わだつみの抱く光   作:筆折ルマンド

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誤字報告ありがとうございました。たぶん指摘されてなかったら永遠にそのままだったと思います。
誤字報告って感想以外で出来たんですね。ハーメルンは知らない機能がまだまだありそうです。



聞こえぬ鼓動

 私は浮かれていた。なんだか心が軽くて仕方がなかった。

 友達もできて、ふらわーのおばちゃんからお土産を貰えて賢治さんの家に行く理由ができた。

 今日のこれからの予定はもう決まったようなもので、友達といるのも楽しかったけど、これからも楽しみで仕方がなかった。

 

 ふと思い出すのは遠い幸せとつい昨日の嫌な記憶。それらは忘れていないのに今の私は妙に幸せで、その事がなんだかおかしくてクスクスと笑いがこぼれた。

 

 ◇

 

 友達やおばちゃんに散々からかわれて、ほんの数十分前まで顔も見たくなくなってしまったはずなのに。賢治さんのことを思い出したらにやにやが止まらなくて手で頰を抑える。顔は火傷しそうなぐらい熱くてきっと真っ赤だ。けど他の人たちの顔も一様に赤い。それだけ今日は寒いのだ。そのままにしてもきっと誰にも気付かれないだろう。でも万が一があるからマフラーで口元を隠しておく。

 

 電車を降りると走らないように気をつけて歩き出す。でも、どういうわけかどんどん人を追い抜いてしまっている。次々と人を追い越していって、最後には先頭を歩いていた。理由を歩きながら考えるけれど、あまりいい考えが思い浮かばず、結局寒いから他の人の足が鈍っている分相対的に私の歩くスピードが早く感じるんだろう。うん。そう思ってどんどん歩く。

 

 改札を抜けて外へと続く下り階段に着くころには一緒に降りた人たちはずっと後ろに居たけど、その時にはもう他の人なんて気にしていなかった。

 

 駅のホームを降りるとそこからはまるでホイップクリームを塗りたくったかのように何もかもが真っ白だった。

 駅の横の自転車置き場の忘れ去られた自転車たちは雪に埋もれて無数の小さなかまくらを作っていて、反対側の空き地には子供達の作った大きなかまくらがあった。空き地の隅の踏まれていない場所には当たり前のように大の字の跡もある。

 空き地にいる子供達はみんなコートを羽織っていたけれど、私のようにマフラーまでしている子は少数派のようだった。遊ぶには邪魔になるからだろうか? 

 吐く息は白く、私の前を走っていった真っ赤なコートの子がほぅほぅと息を溜めて吐き出して遊んでいる。

 雪はぼんぼん降ってきていて、メガネのおじさんが鬱陶しそうに頭に乗った雪を乱暴に払っている。

 舞い落ちる雪たちは人の気も知らないで子供達と一緒に楽しそうに踊って、無差別に人にちょっかいを出していて、足元の雪は踏まれる度にぎゅぷぎゅぷと楽しげに声を上げていた。

 

 スマホで時間を確認すれば、ちょうど4時になったところだった。いつもの学校の終わりと同じぐらいの時間だ。あまり賢治さんの所におじゃまできないけど、その事は気にしないことにする。

 

 おやつにしてはふらわーのおばちゃんのくれたお好み焼きはちょっと重いし、時間も遅かったけど、どうせ夜ご飯をろくに食べない賢治さんのことだ。健康のためにもこのお好み焼きを持って行ってあげた方が良いだろう。土産話は友達の話がいいだろうか。

 これからの予定を考えて歩き出す私の足は足首まで埋まるほどの雪の中とは思えないほど軽かった。

 

 

 ◇

 

 

 リディアン音楽院の下、特異災害対策機動部二課の本部にアラートが鳴り響く。

 

「ノイズが発生しました!」

 藤尭朔也の声をきっかけに司令部内がざわめく。

 

「位置は!」

 

「特定中です!」

 

 そう言われながらも着々と狭められていくノイズの発生位置に弦十郎は既視感を覚えた。

「ここは」

 

「どうしたんですか司令」

 

「いや、なんでもない。現場に奏を向かわせろ! 翼を待っている時間も惜しい!」

 

 絞り込まれていく範囲の中央には顔を知る青年の家があった。

 

 

 ◇

 

 

 

 ……燃えていた。

 

 パチパチと木が爆ぜ、塀は赤熱し、家は巨大な焚き火のように燃え上がり黒煙をあちこちから吐き出していた。

 

 私の目の前で賢治さんの家は何もかも燃えてただの黒いシミになろうとしていた。

 

 庭にあったはずの小さな森は紅蓮に巻かれて木炭の山になっていて、家を囲んだ塀も家の壁もそこら中穴ぼこだらけでべこべこの穴あきチーズのようになっている。

 昔近づき過ぎて怒られたキャンプファイアーの熱の100倍の熱さと、雪を背中に突っ込まれた時の100倍の悪寒が同時に私を蝕んだ。

 

 胸の鼓動が加減も知らずに際限なく早くなって、心臓が別の生き物になったみたいに胸の中でのたうちまわる。

 

 息は荒く、うなじから冷たいナイフを頭に突っ込まれたような怖気が全身を駆け巡る。恐怖のあまり、居ても立っても居られなくて意味もなく目が彷徨う。

 ただひたすら気持ち悪い。

 

 混乱が、混沌が私の中を這い回る。

 

 

 ボッ

 

 苦しさに悶える私の前で突然賢治さんの家の庭が吹き飛んだ。

 塀が私もろとも障子紙のように軽々と吹き飛び、舞った炭が雪を黒く染め、巻き上げられた瓦礫がガシャガシャと地面に落ちて砕けて散った。

 

 そして、いつかの地獄と同じように庭に空いた大穴から、おたまじゃくしの様なノイズが無数に這い出してきた。

 

 ◇

 

「高濃度のエネルギー反応!」

 

「位置は!」

 

「ノイズの発生地点付近です!」

 画面上に映し出された2つのノイズの群れが集中している地点のうち片方の点が突如、一斉に消えた。

 

「ノイズ消滅しました!」

 驚きと共に報告が伝えられる。

 シンフォギアか完全聖遺物以外でノイズを撃破できる装備は日本では見つかっていないからだ。

 

「ぬぅ。何が起こっているんだ。了子くんが居てくれれば、まだ何か分かろうものを……。奏はまだなのか!」

 

 弦十郎の問いに友里あおいが無情な現実を持って答える。

「まだ10分はかかる見込みです!」

 

「くっ、ヘリがダメになっても構わない! 全速力で向かえと伝えろ!」

 

 自分たちの知らぬ間に状況の動く現場を前に司令部の面々は歯噛みした。

 

 ◇

 

 ズルズルと地下の穴からオタマジャクシ型のノイズが這い出たかと思えば爆炎を物ともせず二足歩行のノイズが賢治さんの家から現れた。

 その数は両手で数えられる数をはるかにに超えていて、あっという間に賢治さんの家だった瓦礫を埋め尽くした。

 

 

 ……また。

 

 また、お前らか。

 

 またお前らが私から奪うのか。

 

 私の大切なモノを! 全部! 全部! 全部全部全部全部全部全部全部全部!!! 

 

「……あ、あぁぁぁぁ……」

 

 思い出すのは遠い幸せ。

 いつかの友達と交わした幾万の言葉。

 

 いつか教えて貰ったおまじない。

 

 それらはもはや傷跡の向こうに消えた。

 

 

 思い出すの昨日の記憶。

 

 人の悪意に晒され、大切なモノが全て自分の手から零れ落ちた記憶。

 

 それらはようやく癒えたはずだったのに! 

 

「……ふざけるな」

 思い出すのは今だったはずの思い出。

 

 ただの変人が大切な人になった思い出。

 凍えた心を温めてくれた身体の冷たいあの人との思い出。

 

 ……もう、二度と会えない。あの人との……。

 

 

 拳を握る。爪が肌に食い込んで血が流れる。それでもなお一層強く拳を握る。

 

「巫山戯るな!!」

 

 なんでこんな事がまかり通る。私は何も悪いことなんてしてこなかったのに! なんの因果があって私をこんな目に遭わせる! 

 

 あぁ、そうだ。私をこんな目に遭わせている奴らの名前は知っている。

 そいつらは運命とか神さまとか言う無駄に大きな名前をしていて、人を救ったりするはずなのに私からは大切なモノばかり奪っていく。

 いや、もっとタチが悪い。アイツらは私にちょっとだけ手に取らせて、羨ましがらせて、そうしてその後に全てを奪って二度と返してくれないのだ。

 

 ほっておいて欲しかった。あるいは死んで欲しかった。

 

 出来るものなら殺してやりたかった。

 

 どこぞの誰かに構って、二度と私の方を見ないで欲しかった。二度と私に構えないようにその息の根を止めてしまいたかった。

 

 ズクンと胸の内が疼く。

 

 心臓が私に歌えと囁く。歌えば奴らを倒せると私の中でのたうち叫ぶ。

 

「……ふざけるな」

 大切なあの人に褒めてもらった。歌を歌えば鈍感なあの人からいくらでも賛辞を引き出せた。私はそのために歌ってきた。

 

 他人に聞かせるぐらいはいい。

 

 でも

 

「アイツらに聞かせる歌なんて……ないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 胸の疼きが歌なんてなくたって奴らを殺すぐらい造作もないと私に伝える。

 

 上等。

 

 混沌は恐怖へ純化し、恐怖は悲しみへと変化し、悲しみは怒りへと終息した。

 己の髪をすき、顔を掻き、地を毟り、血が滲むほど握り締められた拳はどうすればいい。

 

 敵は目前。止めるモノはもう居ない。居なくなってしまった。

 

 ならばその拳を振り下ろすだけ。

 

 熱された火薬はひとりでに炸裂し放たれた弾丸は二度と元には戻らない。もはや何もかもを壊して進むだけ。何もかもを貫いていつか止まるまで進むだけ。

 

 ◇

 

 司令部に特大の警告音が鳴り響く。

「超高出力のエネルギー反応を検知! 場所は消失したノイズとは別のノイズの群れの近くです!」

 

「いや、これは!?」

 

 解析結果がスクリーンに表示される。

 

「アウフヴァッヘン波形!? しかもこれは!」

 

「ガングニールだとぉぉぉ!!!」

 

 ◇

 

「……んだよ。ありゃあ」

 ヘリに乗った奏の眼下に見えるのはヘリの飛行する地上数百メートル地点を優に超える黒色の竜巻。それはうねり狂い、ヘリを近づかせない。

 

「これ以上近づかなくていい。後はアタシでなんとかする!」

 そうヘリの操縦士に伝えて奏が飛び降りる。

 

 それと同じタイミングで竜巻が一際大きくうねり弾ける。

 

 シンフォギアを纏い着地した奏の前に居たのは、自身と同種のヘッドギア以外、全てが真っ黒に塗りつぶされた少女の姿。

 その少女の目からは赤い雫が滴り、その目は赤く鈍く光っていた。

 




ガングニール MDモード(エムディーモード)
MDの意味はマストダイ。神様なんか死んじまえ!という意味。
ガングニールの破壊衝動ではなく、自身の破壊衝動からの暴走のため自我は多少残っている。
イグナイトが真っ黒に塗りつぶされたような造形で、ヘッドギアの部分だけが左右のツノが2本ずつになっている以外は通常時の配色となっている。

戦姫絶唱シンフォギア わだつみの抱く光
第3話「見上げればいつも凶星」
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