【短編】悪魔な白猫は純真過ぎる少女を守りたい 作:ウルハーツ
塔城 小猫は悪魔である。詳細は省くが、現在の主であるリアスの悪魔として今の生活を送っている小猫。だが彼女が悪魔になる前、その身が人だったかと問われればそれは否である。……彼女は猫又と呼ばれる妖怪の類であり、人とは違う。故に彼女は普通の人間には出来ない事をする能力があった。
『娘達が生まれてからご主人の笑顔が更に増えた。今まで以上に、それはもう溢れる程に』
「そうですね。とっても、楽しそうです」
現在、小猫は奏の家に来ていた。自分の座るソファの半分を贅沢に使って丸くなる奏の愛猫、シロと【会話】をし乍ら眺めるのは2匹の小さな猫とじゃれ合う奏の姿。つい先程までは一緒に隣り合って座っていたのだが、子猫の2匹が飛び出した事で奏がそれを追い掛けて今に至る。まるで奏を呼ぶ様に鳴き声を上げて走る猫達と、会話は出来ずとも『捕まえてごらん!』と言われたのを察した奏。その結果出来上がったのは、同じ部屋で永遠にぐるぐると回り続ける1人と2匹の光景であった。
『にしてもあの名前はどうかと思うな』
「ふにゃ!? 顔に飛び掛って来るなんて酷いよエリザベス! ってふぁ!? スフィンクス、耳、舐めちゃ、ふぁ、ふぁめ~!」
「……奏さんのセンスにつられてしまいました」
『まぁ、娘達は特に嫌がって居ない様だけど……私がシロなのにその娘がエリザベスとスフィンクスって可笑しいと思う』
「……」
抗議する様に向けられるシロの視線から逃れる様に立ち上がった小猫は耳を舐められて力を失ったせいで横になった奏の元へ近づくと、スフィンクスに「駄目」とだけ言って引き剥がした後に奏を横抱きに抱えて戻り始める。小さな人間の身体を悪魔である小猫が持ち上げるのは簡単だった。目を回した様子の奏を座らせて横に座った小猫はジッとその顔を見つめ始める。
『何か、変な事考えて無い?』
「…………別に考えて無いです」
冷たい視線を背中に受けた小猫は来訪した際に奏が用意した既に冷めてしまったお茶を啜る。一応小皿に羊羹が用意されていたが、既にそれは胃袋の中。少し寂しく感じた小猫は立ち上がると、一度その場を後にして……手に羊羹の入った袋を持って戻った。
『まるで自分の家の様に』
「私が用意した物ですから」
『……それもそうだね』
小猫の言葉にシロは部屋を見渡した。他の家に行く事が殆ど無い為、シロにその違いを判別する事は出来ない。だが確実に分かるのは、家具以外の品々。食器や本などの一部は奏が用意したものでは無いと言う事。もう何度もここに訪れている小猫。泊まった事すらある為、奏が『面倒な物は置いて行って良いよ!』と許可したのである。故に杉村家のお菓子は殆ど小猫持参の物だった。
「ふぁ~……? 甘い匂い? お菓子!」
「戻った。食べる?」
「食べる!」
羊羹の甘い匂いを感じて我に返った奏は小猫の言葉に笑顔で答える。するとそんな奏の両肩に小さな猫達が乗り始め、左右から奏の頬に頬擦りを始めた。奏には聞こえないが、小猫とシロには分かる。『もっと遊んで!』と言っているのだ。そして例え聞こえては居なくても、奏にもその意は伝わった。
「少し休憩して、それから! ね?」
『にゃぁ~お(こっちへおいで)』
奏の言葉と共にシロが鳴きながら娘達を呼ぶ。2匹は母親の言葉に従って奏から離れ、そこで用意を終えた小猫が奏の隣に三度座る。……その後も続いたお茶会の様な時間は、空が茜色に染まるまで続くのだった。
アイスクリームの店前で1人の少女が涎を垂らしながらそれを物欲し気に眺めていた。金色の髪を左右で結んだその少女はお腹の音を鳴らし、やがてその場に座り込んでしまう。
「うぅ……腹が減ったッス」
弱々しくそう呟いた少女。するとそんな彼女の傍に小さな影が出来る。人通りがあるその場所で影が動くのは不思議な事では無い。だが少女は目の前に出来た影が動かない事に気付いて不審に思い、振り返った。……そこに立っていたのは頭に1匹の猫を乗せた女の子。片手には色違いの丸いアイスを2つ載せた現在少女が欲するものがあり、もう片手にはカップに入った丸いアイスが1つ。女の子は笑顔でそれを差し出した。
「はい!」
「……え?」
「お腹空いてるんでしょ?」
「す、空いてるっすけど……何で」
「う~ん、美味しい物は笑顔で食べるから美味しいんだよ! そしてもっと笑顔になれるの。食べる時に食べられない人が居たら笑顔になれないから。そしたら美味しくなくなっちゃう。だからあげるの!」
それは女の子なりの持論。だがその言葉と無垢な笑顔に邪な感情を欠片も感じなかった少女は恐る恐る女の子の差し出したアイスを受け取り、チラチラとその姿を確認しながらアイスをスプーンで掬って一口。……一瞬で警戒心の含まれた表情がアイスの様に蕩けていった。
「う、美味いッス……こんな美味いの、初めてで……うぅ」
「ふぇ? な、何で泣いちゃうの!? あわわ、どうしようスフィンクス!?」
『にゃ~?』
少女はアイスの甘さと女の子の優しさに涙を流し始め、女の子……奏は予想外の出来事に慌て始めてしまう。呑気に鳴き声を上げるスフィンクスの声を聞いて奏がどうすれば良いか必死に考えようとした時、少女は目元を拭って立ち上がった。
「わ、悪かったッス。今のは嬉し泣きって奴だから気にしないで欲しいッス。……ここ最近、忙しかったせいで優しさってのを感じて無かったッスから」
「?」
最後の声は小さかった故に奏の耳に届く事は無かった。が、それでも少女には何の問題も無かった。残ったアイスを食べる為にスプーンを動かす中、奏の頭上に居たスフィンクスが再び鳴き声を上げる。何事かと同時に2人で頭の上を見上げた後、少女は視線を下げてそれに気が付いた。
「ちょ! 溶けてる! 溶けてるッスよ!」
「へ? わぁ!? あわわわわ!」
少女の手に有ったのはカップ。故に最悪溶けても問題無かったが、奏が持っていたのはコーンの上に2つを乗せたもの。故に常温の中では徐々に溶け始めており、気付いた頃には上の1個が落ちそうになっていた。奏は少女の言葉に慌てて気が付くと、落ちかけるそれを口で押える。開いた口よりも一回り大きかったそれは鼻に乗る様にして落下は免れる。が、奏は下手な身動きが取れなかった。
「ど、どぅしよぉ?」
「ちょっとそのまま頑張るッス! 今、カップ貰って来るッスから!」
奏の状態に少女は慌て乍ら店内へ入り、店員へ事情を説明する。最初は訝し気な表情だった店員も少女が指差した先にあったガラス越しの光景に納得してカップを渡し、奏の元に戻った少女はそれを顔の傍へ近づける。
「ほら、ここに落とせば!」
「う、うん。えいっ!」
「……ぁ」
少女の言葉に奏が顔を傾けた時、寄り掛かっていたアイスはカップの中へ……入る事無く縁に当たって地面へ落下した。何とも言えない沈黙が続く中、スフィンクスが奏の頭から降りてそれを舐め始める。そこで恐る恐る少女が顔を上げれば、今にも泣き出しそうな奏の姿が。そしてさっきと立場を逆転して、焦る少女の姿がそこに生まれる事になった。
「小猫、1つ聞いて良い?」
「? 何でしょうか?」
「何で……何で貴女、奏ちゃんをここへ連れて来たのよ!?」
そこはオカルト研究部と呼ばれる部活の集まりに使われる旧校舎の一室。だがその実態はリアス・グレモリーを主とした悪魔達の集まりであり、普段は人払いの結界等を使って関係者以外立ち入る事が出来ない様にしていた。が、今日この日普段は来られない筈である来訪者が現れる。それは奏であり、だが彼女が彼女の意思で来た訳では無い。現在彼女はすやすやと寝息を立てており、そんな彼女を連れて来たのは小猫である。
「奏さんがHRで寝てしまったので」
「……それだけ?」
「部長。まさか奏さんを1人、教室に残して来た方が良かったと思ってますか?」
小猫の言葉にリアスと傍に居た朱乃は想像する。薄暗い教室に1人残った奏の様子を。……1つの想像は薄暗い教室の中で1人目を覚ました奏が徐々に不安を感じ始めて泣き出してしまうもの。そしてもう1つは1人なのを良い事に何処かの誰かが奏へ悪戯を始めるもの。それは徐々に過激になっていき、目覚めた後も……何方が何方の想像をしたかはさておき、2人は思う。奏を1人にはして置けないと。
「良くやったわ、小猫」
「えぇ。正しい選択ですわね」
「当然です」
2人の称賛に何処となく誇らし気に答えた小猫。因みに実際奏が1人だった場合は寝てしまった事に慌て乍ら何事も無く帰宅するのだが、奏を見た目通りの幼い少女と思っている2人には分かる訳が無かった。そして分かっている筈の小猫は特に気にしない。唯自分の膝に頭を乗せて眠る奏の髪を手の平で感じれば、後悔等する筈も無かった。
「……そう言えば、部長。最近、奏さんから堕天使の香りがしました」
「何ですって……!」
「もしかしたら、堕天使と接触しているかも知れません」
「堕天使と。また私達の世界と関わってしまったかも知れないと言う事ですわね」
「はい。ですが、少し思っていたのと違うかも知れません」
「どう言う事?」
小猫の言葉にリアスが聞き返す中、彼女は今日奏と話をしていた中で出た『新しい友達』についての説明を始める。語尾に『ッス』と付ける特徴があり、何でも一緒にアイスを食べた仲である事。学校には行っていない様で、最近忙しいせいかお腹を空かせていた事。また一緒にアイスを食べる約束をして、お互いに名前を名乗り合った事。その名を『ミッテルト』と言う事。
「ミッテルト……少なくともイッセーを殺した堕天使とは違う。でも関わりはあるかも知れないわね」
「奏ちゃんから近づいた様ですし、特に企みは無さそうですわ。それでも十分な警戒は必要ですけれど」
「……小猫。以前話をした様に1度関わった以上、何かに巻き込まれる可能性が高いわ。貴女は出来る限り奏ちゃんを守ってあげて」
「はい。奏さんは、私が守ります」
元々決意していた小猫はリアスの命を受けて新たに決意する。そして少し考える仕草をした末、彼女は徐に口を開いた。
「一緒に住むにはどうすれば良いでしょうか?」
「……小猫、そこまでしなくて良いわ」
リアスは以前小猫が奏へ抱いていた感情を思い出し、奏の身に別の意味で不安を感じ始める。だが小猫は特に気にした様子も無く奏を横抱きに抱えると、『家へ送って来ます』と告げて部室を後にした。扉が閉じる中、リアスと朱乃は互いに視線を合わせて会話する。
『大丈夫かしら?』
『大丈夫じゃ無いかも知れないわよ』
≪はぁ……≫
2人の溜息が部室内に響き渡り、それを上書きする様に訪れた2人の男子が肩を落とす2人の姿に気付いて声を掛けるのだった。
「1つ答えなさい。貴女達の中にミッテルトと言う名の堕天使は居るかしら?」
「ふっ。ミッテルトか……奴ならもう居ない」
「……何ですって?」
「レイナーレ様はミッテルトを追放した。下等な人間と友達になった等と、自慢げに話していたからな」
「そんな。それじゃあ今その子は……」
「さぁな。今頃何処に居るのか……どうなったのか」
「……」
雨が降る公園の中、ミッテルトは1人傘も差さずに歩いていた。原因は自分が今まで居た場所を追いだされたからであり、その理由は人間と友達になったから。ミッテルトにとって同僚等は居たとしても、友達と言う存在は居なかった。だから彼女はそれが出来た日、自分の上司や仲間にそれを報告した。初めて出来た友達……それが嬉しくて。だが、それが原因で自分の居場所を失ってしまった彼女は絶望していた。そうして彷徨う様に訪れたその公園で、ミッテルトは1つのベンチを見つめる。
『ほら、泣き止めって。うちの返すッスから』
『ううん、大丈夫。それはミッテルトにあげたんだもん』
『そうッスけど……本当、腹減ってても泣いてる奴の前じゃ美味く無いッスね。そもそも、食べられないッス』
『にゃぁにゃぁ』
それは数日前、友達が出来た日にアイスを落とした奏を連れて座ったベンチだった。『笑顔で食べるから美味しい』と言っておきながら泣いていた奏の姿に自分もアイスの味を余り感じられなくなって、だが泣き止んだ後に食べたアイスの甘さは絶妙で。ミッテルトはその時間がとても楽しかった。彼女を恨むのはお門違いであると分かっている。が、他に当たれる様な相手がミッテルトには居なかった。
何処にも行き場が無い自分とその感情。ミッテルトはその場でしゃがみ込んでしまい、両手で顔を覆った。そしてしばらく雨に紛れて涙を流していた時、突然自分に当たっていた雨の勢いが弱まった事に気付いて顔を上げる。……そこに居たのは自分を見下ろす奏の姿だった。
「ミッテルト、大丈夫!?」
「何で……ここに居るッスか」
「シロ達のおやつが切れちゃったから。そしたら買いに行けって鳴くんだもん」
『にゃぁ!』
「スフィンクス……じゃ、無いッスね」
「この子はエリザベス。って、そんな事よりビショビショだよ! 早く着替えないと!」
それは偶然なのか、必然なのか。ミッテルトと再び出会った奏。先程まで彼女にお門違いな恨みを感じていたミッテルトだが、実際に会って話をしてみればそんな恨みは霧が晴れるかの様に消えてしまう。唯純粋に自分を心配するその姿が、ミッテルトには嬉しかった。
「ミッテルトの家は何処なの?」
「……もう、無いッス」
「……え?」
「追い出されたんスよ。だから何処にも行くところが無いッス」
傘も持ってない状況でミッテルトを1人にする選択肢は奏の中に無かった。だから一緒に家まで。そう思って聞いたつもりが、返って来た答えに彼女は困惑する。だがエリザベスの鳴き声で意を決した奏はミッテルトの手を取って無理矢理立たせ始めた。
「! 何するッスか」
「家に帰るの。ミッテルトも一緒に!」
「へ?」
「エリザベス、偶にはおやつ我慢出来るよね?」
『にゃ!』
力強く頷いて肯定する猫の姿に奏はその頭を優しく撫でると、ミッテルトの手を引いて自宅へ足を進め始める。突然の事に困惑するミッテルトは、自分の手を握る奏の手を弱々しくも振り解こうと思えなかった。
奏の家へ到着した時、ミッテルトはすぐに大きなバスタオルを渡された。そしてお風呂のお湯を沸かせてすぐに脱衣所へ押し込まれた彼女は奏に言われて冷えた身体を温める事にした。温まった後に脱衣所へ戻ればそこにはピンク色のパジャマ。それを着て脱衣所から出れば、今度は美味しそうな匂いがミッテルトの鼻孔を擽った。
「パパッとしか出来なかったけど、夕ご飯だよ!」
「奏、料理出来たんッスね。意外ッス」
「えへへ。ほら、食べて食べて!」
ミッテルトの目の前にあったのはオムライス。ご丁寧に『みってると』とケチャップで書かれており、彼女は奏に急かされてスプーンを手にする。そして『み』の字を僅かに崩して口に入れれば、ケチャップと卵。そして中にあったケチャップライスの味を感じた。それは決して感動する程美味しかった訳では無い。言うならば人並みの味。が、ミッテルトは気付けば涙を流していた。
「あぅ、美味しく無かったの?」
「ち、違うッス。この前と同じ、嬉し泣きッスよ」
「そうなの? ミッテルト、何か食べる度に泣いてるね!」
「う、うるさいッス!」
強い言葉で返しながら頬に涙を流してオムライスを口に入れるミッテルト。そんな姿を奏はテーブルに両肘を突け、左右両方で頬杖を突きながら笑顔で眺めていた。そして少しの間を置いて、奏は頬杖を止める。
「ねぇ、ミッテルト」
「……なんスか?」
「何があったかは分からないけど、行く場所が無いなら家に居ても大丈夫だよ」
「!?」
真夜中。既に奏が猫達と一緒に眠りについている中、同じ布団から抜け出した彼女は電気もついていないリビングで窓から外を見上げていた。既に雨も止んだ空に浮かぶ大きな月。それをジッと眺めて居た時、背後に感じた気配に彼女は溜息をついた。
「やっぱり、気付かれるッスよね。思ったより早かったッスけど」
「貴女がミッテルトさんですね」
奏の家でありながら、そこには奏に連れて来られたミッテルト以外にも別の人物が立って居た。そしてミッテルトがその姿を見た時、少し予想外とばかりに僅か乍ら目を見開く。……彼女が来ると思っていた人物とは違ったのだ。
「この町は確かグレモリーの傘下ッスから、てっきりグレモリーが来ると思ってたッスけど……その必要も無いって事ッスか」
「部長には少し待って貰いました。……いくつか確認したい事があったので。今、この会話は聞かれていると思います」
「確認? うちにッスか?」
ミッテルトは赤い髪をしたグレモリーの者。つまり、リアスが来ると思っていた。だが実際に来たのは白髪。しかも自分と同じ程に小柄で、だがその気配は明らかに悪魔な少女……小猫だった。故に自分には彼女自ら赴く価値も無いと判断された。と思ったミッテルト。だが小猫の言葉で眉を動かして訝し気な表情を浮かべる中、小猫は頷いて口を開いた。
「最初に聞きます。どうして貴女が奏さんの家に居るのですか?」
「あぁ、そう言う事ッスか。別に何もして無いッスよ。唯……唯助けられただけッス」
「……奏さんとはどう言う関係ですか?」
「? 変な事、聞くッスね。……人間と堕天使じゃ笑い話かも知れないッスけど、友達……っとうちは思ってるッス」
「これで最後です……貴女は生きたいですか?」
「愚問ッスね。……生きたいに決まってるじゃないッスか」
その答えを合図に突然浮かび上がる魔法陣。そこから現れたのはミッテルトが来ると考えていたリアスだった。リアスは小猫へ「ご苦労様」と告げ、彼女は僅かに頷いて答えるだけ。ミッテルトは状況が分からず、だが今から何かが自分に起こる事だけは確信していた。
「堕天使ミッテルト。私は貴女が今ここに居る事を許さないわ」
「! 一思いに殺るッス。覚悟は出来てるッスよ」
「あら? 何時私が貴女を滅すと言ったかしら?」
「……へ?」
リアスの言葉に覚悟を示すかの様に両手を開いたミッテルト。だがそれに返された言葉を聞いて彼女は呆気に取られてしまう。リアスの言った言葉をそのまま受け取るならば、彼女に自分を殺すつもりは無いと言っている様なもの。困惑する中、リアスは笑みを浮かべた。
「確かにこの地へ勝手に踏み入った事は許せないわ。でもね……貴女を消すと、悲しむ子が居るのよ」
「!」
「それに貴女は彼女達に生かされた身よ。投げ出すなんて許さないわ」
「生か、された……? 何の話ッスか?」
「貴女、気付いて無いのね」
更なる困惑に苦しむミッテルトを前にリアスはやれやれと言った様子で頭を振ると、続けた。
「今回、貴女は堕天使レイナーレと共にこの地へやって来た。貴女達の目的は自分を見て貰う事。確かにレイナーレがアーシアの力を自分の物に出来た場合、皆が注目するでしょうね。彼女の部下である貴女達も同様に」
「……」
「でもそれは失敗に終わった。もう、彼女達はこの世に居ないわ。塵も残らずに、ね」
「なっ! 皆を、殺したッスか!」
「……えぇ」
ミッテルトはリアスが肯定した事で拳を強く握り締め始める。叶うならば今すぐ彼女へ攻撃を仕掛けたいとすら思う。だが、それを出来ない理由が彼女の中には存在した。1つはここが奏の家である事。攻撃を加えれば例え敵わなくても戦いの跡が残る。それは奏に迷惑を掛けてしまい、恩を仇で返す様なものである。そしてもう1つ……彼女は先程の質問に答えた通り、今生きたいと思っていた。それは居場所を失っても自分を受け入れる存在が居たから。自分にはまだ、居場所があったから。
「情は人だけでなく、堕天使すらも変えるのね。今回で改めて理解したわ」
「何が言いたいッスか」
「断言してあげるわ。奏ちゃんに会う前の貴女なら、死を恐れずに私を攻撃していた。でも今それをしないのは死ぬのが怖いから。あの子と会えなくなるのが怖いからよ」
「!」
「奏ちゃんは貴女が消えればきっと悲しむわ。そして貴女も彼女と会えなくなるのは嫌。貴女は
「そんな……」
『今日、友達が出来たッス! 人間ッスけど、一緒にアイス食べて、どうでも良い事を話して……凄い楽しかったッスよ!』
『そうか。それは、良かったな』
『あら? 何の話?』
『レイナーレ様! 実はッスね!』
初めて出来た友達。それが嬉しくて話をしていた時、それを聞く仲間達の様子は優しいものだった。だからこそ沢山話をしたミッテルト。だがそれから数日した頃、突然人間と親しくした事を理由に追放されてしまった。その時自分へ向けられた目はとても冷たく感じたミッテルト。それが自分を守る為の行動だったなら……ミッテルトは思わず膝から崩れ落ちてしまう。
「堕天使カラワーナは最後まで勇ましく。堕天使レイナーレは自らを至高の堕天使と呼ぶに恥じぬ潔い終わり方だったわ」
「……うちはこれからどうなるッスか」
「それは貴女次第よ。やるべき事があるなら、それをやりなさい。……あの子と平和に過ごすのは、それからよ」
「!」
リアスは消える間際まで仲間の為に戦おうとしたカラワーナと、敗北の末に自らその命を奪った元々は無関係だった少年へ謝罪をして消えたレイナーレの姿を思い出しながら告げる。その言葉を聞いた時、ミッテルトは突然背中から2対の翼を出現させた。それは彼女が人では無い堕天使である事の証明。リアスがそんな彼女を前に構える事はせず、ミッテルトは窓を開けると飛び出そうとして足を止めた。そして僅かに振り返り、リアス……では無くその後ろに立つ小猫へ視線を向ける。
「お前、奏の友達ッスね」
「はい」
「……奏の事、頼んだッス」
「奏さんは例え貴女に言われなくても、私が守ります」
小猫の答えにミッテルトは僅かな笑みを浮かべ、羽根を撒き散らしながら飛び立ってしまう。その先が何処なのか、2人には察しがついていた。元々レイナーレを筆頭に行っていた事は彼女達の独断行動だった。今はこの世に居ないとしても、レイナーレの部下として報告や後始末。そして責任を取る必要がある。どれ程掛かるか定かでは無いが、それでも彼女は再び奏の前に現れる為に。飛び立ったのだ。
「さて、奏ちゃんに何て説明するべきかしらね?」
「そもそも部長は接点が無いので、私が誤魔化します」
「……そうね」
出来ればこれを機に接点を。そんな事を内心僅か乍ら思っていたリアスは小猫の言葉に若干肩を落としながらもその通りだった為、頷いた。そして小猫を置いてリアスが居なくなれば、残された彼女は勝手知ったる奏の家で紙を1枚拝借。そこに文字を書いてミッテルトの書き置きに見せる事にした。内容は無難に急用が出来て起こすのが忍びないと思った為に書き置きにしたと始まり、無事に帰る場所の目途が立った事や、しばらく会えなくなる等と続ける。
「我ながら、良い出来です」
適当に彼女の特徴である『ッス』を用いながら無事に完成させた小猫。それをリビングのテーブルに置いて、リアスの元に戻る……前に彼女は眠っているであろう奏の寝顔を拝む事にした。
「すぅ……すぅ……」
『……』
『……』
奏の部屋には部屋の主である奏と彼女に寄り添うかの様に眠る2匹の小さな猫の姿があった。小猫は眠る姿に僅か乍ら微笑みを浮かべ、ふと気付く。猫が1匹居ない事に。
『誰かと思ったら君か。こんな夜中に何の用かな? ……そもそもどうやって入ったのかな? まさか、ご主人に何かするつもりじゃないだろうね?』
「シロ。まだ起きてたんですね。何かするつもりは無いです。ちょっと、見に来ただけなので」
シロが起きていた事に驚きながら、起こさない様に小声で話し掛けた小猫は数回奏の頭を撫でてから部屋を後にする。そして家からも姿を消せば、奏の家は静寂が支配した。徐々に日が昇って行き、奏が目を覚ますその時まで。その静寂は続くのだった。
「だからしばらくお別れなの。でも、きっとまた会えるよね!」
教室にて、奏は新しく出来た友達と長い別れをする事になった事を小猫へ伝えていた。その友人が何処へ行ったのか、どんな理由で行ったのかを知っている小猫は嘘をつく事に多少罪悪感を感じ乍ら、彼女の話を聞き続ける。……すると奏は徐々に元気が無くなり、やがて寂しそうな表情を浮かべ始めた。
「折角仲良くなれたのに、すぐお別れする事になっちゃった」
「……仕方ない」
「うん。仕方ないの。分かってる。分かってるけど……」
「……」
何時も元気な様子の奏だからこそ、その悲しそうな顔は貴重と言える。だが小猫はその顔を見ていたいとは思えなかった。どうにかしたいと思った小猫は少し悩んだ末、徐に片手を上げると……奏の頭に乗せて撫で始めた。何気に小猫が起きている奏の頭を撫でるのは初めての試みだった
「んっ、小猫?」
「よしよし」
「ふぁ……えへへ。これ、気持ち良いかも」
「元気出た?」
「うん! ありがとう、小猫!」
「ん」
普段の笑顔でお礼を言う奏の姿に僅かながら優しい笑みを浮かべて頷いた小猫。そんな教室には以前同様に2人のやり取りを聞いて愛を溢れさせた者達が居るが、2人がそれを知る事は無かった。
今作は小猫ちゃんとの百合を書きたくて生まれたんですが、続けて見れば今回半分がミッテルトに。ドーナシークが居ない? 野郎に興味はありません。そして今後続くかも未定。思い付きと調子次第です。
タグに『友情』『ミッテルト』『原作死亡キャラ生存』を追加しました。
常時掲載
【Fantia】にも過去作を含めた作品を公開中。
没や話数のある新作等は、全話一括で読む事が出来ます。
https://fantia.jp/594910de58
奏の一人称に相応しいのは?
-
私
-
奏
-
僕
-
無い方が良い