【短編】悪魔な白猫は純真過ぎる少女を守りたい   作:ウルハーツ

3 / 6
前回の投稿から4日。評価とお気に入りが約3倍近く増えれば、それは調子にも乗ると開き直ってみる。でもそろそろ思い付きにも限界が……結構無理矢理な部分もあるので、何卒優しい目で読んで貰えると嬉しいです。


無限は友となり、聖剣使いは純真過ぎる少女を狙う

「え! それじゃあしばらく会えなくなるの?」

 

「……うん。残念だけど」

 

 駒王学園1年生の教室。そこで奏は小猫が所属しているオカルト研究部の合宿に参加する為、数日の間登校出来なくなると告げられていた。殆ど学校では一緒に居る時間が多い2人。故に奏は小猫がしばらく居なくなってしまうと知り、明らかにしょんぼりしてしまう。そんな姿に小猫もまた残念そうに、だが主であるリアスの決定故に不参加は出来ない為、同じく元気を失う。

 

「オカルト研究部の合宿って、何をするの?」

 

「それは……色々」

 

「危ない事、しない?」

 

「ん。平気。唯、大変そうかも」

 

 そもそも合宿に行く目的は修業であり、強くなる為に鍛錬するとなれば疲れるのは当然。主の為にも、自分の為にも頑張りたいと思う一方で小猫は少しだけ遠い目をする。すると奏は少しだけ考える様に首を数回傾げた後、片手に握った拳を乗せて「そうだ!」と何か思い付いた様な仕草をする。

 

「行くのは明日?」

 

「うん。そうだけど」

 

「それじゃあ、明日行く前に家に来てよ!」

 

「?」

 

 奏の言葉に小猫は首を傾げるが、奏が何をするか説明する事は無かった。

 

 翌日。平日の朝にリアスへ断りを入れて奏の家へ向かった小猫。インターホンを押せば、微かに聞こえる足音と共にその扉が開かれる。まだパジャマ姿だった奏は眠そうに目を擦りながら、小猫を出迎えた。

 

「こねこ? ぉはよぅ……どぅしたの?」

 

「昨日、奏さんが朝に来てって言った筈」

 

「ふぇ? あ! そうだった! 今持って来るから少し待ってて!」

 

 寝ぼけた様子で話す奏の姿に多少込み上げる何かを感じ乍らも何時も通りに返した小猫。それを聞いてパッと目を開いた奏は急いだ様子で家の中へ戻って行く。そして少し時間を置いて、再び現れた奏の手には包みに覆われた大きな箱があった。それは稀に見る事のある重箱を包んだものの様にも見え、笑顔で差し出す奏の姿に小猫は首を傾げながらそれを受け取る。

 

「……これは?」

 

「えへへ! 今日のお弁当と、お菓子だよ!」

 

「! 手料理?」

 

「うん! 少し多めに入ってるから、一緒に行く友達と食べて! あ、お菓子は今日全部食べちゃ駄目だよ! 少しずつだからね!」

 

「ありがとう……それじゃあ、行ってくる」

 

「行ってらっしゃい!」

 

 小猫は受け取ったものの中身を聞いて思わず戦慄した。今まで一緒にお菓子を食べる事はあれど、奏の料理を食べた回数は片手の指で足りる程度。それはつまり彼女にとって奏の手料理が貴重であり、それを受け取れた事実に僅か乍ら身体が震え始めてすらいた。だが平静を装って奏に声を掛けて家を後にすれば、背後に掛かる声に小猫の胸の内は暖かくなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小猫の居ない駒王学園での時間を終えた奏は頭にエリザベスを乗せて公園へ赴いていた。目的は傍にあるクレープのお店であり、無事に購入出来た奏は2つ並んだベンチに片方に座って口元にクリームを付け乍ら美味しそうにそれをほおばる。

 

「ん~! 美味しい!」

 

『にゃ~』

 

 意図せずして溢れる笑顔。それに反応する様にエリザベスも鳴いて答え、奏はクレープを食べ続ける。珍しく明るいながら余り人気のない公園はとても静かであり、半分程食べ終えた辺りで奏は何気なく左右を見回した。

 

「……」

 

「?」

 

 そして気付けば隣のベンチに1人の少女が座って居た事に気付いた。黒い髪を伸ばした少女。彼女はジッと奏を、奏の持つクレープを見つめ続けていた。どう見てもクレープに興味を持っている様子であり、奏は少女とクレープを何度か見た後に声を掛けた。

 

「クレープ、食べたいの?」

 

「クレープ?」

 

「うん、これの事。少し待ってね……はい!」

 

「……」

 

 奏は少女に自ら食べていたクレープの一部を千切り、包んであった紙を皿の様に広げて少女へ譲る。両手でそれを受け取った少女は奏とクレープに視線を何度か行き来させ、奏がまるで例を見せる様にクレープを口に入れて笑顔を見せれば、少女も真似る様にそれを口へ。

 

「……甘い」

 

「美味しいでしょ?」

 

「美味しい……ん、美味しい」

 

 口の中へ広がる甘みを感じてそのまま言葉にした少女は奏に言われてまるで初めて知るかの様に繰り返しながら頷いた。……元々半分だったクレープの一部を貰った為、少女が食べられるのは僅か。奏も食べ終えてしまい、少女は残った紙を見つめ続ける。

 

「流石に2個は食べ過ぎかな?」

 

『にゃ』

 

「……」

 

「……えへへ。半分だったら良いよね!」

 

『にゃ~ぁ』

 

 少女の姿に、そしてまだ食べ足りなかった自分に奏は考えた末、再びクレープを買いに向かった。まるで『やれやれ』とでも言う様に鳴くエリザベスを頭に今度は違う味を購入した奏は再びベンチへ。そして迷わずに今度は少女と同じベンチに座ると、最初から半分にされたクレープの片方を差し出した。

 

「はい、あげる!」

 

「……クレープ」

 

「さっきは苺だけど、今度は葡萄だよ! あ、バナナは最初から入ってるの!」

 

「苺? 葡萄? バナナ?」

 

「知らないの? えっとこれがね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレモリーの所有する別荘。そこは山の上にあり、現在小猫はリアスを主とした仲間達と共に訪れていた。目的は修業。各々を強化する為に鍛錬していた小猫達は時折休憩を入れながらも続け、夕食の時間を迎える。因みに昼食は用意されてしまい、小猫は奏のお弁当を食べそびれていた。故に昼食の際、夕食を少なめにして置くべきだと伝えていた小猫。当然他の面々は疑問に思い、夕食の時間でその理由を知る。

 

「これです」

 

「こ、これが奏ちゃんの手作りお弁当……っ!」

 

「小猫ちゃん、開けて見ましょう?」

 

「はい」

 

 リアスと朱乃は小猫が奏からお弁当を作って貰ったと知り、興味津々であった。小猫の取り出した包みの箱を前にリアスが緊張した面持ちで生唾を飲み、朱乃が何処かそわそわした様子で小猫に開ける事を催促する。小猫自身も中身が非常に気になっていた為、朱乃の言葉に頷いて彼女は包みの縛られた部分を解き始めた。……やがて包みから出て来たのはやはり重箱。3段になっており、小猫は一番上の蓋を開けた。

 

「これは……炊き込みご飯、ですね」

 

「小さめのおにぎりにしてあるわ。冷めてるのに良い香りもする」

 

「奏ちゃんは本当に料理が上手なのね」

 

 鼻を擽る美味しそうな香りに大変な修業の後だった事もあって、今すぐにでも手を伸ばしたくなった3人。だがそれを必死に堪えてリアスは小猫へ視線を向ける。それが言葉にされずとも次の段を見たいと言う催促だと分かった小猫は頷き返し、炊き込みご飯のおにぎりが入った段を退かした。そして見えて来るのは数種類のおかず。

 

「唐揚げに卵焼きは定番ね。でもこれは……?」

 

「どうやらネギをお肉で巻いてある見たいですわね。あ、じゃがいももあるわ」

 

「隅にあるのはホウレン草の胡麻和え……確かに、全部手が入ってますね」

 

 小猫は数種類のおかずがあれば、内少しは手を加えずに入れただけのものも交ざっていると思っていた。だが蓋を開けて見れば全てに奏の手が加わっており、作った時間も考えて彼女の心は奏に対する感謝の気持ちで一杯になった。

 

「最後の段は何が入ってるのかしら?」

 

「多分、お菓子だと思います。開けてみましょう」

 

 更に湧き上がる食欲をそれを上回る強い心で押さえ込み、リアスの言葉に小猫は最後の段を確認する。……そこに入っていたのは四角く切れ目の入った上は茶色く横は黄色いお菓子と、貝殻の様な見た目をした数色のお菓子が入っていた。

 

「カステラとマドレーヌ、ですわね」

 

「まさか、これも奏ちゃんが作ったの……?」

 

「可能性は高いです」

 

 最初の炊き込みご飯と同じ様に香り始める甘い香りに3人の口元が少々緩み始める。そこでようやく別の場所で夕食の時を待っていた仲間達の声が聞こえ、3人は目を見合わせて頷き合った後にそれを手に夕食を食べる為に全員と合流した。小猫の友達が作ったお弁当である事も当然説明して、お菓子以外を食べ始めた各々。自分達で用意した夕食も含めて食べ終わった時、奏を知る3人の表情はとても幸せそうであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小猫達が修業に行ったのには当然理由があった。それはリアスの未来を掛けた戦いをする事であり、彼女達は自分達よりも明らかに強い相手と戦う為に修業へ行ったのだ。そしてその戦いを無事に終えた小猫は久しぶりに駒王学園へ登校していた。まだ奏は登校しておらず、だがそれもすぐにやって来る。教室へ現れた彼女は周りからの挨拶に笑顔で答え、小猫の姿を見ると同時に輝かしい程の笑顔を見せて駆け出す。たった数日だが、それでも彼女にとっては長かったのだろう。思わず後先考えずに小猫へ飛んだ奏。小猫は驚きながらもそれを受け止め、その場で数回回転して勢いを流した。

 

「お帰り! 小猫!」

 

「奏さん……ただいま」

 

 まるで感動の再会の様に見える2人に何故か周りが涙してハンカチで目元を拭う中、小猫は修業の間に起きた出来事を話せる範囲で説明する。お弁当の感想やリアス達がお礼を言いたがっている事も伝えれば、奏は安心した様に笑みを浮かべて「良かった!」と返した。

 

「あ、そうそう! また新しい友達が出来たんだ! 今度はクレープを一緒に食べたの!」

 

「! 新しい友達……」

 

 小猫の話が終わった時、今度は奏がここ数日であった出来事を説明する。そこで奏が言い出した内容に小猫は緊張した。前回新しい友達としてミッテルトが現れ、彼女は知らぬ内に堕天使と仲良くなっていた。自分と言う例もある中、何となく小猫は思い始めていたのだ。奏の友達は人間では無い可能性が高いと。仲良くなった経緯は彼女らしく、その友達の名前は聞いた時。彼女は笑顔でその名を答えた。

 

「オーフィスだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小猫達が帰って来て数日。奏は何時もの様に放課後、頭に今日はスフィンクスを乗せて外を歩いていた。今日は甘い物を食べに歩いているのではなく、家で待つ2匹とスフィンクスのおやつを買う為に出ていた奏。……そんな彼女の目に、余りにも非現実的で可笑しくて、可哀想な光景が映った。

 

「迷える子羊にお恵みを~!」

 

「私達にどうかご慈悲を~!」

 

 それは2人の怪しい恰好をした少女が所謂物乞いをする光景。道行く人々はその怪しさに近づこうとはせず、子供を連れた母親は見る事を止めさせて逃げる。が、何時もの様に過ごしていた奏は何時もの様に怪しさ等意に介さずに2人の元へ近づき始めた。必死にやめさせようとするスフィンクスの鳴き声も聞かずに。

 

「大丈夫?」

 

「ぁ……ごめんね、大丈夫よ」

 

「あぁ、だが出来れば食べ物を恵んで貰いたい……うぅ」

 

 最初に声を掛けられた事で驚いたのは栗色の髪をした少女だった。彼女は自分に声を掛けた奏の姿を見て何処か落胆した様に肩を落としながら、答える。……見た目が明らかに子供な奏に自分達の望むものを期待出来なかったのだろう。だがもう1人の青い髪をした少女は相手が子供でも構わないとばかりに奏へ答える。と同時に2人の腹部から空腹を知らせる音が響いた。そして2人は前のめりに倒れてしまう。

 

「わぁ! ど、どうしよう!? と、取り敢えず食べ物を持って来るね!」

 

 周りから見れば倒れた2人を見て逃げ出した少女にも見えただろう。だが少しの間を置いて奏は両手で茶色い袋を抱えて再び姿を見せる。そして倒れてしまった2人の傍へ近づくと、袋からそれを取り出して2人の前へ差し出した。甘い香りが2人の鼻へ届き、同時に顔を上げた2人は飛びつく様にそれを口へ。最初に感じた生地の食感と後に感じる餡子の甘味に2人の顔は文字通り蕩け始めた。

 

「はむっ。美味い。はむっ。こんな美味いものは。はむっ。生まれて初めてだ」

 

「はむっ。そうね。はむっ。鯛焼きなんてはむっ。何年ぶりかしら?」

 

「い、急いで食べると危ないよ?」

 

「? っ! うぐっ!」

 

「あわわわわ! えっとえっと、はいこれ!」

 

「! んぐっぐっぐ……ぷはぁ! た、助かった……」

 

 奏が持って来たのは鯛焼き。2人はそれを貪る様に食べ始め、青髪の少女が焦った余りに喉を突っかけてしまう。すると奏は同じ袋の中からお茶を出して渡し、少女はそれを飲む事で無事に事無きを得た。

 

「良かった~。鯛焼きだから喉が渇くと思って飲み物も用意したけど、正解だったね!」

 

『んにゃ!』

 

 頭に乗るスフィンクスと会話する様に話す奏。そんな彼女の姿を前に落ち着いた2人は思わず見つめ続けてしまう。最初は唯の通りすがりの子供だった。だが今は自分達の恩人であり、猫へ向ける無邪気な笑顔を前に思わず何方かが呟いてしまう。

 

「……天使だ……」

 

『にゃにゃにゃ!』

 

「あぅ。分かったよ~。あ、鯛焼きはまだ2個あるから食べて良いよ! それじゃあね!」

 

 だがその声はスフィンクスの鳴き声に妨害され、奏に届く事は無かった。元々おやつを買う為に出ていた為、『早く買いに行こう』と言いたいのだろう。奏はそれを察して残りの鯛焼きを2人の目の前に置き、その場を去った。2人は去って行く少女の後ろ姿を眺め、感謝をし乍ら残りの鯛焼きに手を伸ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖剣と呼ばれる剣を巡る戦いに身を投じていた小猫。無事にその件が解決した後、彼女は1年生の教室で何時も通り奏と一緒に過ごしていた。だがその様子は明らかに疲れが残っており、奏はそれに気が付いた。

 

「小猫。疲れてるの?」

 

「……色々あった」

 

「そうなの? う~ん。あ、ちょっと頭下げて!」

 

「? こう?」

 

「うん。えへへ、よしよし」

 

「!?」

 

 過去に元気が無かった時、小猫の手で元気が出た奏はお返しをする様に小猫の頭を撫で始める。髪越しに感じる奏の柔らかい手と、その温かさに混じる優しさに小猫の疲れた心は瞬く間に癒されていく。だが同時に羞恥心も感じてしまい、僅か乍ら小猫の頬は赤く染まっていた。が、自身がされて恥ずかしさを感じなかった奏は小猫の羞恥心に気付かずにそれを続ける。

 

「これ、気持ち良いんだよ? 小猫はどう?」

 

「ん……気持ち、良い」

 

「良かった! それじゃあもっとしてあげるね!」

 

「ぁ……ぅ……」

 

 善意100%の奏に『恥ずかしいから止めて』と言える訳が無かった。周りを悶絶させながら授業が始まるその時まで撫でられ続けた小猫。その後休み時間の合間に話をしていた2人は途中、移動教室の為に教室を離れる事になった。クラスでは各々何でも小さな役割を決められており、次は小猫が少し早めに移動しなければいけない授業。故に別々で移動する事になった時、1人廊下を歩く奏の前にある生徒が立ち塞がった。

 

「少し良いか?」

 

「? あ、鯛焼きの人!」

 

 それは2年生であり、奏には見覚えのある人物だった。数日前にもう1人の少女と一緒に居た青髪の少女。鯛焼きをあげた相手であり、奏が覚えていた事を知って彼女はふっと笑みを浮かべる。

 

「私の名はゼノヴィアだ。君は杉村 奏。で合っているか?」

 

「うん! そうだよ! 鯛焼きの人……じゃ無くって、ゼノヴィアは先輩だったの? あ! じゃなくて、だったんですか?」

 

「無理に敬語を使わなくて良い。それと先輩になったのは今日からだ。転入したからな」

 

「そうなんだ! えっと、これからよろしくね!」

 

「あぁ。よろしく。ふふっ」

 

 ゼノヴィアは笑みを浮かべながら道を開け、奏は笑顔で手を振りながらその場を去って行った。そして1人残った彼女は遠ざかる背中を眺めながら1人呟く。

 

「良い。やはり悪魔になったからには、悪魔らしく行こうじゃないか。あぁ、私の天使。何時か必ず堕としてみせる」

 

 そんな彼女の呟きを聞く者は誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~!」

 

「お帰り」

 

「あれ? オーフィス!」

 

 学園での時間を終えて帰宅した奏を迎えたのはシロ達だけでは無かった。クレープを切っ掛けに友達になった少女、オーフィスがそこに居たのだ。何故家の中に居るのか疑問に思った奏が聞けば、彼女は一言。

 

「シロが入れてくれた」

 

「そっか!」

 

 もしこの場に別の人物が居れば、納得しないだろう。だが奏だけだった今この時、彼女の答えに奏は納得してしまう。そして一緒に中へ入り、一度洗面所で嗽手洗いをしてからリビングのソファに奏が座れば、その隣にオーフィスが座り込んだ。

 

「あ、この後友達が来るんだ! オーフィスにも紹介してあげるね!」

 

「奏の友達……我、楽しみ」

 

 実はこの後、小猫が来る予定だった為に奏はそう言って大きく両手を上に上げて伸びをする。すると彼女の身体にオーフィスが僅か乍ら体重を掛ける様に倒れ、更に頭や肩にエリザベスとスフィンクスが乗り始める。……実は奏がオーフィスとこうして一緒に家で寛ぐのは今回が初めてでは無い。小猫が居なかった数日間、何度か一緒に居たのだ。そして狙わずして小猫が来ない日に訪問する事が多く、今日初めてそれが重なる日となったのである。

 

「あ、来た! 皆、ちょっと退いてね!」

 

「ん……」

 

『にゃ~』

 

『んにゃ』

 

 部屋に響き渡るインターホンの音。奏は自分に重なる1人と2匹に退いて貰い、ソファから立ち上がって玄関へ向かい始める。そして足音を立て乍ら奏が戻ってくれば、その後ろには小猫の姿があった。

 

「! 貴女が」

 

「お前が、奏の友達?」

 

 奏は再びリビングから離れておやつの用意を始め、シロを残してエリザベスとスフィンクスも彼女の足元に。そうしてリビングで向かい合う2人はしばらく黙り続ける。が、やがて小猫が静かに口を開いた。

 

「よく分かりませんが、人間じゃ無い……ですね」

 

「お前、悪魔?」

 

「奏さんに何かするつもりなら、私が許しません」

 

「何もしない。我、傍に居たいから」

 

 お互いにお互いが人間で無いと分かった2人。本能が彼女に勝てないと告げて居ても、小猫は奏を守る為に彼女へ臆する事無く宣言した。が、返って来た答えに小猫は驚いた。そしてそんな彼女へオーフィスは言葉を続ける。

 

「我、静寂を求めてた。奏は静寂とは程遠い。でも、暖かい」

 

「……」

 

「奏と我は友達。奏の暖かさが、我は好き。だから、ここに居る」

 

 奏が常に本心を曝け出す様に、彼女もまた本心を曝け出していると確証は無くとも確信した小猫。無意識にしていた最大限の警戒をゆっくりと解いていき、彼女は奏が座るスペースを空けて同じソファに座り込んだ。するとお菓子を用意した奏が現れ、2人に催促されてその間へ。先程と同じ様にオーフィスが寄り掛かれば、それを見て小猫も寄り掛かり始めた。

 

「お菓子、食べる」

 

「今日はどら焼きですか」

 

「うん! あぅ、流石に重いよ~!」

 

 オーフィスの言葉に頷いて小猫が奏の持って来た皿を見れば、そこに載っていたどら焼きに手を伸ばした。すると2人が寄り掛かる奏にエリザベスとスフィンクスが群がり、2匹と2人に寄り掛かられる事になった奏。流石に全体重を掛けて居なくてもその小さな身体が支えられる重さには限界があり、声を上げるその姿に2人は寄り掛かるのを止めてどら焼きを食べ始める。2人が離れた事で動き易くなった奏。だが両肩に2匹を乗せ、膝に気付けばシロが座った状態ではどら焼きに手を伸ばせなかった。

 

「食べたいのに~!」

 

「仕方ない。あーん」

 

「ありがとう、小猫! はむっ!」

 

「むっ。我も……あーん」

 

「ふぉっとまっへぇ! むぐむぐ」

 

 見兼ねた小猫が奏の分のどら焼きを半分にしてから口元へ近づければ、笑顔でお礼を言ってそれに奏は齧りついた。そして幸せそうな表情を浮かべる姿を前にオーフィスは僅かな対抗心を燃やした様子で同じ様に残った半分を奏に近づける。が、まだ噛んでいる最中だった為にそれを口へ入れる事は出来なかった。

 

 その後、3匹の猫に乗られた奏は2人の協力を経てどら焼きを完食。日が暮れるまで静かで穏やかな優しい時間を過ごすのだった。




流石に原作の話に関わらないで続くにも限界が来てるので、もしも。【もしも】続く様なら原作を無視した日常話になる可能性が高いかと。まぁ、正直百合を書くならそっちの方が良い気も……所詮思い付きで生まれた話なので期待してはいけません。


常時掲載

【Fantia】にも過去作を含めた作品を公開中。
没や話数のある新作等は、全話一括で読む事が出来ます。
https://fantia.jp/594910de58

奏の一人称に相応しいのは?

  • 無い方が良い

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。