暗殺教室〜自分のスタンドは暗殺向きです〜 作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない
「『覚悟』…ねえ?君みたいな若い子を再起不能にするのに『覚悟』なんかいらないと思うんだけどなぁ」
「そのよく回る口を閉じた方がいいぜ。手元が狂って、『不幸な事故』が起こるかもしんねーからなぁ〜ッ!」
肩をすくめるシロに銃俉は鋭い視線を向ける。その手元にある拳銃は怒りで微かに震えていた。
「…すぐ感情的になってしまうのも暗殺者としてどうなのかなぁ〜ッ、君。それで拳銃の狙い、定めれるのかい?」
目ざとくそれを発見したシロはくっく、と笑う。それを見かねた殺せんせーが銃俉の近くへ移動した。
「銃俉君、冷静になって下さい。君がこんな事をする必要は無い。ゆっくり…落ち着いてその銃を収めるんです」
殺せんせーが銃俉を諭そうとする。しかし、銃俉はそれに応じる事はなかった。
「…確かに俺の家族は褒められた人たちじゃあねー。むしろもう何もかもがなくなった、崖っぷちまで追い詰められた奴らの集まりだ。…でもな。そんな奴らでもな、…俺の家族なんだよ。──大事な家族をコケにされてよお〜ッ、黙ってるなんざ俺には出来ねぇぜ」
その言葉と同時にシロの頭に照準を合わせる。その拳銃はもう、震えてはいなかった。
「殺せんせー。銃俉君は自らこのリングに上がってきたんだ。生徒を傷付けないという約束は守るのが難しいんだがね…」
そのシロの言葉に逡巡する殺せんせー。しかし、隣の銃俉の姿を見て、ゆっくりと口を開いた。
「…分かりました。これ以上言っても聞かなそうですからね…。銃俉君、もちろん先生は君を守ります。しかし、もしも自分の身に危険が迫っていると感じた瞬間にその場から離れて下さい」
その言葉に頷く銃俉。そして、周囲には張り詰めた空気が漂う。静まり返る教室。周りの生徒の一人が固唾を飲んだその瞬間──。
「行け、イトナ」
「『セックス・ピストルズ』!!」
────暗殺の火蓋が切られた。
「イトナ、彼の銃弾には注意しろ。『スタンド』にもだ」
「銃俉君、イトナ君の触手に気をつけてください!触手のスピードは先生と同じくらいです!頭に小さい先生がいると思ってください!」
開幕と同時に、リングに一人と一匹の指示が響く。それを聞いた銃俉は横に走りながら、イトナは頭の触手を動かし始めた。
「……分かった」
「了解っす!」
まずは銃俉がイトナに走りながら三度発砲。高速で迫る弾丸に対抗するため、イトナは触手で生徒の教科書を掴み、その教科書で弾丸を弾いた。
「そんなのアリかよ!?」
毒づきながらもまた二度発砲する銃俉。その弾丸はまたもや教科書で弾かれる──その時、『ピストルズ』がそれぞれの弾丸の影から飛び出した。
《イーーーッハァァァァァーッ!!》
弾かれる直前、『ピストルズ』は弾丸の軌道を左右に調整。イトナを挟み撃ちの形に追い込んだ。
《同時攻撃ダァーーッ!》
《ウシャアーーーッ!!》
そして『No.1』、『No.2』が共にイトナへと弾丸を蹴り出した。しかし、それにもイトナは動じる事なく───
「──シッ!」
銃俉に急接近。触手をバネにし、大きく飛び上がりながら銃俉に蹴りを放つ。それを見た殺せんせーはイトナと銃俉の間に入り、その蹴りを受け止める。
ゴシャアッ!という音と共に殺せんせーの体が僅かに浮いた。
「うっぐ……!」
呻く殺せんせーに構わずに連続で蹴りを見舞うイトナ。しかしそれは銃俉がイトナへと弾丸を打ち込んだところで止めさせられた。今度は教科書で弾く事もせずに屈むことで弾丸を回避。そしてバックステップで距離を取る。
「すまねぇ、殺せんせー!大丈夫か!?」
「え…ええ、さっきの羊羹が出るところでした……」
「結構余裕あるのもしかして!?」
ツッコミながらリロードしていく銃俉。その傍らには『ピストルズ』の全員が漂っていた。
《ドウスンダジューゴォーッ!アイツニ俺タチノ攻撃ハ効イテナインダゼーッ!?》
《速スギルンダヨナァーッ!アイツノ頭ノ『触手』ッ!》
《シカモ『動体視力』モズバ抜ケテタヨォーッ!至近距離ノ弾丸ヲ避ケルナンテサァーーッ》
「ああ…!分かってるさ……!」
そう答える銃俉だが、心の中では必死に次の策を考えていた。
(どうする…!ヤツには中距離の弾丸は効かねぇ!だからといって『触手』を狙おうにも意味が無い…!しかも本体が超人的な『動体視力』だと…ッ!無茶苦茶じゃあねえかッ!)
どの手段から狙おうにも、すべての攻撃が通用しない。そんな絶望的な状況に陥ってしまった。今はまだ殺せんせーが居るから銃俉の安全はあるが、このままだとジリ貧だ。
焦る銃俉。それを見たシロはくぐもった笑い声を上げる。
「焦ってるねぇ銃俉君。私のイトナは完璧だろ?…それにしても君のその『スタンド』…。中々興味深い。君の体を解剖すれば何か分かるのかな?」
「殺せんせー、行けるか?」
「ええ。まだまだやれますよ」
ゆっくりと近づいてくるイトナを目前とし、二人は身構える。
(とりあえず今は手探りで弱点を探すしか───)
そう銃俉が考えたその時。教室にひとりの声が響いた。
「銃俉君ッ!殺せんせーの弱点ッ!『テンパるのが意外と早い』ッ!」
「ああ!?」
その声の主は片手にメモ帳を持った潮田渚であった。突然の発言に全員が困惑する。それは銃俉も同じであった。
(なんでこんな時にそんなどうでもいいこと言うかなぁ〜ッ!?殺せんせーの弱点つったって、相手はイトナなんだよッ!せめて『触手の弱点』とか───)
(『頭に小さい先生がいると思ってください!』)
その時、銃俉の脳裏に一つの引っ掛かりが生まれる。
(──いや待てよ?…殺せんせーと同じ触手?…
そしてその引っ掛かりは、一つの『策』として生まれ変わる──!
「…やってみるか…。『やらない』で後悔するより、『やった』後の方が『くい』が残んねーからなぁ〜〜ッ!」
『覚悟』を決めた銃俉。その手元にある紫色の拳銃が鈍く輝いた。
とべこんちえぬど