【短編】悪魔な白猫は純真過ぎる少女を守りたい   作:ウルハーツ

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原作が……息をしてない……。


純真過ぎる少女は友達とプールで大はしゃぎする

 夏休み。長期休みの中で最も長い休みが駒王学園の生徒達に訪れた。当然奏や小猫も長い休みに入り、小猫はリアスに連れられて冥界へ行く事になっていた。が、それはつまり奏としばらく会えないという事。少し前の合宿へ行った際には寂しく思いながらも数日の別れをしていた小猫と奏。だが小猫が今回の冥界行きを聞かされた時、一番最初に頭の中に浮かんだのは焦りだった。あの頃と大きく違う事……つまり奏の家に居候する様になったミッテルトとオーフィスがその原因である。

 

「と言う事でお願いします、部長」

 

「魔法陣を奏ちゃんの家の傍に。って……小猫、本気?」

 

「はい。お願いします」

 

 故に彼女は主であるリアスへ頼んでいた。冥界から即奏の家へ転移する事の出来る魔法陣を設置して貰う為に。決して不可能では無いが、余り良い事でも無い為に戸惑うリアス。しかし小猫の目が言葉を言わずとも語っていた。……『しなければ着いて行きません』と。都合の良い事に奏の家から少し離れた場所には小さな森があり、魔法陣を隠して設置するには十分な環境がある。後はリアスの行動次第だった。

 

「……はぁ。仕方無いわね。それじゃあ用意するわ。但し、ちゃんと私が呼んだら戻ってきなさい。良いわね? 絶対、よ」

 

「了解です」

 

 リアスが一番危惧する事。それは小猫が大事な時に奏の家に入り浸って動かない事だった。故に念を押す様に約束を交わし、後日奏の家の傍にあった小さな森の中に人の目には見えない様にグレモリーの家の紋様が描かれた魔法陣が出来上がる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、小猫は冥界でカテレアと会っていた。小猫の手には何枚も重なった色紙があり、カテレアはそれを前に眼鏡越しに目を輝かせてハンカチを手に取る。そして貴重品を扱うかの様にそれを受け取った彼女は物理的に可笑しな形でそれを何処かにしまい、小猫へお礼を言って頭を下げた。その色紙はカテレアが小猫に頼んで奏に書いて貰ったサインであり、何回かに分けて小猫は出来上がった色紙をこうしてカテレアへ渡していたのだ。そしてこの日、最後の1枚が手渡された事で小猫は安堵する。

 

「大変でした。奏さん、途中で何時も飽きてしまうので」

 

「苦労をお掛けしましたね。ですがこれで、これからも私達は生きて行けます。冥界に戻ったらまずは額に入れて飾れる準備をしないと行けませんね」

 

「……殆ど唯の落書き何ですが」

 

 カテレアの持つ奏が書いたサインの色紙。それは殆どが誰かの名前と適当な絵や言葉で出来上がったいた。小猫からすれば唯の落書きにしか見えないが、カテレア達からすればお宝なのだろう。彼女の言葉に小猫は若干引きながら、大きな約束事が終わった事で自然と安堵する。

 

「あぁ、そうでした。実は無事に全てが終わったらこれをお渡しするつもりだったのです」

 

「? これは……チケット、ですか?」

 

 カテレアがふと思い出した様に胸の谷間に手を突っ込むと、そこから数枚の紙切れを出して小猫へ渡した。受け取った小猫がその紙を見れば、そこには『レヴィアタン・スイスイランド』と書かれていた。何となくそれがプールのチケットだと分かった小猫。だが場所を見れば明らかに冥界であり、奏を連れて行くのは明らかに難しい場所でもあった。

 

「今回の件のお礼……という訳では無いですが、是非奏ちゃんを連れて遊びに来て欲しいのです」

 

「奏さんは私が悪魔だと言う事も、ミッテルトさんやオーフィスさんが人じゃない事も知りません。冥界に連れて来るのは難しいと思います」

 

「……いや、何とかなるだろう」

 

 2人の会話に突然入って来たゼノヴィア。今の今まで小猫とカテレアは2人で話していたが、彼女と会う上でリアスが小猫だけを会わせる筈が無い。当然自分を始めとした下僕の悪魔達がこの場には勢ぞろいしており、話を聞いていた故に何とも言えない表情を浮かべていたリアス達はゼノヴィアが突然入った事で彼女へ視線を集中させた。

 

「彼女は疑う事を知らない。なら、少し心は痛むがそれを利用すれば良い」

 

 ゼノヴィアの言葉を機にカテレアと小猫は奏を冥界のプールへ連れて行くため、計画を立て始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏さん、これを付けて」

 

「? アイマスク?」

 

 後日。冥界から奏の家へやって来た小猫はエリザベスとスフィンクスに乗られた状態の奏へ黒いアイマスクを差し出した。首を傾げてそれを受け取った時、傍に居たミッテルトが頷いて奏の上に乗る2匹の名前を呼ぶ。居候になって数日。共に過ごす事でエリザベスとスフィンクスに以前と比べてかなり懐かれていた彼女の声は、2匹を奏の上から降ろす事も何とか出来る様になっていた。

 

「うわぁ。真っ暗! 何にも見えない!」

 

「そう言う物ッスから。小猫、エリザベスとスフィンクスは連れて行くッスか?」

 

「いえ。流石に許可を貰えませんでした」

 

「許可? ねぇねぇ、何の話? 何するの?」

 

「ん。我も気になる」

 

 既にミッテルトは小猫から事情を聞かされていた故に協力していたが、オーフィスは奏同様に何も知らなかった。彼女の場合、知らせると簡単に口を滑らせる可能性があると考えたのだ。普段から稀に奏の知らない裏の言葉を軽々と口走る故、そう思われても仕方の無い事であった。

 

 ミッテルトがオーフィスに向けて口元に人差し指を当て乍ら静かにする様に見せ、その間に奏は小猫に片手を繋がれてソファから立ち上がっていた。その際小猫は手が離れない様に、僅か乍らの他意を込めて奏の指と指の間に自らの指を絡める様に握る。

 

「何処かに行くの?」

 

「お楽しみ……危ない事は無い。大丈夫」

 

「そっか! ふんふ~ん♪ 何だろう♪」

 

 手を繋がれたまま疑う様子も無く移動する奏の様子に小猫はゼノヴィアの予想通りだと思いながら家を出る。当然小猫達は奏にこの後何も予定が無い事も理解しており、奏に靴を履かせて外へ出た小猫はそのままリアスに頼んで設置して貰った魔法陣の元まで奏を連れて行った。……そして、奏を連れて転移した小猫達は予め打ち合わせしておいた通りの『迎え』と合流した。

 

「何かに乗るの?」

 

「うん。もうしばらく我慢して欲しい」

 

「分かった!」

 

「……奏はもう少し疑う事を覚えた方が良いッスね」

 

「あぁ、純真な奏ちゃんが私の目の前に! 触れたい、愛でたい、持ち帰りたい!」

 

「こいつ、危ない」

 

 既に場所は冥界。明らかに空の景色も違う世界で、奏は小猫に連れられて何かの乗り物に乗り込んだ。話し掛ければ帰って来る小猫の声に疑う様子も無く楽しそうに返事をする奏の姿を見てミッテルトが少々危機感を覚える中、迎えを用意して出迎えていたカテレアが合流。奏とは面識も無い為に小声で、だが今にも襲い掛かりそうな程に息を荒らげるその姿にオーフィスが僅か乍ら警戒し始める。

 

 しばらくの間、冥界で乗り物に揺られて視界を遮られ続けていた奏はやがて何処かへ着いた事で再び小猫に連れられて移動を開始する。その間、一緒に居たカテレアは急いで移動。目的地へ先に入るや否や、猛スピードでそこに居るスタッフへ声を掛けた。

 

「間もなく奏ちゃんが来ます! 全員、今すぐ配置に付きなさい!」

 

≪イエス、マム!≫

 

 彼女の登場にスタッフ達は一様に戦慄する。そして掛けられた声を合図として一斉に行動を開始した。因みにスタッフは全員女性である。……それから少しの間を置いて小猫に連れられながら現れたアイマスクを付ける奏を見た受付をするスタッフは緊張した面持ちでお辞儀をした。

 

「い、いらっしゃいませぇ!」

 

「これ、お願いするッス」

 

「4名様ですね。……まずは2階の談話室へどうぞ」

 

 少々声を裏返しながらもミッテルトが差し出したチケットを受け取った受付のスタッフは、カテレアの指示通りに4人を2階へ向かわせる。……『レヴィアタン・スイスイランド』は室内プールであり、全ては1階の巨大な一室に揃っていた。回るプールにウォータースライダー。10レーン分ある25mプール等々。そして2階には泳がない保護者や休憩する者がプールを見下ろせる談話室があり、奏にネタバラシをするに相応しい場所でもあった。

 

「着いた」

 

「奏さん、着いたから外して良い」

 

「良いの? それじゃあ…………ぁ」

 

 オーフィスの言葉に続いて小猫がアイマスクを外して良いと伝えれば、奏は自らの手でアイマスクを取って視界を取り戻す。そして見える人っ子1人居ない巨大なプールの光景にその目は輝き始めた。1歩1歩ガラスに近づき、やがて両手をつけてそれを見降ろした奏は振り返る。そこには優し気に微笑む小猫とミッテルトが。そして自分の隣には物珍しそうにプールを眺めるオーフィスの姿があった。

 

「おっきなプールだよ! 小猫! ミッテルト! オーフィス! 泳いで良いの!? 遊んで良いの!?」

 

「奏さんが頑張って色紙を書いたから、そのお礼に招待された」

 

「今日は思いっきり遊ぶッスよ!」

 

「奏、行く」

 

「うん! 小猫も行こう!」

 

「急がなくても、プールは逃げない」

 

 目を輝かせる奏は小猫とミッテルトの言葉を受け、オーフィスと共に走り出した。そしてミッテルトと小猫の手を片方ずつ握り、引っ張りながら1階へ降り始める。が、ここで1つ問題が発生する。奏は一切水着を用意していなかった。何も告げられずに来たのだから当然であり、更衣室の目の前に到着してそれに気付いた奏は「どうしよう?」と自分を連れて来た小猫達に声を掛けた。奏を連れて来るのに必死で同じ様に用意する事を忘れていた小猫達。すると、話を聞いていたスタッフの数名が突然4人の前に現れる。

 

「ここでは水着のレンタルもご用意しておりますよ!」

 

「うわぁ~、一杯あるよ!」

 

 音も無く現れたスタッフ達は沢山水着が掛かったそれを手に紹介する。すると奏は誰よりも早く近づいて水着を吟味し始める。と言っても本気で似合う似合わないを選ぶのではなく、可愛い物を探し始めただけだが。

 

「水着……初めて着るッスね」

 

「我も」

 

「学校の水着なら」

 

「なら皆で別々のを着てみようよ!」

 

 奏も小猫と同じ様に小中学校で授業時に着るスクール水着しか経験が無く、故に彼女の提案を受けて全員は頷いた。着慣れない水着を着るという事に多少不安を感じる小猫とミッテルトだが、恥ずかしがる要因の1つが今回無い事で特に抵抗を感じる事は無かった。

 

「広~い! でも、誰も居ないよ?」

 

「貸し切りだから、当然」

 

「貸し切りなの!? あんな天気も良いのに……良いのかな?」

 

 今回、自分達以外にお客は誰1人居ないのだ。カテレアが奏に自由で伸び伸びと遊んで欲しいが為に行った事であるが、実は今現在室内は全面的に撮影中である。奏は窓から見える『綺麗な青空』を見て自分達だけで広い場所を使う事に若干申し訳無さを感じ始めるも、オーフィスが手を引いて歩き出した事で楽しむ事を優先する。

 

 その頃、奏が眺めた窓の外では複数人の男性悪魔が協力して大きな画面を柱の影で支えていた。その画面には奏が普段から見る青空が映っており、そんな画面の反対側。実際の空は冥界らしく薄暗いものであった。窓を完全に隠せる程の画面を抱えるのは大変であり、男達の額には汗も見え始める。特に高い位置の窓を隠す為に肩車を連ねた一番下の人物に至っては危険な状態だ。が、それでも彼らは倒れない。……倒れられない。

 

「良いですか、何があっても奏ちゃんが気付かない様に画面を降ろしてはいけませんよ!」

 

≪わ、分かりました……カテレア様!≫

 

 全ては奏が楽しむ為に。彼らは今日、画面を落とす訳にはいかなかった。

 

 各々の水着を軽く紹介すれば、奏は上下フリルの付いた青を基調とした色彩のビキニ。小猫は白いハイネック型の水着。ミッテルトは黄色い三角ビキニであり、オーフィスはワンピース型の黒い水着であった。オーフィス以外は臍を出しており、彼女達の水着姿に。主に奏の水着姿に撮影班の数名が鼻血を流すが、そんな事を4人が知る訳も無い。

 

 学校でプールの授業を受ける際、必ず準備運動を行う。故に奏と小猫がうろ覚えでミッテルトとオーフィスに教え乍ら準備体操をしていた時、小猫は身体を反らせる体操でふと全員の胸を見た。ミッテルトは僅かに膨らむ程度でオーフィスは所謂ペッタンコ。自分も同じだが、小猫は奏の胸を見て目を見開いた。

 

「奏さん……胸が」

 

「胸? あ、うん! 最近、ちょっと大きくなって来たんだよ! まだちょっとだけど……もっと大きくなるかな?」

 

 決して奏の胸は大きい訳では無い。だがこの場に居る誰よりも膨らみが存在しており、まだまだ成長段階であるとその言葉から理解するには十分だった。無意識に自分よりも小さい故に胸の成長も無いと思っていた小猫にとって、それは一種の裏切り。丁度体操が終わった時、小猫はゆっくりと奏の傍へ近付き始める。

 

「ずるい。奏さん」

 

「ふぇ? こ、小猫!? んにゃ!?」

 

 奏の背後に立った小猫は突然後ろから奏の両胸に手を回し始めた。驚きの余り本物の小猫を差し置いて猫の様な悲鳴を上げた奏は勢い余ってその場を動き、回るプールの傍で足を滑らせる。当然彼女を襲った小猫も一緒に落ち、2人は一緒に回るプールへダイブした。

 

「何やってるッスか」

 

「飛び込み、駄目」

 

「ぷはぁ! 吃驚した~!」

 

「……ごめん」

 

 突然飛び込んだ様に見えたミッテルトとオーフィスが声を掛ける中、水面から顔を出した奏の姿に小猫が謝る。すると奏は申し訳なさそうな小猫の姿に笑みを浮かべ、泳いで小猫に突撃した。水の中故に威力はとても弱く、小猫は受け止める様に奏を抱きしめた。腕の中で顔を上げて笑みを浮かべた奏。

 

「えへへ……遊ぼ、小猫!」

 

「!……うん」

 

 欠片も怒った様子を見せずに遊びを誘う奏に小猫は頷いた。そしてミッテルトとオーフィスもプールへ入る中、スイスイと移動し始めた3人を追い掛けようとした小猫は……自分がまだ完全に泳げない事を思い出した。少し前、オカルト研究部の面々と共に駒王学園のプールを掃除してから遊んだ小猫。だが泳ぐ事が出来ず、泳ぎの練習をしていたものの、まだ完璧には程遠かった。

 

 徐々に離れて行く3人。何処か置いて行かれている様な気がした小猫は徐々に曲がって見えなくなってしまう3人に手を伸ばすが、届く事は無かった。そして1人になって自分が泳げない事に後悔と悔しさを感じ、水中で強く拳を握る。僅かに目元に自ら流した涙が溜まり始めた時、背後から来た衝撃にその涙が落ちる。

 

「小猫? どうしたの?」

 

「あ……その、私……泳げない、から」

 

「そうなの? じゃあ一緒にあれやろうよ!」

 

 結構な速さで一周したのか、戻って来た奏へ正直に泳げない事を告白した小猫。すると奏は首を傾げて聞き返した後、頷いて笑顔でウォータースライダーを指差した。

 

 階段を上り終え、滑り始めの場所へ到着した時。そこにはスタッフの女性が水着で1人だけ待機していた。貸し切りと言えど、監視員が居ない訳では無い。上って来る段階から気付いて居た為、現れた奏と小猫の姿を笑顔で出迎えたスタッフ。小猫が軽くお辞儀をして、奏が元気良く「お願いします!」と挨拶をすれば、念の為注意事項を聞かされて2人はスライダーに座り込む。小猫が奏を抱きしめる様な形で同時に滑る用意をして。

 

「それでは、行ってらっしゃいませ♪」

 

「行くよ」

 

「レッツゴー!」

 

 掛け声と共に小猫が足で自分を前に出せば、水の流れに乗って2人は滑り始める。回転する場所や曲がる場所で楽し気に悲鳴を上げる奏とは対照的に、小猫は楽し気ながらも一切悲鳴を上げずに奏の身体を少し強めに抱きしめた。……そして1分弱にも及ぶ滑りの末、2人は着水場に入る。その際、僅かに高さがあった事で2人は空中で離れて着水する。

 

「あはは! 楽しいね!」

 

「うん……良かった」

 

 心から楽しそうにする奏の言葉に頷き、奏を抱いていた手を眺める小猫。果たして彼女の感想がウォータースライダーに対してなのか、他の何かに対してなのか……それを知るのは本人だけである。

 

「奏。我も、やりたい」

 

「うん! オーフィスも一緒にやろう!」

 

「じゃあ、その次はうちッスね」

 

「順番に、です」

 

 その後、奏とオーフィス。小猫とミッテルトで1度。次に奏とミッテルト。小猫とオーフィスで行い、最後にミッテルトとオーフィスで滑り、全ペアの組み合わせが終了した事で4人はウォータースライダーから離れる。そして次に入ったのは回るプールでは無く、25mプールであった。普段であれば本気で泳ぎの練習をする人が数人は見える場所。だが貸し切りの今、4人以外には監視員の女性しか人が居なかった。

 

「わぷっ、ちょっと深い~!」

 

「奏さん、ギリギリだね」

 

「我もギリギリ」

 

「ははっ、小猫もうちも2人よりは背があるッスからね」

 

 25mプールは回るプールに比べて水深が深く、真っ直ぐに立って奏とオーフィスは口元が沈んでしまう高さだった。小猫とオーフィスは2人よりも僅かに大きい為、顎が水面に触れる程度。幸いだったのは奏もオーフィスもその場で泳いで浮く事が出来た為、溺れる心配は無い事である。

 

「こにぇこ、泳ぎのれんしゅぶ、しよぉ!」

 

「……大変そうッスね。あ、こんなのはどうッスか?」

 

 水中で足と手を動かして浮かびながら話そうとする奏だが、揺れる水面が口元に当たって真面な言葉が話せていなかった。そこでミッテルトは奏の腹部に手を回すと、抱きながら立つ事に。ミッテルトのお蔭で僅かに足元が浮いたまま、奏は水面から解放される。

 

「ふぅ、ありがとう!」

 

「どういたしましてッス。にしても奏、お肌ツヤツヤのプニプニッスね。触り心地が良いッス」

 

「わふぅ、くすぐったいよぉ!」

 

 ミッテルトのお蔭で普通に話す事が出来る様になり、お礼を言った奏。だがミッテルトが露わになった腹部などを突き始めた事で思わず空気を漏らし、奏は楽しそうにしながらも手でミッテルトの指先を防ぎ始める。それが楽しかったミッテルトは突くから撫でるに手の動きを移行し始め、徐々に奏の声音は種類を変え始めた。

 

「ん、ミッテルト……?」

 

「本当、気持ち良いッス」

 

「ひぅ!」

 

 まるで何かに憑りつかれたかの様に奏の身体を触れるから愛撫に変え始めたミッテルト。明らかに様子がおかしいと気付いた奏が声を掛ける中、その手が徐に胸の下を撫でた事で奏は可愛らしい悲鳴を上げた。そしてその声に調子付いたミッテルトが更に上へ手を移動させようとした時、奏の声に気付いたオーフィスが少し離れた位置から水中で素早く手を動かした。途端、強い水流が生きた様に正面の奏を避けて横からミッテルトに直撃。奏の身体が解放され、大きく揺れる水に流されてオーフィスの元へ辿り着いた。

 

「奏、平気?」

 

「う、うん。えへへ……何か分かんないけど身体がピリってして、恥ずかしかった」

 

「ミッテルトさん」

 

「ぶはぁ! ご、御免ッス! つい出来心って奴で……奏! 許して欲しいッス!」

 

「だ、大丈夫! 大丈夫だけど……あぅ~!」

 

「よしよし」

 

 オーフィスに無事保護され、頭を撫でられる奏の顔は比較的冷たいプールの中でも真っ赤だった。小猫から冷たい目を向けられ、必死で謝るミッテルトを許しながらも恥ずかしそうにするその姿は非常に稀な光景。故に小猫は責める事も忘れ、ミッテルトも焦りを忘れて奏の珍しい姿に言葉を失った。

 

 その後、照れ隠しの様に泳ぎ始めて離れ始めた奏。彼女を追う様にオーフィスが続き、小猫も泳がずに足を付けて追い始める。ミッテルトも遅れて我に返ると追い掛け始め、やがて恥ずかしさを忘れて楽しみだした奏を筆頭に巨大な25mプールでの壮大な鬼ごっこが始まる。

 

 追い掛け追われて水の抵抗を受け乍ら動き回った結果、疲れ切った奏達。2種類のプールの間にあった椅子に並んで座り、休憩を挟んでスタッフに出されたアイスやパフェなどの甘味を家と同じ様に楽しんだ後、元気を取り戻した奏は再びプールへ。……泳ぎに泳ぎ切った奏は当然疲れ切り、2度目の休憩と共に眠り始めてしまう。

 

「寝ちゃったッスね」

 

「ですね。……可愛い」

 

「……どうする?」

 

「大分遊んだッスからね。うちも流石に疲れたッス」

 

「帰りも隠さないと行けないので、このまま帰るのも手ですね」

 

 椅子に座って寝息を立てる奏を囲みながら3人が相談して居た時、突然聞こえるシャッター音に3人の視線が一斉に移動した。そこには少し離れた場所から高そうなカメラを手にした面積の少ないマイクロビキニ姿のカテレアが立っており、明らかにその姿は奏の寝顔を撮影した後だった。その証拠と言えるか定かでは無いが、現在彼女の顔は恍惚とした表情を浮かべて鼻から赤い液が流れる非常に残念なものだった。

 

「奏ちゃんを送るのなら、手伝いますわ」

 

「奏、着替えさせる」

 

「! それはつまり……」

 

「っ! そう、なるッスね」

 

 オーフィスの言葉に戦慄した2人。カテレアは撮影準備バッチリで待機しており、だがそれを流石に許せないと思った小猫がオーフィスへ何かを告げる。途端に彼女は一瞬でカテレアを。カテレアの持つカメラを鋭く睨み、そのレンズに罅が入った。

 

「なっ!?」

 

「奏の恥ずかしい写真、撮らせない」

 

「ぐっ……仕方ありません。ですがせめて、せめてこの目で!」

 

「……」

 

 カテレアの必死な懇願を見て思わず黙り込んでしまった小猫。本気な様子で明らかに引く気が無く、ミッテルトは目で語る。『諦めた方が良いッス』と。故に小猫は溜息をついて奏をお姫様抱っこの形で抱えると、更衣室へ移動し始めた。この場には他にも見ている人が居る為、当然の移動である。しかしそれが知らぬ内に撮影を阻止する事となった。

 

 更衣室で奏の使ったロッカーを開け、服を取り出して着替えさせる事にした小猫達。着替える際に当然乍ら裸は見ているが、まさか水着を脱がせて服を着せる事になるとは誰も思っていなかった。故に緊張した面持ちで奏の身体へ手を伸ばした小猫達。1人が支え、1人が持ち上げ、1人が着せて。不思議と寝入ってしまっていた奏が起きる気配は無く、やがて来る際の服装に戻った奏の周りはまるで殺人現場の如く鮮血に塗れていた。

 

「ふぅ……ふぅ……つ、疲れました」

 

「奏の裸、何でこんな刺激的なんッスか」

 

「あぁ、生きてて良かったわ……」

 

「何で3人、鼻から血を流す?」

 

≪気にしないでください(欲しいッス)

 

 血の原因である3人の鼻を見て首を傾げて質問するオーフィスに向けて同時に答えた3人。その後、来た道を眠った奏と共に帰る小猫達。その際、眠る奏に膝枕を交代でし続けたのは彼女達だけが知る事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ ~その頃のシロ達~

 

『お母さ~ん!』

 

『ご主人、いない!』

 

『何処かに連れて行かれたみたいだね。まぁ、心配は無いだろう』

 

『むぅ~、暇ー! 暇ー!』

 

『ご主人の上でゴロゴロしたい!』

 

『それで畳をゴロゴロしててもご主人は帰って来ないよ。大人しく……ん?』

 

『お母さん?』

 

『あ、外の猫だ~!』

 

『黒猫……私の知り合いじゃ無いね』

 

『ジッとこっちを見てるよ~?』

 

『あ、近づいて来た!』

 

『てきしゅう~! てきしゅう~! ご主人達が閉め忘れた窓から入って来た~!』

 

『静かに。……何の用かな?』

 

『別に。気になったから来ただけにゃん』

 

『まぁ、私達は何時だって気まぐれだから可笑しな理由じゃないと思うけど……何か目的があった様に見えるのは気のせいかい?』

 

『! 何でそう思ったのかにゃ?』

 

『ねぇねぇ、エリちゃん。あのお姉さん、言葉の最後に【にゃ】って付けてる!』

 

『だねだねスーちゃん。私達も付けた方が良いのかな~? にゃんにゃん♪』

 

『強いて言うなら猫の勘、かな。でもその様子だと間違い無い様だね。それで、何の様かな?』

 

『別にお前達に用は無いにゃ。唯……妹とあの子が過ごしてる家を見に来ただけにゃ』

 

『……妹、ね。何か違う気がしたけど、本当に違うのかな?』

 

『何が違うの~?』

 

『ご主人以外人じゃ無い事?』

 

『やっぱり気付いてたのにゃ』

 

『気配が違うからね。君の妹が誰かも何となく察しが付くけど、別に正体が何であれ私達には関係ない事だよ。ご主人が楽しく過ごせるなら、私が邪魔する理由は無いからね』

 

『ご主人~! まだ帰って来ないの~? にゃ~!』

 

『警戒心の無い猫達にゃ』

 

『ご主人の影響だろうね。基本家の中で外出の際はご主人と一緒。ご主人と一緒だと危ない目には不思議と遭わないからね』

 

『それは安心にゃ。……正直、色々聞きたい事があるにゃ』

 

『良いよ。私の知る事で良ければ、ね』

 

 暇になったエリザベスとスフィンクスは普段奏の眠る寝室のベッドでじゃれ合い、シロと黒猫の話は奏達が帰る寸前まで続いた。




アンケートがあるからって続くとは限りません。

流石に一人称無しに限界を感じたので、もしもの場合を見越して……です。正直1話しか考えずに生まれたので無くても良いかな? とか思ってたんですけど、ここまで続いてしまったので一応。


常時掲載

【Fantia】にも過去作を含めた作品を公開中。
没や話数のある新作等は、全話一括で読む事が出来ます。
https://fantia.jp/594910de58

奏の一人称に相応しいのは?

  • 無い方が良い
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