Q.なんでビッキーは突然奏さんに襲いかかったの?
A.思い人が事故で死んだことを告げられたばかりの女の子の横で失恋ソングなんて歌ったらそりゃ乱闘にもなる。
続・奏無双。
ちょっと奏さんのOHANASIが手塚治虫のブッダの説法ぐらいの効力してるんですけど
モニターの向こうで奏と翼がノイズを倒している。
森林の中に現れたノイズに対して二人の槍と剣が降り注ぎ、次々とノイズが炭へと変わっていく。
長い間戦い続けてきた彼女たちの動きは洗練されており、範囲攻撃から逃れ、僅かに残ったノイズも次々と撃破されていく。
複数体現れた大型ノイズも彼女達の前にはかたなしで、あっという間に片付けられ、討伐速度は些かも衰えない。
もう少しで掃討が終わるとオペレーター陣が告げる中、突然司令部に少女が肩を怒らせて入ってきた。
「風鳴司令。なんで私はまた待機なの」
そう言って入ってきたのは響だった。
「立花くん」
響が初めてシンフォギアを纏ってから既に一週間。
その間、響は身体検査やシンフォギアの適合係数を計測され、実戦への適性が調べられたが、頑なに歌を歌わずに強制的にシンフォギアを纏う響の戦い方は、何年ものキャリアのある二人と比べても圧倒的な出力を誇るものの常に暴走一歩手前の不安定な状態での戦闘となるため、現状のままでは実戦には出せないという結論が出された。
賢治の家付近のノイズ発生から既に捜索時間である72時間はとうの昔に経過しており、賢治の捜索は打ち切られている。その事も関係してか響は今も精神的に追い込まれていた。
「前にも言っただろう、君のシンフォギアは不安定すぎる。実戦に出すには……」
そう言う弦十郎の言葉を遮って響が言った。
「それでも。装者は私を含めても3人しかいないんでしょ。なら多少のリスクぐらい飲むべきじゃないの」
ノイズを倒す際の危険は承知の上だと言う響だが、弦十郎は響自身のことを心配していた。
今の響はとても冷静とは言えず、どこかやけっぱちな印象を受ける。
「多少ではない。君自身の身体に関わることだ。自分のことも大切にできないような人間が、誰かを守れるわけがないだろう!」
響の言葉に強く言い返す弦十郎だが、響は納得しない様子。
「……。自分より大切なものなんていくらでもあるでしょ」
「自分を大切にしろと言っているんだ!」
「戦場に出て戦うんだ! 自分可愛さに臆病になってちゃしょうがないじゃない!」
身体的な危うさを指摘されていると思っている響と心の心配をする弦十郎の話はどこまでも噛み合わない。しかし、既にヒートアップしてしまった言い争いはその食い違いを正すことが出来なかった。
「そう言う事を言っているんじゃない!!」
「……ッ。司令の言ってること全然分かりません」
結局言い争いは決着しないまま、響はそう言い捨てるとブリッジを後にしてしまった。
「……言葉とは……難しいものだな」
そう呟き弦十郎は司令部の天井を仰いだ。
◇
特異災害対策機動部二課本部内の自販機の隣のレストスペースで私は膝を抱えていた。
初めてシンフォギアを纏ってから一週間。二課に協力することを決めたものの、私にはその後一度もノイズとの戦闘の許可は下りていなかった。
「私の身体なんだ。どう使ったって私の自由でしょ」
そう不貞腐れていると不意にスマホが鳴った。
画面を開いてみれば、それは弓美からリディアン近くの商店街にみんなで遊びに行かない? という誘いのメールだった。
「……」
気分はあまり乗らなかった。今はそんなことをしてる場合じゃない。私はノイズを……。
「お、どうしたんだ」
そう言って不躾に誰かが私のスマホの画面を覗き込んできた。
驚いてスマホの画面を隠しながら振り返ると私の肩に寄せていた顔を仰け反らせてたたらを踏む赤い髪の女の人。
「おわっと、危ねぇなぁ。トップアーティストの玉の肌に傷がついたらどうてくれるってんだ」
そう言っておきながら、楽しげににししと笑っているのは天羽 奏だった。
◇
どこかの森の中の屋敷に少女の声がこだまする。
「フィーネ! なんでアタシがアイツの監視なんかしなきゃいけねぇんだよ! 監視カメラとか盗聴器とかそう言うもんがあんだろうが」
そう激昂する白髪の少女 雪音クリスに対してフィーネと呼ばれた長髪の女の答えは短かった。
「3時間」
「はぁ?」
そう言われてもクリスはきょとんとするばかり。
「彼を軟禁している部屋に仕込まれた監視機材が全て撤去されるのにかかった時間よ」
クリスは賢治の部屋を覗いたことがあるが、その部屋の中はまるで猛獣が暴れた後のように壁や床に傷がついており、賢治はその中でどこからか調達した金属を使って何やら工作していた。
閉じ込められて暴れているだけかと思っていたけど、アレは部屋に設置されていた監視カメラの類の残骸だったのかとクリスは信じられないと言った様子。
「撤去されたって、もしかしてあの部屋ん中に有った穴とか傷とか全部!?」
「そう、その穴とか傷とかに仕込んでいた盗聴器が全部、彼が暇つぶしにいじるおもちゃの材料にされた。私は週に数度しか来れないし彼に顔を見られるわけにもいかない。全く、有能なのも困りものね。不用意に長時間放置すればここのセキュリティぐらい容易に突破してしまうでしょう」
そう言って思案顔をしたフィーネだが、しばらくしてふと妙案が浮かんだと言った表情を浮かべた。
「クリス」
「……なんだよ」
待たされたクリスがふてくされて返事をする。
「彼、貴女のことを名前を呼んでいたって言ってたわよね」
「あ、あぁ、それがどうしたってんだよ」
「籠絡なさい」
「……籠絡?」
ろうらくってなんだっけとクリスの中で言葉が巡る。
「そう、籠絡。貴女にメロメロにさせて言うことを聞かせるのよ」
ぽくぽくと理解するのに時間を要し、理解が追いついた瞬間クリスの髪が総毛立った。
「な、ななな! そんなこと出来るわけないだろ!?」
「出来るわよ。クリスなら」
「それとも、本当に出来ないのかしら?」
フィーネの言葉に冷気が宿る。クリスがごくりと唾を鳴らす。
「……わ、分かったよ。やるだけやってみる」
フィーネが口元を歪ませる。
「いい子ねクリス。期待しているわ」
◇
「……なんの用ですか」
「いやー、別に用なんかねーけどさ。なんかぶっすーと暗い顔してたから気になってな」
そう言って奏さんが私のスマホに指を指す。
「それ、行かねぇのか? リディアンの商店街って言ったらここのすぐ近くじゃないか」
特異災害対策機動部二課は私立リディアン音楽院の地下に本部を置いている。そして私たちは本部の中、リディアン音楽院近くの商店街は目と鼻の先にある。
私は弓美のメールを読み終わると同時に振り向いたはずなのに奏さんはメールの中身を全て把握しているらしい。
「読んだんですか」
そう私が睨みながら言うと
「アタシの相棒やらマネージャーは隠し事多いから、見れる時に見とかないとって思って無駄に磨いた速読芸だ」
そう飄々とした様子で奏さんは言ってのける。
「……趣味が悪い」
「ははっ、アタシだっていつもは見ても黙ってるんだけどな。響のソレはちょっと思うところがあってな」
そう言うと奏さんが一言。
「響、お前ノイズに歌を歌うのが嫌なんだろ」
その言葉にドキッとした。
「……。分かるんですか」
そうすると奏さんは笑みを深めた。
「いんや、アタシにゃ分からねぇよ。アタシは初めっからノイズに聞かせるために歌ってたからな」
私は困惑した。分かっているような事を言っておいて堂々と分からないとはどう言うことか。
「それってどういうこと」
私がそう聞くと
「その事について説明してやるのはいいけど」
奏さんは頭をかいて私の横を指差す。
「とりあえず座らせてもらうぜ?」
「……どうぞ」
私が席を進めるとさんきゅっと笑いながら奏さんが座る。
そうして奏さんの話が始まった。
奏さんがどうして二課に入ったのか。どうやってシンフォギアを纏うようになったのか。どうしてそうしようと思ったのかの話が。
◇
「……、……。とまぁ、そんなわけでアタシは最初からシンフォギアも歌もノイズをぶっ潰すための道具として扱ってきたわけだ。だからノイズに対して歌を歌うことに抵抗はこれっぽっちも無ぇ」
ノイズを倒すための道具……。私もシンフォギアをそう捉えている節はある。でも。
「奏さんの戦う理由は分かりました。でも、それが私の歌いたくない理由が分かることにどう関係するんですか」
私が拒絶するように言うと、奏さんはまた面白いものでも見たかのよう笑う。
「……お前のそう言うとこ。翼に似てるな。単刀直入に言わないと気に入らない所」
何がおかしいのか奏さんはよく笑う。それがどこか賢治さんに似て、少し不快。
「だから何」
「だから分かることがあるのさ。翼の歌、聞いたことあるか?」
「……あるに決まってる」
奏さんは本当に嬉しそうに笑った。
「そいつぁありがたい。でだ、その中で翼のノイズと戦っている時の歌と、CDとかで聞くいつもの歌の違いって分かるか?」
どぅーゆーあんだすたん? そう聞く奏さんだが、私は答えられない。
そう言われてもちっとも分からなかった。そもそも奏さんのも翼さんのも戦闘中の歌とアーティストとしての歌の聴き比べなんて考えたこともなかった。
「分からないか。まぁ、しゃーない」
そう言って奏さんは身の上話の間に買ったエナジードリンクを飲み干す。
「……翼はさ、ライブで歌を歌う時はスッゲー楽しそうに歌うんだよ。CDのレコーディングの時もライブの時ぐらい楽しんで歌ってる」
それは……まぁ、分かる。翼さんは歌っていない時はあんまり表情が変わらないけど、歌を歌っている時は歌に合わせてころころと表情が変わる。それが翼さんの魅力の1つになっている。
命を救われたとか抜きにしても、私は二人の曲が結構好きだ。
「けどノイズ相手の時は違う。そりゃ命懸けの戦闘中だ。楽しんで歌うなんてできねぇよ。でも、そういうのを抜いても違うんだよ。いつもの歌は風鳴 翼が望んで歌っているもの。ノイズとの歌は責任感で歌っているもの。自分のための歌と他人のための歌。歌を2つ使い分けてんだ」
「自分のための歌と他人のための歌……」
「響もそうだろ? 自分のための歌を、ノイズに聞かせる理由が無いから歌いたく無いっていう」
「私は。自分のために歌ってなんか……」
……賢治さんに聞いて欲しくて歌っていた。賢治さんに喜んで欲しくて、喜ばれたくて歌っていた。
……それは、私がそう望んでいたから。
それはつまり、私がただ褒められたくて……
うつむく私に奏さんが声をかける。
「いや、悪いなんてひとっことも言ってねぇからな!? アタシの歌はどっちも自分のためだからな!? アーティストをやるのもアタシが歌うのが好きなのと、みんなにアタシの歌で何かを感じて欲しいからだし。ノイズと戦う時の歌もアタシがノイズをぶっ潰したいからだし!」
そう慌てて言った後、奏さんは真剣な眼差しで私を見つめる。
「……でもそれだけじゃない。アタシの歌が誰かの大切なモノを支えていること、アタシの歌で誰かの大切なモノを守っていることをアタシは知っている。だからアタシは歌ってるんだ。自分の大切なモノも、他の誰かの大切なモノも全部まとめて守るために」
奏さんは自分の手を見つめて握りしめる。その動作からは強い想いを感じられた。
「自分の、誰かの大切なモノを……。まとめて、一緒に、守る……」
私がそう反芻すると奏さんは満足げにうんうんと頷いた。
守るために歌う。誰かのための歌。目の前のノイズを倒すのではなくてノイズを倒すことで守られるもののための歌。……それなら、私も……。
そう考えていると奏さんが唐突に頭をガシガシとかきだした。
「あー! こっぱずかしいことベラベラ喋っちまったな。すまねぇ、今何時だ? そろそろ次の予定があるはずなんだが」
「え、えっと今は」
「できればカレンダー見せてくれるとありがたいんだけどよ」
そう言われて咄嗟にロック画面を開いて奏さんに渡す。
奏さんはカチカチと何やら手短に私のスマホをいじると、少し思案顔をしてから私に返した。
「ありがとな。アタシの長話に付き合ってもらっちゃって」
「……私の方こそ。司令が私になんで怒っていたのか分かったような気がします」
司令が怒っていたのはきっと奏さんが言っていたことなんだろう。単純に戦える状態かどうかじゃなくてもっと大きくて強い戦う理由、想い。それを持って欲しいと思っていたんだと思う。
「そっか、んじゃ。またな。あ、それと後1つだけ」
「なんですか」
「大切だからって離れると無くした時にもっと後悔することになるぜ?」
キョトンとした私にビシッと指を指すと奏さんは手を振って談話室を出て行った。
私の頭の中で奏さんの言葉がぐるぐると回る。
しばらくして奏さんの言葉の意味を理解した私はスマホに手を伸ばした。
「うー……」
その後、私はスマホと睨めっこしながら返信用の文とも呼べないほど短いメールを書いた。……書いたものの送信を押す踏ん切りが着かず、私はなかなかメールを送ることができなかった。メールを書き上げてから何十分も悩んだ。けど、最後に奏さんの言葉を思い出して決心がつくと、私は弓美のメールに『行く』と返事を送ったのだった。
なぜなにシンフォギア(単発企画)
Q.なんでルマンドは賢治の件で感想欄で言い淀んでいたの?
A.メインヒロイン放置してクリスを口説く展開のプロットが既に完成していたから。
次回予告
クリス。賢治籠絡作戦始動。友達と遊んでいた響が懐かしのゲームセンターで見たものとは?
次回 戦姫絶唱シンフォギア わだつみの抱く光
Eエンド「浮気者死す」