのは?
-
私
-
奏
-
僕
-
無い方が良い