刻は明け方。薄っすらと空が黒から灰色へと変わりつつある時間帯。
賢治の睡眠時間が極端に短いせいで部屋に戻る暇が無くなったクリスはソファと入れ違いに応接室に設置されたベッドでくぅくぅと寝息を立てていた。
家らしいレイアウトをした書庫入り口周辺から離れた、人1人が通れるだけの道を残して移動する棚が林立する棚の中まで世界中の資料が納められた保管庫。その光の機微が届かない書庫の最奥で賢治は黙々と機械を組み上げていた。
おおよそ長方形だが配線が縦横無尽に巻かれていて毛糸玉のようになっている謎の機械。その機械はすでに9割がた完成しており、賢治は最後のパーツとして自身が初めから持っていたスティックペンダントを胸元から取り出した。シンフォギアに似たそのペンダントは賢治の持つ技術の集大成第1号。第2号であるフォルツァート増幅回路は先の戦闘で消滅し、着ていたレリックパーツの鎧も没収されていた。しかし、何故かこのペンダントは没収されないまま、書庫で目覚めた賢治の胸に変わらず輝き続けていた。
「コイツを持たせたままにしておくなんて、俺、かなり舐められてるね」
そう言って賢治はペンダントを作りたてのソケットへはめ込む。すると配線丸出しの機械は鈍く振動し、小さなランプが1つ青く点灯した。
その出来に満足しながら、一応の点検のため機械を優しくひっくり返しあちこちの確認を始めた賢治は、今の状況について思考する。
──フィーネって人は俺の技術に興味がないのか? 世界で唯一であろう既存技術によるフォニックゲイン増幅機構に……。
自身の技術の価値がどれほどのものかそれなりに心得ている賢治はそのことを疑問に思う。
最終調整のために機械を弄くり回す手を一瞬たりとも休ませず、それと同時に思考を続ける賢治は、機械の調整が完了すると同時にある推論へとたどり着いた。
──今まで起きてきた聖遺物に関連する事件におけるあまりにも高いノイズの出現率。神獣鏡発掘。二課設立会議。ライブ会場の惨劇。その他多数の事件にも言える類似点。ノイズを操る聖遺物。そして攫った俺の技術に微塵も興味を示さないこと。
いくつものヒントから導き出される一連の事件の首謀者の正体。
賢治は手を休めぐったりと椅子にもたれかかった。
「……コレ、司令に連絡したら、十中八九あの人に司令が相談して俺が脱走しようとしてるのバレるんだろうなぁ。あぁ……、面倒だ」
心底嫌そうな顔をした賢治だったが、もたれた椅子からすっくと立ち上がり、テーブルの上の完成した機械を操作し始める。
しばらくして展開したスティックペンダントのスクリーンがピカピカと点滅した。
──完成だ。
賢治は普段人前では決して見せない科学者としての自負と驕りの相まった凄惨な笑いを浮かべていた。
──厄介なのは当然だ。了子さんの方が俺よりキャリアも人脈も技術力も何もかもが上回っているんだから。……だけど。
「あまり舐めないで貰えませんかね。俺は現行の技術で満足するつもりは毛頭無いんですよ」
そう言って機械を満足行くまでいじくった後、手作りの木製ケースへ入れると、賢治は悪い笑みを浮かべた自分の顔をほぐしながらケースをポケットにしまい、目ぼしい知識を脱走する前にあらかた手に入れるため、書庫の中の資料を物色し始めた。
◇
リディアン音楽院近くの商店街。今日のお昼はふらわーではなく海外から来たと言う華やかな感じのレストラン。
色彩豊かな店内で店員さんの着ているふりふりのメイド服と色鮮やかなサラダが自慢だと言う明るめな感じの、菜食志向のコンセプトがしっかりとしているレストランだ。
「ビッキー食べないの? もしかして、どこか調子悪い?」
そう問いかけてくる安藤さんが見ているは私がフォークに纏めただけで口に運んでいないトマトパスタ。
「別に……なんでもないよ」
「本当?」
「本当。大丈夫だから」
そう言って、味も分からないままパスタを食べる私。気遣いは嬉しいけど、今はちょっと居心地が悪い。
「そういえば響。今日はいつものV字の髪留めじゃないのね。そのN字の奴も結構似合うじゃない」
弓美の言葉に一瞬ドキッとした。
あの髪留めは実の所、あの日以来付けていなかった。自分でも確かな理由は無いけど、賢治さんの髪留めを見るとなんだか賢治さんがいなくなってしまったことを強く意識してしまって、その事が怖くなってしまうからだ。
「まぁ……、昔から付けてたから」
「昔からと言うのは、あのV字の髪留めを貰う以前の話ですよね?」
「……まぁね」
いつにも増して素っ気ない返しばかりする私に何かを察したかのように安藤さんが言う。
「もしかして……賢治さんと何かあったの?」
「……まぁ、そんな所」
「喧嘩? 喧嘩は早めに仲直りした方が良いわよ。大人の関係は疎遠になったらよりを戻すの難しいらしいし」
「それってアニメ?」
「月9よ」
「へー、何て名前」
「えーと、なんだっけ。うーん」
「お二人とも。もう、何はともあれ、仲直りはお早めにした方がよろしいでしょう」
「……うん」
3人の言葉を受けても、沈み始めた心はなかなか浮き上がらなかった。
パスタを食べ終わり、安藤さんと弓美の月9ドラマの話を聞いていると、不意に私の携帯が鳴った。
「ごめん。電話」
「はいはーい」
テーブルから離れて私が電話に出ると、出てきたのは了子さんだった。
「あっ、響ちゃ〜ん? この前のシンフォギアの通常起動実験の結果が出たんだけど明日来れる?」
私の耳元に了子さんの明るい声が響く。
「……それって何時間ぐらいかかりますか?」
「うん? まぁ、一応説明義務があるってだけでそんな何時間もかからないわ。足が無いって言うならこっちから車も出すけど」
「いえ、大丈夫です。それって今日の6時ぐらいでも良いですか?」
帰る時間もあるし遅く見積もっても5時には解散するだろう。
「大丈夫よ。もしかして今こっちに居たり?」
「ええまぁ」
「なら丁度いいわね」
「そうですね」
「それじゃ、遅くなるようなら車も用意しとくから」
「そんな、悪いです」
私がそう言うと了子さんが笑った。
「響ちゃんは気にしなくてもいいのよ。こういうのも大人の仕事なんだから」
だから頼りなさいと了子さんは言う。
「……はい」
「よろしい。じゃあ待ってるわね」
「はい。お願いします」
「お願いされました!」
そう言って了子さんの側から電話が切れた。
私がテーブルに戻ると、テーブルの上は粗方片付けられていて、溶けた氷の入ったグラスが4つだけが乗っていた。
「立花さん。お電話何のご用でしたか?」
「健康診断。昔の怪我のことでちょっとね」
「へー、私もあるよ。鉄棒から落ちた時の奴」
そう言うと安藤さんがお腹のへその横あたりを指差す。
「アレはびっくりを通り越して寒気がしました」
「わ、わたしだって怪我の跡ぐらい」
「無い方が良いって」
変なことで張り合い始めた2人をなだめると、私たちは会計を済ませた。
「それじゃあ、今日は私に付き合って貰うってことであっち行くわよ」
「ファンシーグッズ探しですね」
「弓美の探しているのはファンシー通り越してる気がするけどね」
「広義的にはガンダムもファンシーグッズに入るのよ? 特撮だって」
「その理屈はおかしい」
「というかガンダムがファンシーって」
「キモカワ……じゃなくって、ブサカワに分類されるんでしょうか?」
「何よー。別に分類なんて人の勝手でしょー」
「そりゃそうだけどさ」
「時間が勿体無いから歩きながら話そうか」
「そうですね」
「それじゃ、向こうからね!」
「はいはい」
3人と一緒にいると暗くなりがちな気分を紛らわしてくれる。その事がとてもありがたかった。
◇
乱暴にハンバーグをフォークで刺そうとした腕が掴まれる。
「……なんだよ」
「ちゃんとナイフか箸で切り分けてから食べないとダメだよ。まるごと食べるなんて肉汁で服やテーブルが汚れちゃう」
「別に後で拭きゃいいだろ」
「今綺麗に食べれば拭く必要無くなるじゃない?」
「手間かけて食うより、拭いた方が早いだろ」
「手間かけて綺麗に食べた方が満足感が大きいよ?」
「食ってる量は変わんねぇだろ?」
「食事の時間と咀嚼回数に、食べた後のお皿の様子も変わるでしょ。満足感は生理現象じゃなくて人の主観によるものだから、食べ方によって変わるんだよ」
「ほー。まぁ、あたしには関係ないけど」
そう言ってまたハンバーグを丸ごとフォークで持ち上げようとしたクリスの手が抑えつけられる。
「言ってるそばから真正面からどうどうと無視するのやめてくれないかな?」
賢治に押さえつけられた手を持ち上げようとクリスが悪戦苦闘するが、少しすると諦めてフォークを離した。
そうすると賢治がクリスのハンバーグの皿を取ってナイフですいっすいっと四角く切り分けていく。
クリスがその様子を見ていると
「前々から聞こうと思ってたんだけどよ。アンタとあたしってどう言う関係な訳」
「どう言う関係って?」
「アンタはあたしのこと知ってたけど、あたしはアンタのこと全く覚えてねぇ。それは何でかなって。その……、友達とかだったら忘れてて悪ぃなって」
「ふっ、ハハ」
賢治がハンバーグを切り分ける手を止めて笑った。
「何がおかしいんだよ」
「クリスちゃんは優しいねぇ」
「バっ!? 何言うんだよいきなり」
「別に友達とかそんなもんじゃないよ。昔一回会った事があるだけさ」
「昔、一回?」
「そう、君のご両親がバルベルデに行く前に知り合いに挨拶回りに行っていたことがあったでしょ?」
「……? あったよう……な?」
思い出せない様子のクリスに賢治がちょっと困った顔をした。
「まぁ、会ったことあるんだよ。挨拶回りの時に丁度ウチの両親が海外ツアーに出てて、代わりに家族に挨拶することになったんだけど、都合が付いたのが病院暮らしの俺だけだったんだ。クリスちゃんが覚えていないのは、よくお父さんたちに付いて行って沢山の人と会っていたからだろうね。普通、一回しか会ってない人の顔なんていちいち覚えてられないよ」
切り終わったよと差し出されたハンバーグの皿を受け取りながらクリスは驚いた。
「……アンタはそんな一瞬しか会ってない奴のこと覚えたじゃねぇか」
「クリスちゃんは綺麗所さんだったからねぇ。白い髪の人もクリスちゃんとお母さんぐらいしか見たこと無かったし」
のほほんとそう言い切る賢治にクリスが少しだけ頰を赤くする。
「そうかよ」
「……実はね。2年前のクリスちゃんが帰国した時も俺その場に居たんだよ」
賢治がそう告解するように言った。
「……そうなのか」
2年前、バルベルデで保護されたクリスの帰国は、その直後に何者かの襲撃によってクリスが行方不明になる苦い結果に終わっていた。
「あの時は、襲撃で会えずじまいになっちゃって、クリスちゃんを守れなかった。俺も司令も凄い悔しかった」
「……そうかよ」
クリスの手が強く握りこまれる
「でも、こうして生きていてくれた」
賢治は顔を綻ばせたが、対照的にクリスの目がつり上がっていくのを見逃した。
「それが俺には嬉しい」
ガンとテーブルが強く叩かれ、賽の目に切られたハンバーグの切れ端がテーブルの上に転がった。
「……生きててくれた? 嬉しい? ふざけんな! あたしがどんな想いで生きてきたかも知らないで!」
クリスが立ち上がってビッと賢治にナイフを向ける。その目元には涙が浮かんでいた。
「バルベルデがどんな場所かも知らないで!!」
クリスが慟哭の声を上げて賢治を睨む。
「日本に帰って来れたと思ったら訳もわからず放り出されて! あたしがどんだけ心細かったことか!!」
「それでも」
「生きてりゃ良いことあるってか!?」
「……そうだよ。生きてなきゃ」
「うるせぇ! あたしの幸せは全部あそこでぶっ壊された! 馬鹿な親父が馬鹿みたいな夢追っかけたせいで! あたしの人生は滅茶苦茶だ!」
クリスが賢治にナイフを突きつける。
「お前らが何をした! あたしを助けようとした。だからなんだよ! 助けられてねぇじゃねぇか!! あたしを助けてくれたのはフィーネだ! フィーネだけがあたしを助けた!地獄から救ってくれた!!」
気圧されていた賢治がクリスの口から発せられたフィーネの単語に反応して、クリスが持つナイフを下げさせて反論した。
「だから、フィーネの言うことならなんでも従うのかい」
「あたしをフィーネの操り人形みたいに言うんじゃねぇ! あたしは、自分の意思で」
「なら、なんでフィーネの計画を知らないんだ。何のためにか理解せずに言われるがまま働く人間が操り人形でなくて何だって言うんだ」
「う。し、仕方ねぇだろ! フィーネが教えてくれねぇんだからよ」
拗ねたように言うクリスに賢治は語気を強める。
「前も俺は言ったはすだよ。自分の考えを伝えようとすらしない人間を信用しないって」
「お前だって隠し事してんだろ」
「それは当然さ。俺とクリスちゃんは味方じゃないんだから」
その言葉にクリスは動揺を隠せない。
「それならあたしとフィーネだって」
「クリスちゃんとフィーネは味方じゃないのかい」
苦し紛れの言い訳は一言で絶たれた。
手に持っていたナイフがテーブルに音を立てて転がり、クリスは椅子にどっかりと腰を下ろした。
賢治が立ち上がりクリスの傍らに立つ。
「ねぇ、クリスちゃん」
「……なんだよ」
「クリスちゃん。お父さん嫌いじゃないんでしょ?」
クリスはポカンとすると直ぐにハァ!? と賢治の方を見た。
「嫌いに決まってんだろ! 歌で世界を平和にするとか言って、結局死んじまって、そんなの無駄死にじゃねぇか!」
「死んでしまったのは悲しいことだけど、クリスちゃんのお父さんの想いは無駄じゃないよ」
「無駄だ!」
「無駄じゃない!」
賢治の剣幕にクリスがおし黙った。
「なら……、どう無駄じゃないって言うんだよ」
「クリスちゃんのご両親の意志は、クリスちゃんが継いでくれたじゃないか。だから、クリスちゃんのご両親の死は無駄じゃない」
「ハァ? あたしがあいつらの意志を継いでるだと!? どこが!」
「前、クリスちゃん言ってたでしょ? 「あんたもフィーネに協力して世界から争いを無くさないか」って」
クリスが動揺する。その言葉は確かに自分が言った言葉だったからだ。
「それは……っ。でもあたしのやり方はアイツらのくだらない絵空事とは違う! 世界中の戦争をしようとする奴らを片っ端からぶっ潰して」
「戦争を止めて世界を平和にする。でしょ」
クリスが声を詰まらせる。
「その時俺はこう答えた。「計画の概要を教えてくれない指導者の元で働くなんて真っ平御免だ」って。それは今も変わらないよ。むしろこの考えはクリスちゃんにも持って欲しいぐらいさ」
おし黙るクリスに賢治が囁く。
「だから今度、クリスちゃんに俺の夢をプレゼンしようと思うんだ」
今度こそ惚けたようにクリスがポカンとした表情を浮かべる。
「プレゼン?」
「そう。俺は一番良いと思う世界を平和にする方法を考える。考えて、俺の夢にする。そのアイディアをクリスちゃんに聞いてもらって、俺かフィーネか、どっちに付くか決めて欲しい」
賢治がそう言って離れるとクリスが振り返り2人の目線がぶつかった。
「……ふん。あたしがフィーネに付いたらアンタはどうすんだよ」
「その時はまぁ、居る意味無くなるから脱走するかな」
「……生きて出れると思ってんのか?」
「ま、確率は低いだろうね」
肩をすくめる賢治にクリスが呆れた顔を浮かべる。
「生きてりゃ良いことあるんじゃねぇのかよ」
「流儀の問題さ。俺はフィーネが嫌い。それだけさ」
「嫌いってお前フィーネに会ったことねぇだろ」
「フィーネとしてはね」
賢治の含みのある言い方にクリスは気付かなかった。
「そんなことより、クリスちゃんが俺の側に付いてくれることになったら、その時は脱走に協力してね?」
「ふん、もしもそうなれば一応は協力してやるよ。ただ、口先だけだった場合その時はテメェを殺すからな」
「あぁ、存分に八つ裂きにしてくれ。そういうリスクは慣れている」
「慣れてる?」
「昔、シンフォギア以外のノイズを倒す技術を作るって啖呵を切ったことがあってね。その時にも作れなかったらぶっ殺すって言われたんだ」
「……お前、馬鹿だな」
「馬鹿と天才は紙一重。裏を返せば俺は天才なのさ」
そう楽しげに笑うと、クリスが落としたハンバーグのかけらをヒョイっととって口に放り込む。
「バッチいなぁオイ」
「その言葉はクリスちゃんが使うには3ヶ月早いよ」
「ケッ、綺麗綺麗に食えば文句ねぇんだろ」
「出来るものならね。癖はそうそう直らないものだよ」
「直るっての! 見てろよ。このハンバーグをあたしはテーブルを汚さずに食ってみせるからな!」
クリスがテーブルを汚さないように手や口を汚していく様子を眺めながら、賢治は世界を平和にする方法を真面目に考察し始めた。
◇
家に帰った私は夕食も食べずにベッドに沈んだ。下からはお婆ちゃんの作った煮物のいい匂いがしているけど、今はあんまり食欲が湧かない。
「賢治さんが生きている……か」
櫻井博士から言われた言葉が頭から離れない。賢治さんの家の近くの公園にいたかノイズがひとりでに一掃されたのは何者かがノイズを倒したから、焼け焦げた林と残った煤から誰かがノイズと戦闘を行ったことが分かる。
監視カメラの映像には残っていなかったけど、ノイズと戦える技術を作れるのは櫻井博士と賢治さんだけ。櫻井博士は有り得ないから消去法で賢治さんがそこに居たということになる。
ノイズの再出現も無かったし、高確率で生きているって言ってたけど……。
──なら、なんで会えないの?
生きてるはずの賢治さんはどこかへ行ってしまった。警察の大規模な捜査は終わっているけど、二課の人たちが今も賢治さんを探してくれている。
──会いたいよ。
そう思って、見るのが怖いくせに遠くに置きたくない理由で枕の下に隠した髪留めを取り出そうとすると
「枕があったかい?」
枕の裏面が湯たんぽに当てていたかのように暖かかった。
枕をどけてV字の髪留めのケースを握るとケースは何かで熱されたかのように熱い。蓋を開けて髪留めを撫でると髪留めは指を近づけただけで分かるぐらい熱を発していた。
直に触るのが危ないと思えるほど熱い髪留めをケースごと手で包む。
胸に置くと冬用のパジャマの厚い生地を通り抜けて髪留めからの熱が伝わってくる。
「賢治さん、生きてるんだ」
ケースをぎゅっと握りしめてちょっとした奇跡に涙が溢れ
クゥ
「あっ」
安心した心にお腹がご飯を食べたいと催促し始める。
空気を読むことを辞めた身体を苦々しく思いながらも、お婆ちゃんの煮物を食べるため、さっき言った言葉を撤回しに私は階段を降りていった。
こちら「よもやまばなし」の後に投稿した前回のお話と言うややこしい物になっております。
実は「籠の中」→「よもやまばなし」だと、人物の心の機微が気に入らないというか、状況証拠的に死んでいる可能性が高い人間を、生きているという前提で会話しているというメタ的な印象の強い話の繋がり方になってしまったため、今回1話継ぎ足させていただきました。
続きに期待していた方申し訳ありません。
戦姫絶唱シンフォギア わだつみの抱く光
次回「文学少女 立花響」