わだつみの抱く光   作:筆折ルマンド

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無印編第1話
時系列的には原作開始より数ヶ月前の時間なのですが、まぁ、ビッキーが覚醒するのが無印のスタートラインということで。




無印 前編
始まりの鼓動


 僅かに灯りのついた暗い部屋のようなものの中で小銃を構えた男たちが時を待っている。

 周囲からは車の走る音が響き、部屋自体も時折揺れている。

 縦長の部屋の正面の壁に背を預けた男が身につけた黒のジャケットのポケットから端末を取り出した。

 端末に映し出されたのは一人の男の顔とその所在。

『フィーネの提供する人造聖遺物の製作者。そんな重要人物がこんなセキュリティも何もない家に住んでいるとはな』

 男の話を聞いて周囲の男たちがくつくつと笑う。

 

『この国は安全だと何の確証もなくタカをくくっていられるなんて、随分とお気楽なものだ』

 端末で目的地を確認した男が小銃を撫で回す。

 

『……目的は男の捕獲だ。骨など何本折っても構わない。生きてさえいれば。な』

 

 男たちを乗せ、トラックが走る。

 向かう先にあるのは何の変哲も無いただの街だ。

 

 

 ◇

 

 

 リディアン音楽院高等科の入学前説明会。

 先生たちは広大な学校内を400人あまりの新入生を連れて練り歩くのは非効率と判断したのか、説明会はカリキュラムや学校生活における諸注意、寮生活における決まり等を一通り説明すると、新入生に学校内の詳細な地図を配って解散となった。そのため新入生は学校の中を各自で散策する雰囲気となっていた。

 

 

「やっほ、ビッキー」

 そう言って私に話しかけてくる背の高いショートヘアの子は安藤創世(くりよ)。創世と書いてくりよと読む。キラキラネームもびっくりの名前だと思ったけど、響きはそう悪くないのかも。昔風の名前っぽいと思えば普通な気もする。

 

 というか

「……ビッキー?」

 

「ほら、立花、響。だからビッキー」

 そう私のあだ名を力説する安藤さんだが、私にはいまいちピンと来なかった。

 

「まぁ、そんなに気にしなくてもいいですよ。立花さん。安藤さんの愛称は定着しないことで有名ですから」

 そう言ってきたのは私よりもっと色素の薄い長い金髪が特徴的な寺島詩織さん。ちょっと上品でおっとりとした印象を受ける彼女は中学からのエスカレーター進学かと思ったら、彼女も高校からリディアンに入ったらしい。

 

「私もいるわよ!」

 そうやって二人の後ろから出てきたのは二人より頭一つ分ぐらい小さいツインテールの板場弓美さん。

 3人は入試の時に私が賢治さんに貰った髪留めに板場さんが興味を持って話しかけてくれたのをきっかけに友達になれた。

 

「板場さん」

 そう呼ぶと板場さんはムッとした。

 

「そんな堅っ苦しい呼び方じゃなくていいって。気軽に、弓美って呼んで」

 板場さんに面と向かってそう言われたけど、友達の名前呼びとか随分久しぶりでちょっと恥ずかしい。

「あ、うん。弓美……」

 

「よろしい! 私も響って呼ぶからね!」

 

「……うん」

 思わず頰をかく。やっぱりちょっと照れくさい。

 

 そんなことをしていると寺島さんが私たちの間に入る。

「それでは参りましょうか」

 

「そうだね、とりあえずどこを回ろうか」

 

「それはもちろんアニソン同好会!」

 

「……あるの?」

 

「あるでしょ! 音楽学校にアニソン好きが居ない訳ない! アニメじゃあるまいし、私が初めてな訳がない!」

 私の素朴な疑問は弓美さんに強く否定された。

 

 一人確信する弓美さんを前に、私たちは苦笑いを浮かべる。

「それじゃあ、とりあえず部活巡りってことで」

 

「賛成です」

 

「私もそれでいい」

 

「それじゃあ、善は急げってことでまずは3階から回って行こー!」

 

 そう言って歩き始めた弓美を先頭に私たちは学校巡りを始めた。

 

 

 ◇

 

 

 静かな地下室の奥。かすかにジャズが流れる中、賢治はいつものように複製したは良いものの有用な回路の組み方が未だ解明しきれていない聖遺物の複製品『レリックパーツ』の研究に勤しんでいた。

 その最中に作業場の前の部屋に置かれた目覚まし時計がチリチリと鳴り始める。

 

 賢治が目覚ましを手にとって時間を確認した。

「もうこんな時間か。ふむ、そういえば今日はリディアンの入学説明会だったか」

 何の気なしに白衣のポケットに入ったスマホを取り出す。

 説明会の日程でも調べて、響ちゃんに後で電話でもしようか。そんなことを考えながらスマホからインターネットを立ち上げようとするが、スマホの左上には圏外の文字、wi-fiも繋がらない。

 

「うん? 圏外? おかしいな。今まで電波障害なんてそんなこと無かったのに」

 そう賢治が訝しんでいると、ピンポーンと家のインターホンが鳴った。

 

「……」

 今日は来客なんて無いはず。そして今まで一度としてなかった電波の異常。何か怪しさを感じた賢治は玄関に応答せず、そっとラボから外部カメラの映像を確認する。

 家の周囲には賢治の知る限り知らない会社のトラックが数台、賢治の家を取り囲むように停まっていた。眉をひそめながら映像から目を離さず賢治はパソコンを操作し始める。

 次にやってきた黒塗りの車から何か大きな機材を背負った男が降りてくる。そして次の瞬間、外部カメラと接続された端末がバチリと弾け外部カメラが強制的にシャットダウンされた。刹那の間も置かず今度は作業場の奥に設置された大型PCからビーヨビーヨと警戒音が発せられる。今度は脇目もふらずにPCへと齧り付き賢治は猛烈な勢いで何かを書き始めた。

 

 かすかにジャズが流れる中、その音をかき消すように地下のロボットアームが蠢き始めた。

 

 

 ◇

 

 

 空き教室でぐてーっと頰を机に押し付けてだれている弓美。

 あの後、校内を一周したけど、オーソドックスな文系部活はあれど彼女の求めていたアニソン同好会とやらはどこにも存在していなかった。

 

「うぅ、アニソン同好会どころか漫研も無いなんて……。プランBぃ」

 弓美さんは時々よく分からない言葉を使う。

 

「プランB?」

 

「『そんなのない』って意味」

 

「割と最近できたばかりの学校ですから致し方ない部分もあります」

 そう寺島さんが言ってフォローしているが、10年は新しいに入るのだろうか。

 

「あのツヴァイウィングの翼さんが在籍してる学校なんだよ? アニソン同好会ぐらいあってもいいじゃない」

 そう言ってうがーっと吠える弓美。

 

「ツヴァイウィングとアニメには共通点が無いと思うんだけど」

 ボソリと言った私の声は存外響いたらしく、弓美がビシリと固まる。

 

「ま、ビッキーの言う通りだよね」

 

「確認を怠った板場さんのミスですね」

 

「うぅ、友達が冷たい」

 

「……それなら、そのアニメみたいに自分でアニソン同好会を作れば良いんじゃないの」

 ふとそんな思いつきを口に出す。

 

 そう言った瞬間弓美が目を輝かせてポンと手を叩く。なんだかんだアニメみたいな展開には憧れがあったらしい。

 

「じゃあ、作ったら響は入ってくれる!?」

 弓美さんが予想外の食いつきでそう私に問いかけてくる。

 少し考えて答えを告げる。

「……いや。……ごめん」

 

「なんでー!?」

 

「アニメとか……分からないし」

 

「なら貸すから! 最悪幽霊部員でもいいから! ね?」

 そう言い募る弓美さんの必死さに少し申し訳無く思った。

 

「……幽霊でいいなら入るけど」

 

 おおぉぉと弓美さんが顔を綻ばせる。

「やったー! 部員一人ゲットー! 二人も入ってくれるよね? ね?」

 そうキラキラとした目で二人を見つめる弓美さんの気迫にやられたのか二人も不承不承ながら同好会を作るときに名簿に名前を記載することを了承した。

 

「よっしゃー! これで部員4名! 同好会ぐらい行けるんじゃない!?」

 

「さぁねぇ」

 

「それは先生方に聞いてみないと分かりませんね」

 

「なら今から聞きに行こう!」

 

「それはいいけど……、職員室。どこ?」

 

「あー……」

 3人は一斉におし黙った。

 リディアン音楽院は広大で、高校でありながら学校内に教師の生活スペースが用意されており、職員室は渡された地図に載っていない教員用の棟の中にあるのだ。

 

 つまり、今の私たちでは話を聞きに行くのは不可能という訳だ。もちろんどこかの用務員さんか先生に聞けば場所ぐらい教えてくれるだろうけど、主導者である弓美に前人未到の教員棟に行く度胸は無かったらしく。

 

「……また、今度にしよっか」

 

「うん? いいの? なんなら」

 

「あははー、いいのいいの、正式に入学してからじゃないと先生たちも困るだろうしね!」

 

「そう? ならいいけど」

 

「立花さん、ナイスアイデアでした」

 

「……え、うん。ありがとう」

 

 尻込みした私たちはそのまま学校を出て帰ることにした。

 

 ちなみに学生棟は丘の下に学校とは別に用意されていて、私も3人も入学と同時にそっちに住むことになっている。

 学生棟の入居者には説明会で買った体操着や靴を無料で入居する部屋に運んでもらうサービスがあって、そのおかげで私たちは帰りの荷物に悩まされることなく帰路につくことができた。

 

 ◇

 

 私たちは学校のある丘を下り賢治さんと来た駅に近い商店街へとやってきた。

 

「お昼、どうする?」

 

「そうですねぇ。せっかく来たんですし美味しいものでも食べて帰りたいです」

 

「じゃあじゃあ、私気になってるお店があるん……だ、け、ど?」

 

「どうしたのビッキー?」

 

 安藤さんに言われてハッとなる。前賢治さんと来た時のことを思い出してぼーっとしてしまっていた。

「ううん、なんでもない」

 

 寺島さんが私の見ていたお店の方を見る。

「『ふらわー』? 何のお店ですか?」

 

「……お好み焼き」

 

 私がそういうと弓美が食いついた。

「お好み焼き? ふわー、専門店って初めて見たかも」

 

「美味しいんですか?」

 

「……うん。美味しいよ」

 

 そう私が言うと安藤さんがふらわーの方へと歩いていく。

「じゃあ、ここにしよっか」

 

「賛成ー」

 

「いいですね」

 安藤さんに続いて弓美、寺島さんがふらわーの前に立って私を手招きする。もっとオシャレな場所がいいんじゃないかという私の考えに反してふらわーは人気のようだった。

 

 ◇

 

 

 飲食店の店長さんは総じて物覚えが良いと思う。

 

「あら、この間の」

 ふらわーのおばちゃんは服装がだいぶ変わった私を一瞬で見抜くと、あーれ久しぶりだねぇとあれこれ話しながら私たちを席に案内してくれた。

 

「……どうも」

 

「こんにちわー」

 

「はい、いらっしゃい」

 私たちを席に座らせるとおばちゃんは早速たねの用意をするためキャベツを刻み始める。

 

「さて、何にするかい?」

 おばちゃんはキャベツを手慣れた様子で刻みながら注文を聞いてきた。

 当然メニューも開いていない中でそんなことを聞いても答えられるわけがない。私がそう言うと、おばちゃんがごめんねぇと笑う。

 

「美味しそうな匂いです」

 

「へー、結構種類あるんだ」

 

「電光刑事バンに出てきても違和感無さそう」

 そう各々お店の印象を言っていくが

 

「それは古いってことかい?」

 弓美の言葉の何かが琴線に触れたのかおばちゃんが弓美をギロリと睨む。

 

「ひ、ひえ、そんなことは」

 おばちゃんに睨まれ、弓美は即座に言葉を否定した。

 

 電光刑事バン。そういえばそれは40年前という太古の昔の特撮だった。そんな作品に出そうなどと言われたら確かに古いと言われているように感じても仕方ないだろう。

 ただ、おばちゃんが何故電光刑事バンを知ってそうな様子なのは謎だけど。結構人気の特撮だったのだろうか? 

 

「立花さんのオススメはなんですか?」

 

「……この三種盛りお好み焼き」

 私が指差したのはエビ、イカ、タコの入ったお好み焼き。賢治さんが前頼んだDX海鮮には魚介の量は劣るけど、DX海鮮は一枚1390円と中学生にはなかなか手を出せない金額のため、グレードを落としてみた。

 

「そうですか。それじゃあ私は三種盛りで」

 

「じゃあ私は豚玉」

 

「私は〜、そうね。このイカ玉を注文するわ」

 

「じゃあ、私も三種盛りで」

 

「分かったよ。豚玉に三種2枚にイカ玉ね。順番は適当になっちゃうからケンカはしないんだよ」

 

「はーい」

 

 そう言っておばちゃんはテキパキとお好み焼きを焼き始める。

 一度に何枚も焼くことはせず、一枚ずつ油を鉄板に敷き、作りたてのタネを落としてコテで形を整えながら焼いていく。生地が軽く焼けると隣に卵を落とし荒く解きながら卵の上に生地をのせてしっかりと焼き色がつくまで焼く。

 素晴らしい手際の良さで飽きずに見ている間に一枚目が完成した。

 

「はい、豚玉ね」

 

「ありがとうございます」

 安藤さんが豚玉を受け取って一足先に食べ始める。

 

「うん、これは美味しいね! 家で作る奴より厚みがあるのにふわふわだ」

 

「そりゃそうさ。そんな簡単に作られちゃたまらないよ」

 そう笑いながら話しつつも、おばちゃんの手は止まらない。

 

 ◇

 

「そういえば、前来た時に一緒にいたサングラスのお兄さんはどうしたんだい?」

 おばちゃんの一言ににわかに席が沸き立つ。

 

「えぇ! それってどういうことですか!?」

 

「ビッキー彼氏居たの」

 そう問いかけてくる安藤さんに手を振って否定する。

 

「い、居ないって!」

 

「あら違うのかい? あの時」

「ダメ! ダメ!」

 

「ちょっと気になるじゃない。話しなさいよ」

 

「せっかくお友達になったのですから恋バナの一つでも」

 

「恋バナなんかじゃないから!」

 

「そうなのかい? おばちゃんはてっきり」

「おばちゃんは黙ってて!」

 

 私がそう言うとおばちゃんはわははっと笑うと

「私ゃ、お兄さんかと思ったって言おうとしたのに、なーんでそんなに否定するんかねぇ」

 おばちゃんが面白がるようににやにやとした顔を浮かべる。

 カァっと顔が熱くなるのを感じる。

 箸を握る手に力が篭り、全身が縮こまる。

 

「お兄さん! 年の差!」

 

「大好きなお兄さんと二人で?」

 

「ナイスです!」

 

「……ッ! うるさい! いいから食べて!」

 

 そのあともやんややんやと騒ぐ3人に色々と聞かれた私はぼちぼちオブラートに包みつつも、賢治さんの話をみんなに根掘り葉掘り言わされた。

 

 ◇

 

「あ、そろそろ電車来ちゃう」

 

「あら。そうみたいですね」

 そう言って寺島さんと安藤さんが立ち上がる。

 

「それではお二人とも今度は学校でですね」

 

「クラスおんなじだといいね」

 

「そうね」

 

「……うん」

 淡白な私の返事にも二人は笑って聞いて、一足先に帰っていった。

 

 弓美は追加で注文したチーズもんじゃをちびちびと食べながらおばちゃんと話をしている。

「かー、にしても家出先でカッコいいお兄さんに出会うなんて。ロマンチックよねぇ」

 

「あら、そうかい? 私は不用心だと思うけどねぇ」

 

「もー、おばちゃんはロマンを理解してないんだから」

 

「私だってロマンぐらい分かるさ。韓流ドラマはいっぱい観てるからね。でもそれとこれとは話が別さね」

 

「まぁ、そうかもしれないけどさぁ」

 

 

 二人の話を適当に聞きながらこれからの事を考える。出された宿題はどうしようかとか、歌の練習はした方がいいのかとか。

 

 

 色々考えていると弓美が話かけてきた。

 弓美の手元にあったもんじゃはもう食べ終わって無くなっていた。

 

「そろそろ私たちも行かないと電車に乗れなくなるわよ」

 そう言われて時計を見ると電車が出る20分前。駅はここから歩いて10分ぐらいの所にある。

 

「そうだね」

 そう言って席を立とうとする私たちの前に二つのビニール袋が差し出された。

 

「あら、もう帰るのかい。ならこれ持って行きな」

 そう言っておばちゃんに渡されたビニール袋の中に入っていたのはお好み焼きの入ったプラスチックのパック

 

「こっちはイカ玉。で、こっちはエビ玉と豚玉ね」

 

 弓美が頰を膨らませる。

「なんで響は二枚で、私は一枚なの。不公平じゃない」

 

「野暮な事聞くんじゃないの。お兄さんによろしく言っといて」

 

 おばちゃんの一言になぜか弓美が納得する

「あ、なーるほど」

 

「……何」

 弓美が私の方を見て口に手を当ててにししと笑った。

 

「一人で食べちゃダメだからね」

 

「食べないし」

 

「そうだよ、ちゃんと二人で食べなきゃ、おばちゃんもう次からおまけしてあげないから」

 

 私は二人に未だに賢治さんのことでからかわれていることに気づいた。

 

「……ふん」

 気分が悪くなった私は二人を無視してお店を出た。

 

「あら、すねちゃった。ごめんね! 今度もおまけしてあげるからまた来なさいな!」

 

「ちょ、ちょっと、響! 待ちなさいよ!」

 そう言って私に追いすがって、いやー調子に乗ってとかほんとごめんとか言って謝る弓美だけど、ちょっと本気で腹の立っていた私は、弓美にもう二度とからかわないでと釘を刺した上で許してあげた。

 




グレビッキーのメンタルが回復しすぎてうっかりビッキーになってしまいそうになるシンフォギア。
それは喜ばしいことなんですけどねぇ…。

次回予告
響のお好み焼きを賭けて激突する賢治、ノイズ、アンクルサム部隊。
次々とノイズとアンクルサム部隊が倒れる中、この不毛な争いを止めるため、ついにあの男が立ち上がる。
戦姫絶唱シンフォギア わだつみの抱く光
第2話「OTONAは人類にて最強」

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