【短編】悪魔な白猫は純真過ぎる少女を守りたい 作:ウルハーツ
駒王学園での1日を終えた奏は帰宅した後、以前ミッテルトに慰められたりオーフィスと出会ってクレープを共に食べた公園へ訪れていた。頭の上には1匹の小さな猫……スフィンクスが乗り、笑顔でベンチに座る奏の手にはコンビニ等で購入出来るプラスチック製のカップに入った白玉団子とフルーツの混ざったお菓子が。それにスプーンを伸ばしてフルーツと白玉を同時に口へ入れれば、溢れる様な奏の笑顔にチラホラと見える学生や子供連れの主婦達の殆どが優しい笑みを浮かべていた。
『にゃ?』
「? どうしたの、スフィンクス?」
『……』
ふと何かに気付いた様子で鳴き声を上げたスフィンクスに気付いた奏が上目遣いをする様にして声を掛ければ、スフィンクスは何も答えずにジッと少し離れた場所を警戒する様に見つめ続ける。それを不思議に思った奏が視線を向ければ、そこは茂みの生い茂る場所。……そんな中に、僅か乍ら光る何かがそこにはあった。
「何だろう?」
「奏」
「ふぇ? あ、オーフィス!」
気になった奏がカップを手に立ち上がった時、突然掛かった声に彼女は振り返った。声の先に居たのは自分の元へ近づいて来るオーフィスであり、奏は気にした事等すぐに忘れて笑顔で傍へ駆け寄った。そして一緒にお菓子を食べる中、僅かに光った何かは突然動き出すと同時にその場から姿を消してしまうのであった。
「あうぅ……」
「痛む?」
「うぅ、大丈夫……ごめんね、小猫」
「私は平気。それより、ちゃんと冷やして」
ある日の事。駒王学園で体育の授業に参加していた2人は保健室に来ていた。バレーボールの授業をしていた2人。だが同じクラスの生徒が勢いよく放ったスマッシュが明後日の方向へ飛んでしまい、運悪くその先に居た奏の後頭部へ命中。小さな身体は大きく動かされ、その勢いのまま今度はネットを張る為に立ててあった棒に額をぶつけてしまうと言う災難な目に遭ってしまったのだ。必死に謝り続ける生徒に痛みを必死に耐えて笑顔で『大丈夫だよ』と告げた奏。だが今にも泣きそうなその姿に小猫が保健室へ連れて行くと言って連れ出し、今に至るのである。
「もう、1人でも大丈夫だよ。小猫は戻らないと、何時までも抜け出してたら怒られちゃう」
「大丈夫、気にしないから」
「こっちが気にするの! ……えへへ、ありがとう。小猫」
「?」
「だって、ぶつかって思わず倒れちゃった時。少し離れてたのに誰よりも早く来てくれたから。何か、大事にされてる感じがして凄く嬉しかった!」
「! 大事、ですから。当然です」
奏の言葉に小猫は少し赤くなる頬を感じ乍ら思わず視線を逸らして、それでも奏へ聞こえる様な声で答えた。すると氷の入った袋で頭を抑えていた奏は笑顔で小猫に視線を送る。見ずとも感じる奏の眩しさに小猫は思わず立ち上がると、道具を用意する為に開けた棚の戸等を閉め始める。そして本当に出来る事も無くなった為、奏の言う通りにその場を去る事にした。
「先生には説明しておく。今は痣とかが出来ない様にしっかり冷やして」
「うん、分かった。また後でね、小猫」
注意に頷いて答える奏の姿を見て、小猫は保健室を後にした。保健室には奏1人だけとなり、彼女は窓の外に映る校庭の景色を眺め始めた。他のクラスが体育の授業で使っており、足の速い生徒等を見て羨ましく思ったりする中。突然奏の視界は柔らかい何かに覆われて真っ暗になってしまう。そして驚き戸惑う奏の耳元で、囁く様にそれをした犯人は声を掛けた。
「ふふっ、私は誰だ?」
「ふぁ! え、えっと……あ! ゼノヴィア先輩!」
声と息で背筋に何かを感じ乍ら、奏は言われた言葉と声に思い出した。そして答えれば、視界を塞いでいた手が離れて奏は明るさを取り戻す。急いで振り返った奏の前には緑のメッシュを入れた青髪の先輩、体操着を着たゼノヴィアが立っていた。
「ふっ、先輩か。悪く無いな……頭を冷やしていると言う事はぶったのか?」
「うん、授業中に。でも小猫と一緒に来て急いで冷やしてるから応急処置はバッチリだよ!」
「なら良い。その綺麗な肌に傷があるのは私も我慢ならないからな」
「あぅ、もう! くすぐったいよ!」
ゼノヴィアは奏の言葉を聞いて優しくその頬へ手を伸ばすと、大事な物を扱う様に触れ始めた。突然触られた事に驚きながらも嫌そうにしない奏だが、それに気を良くしたゼノヴィアが指を少し動かし始めれば流石に抗議する。奏の抗議を受けてゼノヴィアは不敵な笑みを浮かべながら手を離した。
「ゼノヴィア先輩はどうしてここに? 何処か怪我したの?」
「まぁ、そんなところだ。特に大きな怪我でも無いし、痛みもない。それに明日には治っているから問題も無い」
ならどうしてここへ来たの? 何て奏は疑問にも思わない。唯彼女が思うのは『それなら良かった!』だけである。……実際のところ、ゼノヴィアは何処も怪我をしていなかった。唯、外で体育の授業に参加していたら保健室で自分達の授業を眺める奏の姿を見つけて抜け出して来ただけだった。そんな事とは露知らず、奏は小猫が先程閉めた棚の扉を開けてゼノヴィアへ声を掛けた。
「一応、応急処置はしないとね! どんな小さい傷でも、ばい菌は入るって先生が言ってたから!」
「……そうだな。なら、奏にお願いしよう」
「うん! それで、何処を怪我したの?」
「説明が難しい場所なんだ。奏、少しこっちへ来てくれ」
片手で氷の入った袋を頭に乗せ乍ら、片手で包帯や消毒液等を持って話す奏の姿に何かを思いついた様子でゼノヴィアは答える。そして再び掛けられた問いに手招きをし乍ら奏を誘えば、そのまま彼女はゆっくりと何気ない仕草の様にとある場所へ近づき始めた。
「難しい場所って何処、ってうわぁ!」
警戒心も無く包帯と消毒液を片手に持って近づいた奏。すると突然ゼノヴィアが片手でその小さな身体を抱えて一気に後ろへ振り返り、奏の身体を少々強めに押した。突然の事に抵抗も出来ずに押された奏はゼノヴィアの後ろにあったベッドへ落下。何が何だか分からずに驚き戸惑う中、僅かにミシミシと音を立てて奏の下からゼノヴィアが同じベッドへ乗り始める。
「ぜ、ゼノヴィア……先輩?」
「奏、私の怪我を処置してくれるんだろう? どうも胸の奥に傷がある様でな……見てくれるか?」
ゼノヴィアは不敵な笑みを浮かべて奏の足元からにじり寄る様に近づき、体操服の上を徐に脱ぎ始める。下着が露わになる中、目の前の光景に奏が見せる反応は……首を傾げて『?』を頭の上に浮かべるものであった。
「胸の奥を怪我したの? どうすれば良いんだろう?」
「……」
「それにしても吃驚した! どうしてベッドに入ったの? あ! 寝れば治るの!?」
「……その通りだ。お願い出来るか?」
「うん、任せて! シロ達とは何時も一緒だし、小猫とも一緒に寝る事はあるから誰かと一緒に寝るのは慣れてるよ! 一緒に寝ると治る病気なんて聞いた事無いけど、それで治るなら大丈夫だね!」
ゼノヴィアは期待していた。突然ベッドへ押し倒され、にじり寄る自分の姿にあたふたする奏の姿を。何をされそうになっているのかを言わずとも理解して恥ずかしそうに赤くなる姿を。だがゼノヴィアは奏の純真さを甘く見ていた。押し倒された意味を理解出来ず、比較的健全な解釈をしてしまった奏。今から教える様な流れにシフトを変える事も考えたゼノヴィアだが、本気で心配する奏の目に。自分が一緒に寝れば治ると信じて疑わず嬉しそうなその目にゼノヴィアは邪な事を言えなくなってしまう。……結局その後、授業が終わって休み時間を迎える時まで奏はゼノヴィアと共にベッドの上で横になって過ごすのだった。
三大勢力による会談。それが行われる場所、駒王学園で小猫はリアスの下僕として参加していた。参加と言っても殆ど何かを語る事は無く、その流れを見ているだけ。最近、引きこもりの面倒を見る為に放課後の時間を奏と余り過ごせなくなって少々ご機嫌斜めの彼女はそれを見せずに事の成り行きを見守っていた。再会したとある人物と並びながら。
会談の途中、突然それは起こる。会談の目的である和平を望まぬ者達によるテロ。そしてそれを行った集団に目星を付けていた堕天使の総督の言葉を聞いていた小猫はそのトップの名前が上がった時、驚き目を見開いた。
「オーフィス?」
「? 小猫?」
思わず呟いたその名前。今の今まで殆ど喋っていなかった彼女の声は部屋に響き、全員が一斉に視線を向ける。
「小猫、知ってるッスか?」
「奏さんの友達でこの前出会った人に同じ名前の人がいます」
「何!? 奏って確か……」
小猫の言葉に驚いた堕天使の総督は彼女の隣に立つ少女……ミッテルトへ視線を向ける。見られた事に驚きながらも何を聞いているのか分かった彼女は頷いて、再び小猫へ視線を向けた。全員の目が『知っている事を言え』と訴えており、小猫は自分の知るオーフィスについて説明する。人間では無い大きな力を感じる人物である事。静寂を求めて居た事。奏と友達になってから彼女の元へ遊びに来る事。最近、来る頻度が増えている事等を。そして最後に小猫は少々強めに告げる。
「私は彼女がテロを起こすと思えません」
「少し信じられないが、嘘って訳じゃ無さそうだな」
「会えるなら、会ってみるべきかも知れないね」
『お話の途中、失礼しますわ』
≪!?≫
小猫の言葉を聞いて困惑しながらも頭を冷静にして考えようとする中、突然響き渡る女性の声に一同は警戒心を強める。すると突然部屋の中に浮かびあがる魔法陣。それは数人が見覚えのある紋様が描かれており、やがてそこから姿を見せたのは眼鏡を掛けた1人の女性。全員が最大限に警戒する中、彼女は掛けていた眼鏡を軽く指で上げてそのレンズを光らせる。
「旧魔王のレヴィアタン」
「カテレア・レヴィアタンと申します。早速ですが、大事な用件が2つありますわ。1つは……旧魔王派の者達の約半数が『禍の団』に協力する事を決めました」
「何だと!?」
「そんな! どうしてカテレアちゃん!?」
彼女の言葉はその場に居るリアスの兄であり、現魔王でもある男性とその隣に居た同じく魔王である魔法少女の様な恰好をした女性を驚愕させる。そして後者の女性がまるで目の前に居るカテレアに問い掛けた時、彼女は片手を額に当てて首を横に振った。
「早とちりしないで頂戴。言った筈よ、約【半数】が協力する事に決めた。と」
「なら、君は……」
「私もつい先日まではあの者達と同じ様に協力してこの会談を潰すつもりでした……ここに居る全員を葬り、世界を変革させる為に。ですが、そんな事は無意味だと分かったのです。いいえ、そんな事をしてはいけないと」
カテレアの言葉を聞いて彼女が敵か味方か分からなくなる一同。そんな全員を置いて、彼女は話を。語りを続けた。
「私が変わったのは正しくあの時。私達は無限の龍神、オーフィスを頭に力を得るつもりだった。でもオーフィスが突然現れなくなり、力を与えられなくなっては困ると思った私を含めた数人で彼女の足取りを追った先に……あの子は居た」
「……小猫、まさかかもッスよ」
「……」
「あの笑顔に。あの優しさに目を奪われて、彼女の生き方に。彼女が幸せそうに過ごす姿に惹かれた私達は気付いたのです。世界の良し悪しは人それぞれ。彼女の様に幸せを感じる生き方をすれば良いと!」
話を聞いていた者達の殆どが呆然とした様子で両腕を広げて宣言するカテレアを見つめる中、言い切った彼女は腕を降ろして一呼吸。眼鏡のレンズを僅かに光らせて三度口を開いた。
「つまり一言で纏めれば、私達は貴方達の味方。と言う訳です。その証拠に……あの通り」
「! 誰か外で戦ってるわ!」
窓の外へ視線を向けたカテレアに一同が同じ様に外を見れば、そこでは大人数での戦闘が行われていた。
「片方は禍の団。そしてもう片方は私達旧魔王派の半数と元々禍の団に協力していた者達です」
「凄い一方的な戦いに見えるけど、大丈夫なのかい?」
「私と同じ様に世界の変革を止め、彼女が幸せを感じる世界を守る為に禍の団から離れた者の大多数がここの襲撃を知って居た為に阻止しているのです。……今や禍の団は力ある者を失った言わば烏合の衆。ここへ襲撃するだけでも総力戦と言っている彼らを潰す事は簡単ですわ」
宙を舞う人の姿を遠目に眺めながら語られるのは堕天使の総督が警戒していた禍の団の現状と末路。彼女の言う事が本当ならば、禍の団はここでお終いなのだろう。余りの状況に思わず飲み込まれそうな一同。そんな中、カテレアは部屋の中を見回して……小猫とその目を合わせた。突然歩き出せば、警戒する面々。リアスが小猫を守ろうと前に立つ中、カテレアは自らの豊満な胸の谷間に手を入れる。揺れる乳房に鼻の下を長く伸ばす男子が居る中、彼女がそこから取り出したのは色紙とペン。だがその量は谷間の中に入っているには物理的に不可能な量だった。
「禍の団についてはあくまでついで。私のもう1つの目的はこれです」
「こ、小猫に何をするつもり?」
「危害を加えたりはしません。唯、お願いがあるだけ。……塔城 小猫さん。私に、私達に杉村 奏ちゃんのサインを貰っては頂きませんか?」
「……はい?」
色紙とペンを出した事で何となく察していたが、それでも聞き返さずにはいられなかった小猫。奏は唯の人間で一般人である。サインなど用意している筈も無く、だがカテレアはそれを承知した上でお願いをしていた。
「貴女が彼女の友達なのは既に調査済みです。どんな形でも問題ありません。彼女の字で、ここに『カテレアお姉ちゃんへ』と!」
強い押しに思わず受け取ってしまった小猫。カテレアはお辞儀をしてお礼を言うと、彼女から距離を取って再び自分が現れた魔法陣の場所へ戻った。
「杉村 奏。イリナから少し聞きましたが、興味深い人物ですね」
「俺もやらかしちまった部下から少し聞いてるな」
「一体、どんな人物なんだい?」
三大勢力の長達が気にし始める中、リアスは兄でもある魔王の男性に聞かれて少し考える仕草をする。この場に居る内、奏の事を知って居るのは数人。リアスを始め、彼女達は思うままに奏の印象を告げた。
「小さくて可愛いわ」
「友達思いの優しい子ですわね」
「お菓子が大好きッス」
「彼女こそが天使と言って良い」
「あの笑顔に私達は目を覚ます事が出来たのです」
「動物が好きで、猫を飼ってます。それと」
≪純真過ぎる子
リアス、朱乃、ミッテルト、ゼノヴィア、カテレア、小猫の順で思い思いに話した末、最後に揃って言い切った言葉を聞いて少なくとも危険な存在では無いと確信した他の面々。寧ろそこまで言われる少女を見て見たいとすら思った堕天使の総督だが、彼の意を察したカテレアが眼鏡の縁に触れてレンズを光らせた。
「先に言っておきますが、奏ちゃんに手を出そうものなら私達が黙っていません。禍の団よりも大きな組織として、地の果てまでも追い詰めて……死んだ方がマシと思わせて差し上げます。宜しいですね?」
「お、おぅ」
その冷徹な眼光に思わずたじろいだ堕天使の総督。気付けば外で行われていた戦いも終わっており、カテレアは何事も無かった様に魔法陣を使ってその場から去ってしまう。余りの流れに止める事も出来なかった一同。彼女が残したのは禍の団の現状と大量の色紙+ペン。小猫は偉い人達が話をする光景を眺めながら、どうやって奏に書いて貰うかを考え始めるのだった。
「こんな感じかな?」
奏の家にて。家の主である奏はテーブルに色紙を置いてペンを片手に隣で座る小猫とオーフィス、そして喜びの再会をした向かいに座るミッテルトに視線を向けた。彼女の言葉を聞いて3人が一斉に色紙を覗き込めば……『すぎむら かなで』と平仮名で書かれた上下左右に猫や蛇の絵が描かれていた。猫は大きな猫の傍に小さな猫が寄り添い、蛇はとても可愛らしく。それはまるでサインと言うよりもお絵かきした後の様であった。
「……そもそもサインに正解とかあるッスか?」
「我、知らない」
「私も知らないです。まぁ、でも良いんじゃないですか?」
小猫は何となく、どんな酷いものが出来上がってもあのカテレアなら喜ぶ気がしていた。サインとしては微妙かも知れないが、奏が楽しんで書いている為に問題は無いと判断した小猫。次の色紙にも好きな様に、唯指定された名前と自分の名前だけは絶対に入れる様に奏へ言って差し出した。
「う~ん、う~ん」
「あれッスね。毎回違うッスから、何だかんだで世界に1枚だけのサインになるッスね」
「一枚だけ……奏。我にも書く」
ミッテルトの言葉に身を乗り出して奏へ話し掛けるオーフィス。そんな姿を眺めながら小猫は傍らに用意してある色紙の量に溜息をついた。カテレアが用意した枚数は優に100枚を超えており、間違い無く10枚前後で奏に飽きが来ると小猫は分かっていた。会談の後、魔法少女のコスプレをした魔王様にも『カテレアちゃんのお願いを聞いてあげて?』と言われてしまった以上、奏に熟して貰う為にどうにかしたい小猫。特に期限は無いが、それでも何時取りに来るか分からない故にその心に余裕は無かった。
「小猫。小猫」
「何ですか、ミッテルトさん」
「このままじゃ多分奏は飽きるッス。ここは奏のやる気を出すものを用意するべきだと思うッス」
「奏さんのやる気を出すもの……あ」
奏の好きな物と言えばお菓子等の甘い物。それを思い出した小猫は自分が持って来ているお菓子を思い出した。特にこれと言って特別な事は無い、食べ慣れたお菓子。それでも奏の気分を上げるには十分だが、何かが足りない気がした。……するとミッテルトは立ち上がる。
「奏、キッチン借りて良いっすか?」
「ふぇ? あ、うん。大丈夫だよ! あ、何か作るの?」
「頑張ってる奏にご褒美ッスよ。小猫も手伝うッス」
「……分かりました」
「我、どうする?」
「あ~、オーフィスは奏の手伝いをお願いするッス」
「分かった」
小猫を連れてキッチンへ向かったミッテルト。2人と別れたところで小猫が料理を出来るのか尋ねれば、ミッテルトは不敵な笑みを浮かべて片腕を回しながら「任せるッス!」と自信有り気に答えた。
『次。女。ジャンヌ』
『えっと、ジャンヌお姉ちゃんへ』
『その次、また女。ルフェイ』
『待って待って! 1枚ずつやるから!』
「……早く作りましょう。奏さんが持ちません」
「そうッスね」
ミッテルトと小猫は静かに会話していたが、奏とオーフィスの会話は2人よりも大きい且つ響きが良い事から2人の耳に届いた。先程まで小猫かミッテルトが手伝っていた為、オーフィスになった事で逆に負担が増えた様である。だがその声音は少し楽しそうで、奏の顔は見えずとも笑顔を浮かべているのを2人は察した。そして小猫はミッテルトと共にお菓子を作る為、道具を手にする。
数分後、一時休憩を入れてミッテルトと小猫が作ったお菓子を食べる事にした4人。奏の膝上にはスフィンクスとエリザベスが舐める猫用のお菓子をちゅるちゅると食べており、足元ではシロが同じ様に猫用のおやつを食べる。そして奏は目の前に置かれたホットケーキに目を輝かせた。
「美味しそう!」
「食べて休憩したらまた頑張るッス!」
「持ってきたのは私達だから、最後まで手伝う」
「我も」
買って来たホットケーキとは違う味付けは愛情なのか友情なのか。少なくともホットケーキを口に入れた奏の様子はその味に笑顔を浮かべており、小猫は少しホッとしながらミッテルトと目を合わせた。小さくガッツポーズをする彼女に頷き返し、食べ始めた小猫達。その後、再びサインを書く事になった奏は1枚として同じものの無いサインを30枚近く完成させるのだった。
「奏、折り入ってお願いがあるッス」
サインを書くのを止めて外の空も暗くなり始めた頃、そろそろ帰ろうとしていた小猫はミッテルトが正座して奏の前に座る光景を前に首を傾げた。奏も同じ様にミッテルトが改まる姿に首を傾げており、オーフィスは猫達と興味無さげに戯れていた。
「一応あの時の問題が解決して、またこの街に住める様になったッス。でも前と同じで住む場所が無いッス」
「……」
「他に当てが無いッス。だからお願いッス! うちを、ここに居候させて欲しいッス!」
小猫はミッテルトが話をする途中で何を言おうとしているか察してしまった。それは彼女にとって衝撃であり、言われた奏にとっても衝撃的な事だっただろう。だが奏は頭を下げるミッテルトの姿を前に傍へ近づくと、膝の上に置かれていた彼女の両手を握った。
「前に言った事、覚えてる? 行く場所が無いなら家に居ても大丈夫って、言ったでしょ? これからよろしくね! ミッテルト!」
「奏……ありがとうッス! これからよろしくお願いするッス!」
「むぎゅ!?」
嘗ての言葉は今も有効だった様で、ミッテルトは嬉しさの余り奏の身体を抱きしめ始めた。小柄な自分よりも少々小さいその身体は簡単に腕の中に納まり、驚きながらも奏は笑みを浮かべてその背中に手を回すと同じ様にミッテルトの身体を抱きしめる。目の前の光景はとても心温まる光景と言って良いだろう。……だが、小猫の心は何処か複雑だった。そしてそんな彼女の心を更に刺激する様に今まで黙っていたオーフィスが奏の傍へ移動すると、服の裾を軽く引っ張って奏の意識を自分へ向けさせる。
「ミッテルト、ここに住む?」
「うん! これからミッテルトは家族になるの!」
「なら、我もここに住む。我、奏と家族になる」
「ふぇ? オーフィスは家があるんじゃないの?」
「寝る場所はある。でも、そこは我1人。……奏と会ってから、何時も寂しい」
「オーフィスも1人暮らしだったの?」
ミッテルトと同じ様に住もうとし始めたオーフィス。今まで何処かは知らずとも帰っていた為、ミッテルトと違って帰る場所があると思っていた奏。それは間違いでは無いが、1人でそこに過ごしていると言ってから続けた『寂しい』と言う言葉はオーフィスの本心だった。今の今まで静かな場所に1人で居る事を望んだ彼女は、騒がしい奏の傍に居る様になった事で物足りなさを感じ始めていたのだ。1人で暮らしているのなら、誰かの許可を取る必要は無い。オーフィスが許可を取る相手は奏だけであり、言われた彼女は少し頭を動かして考える様な仕草をした後に笑顔を見せた。
「それじゃあオーフィスもこれから家族だね!」
「ん。我は奏と家族。ミッテルトとも家族」
「……奏さん。そんな簡単に決めちゃ駄目だと思う」
「大丈夫だよ! 他にはシロ達しか居ないもん。シロ達はここに居る皆と仲が良いから喧嘩する心配も無いよ!」
「あ、その、そう、じゃなくて……」
瞬く間に進んでしまったミッテルトとオーフィスによる杉村家への移住。小猫は何処か焦りを感じ乍ら奏に声を掛けるが、考えたり嫌がったりするどころかこれから一緒に住む事にワクワクした様子の奏が笑顔で答えた事で何も言えなくなってしまう。……そして夜も深くなり始めた頃、何時もの様に帰宅する事になった小猫。ミッテルトとオーフィスも今日からでは無く、一応荷物を持って来ると言う体で一時的に奏の家を離れる中、リアスの元へ帰る為に行動する小猫は覚悟を決める。そして日付も変わった深夜。小猫はリアスに相談した。
「部長、奏さんの家に住みたいです。今すぐに」
「ちょっと待ちなさい、小猫」
まだ本人の許可も貰わぬまま、以前よりも本気を感じさせる目で言い切った小猫の姿にリアスが頭を押さえるのは仕方の無い事であった。
もう4話も出来てしまったからには、連載にするべきかも知れないと思うこの頃。でも何度も言う様に続く保証が無い。もし続くなら前回の後書き通り日常的な話になりそう。もうここまで崩壊したら時系列とか気にしなくて良いかも……。百合が、百合が足りない。
タグに『原作崩壊』を追加しました。
常時掲載
【Fantia】にも過去作を含めた作品を公開中。
没や話数のある新作等は、全話一括で読む事が出来ます。
https://fantia.jp/594910de58
奏の一人称に相応しいのは?
-
私
-
奏
-
僕
-
無い方が良い