わだつみの抱く光   作:筆折ルマンド

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お気に入り100件ありがとうございます!(遅い

やっと糖分を提供し始めた訳なんですが、ちゃんと糖分補給できてますか?


二人のサマーデイ

「はぁ」

 夏休みの終わりも間近に迫った日。登校日で学校に来ていた一人の少女が物憂げにため息を付いていた。黒髪に映える白い大きなリボンは彼女の心境を表すかのように垂れ下がり、彼女のやわらかな雰囲気は彼女の心中に合わせてより儚げに彼女を観せていた。

 

「どうしたんですかな。未来さーん。夏休みはまだ残っておりますぞー」

 そんな様子の未来に話しかけたのはショートヘアの快活そうな少女。

 

「あっ、相沢さん。なんでもないよ」

 

「いやいやー、そんな私、疲れてるんです。みたいな雰囲気出しておいてなんでもないはない訳ないでしょうよ」

 相沢は未来の机の前に膝立ちになる。

 

「ほらほら、同じ陸上部のよしみではないですか。私、口の堅さには定評あるんですよ」

 

「それは悪い意味ででしょ」

 ボスッ

 未来の机の上で肘をついていた相沢の頭の上に教科書が落とされた。

 

「うー、痛いよ美雨ちゃん。別に友達になら話しても大丈夫でしょうが」

 

「人によっては広められたくない話しもあるっての」

 

 現れたおさげの少女が相沢に次いで未来に話しかける。

 

「ごめんね。ゆうこデリカシーがないから。でも最近なんだか落ち込んでるって話を聞いてたから私も気になってはいたんだ。ゆうこには念を押しておくから、もし良かったら話だけでも聞かせてくれないかな」

 そう言った少女は「無理にとは言わないけど」と言い募る。

 

「やっぱりぃ、美雨ちゃんも気になってたんじゃないですか〜」

 

「ゆうこは黙ってて。で、どうかな?」

 

「……うん、ちょっとだけ聞いてもらってもいいかな」

 

「もっちろん!」

 

「ゆうこ。真面目な話っぽいから途中でちゃちゃ入れないでよね」

 

 ◇

 

「ほぇ〜、引っ越して音信不通になった親友を探しに……。ひゃー美雨ちゃん美雨ちゃん! 私らの恋バナよりよっぽど熱いよ」

 

 パンッ! 

 興奮したようすの相沢に再度、美雨の教科書が炸裂した。

「小日向さんが勇気を出して話してくれた事を茶化すんじゃないの」

 

「ごめんなさい」

 

「私じゃないでしょ」

 

「未来ちゃん。すいませんでしたー」

 相沢が深々と頭を下げる。

 

「いいよ。品川さんもあんまり怒らないであげて。私も誰かに聞いてもらって少し気持ちが落ち着いたから」

 

「そう? それなら良かった」

 

「では! 話も終わった所で、アンニュイな雰囲気が晴らすために昨日お兄ちゃんに教えてもらった神技動画をみんなで見ようと思います!」

 そう言って相沢がバックからスマホを取り出しつつ立ち上がる。

 ドッ

 直後に相沢の頭で教科書が三度弾けた。

 

「どうしてそうなるの?」

 

「あぅぅ、だって〜、本当に凄い動画なんだよ? 神技クリップ集とか目じゃないぐらいの激ヤバ動画なんだよ。しかも日本の」

 

 相沢の言動に頭を抱える品川だが、そこを未来が制止した。

「だからって」

 

「まあまあ、品川さん落ち着いて。いいよ。私もその動画見てみたい」

 

「うぅ、未来様ぁ。ありがたや〜ありがたや〜。なんまんだぶなんまんだぶ」

 

「いいから早く」

 

「うひゃい! ただ今! えーとデッドウェスタン 神技 っとほいきた!」

 

 少女のスマホの映されたのは二つに分割された画面。右半分では既にゲームの銃撃戦が始まっており、もう半分は真っ暗なままだった。

 

「半分真っ黒なんだけど」

 

「それはそのゲームセンターで投稿者がコレをやってる人を撮影した奴だから、まだ投稿者が動画撮ってないんだよ。もう半分はリプレイ機能で録画した奴」

 

「へー」

 

 ほら、こっちの左半分が凄いんだよ。全弾ヘッドショット。1発も外してないって凄くない? 右は一緒に来てた女の子がやってたらしいんだけど途中で変わって両方左手の人になってそこから先はもうとんでもないことになるんだよ」

 

 そうこう言っているうちに左側も録画が始まったらしく、ゲームに向かって銃を構える二人が映し出される。

 片方は背の高いサングラスをかけたカッターシャツの男。もう一人はパンダ柄のパーカーを着た黄色の髪の少女。

 ステージクリアの音声と共に、少女は男の方に自分の持っていた銃を渡すと後ろのベンチに座ってしまい足しか見えなくなってしまった。

 

「で、ここからが……。未来ちゃん?」

 未来はじっと僅かに画面に映る少女の足を見つめる。

 

「あの、どうしたの」

「相沢さん!」

 

「ふぁひ!?」

 

「この動画って、何て検索すれば出るの!?」

 

「え、えと、デッドウェスタン 神技って検索すれば……」

 

「そう!? ありがとう! 相沢さん品川さん! 私、用事があったの思い出したからもう行くね! 動画ありがとう! とっても面白かった!」

 突然跳ね上がるように立った未来はそのまま颯爽と学校を後にした。

 

「ありゃ〜。なーんかこの動画に映ってのかねぇ」

 そう言ってスマホを持ち上げ画面をあちこち傾けながら眺める相沢だが、コレと言って何か特別な所は見当たらない。

 

「……さぁねぇ。さ、私たちも帰るよ」

 

「えっ。せっかくコレからいい所なのに」

 

「駅前のクレープ売り切れても知らないよ」

 

「え〜、それも困るぅ」

 

「恋」

 

「えっ」

 相沢が振り返るとそこには長髪にメガネの少女。

 

「わ、舞ちゃん。いつからそこに」

 

「ずっと居たよ」

 

「え、まじすか」

 

 コクリと舞が頷く。

「え〜、ごめん! 気づかなかった」

 

「いいよ」

 

「ところで舞ちゃん。恋ってどういうこと」

 

「あ、そう言えば」

 

「恋のキューピッド」

 

「「?」」

 

「ゆうこは、恋のキューピッドになった」

 

「ドユコト?」

 

「……あー、なるほどなるほど」

 

「え、美雨ちゃん分かったの!?」

 

「まぁね」

 

「数奇な運命」

 

「本当にねぇ」

 

「え? え? どういうこと!? ねぇ! ねぇってばぁ!?」

 相沢の質問は終始はぐらかされ続けた。

 

 ◇

 

 通学路を学年一の俊足を持って駆け抜ける少女が一人。

「響! 私のお日様。やっと、やっと見つけた。……もう、二度と貴女を離さない……!」

 走る少女の姿はあっという間に小さくなり街の中へ消えた。

 

 

 ◇

 

 ピーヒャラポコポコ

 間の抜けた音と笛の音が響く車道。私たちの乗っていた車は遥か後方で同じ理由で置いていかれた車たちと共に臨時駐車場に所狭しと押し込められている。

 いつもは大きな車道がある以外にこれと言ってめぼしいもののないはずの場所に、今は屋台が所狭しとずらりと並び駅前の寂れた商店街は丸々お祭りの会場となって、年に一度の大盛況だ。どこに隠れていたのか分からないほどの数の人波が広いはずの車道をこちらも所狭しとひしめき合っている。

 

 昨日の約束通りツタヤにDVDを借りに行った私たちは無難に何作か借りる予定だったんだけど、店員の口車に乗せられた賢治さんが新作を5枚借りてしまった。元々想定していた数より多く借りてしまった映画を見るため私はさっさと帰りたかったんだけど、賢治さんが来るときにはなかった祭囃子を聞きつけて急カーブ。

 まだお昼になったばかりの死ぬほど暑い日差しの中、商店街のお祭りを散策することになった。

 

「……暑い」

 大きい八分音符が二つプリントされた白のカットソーにデニムのショートパンツ。朝の天気予報から嫌々ながら軽装でやってきたものの、それでもお祭りの会場はそんな努力など無駄だと言わんばかりに熱気に包まれていて、身体が中からドロドロに溶けてしまいそうなほど暑い。

 ツタヤも賢治さんの車の中もクーラーをガンガンに効かせていたからあまり気にならなかったけど、こうしてお天道様の下に引きずり出されて太陽の力を否が応でも感じさせられる。

 

「響ちゃーん」

 街路樹の下で待っていた私のところにアロハシャツにサングラスをかけた賢治さんが駆け寄ってくる。

 妙にツヤツヤふわふわの髪と目元を隠すサングラス。お祭の会場という特殊環境によっていつにも増して普通の人っぽく見える賢治さんは、暑さに苦しむ私を尻目にお祭りを満喫している様子だった。

 

「はい、これ持ってて」

 駆け寄ってきた賢治さんにそう言って手渡されたのは大きな綿あめ。ついさっき近くの屋台から買ってきたばかりのものらしく、綿あめがほんのり温かい。いや、この炎天下で温かくないものなんて買ったばかりの飲み物と溶けてない氷菓子しか存在しないわけだけど。

 私に棒を握らせた賢治さんは私用に買ってきたような雰囲気を即座にかなぐり捨てて、綿あめを容赦なくむしって自分の口の中に放り込んでいく。

 

「うん。甘くてふわふわ、綿あめとは言い得て妙だね。この摘んだ時に固まった部分のジャリジャリした感じも面白い」

 私の持っている綿あめをえぐりとるように手で掴み取って口に詰めている賢治さん。当然そんな食べ方をしていれば口元にあめが付くのは当たり前だった。

「ちょっと賢治さん」

 

「ん? 何かな」

 口についたあめを全く気にしていない様子の賢治さんが私の持っている綿あめに手を伸ばすけど、手が届かないように遠ざけてズボンのポケットからティッシュを取り出して賢治さんの口を拭う。

 ティッシュは湿ってないせいかゴワゴワとしていて口元のあめも強くこすらないと取れない。

 

「いた、痛いよ響ちゃん」

 

「ならもっと綺麗に食べて。行儀悪い」

 

「お祭りの食べ物っていうのは上品に食べちゃダメだって聞いたんだけど」

 

「限度があるって」

 賢治さんの口を拭ったティッシュで賢治さんの手も拭ってティッシュをゴミ箱に入れ、お手本を見せるように綿あめを小さくちぎって口の中に入れる。

 ムッとするような甘さと口に絡まる感じ、いつか感じたことのある甘さは……、特に何の感慨も受けなかった。

 昔はよく買ってもらってた気がするんだけどなぁ。今食べるとそんなに美味しいと感じない。なんならコーヒーとかで流したいぐらい。

 にこにこと頰を緩ませ私の見せたようにちびちびと綿あめを食べる賢治さんの手前そんなことは言えなかったけど、その様子を見て自分がなんだか悪い意味で大人になってしまったように感じた。

 

 ◇

 

 木陰で綿あめを食べる私たちの横を通り抜けていく人々の中からふわりとソースの香りがただよう。そういえばお祭りの屋台ってなんでソースばっかりなんだろう。そんなことを考えていると

 きゅうぅぅぅ

 

「おや? おやおやぁ」

 

「……何?」

 

「お腹空いた?」

 

「……別に、空いてない」

 

「そう? そっかー」

 賢治さんが面白いものを見るように嗜虐的ににやにやと笑う。

 

「俺はお腹空いたから何か食べると響ちゃんどうする?」

 

「……ッ」

 私は賢治さんの意地悪な質問に食べ終わった綿あめの棒を投げつけることで答えた。

 

 

 ◇

 

 

 駅前の商店街の真ん中あたりにあるよく分からない集会場のような駐車場のような場所。

 今はお祭りの休憩スペースとしてベンチや椅子が設置されているその場所で、私たちはあちこちの屋台から買ってきた食べ物を並べて食べ比べをしていた。

「このたこ焼きは美味しいね」

 

「そうそう失敗するようなものじゃないだろうし」

 8個500円のたこ焼き。銀だこに比べると普通とも思えるけど、銀だこレベルのクオリティかと言われればうーんって感じ。味は悪くない。

 賢治さんは半分食べて満足したらしく残りの半分は私が食べた。

 

 

「イカめしもなかなか」

 

「お祭りでイカめしって何気に私も始めてみた」

 

「へぇー、珍しいんだ」

 

「結構見かけない」

 実は私も始めてのイカめし。イカの煮物ともち米の炊き込みご飯の組み合わせはご飯党の私にとってなかなかに高得点。賢治さんは二つ買って来ていて、私たちは一つずつ食べた。

 

「屋台の焼きそば! のっぺりべったりとした味をアオサと紅ショウガが食べやすくサポートしている」

 

「作り置きだから麺固まっちゃてるけどね」

 

「それもまたお祭り仕様ゆえ仕方ないね」

 一つ300円の焼きそば。作ってから時間が経っているせいかガチガチだけど、気温が高いからか冷えてるようにはあまり感じない。賢治さんの言う通り濃いソース味にアオサの風味と紅ショウガが清涼感を与えて思ったより食べやすい。

 

「うーん。悪いわけじゃないけどやっぱりふらわーのモノと比べるとなぁ」

 

「お店のと比べても仕方ないでしょ」

 

「それもそうかなぁ」

 最後に残ったのは3枚600円のお好み焼き。厚みは足りているけど冷めているのと粉の比率が多いせいかキャベツのシャキシャキ感が乏しい。まぁ、縁日のモノらしいといえばらしいかな。

 賢治さんは一枚食べて私の方に渡したので残った二枚を食べた。

 そう言えば私が食べている姿を見て賢治さんがなんだか変な顔をしていたけど、なんだったんだろう。

 

 ◇

 

「食べた食べた。響ちゃんもなかなか良い食べっぷりだったよ」

 

「……何それ」

 賢治さんが含みのある言い方をするからそう質問すると

 

「いや、俺が響ちゃんに食べ物回すと戻って来なかったし」

 

 ……確かに賢治さんが回した料理は全部食べちゃったけど

「……残しちゃ勿体ないでしょ」

 

 賢治さんが笑う

「俺が食べるから大丈夫と思ってたんだけどねぇ。全部響ちゃんが食べちゃったんだよねぇ」

 結構いっぱい食べるんだなぁって、そんなことを言う賢治さんのデリカシーの無さにイラッとくる。

 

「……」

 

「あ痛、響ちゃん困ると暴力に訴えるのは、あたたたた。ごめんごめん。からかい過ぎた。だからやめてって」

 

 ローキックに耐えかねた賢治さんは走り去り、戻ってくると貢物のように焼き鳥を差し出した。

 物に釣られると思われているようで癪だったけど、焼き鳥に罪は無いので受け取った。

 賢治さんが持ってきた焼き鳥はボンチリと呼ばれる部位らしく、鶏皮のような質感でありながらサクサクと歯切れよく甘辛のタレと相まって悔しいことにお祭りの食べ物の中では一番美味しかった。

 

 ◇

 

 昼食を済ませてお祭りの出店も一通り見終わった私たち。射的の屋台を前に賢治さんがえー、えー、と鳴いている。

 ついさっき賢治さんが射的をやったのだが、当たりはするものの景品が微動だにせず、結局何も取れず落ち込んでいた。

 

「賢治さん、いつまでもそんな唸らないで。みっともない」

 

「えぇ……。だって確かに全弾当てたのに全くと言っていいほど景品が動かないっておかしくないかな!?」

 

 そう抗議する賢治さんだが

「アレはそういうものなの、そんな簡単に取られたら商売にならないよ」

 クレーンゲームの裏技と同じ、約束の場じゃない限り狙った通りになるなんてことそうそうないのだ。

 

「うぅ、縁日という高揚感にのせられたものを狩る巧妙な罠だぁ。お祭り怖い」

 お祭りに燃やす情熱を使い切った様子で木にもたれかかった賢治さん。

 

「くだらいこと言ってないでほら。帰るよ」

 私もお祭りはもそろそろいいかなと思っていた所なので賢治さんの腕をひっぱって元来た道を引き返していく。

 

「……まだ、色々イベントあるけど待ってなくていいのかい?」

 私に引っ張られながら賢治さんが指差すのはイベントの日程が書かれたパネル。二時から一般参加型のライブ。4時に抽選会。6時にお菓子配り。8時に花火。そんな日程で花火には多少興味は湧くけど、今の時間は1時半になったばかり。他のイベントは毛ほどの興味も湧かないから、素直に家に帰っていいと思う。

 

「別に興味ない」

 

「夜になったら花火とか」

 

「今から何時間あると思ってるの。そんなに見る所無いって」

 

「……そっか」

 そう言って黙り込む賢治さん。

 

「……なんでそんなこと聞くの」

 

「うん? まぁ、アレだね。思い出を作ろうってね」

 それは私にとってだろうか賢治さんにとってだろうか、そんな事を考えて花火について再考してみるけど、やっぱり時間がネックになって帰りたいと思ってしまう私。

 

「別に……無理に特別な思い出なんて作らなくていい」

 

「ほんとに?」

 

「うん。このまま6時間ぐらいここでうだうだしてるより、家に帰って映画を見たほうがきっといい思い出になる」

 

「そうかな」

 

「そうなの。別に特別なことじゃなくても、人は案外簡単に幸せになれるんだよ?」

 少なくとも私は賢治さんが居てくれれば……。なんて。

 

「そうなのかな」

 

「そうなの! ほら、ちゃんと歩いて」

 腕を思い切り引っ張って後ろに回って賢治さんの背中を押す。

 賢治さんは仰け反りながら背筋を正して歩き出す。

 

「わ、ごめん」

 

「謝るぐらいなら歩いて」

 

「分かったよ」

 そう言って素直に歩いて行ってしまう賢治さん。なんだか素っ気ない感じ。

 

 駆け寄って賢治さんの手を握る。

「……何勝手に歩いてるの」

 

「勝手にって響ちゃんが」

 

「勝手にどこかに行かないでよ」

 

「……ごめんね。悪かったよ」

 賢治さんが私の頭を撫でる。

 

「頭撫でても許さないから」

 

「うーん。それじゃあ、どうすればいいかな」

 こっちが理不尽を押し付けたのにその通りに引っ込んでしまう賢治さんがちょっと心配になったけど、それ以上にこれはチャンスだと思った。

 いい感じのイベントになりそうな、許す理由になりそうなお店を探しながら手を繋いで歩く。

 水風船? ダメ、もう帰るからいらない。食べ物。論外。クジ引き。録なの出なさそう。それはそれでいいかも知れないけど、賢治さん意地になっていっぱい引きそう。その他におもちゃ屋さんがあるけど、そんな所行ってもね。でも安物でもアクセサリーとかなら……。

 そうこう考えているとぐいっと賢治さんの方に引き寄せられる。ハッとなって前を見ると車が前を通り過ぎている。

「響ちゃん。歩行者天国道終わってるよ」

 

「え? あ」

 最初に屋台を見て回っていた時には感じてなかったけど、商店街はそれほど大きいわけじゃなく、脇目を振りながらも止まらずにどんどん歩いていくうちにいつのまにか商店街の入り口にまで戻ってきてしまったようだった。

 賢治さんの方を見れば、困った顔をしている。

 もう一度商店街に戻ろうか悩んでいる顔だ。

 

「……あー。あー、アイス。そうだアイス買って。それで許してあげるから」

 結局、考えなしに言葉を紡いだ結果、無難というか何のイベント性の無い着地をしてしまって、もっと上手いことが言えなかったのかとちょっと自己嫌悪。

 せっかく偶然作れたチャンスを不意にしてしまった。

 うな垂れる私の頭を賢治さんが懲りずに撫でる。

 すぐに手を離しておっとごめんね。なんて白々しく言うと

「お詫びに後で何か作るよ」

 

「何か作るって?」

 

「それは後のお楽しみってことで」

 立てた人差し指を口に添える賢治さん

「……そういうのは、男の人がやるものじゃないよ」

 

「あ、そうなの?」

 

「そうなの」

 常識に疎いと言い訳をする賢治さんをバッサリと一刀両断していると、そんなやりなれた会話が無性におかしくて笑いがこみ上げる。

 

 賢治さんの言うお詫びが何なのか無性に楽しみで仕方がない。きっと私が想像しているよりも無駄に豪勢なものを作ってくれることだろう。賢治さんのフォローは上手くないけど、私のためを思ってくれてること、頑張ってることが感じられてとても好きだ。

 

 うっかり離してしまった手をもう一度繋ぐ。相変わらず賢治さんの腕は冷えていて、変な意味で日差しに負けない身体が面白い。

 賢治さんの手の冷たさを感じながら歩く。道行く人は多く、太陽の光は強く、でも私の心はなんだかもっと熱くて身体の中からドロドロに溶けてしまいそうだった。

 きっとこんな炎天下にさらされた車の中ですら今の私にとってはそよ風のように感じられることだろう。

「ほら、賢治さんじゃないと車動かせないんだから、車に着いたらすぐクーラー付けて」

 

「ははっ、了解」

 熱く火照った身体を冷ますため私は賢治さんの手を引っ張って足早に商店街を後にした。

 

 

 ◇

 

 

 ぶっすー

 とまぁ、いい感じの気分で家に帰ったというのになんで私は映画を一人で見ているんだろう。

 約束通り買ったバニラアイスはろくに手をつけられないままガラスのお椀の中で湖と化していた。

 借りた映画はいよいよ恐竜が脱走し盛り上がり始めた所にも関わらず、画面が暗転する際に一瞬見えた自分の顔は随分とむくれていた。

 帰りにコンビニで買ったボックス型の大きなバニラアイスを携え意気揚々と帰ってきたというのに肝心の賢治さんはちょっとだけ用事を済ませてくると言って地下に行ったっきり。

 気分が良かった私はそれを許した私も悪いんだけど。

「……遅いよ」

 映画を見始めて1時間あまり。遮音性の高い地下からはなんの音も聞こえず、賢治さんが階段を登ってくる様子もない。階段の様子が気になって映画にも集中できない。

 映画では脱走した恐竜たちが人を襲い始め人が翼竜に宙に連れ去られているところで、画面から悲鳴がこだましているが、これっぽっちも心が揺るがない。

 いや、揺らいではいるんだけど映画に関心はない。

 ……ちょっとだけ地下に行って様子を見に行こう。もしも寝ていたり仕事をしていたら一発ぶん殴ってやろう。そう思ってDVDを停止させてリビングを出る。どうせ聞こえないだろうけどわざと大きな足音を立てて廊下を闊歩して地下階段のドアを勢いよく開けた。

 

「……。待たせたかな?」

 

 ドアの向こう、階段の下を覗くとちょうど賢治さんが上に向かって登ってきていた所だった。いつになく気の利いたことを言った賢治さんの手に握られていたのは中の見えない小さなケース。

 

「……とりあえずリビングに行こうか」

 

「……うん」

 階段上を私が占拠しているため上に上がれない賢治さんがそう私を促して、出鼻をくじかれた私はすごすごとリビングへと戻った。

 

 ◇

 

「それで、これ何?」

 私が指差したのはテーブルの上に置かれた賢治さんが持ってきた小さなケース。

 ふふふ、と賢治さんがにこにこと笑ってなんだろーねーとはぐらかす。

 ちょっと私がムッとした気分になると、すぐにそれに気づいたのか、賢治さんはテーブルに置かれたケースをうやうやしく手に取って私に差し出した。

 

「はい。プレゼント」

 

「……プレゼント」

 

「そう、プレゼント」

 そう言って戸惑う私にケースを握らせると「開けてみて」と賢治さんが催促する。

 

 乞われるままにケースを開けてみると中に入っていたのは一対の髪留め。

 鮮やかな赤色にりんごのうさぎのような切れ込みの浅いV字の髪留めが2つ入っていた。

 手に取ってよく見れば、見れば見る程よくできていて、どうやら金属製らしく触るとひんやりとしていて赤色の発色もよく手触りも良い。

「……これ作ったの?」

 

「そうだけど……。どうかな」

 

「綺麗だけど……。なんで急に」

 

「昔の上司に見せて貰った映画だと、お祭りに行くと大抵男の子が女の子にプレゼントをするのがお決まりだったから」

 ……なんか身もふたもない。正直なのはいいことなんだけど、馬鹿正直に映画を参考にするのはちょっと頂けない。

 

「なら、お祭りの会場で買えば良かったんじゃないの?」

 

「最初はそう思ったんだけど」

 

「けど?」

 

「お祭りで売っている奴より自分で作った奴の方が出来がいいことに気づいたからね。やっぱり手作りできるなら手作りの方がいいかなって」

 そう言い切ってどうだ凄いだろうと自信満々の表情を浮かべる。

 

 うわぁ。

 

 自信に満ち溢れた顔でそう断言する賢治さんにはドラマの妙味は一生分からないんじゃないかと思ってしまう。

 思いつきのまま実力に任せて行動してしまっている。その結果がこの髪留めなんだろうけど、なんというか恋愛ドラマの噛ませのぼっちゃんみたいな匂いがする。なまじ実力がある分タチが悪い。

 

「賢治さんはとりあえずその上司の人と恋愛映画に謝るべきだと思う」

 

「なんで!?」

 

「風情とか雰囲気とかを全く考慮してないから」

 賢治さんはそう言うとポカンとした様子をすると、しばらく考えると合点がいった様子でポンと手を叩くと私の持っているケースにスッと手を伸ばしてきた。

 

「……何?」

 

「もっといい感じでやり直しをしたいなぁ。なんて」

 ダメ? と聞いてくる賢治さんだが当然ダメに決まっている。タネの割れたサプライズなんて寒いだけだ。

 

「手遅れだから諦めて」

 

「そんなぁ」

 がっくりうな垂れる賢治さん。仕方がないのでケースから取り出した髪留めを賢治さんに見せる

 

「何だい」

 

「これ持ってて」

 そう言ってV字の髪留めを賢治さんに渡して、いつもの髪留めを取る。

 はらりと広がった前髪がくすぐったい。

 

「付けて」

 キョトンとする賢治さん。

 それぐらい映画でやっているものだと思うんだけど、どうにもこの人は情緒に疎い。

 

「その髪留めを付けてって言ってるの」

 そう言われてようやく理解したと言った風で、先までの自信に満ち溢れた表情はくしゃりと崩しておずおずと手を伸ばす。

 

「いいのかい」

 そう念押しする賢治さんが煩わしい。

 

「良いから付けてって言ってるの」

 私がそう言うと決意が固まったのか私の額に掛かった髪をすいと右に寄せて髪留めを付ける。次いで左も。駄々をこねた時間よりも早く髪留めは私の髪に付けられた。

 

「……どうかな」

 いつもの髪留めじゃないのが少しだけ心配で聞く声が小さくなってしまった。

 賢治さんはそんな様子の私を見て、今まで見たことの無い恥ずかしげな表情を浮かべた。

「……可愛いよ」

 ふいっとそっぽを向きながら短く言った台詞は随分とキザったらしい言葉だったけど、不思議と悪いとは思わなかった。

 

「あ、そう」

 私の返事も短絡で、私の方もなんだか賢治さんの方を見れなくなった。横を向いた賢治さんの顔は真っ赤でからかおうかとも思ったけど、ふと自分の顔に手を当てれば自分の顔も熱くなっていた。

 なんだか気まずくてテーブルを立つとカクカクとした動きで台所へ向かう。

 

「……アイス、食べる? 溶けちゃったから新しいの出さないといけないけど」

 そうやって無難な話題を切り出して賢治さんに顔を見られないようにスプーンと新しいお椀を取り出す。

 

「そうだね。映画も最初から観ていいかな」

 賢治さんも私が立った後に立ち上がり、そう言ってリビングのソファの方へ行ってリモコンを弄り始める。

 

「いいんじゃない。私は別に構わないし」

 

「じゃあ、最初からね」

 

「うん」

 用意が整って二人並んでソファに座る。言葉は無い。何を言っていいか分からない。

 話題作りのためにもさっき流し観た映画の冒頭に集中する。ネタバレを言うのもいいかもしれない。

 時間を見ればまだ3時半にもなってない。時間はいっぱいある。

 まぁ、とりあえずは映画観よう。話はそれからしよう。

 そう決めて、私はアイスにスプーンを突き刺した。

 




小日向未来
陸上部のエース。学校一脚が速い。戦闘力 393>グレビッキー
立花響は俺の嫁。
*意味深な登場をしたけど響とエンカウントすることは無い。Gまで出番無し。

相沢、品川、舞
某漫画のキャラに似た賑やかし。もう出ることは無い。

デッドウェスタン
北米を舞台にしたカウボーイがゾンビとドンパチするシューティングゲーム。

グレビッキーの髪留め
鮮やかな赤色のりんごのうさぎのような切れ込みの浅いV字の髪留め
ビクティニの頭のV字をもっと鋭角にしたものと言った感じ。

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