わだつみの抱く光   作:筆折ルマンド

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作風変わります(x回目)
これ以降基本的に三人称で進めていくことになると思います。


独奏の終わり

 フィーネの屋敷。

 

 屋敷の大広間で向かい合って昼食をとるフィーネとクリスの間には流れるのは重い沈黙。時折思い出したかのように交わされる会話も的外れの方向へ打ち返されたピンポン球のようにすぐに途切れてしまう。

 そんな中クリスは意を決してフィーネへ話しかけた。

「フィーネ……。前々から気になっていたけど、アンタはどうやって世界から戦争を無くすんだ?」

 

 フィーネは興味なさげに一口大に切り分けた肉を口に運んだ。

「そのような事を聞いてどうする? この世から争いを無くすすべは私のこれ1つだというのに」

 

 冷たく突き放すようにそう言うフィーネに対して、クリスは食い下がった。

「あたしは納得してぇんだ。あたしがやって来た事がどういう事なのか。その先に何が待っているのか、あたしの望む未来が本当にあるのか。ちゃんと聞いて考えて判断したいんだ」

 クリスのぐっと拳を握るその仕草にフィーネは既視感を覚えた。

 

「……ふん。馬鹿弟子の入れ知恵か。こちらに協力する気などさらさらないくせに」

 侮蔑の表情を浮かべるフィーネに対して、クリスは複雑な思いを抱いた。

 

「……」

 

 しばしの沈黙ののち、ぐっと堪えるように俯いたクリスを見たフィーネは熟考の末、口を開いた。

「……良いわ。貴女には私がどのようにしてこの世を救うのか。その方法を特別に話してあげる。ただし、この事は他言無用よ」

 

 その言葉を聞きクリスがパッと顔を輝かせる。

「分かってるっ!」

 

 嬉しそうに言ったクリスのその言葉をフィーネは内心鼻で笑っていた。

 

 たとえ本人にその気がなくても、他者に強くねだられれば、最後まで嫌と言えないクリスのお人好しな性根をフィーネは知っている。

 頭のキレるあの馬鹿弟子(深海賢治)の側に置く以上、クリスにはあまり情報を与えておくべきではないとフィーネは考えていたが、先ほどの自分に懐疑的な視線を送っていたクリスを見て、今は信頼を得ることが肝要だと判断したのだ。

 

「そう……。まず初めに私の計画の最終目標であるバラルの呪詛について話さなければ。これを知らなければ人類の争いの根源すら理解できない。クリス、よく聞いておきなさい。まずバラルの呪詛とは……」

 

 クリスに怪しまれないよう、それでいて納得の行くように言葉を選んで計画を話し始めたフィーネだったが、話を続けるうちに話はフィーネ自身の思惑を大きく外れていった。

 

「まぁ、正直に言ってしまえばあんなもの改変ばかりで役には立たないのだけど、有名だから一応説明しておこうか。聖書におけるバラルの呪詛であるバベルの塔の記述に「全ての地は、同じ言葉と同じ言語を用いていた。東の方から移動した人々は、シンアル[4]の地の平原に至り、そこに住みついた。そして、「さあ、煉瓦を作ろう。火で焼こう」と言い合った。彼らは石の代わりに煉瓦を、漆喰の代わりにアスファルトを用いた。そして、言った、「さあ、我々の街と塔を作ろう。塔の先が天に届くほどの。あらゆる地に散って、消え去ることのないように、我々の為に名をあげよう」。主は、人の子らが作ろうとしていた街と塔とを見ようとしてお下りになり……」

 

「あー、うん、はいはい」

 フィーネの壮大な脱線話は長々と続きクリスは冷えたブロッコリーを弄びながら生返事をしている。

 聞いてきたクリスの側は不真面目な態度を取り始めており、普段のフィーネなら電撃の1つは浴びせてきてもおかしくないのだが、今のフィーネは普段とは様子がちがった。

 

 初めこそ言葉を選んでいたが、フィーネ自身が持つ学者気質が仇となり、自身の計画を話すその語調はどんどん熱く細かく長く、際限なく饒舌になっていた。

 

 その様子は正に水を得た魚。滅多に話す機会の無い自身が今まで貯めてきた知識をここぞとばかりにひけらかし、その快感にフィーネは酔いしれていた。

 

 簡単に言うならば、「あいつ〇〇のことになると早口になるよな」状態である。

 

 

『 (超詳細かつ迂遠で長大な話)=月ぶっ壊す 』

 

 その結果、最終的には話すつもりのなかった不都合な詳細までもクリスに聞かせてしまっていた。

 バラルの呪詛どころか、自身が古代人であることも、カ・ディンギルのことすらも。

 

 当然、その話を聞かされたクリスのフィーネに対する好感度は、SASUKEのそり立つ壁の如きえぐれるような角度で急降下していたのだが、好き放題解説ができて興が乗っていたフィーネがその事に気付くことはなかった。

 

 

 その日の夜、フィーネの月破壊の計画を聞いたクリスは既にどちらに味方するかほとんど決めていた。賢治の方もそろそろ本格的に脱出せねばと危機感を募らせており、それはつまり、事が起こるのにもう時間がかからない事を意味していた。

 

 

 ◇

 

 

「はぁ、はぁ、はぁーっ」

 

「ほれほれどしたどしたー! 響が参加したいって言ったんだろ? もうちょいだから頑張れ頑張れー!」

 

「分かって、る」

 軽快に駆ける奏が後ろを振り向いて幽鬼のように走る響に声をかけている。

 

 春目前。桜の蕾も次の暖気を今か今かと待ち望んでいる4月の初め、リディアン音楽院の入学式まで一週間を切った頃。

 立花響はツヴァイウィングのトレーニングに混ざっていた。

 

「立花、無理に私たちに合わせなくても」

 響の前を無遠慮に駆け抜けた奏に対して、響のペースに合わせて並走する翼は響の横でちょくちょく声をかける。

 

 ──話しかけないで

 

 別に翼のことが嫌いだとかそういうのではなく、ただ単純に話すことすら億劫なほど、疲れている響は、翼の存在を鬱陶しく思いながらも

「やれます」

 そう一言言って、それ以上は言葉を交わすのも辛いために、翼の方を見ずにロボットのように腕をぶんぶん振って前だけを向いて走っていった。

 

 しかし悲しいかな。翼からすれば、今の響の速度は小走りにも及ばない。当然、そんな速度では奏との距離は開く一方であり、早くもその姿は遥か彼方にある。

 

 一心不乱に走る響の背中を眺める翼。

「……はぁ、そう言うところは奏によく似ているな」

 奏が自身のトレーニングに参加し始めたばかりの頃を懐かしんだ翼は、あの頃の奏と同じように着いた後に倒れないよう、一度ぐっと響のウェアの襟を掴み無理やり立ち止まらせると、響の口にドリンクを突っ込んだ。

 

「一旦休め」

 

 そう言う翼を響は睨み付けたが、翼はただ笑うだけだった。

 

 ◇

 

 

 先日の髪留めの発熱によって賢治との繋がりを感じられてニマニマしてた響だったが、後日、奏の持つシンフォギアも発熱していたことが発覚。

 奏のシンフォギアを賢治が手ずから改良を加えていたことを知り、自分だけだと思っていた響はちょっとだけご機嫌ななめ。

 

 小学生の頃から運動は嫌いではない(積極的にやるほど好きでもない)響は鍛錬6割、イライラの発散4割の動機でツヴァイウィングのトレーニングに同行していた。

 

 ところが体力が資本であるベテランシンフォギア装者のトレーニングに、半暴走という体力無限チートを持ってして互角だったごく普通の中学生が付いていけるはずもなく、バテバテの状態で何とかお尻にしがみつくのが限界であった。

 そのことに響は更にイライラを募らせ、むしろ響の機嫌を悪くさせるだけのはずだった、が。

 

 ◇

 

「お疲れさん」

 ランニング後、そう声をかける奏だがベンチに腰を下ろした響はさながら燃え尽きたジョーのように動かない。1つ違う点として響の息は死ぬほど荒いことぐらいか。

 

 図らずもイライラは体力の消耗による思考能力の低下によって。というか疲れすぎて考えるのがめんどくさくなったことによって何処かへ吹っ飛んでいた。

 

「ったく」

 息も絶え絶えな様子の響の頭にべしゃんとびしゃびしゃの濡れタオルがはたきつけられた。

 冷たく滴る水が火照った身体を冷やしていく。だがその様子を見て驚いた翼は奏を強く咎めた。

 

「奏!」

 

「気付けだよ。気付け。ほれ、背は真っ直ぐにしておいた方が辛くねぇぞ」

 響の頭に乗せたタオルを顔にかからないように調整した奏は響の姿勢を正す。

 

「まったく。ほら飲み物も飲みなさい」

 次いで翼が持ってきたスポーツドリンクにストローをさして響の口元に当てる。

 響がされるがままに飲み物を飲みはじめると、響を挟んで奏と翼が、響のこれからのトレーニングについてああでもないこうでもないと話し始めた。

 

 ◇

 

 響の息が落ち着き始め2人の攻勢に響が抵抗し出した頃。

 

「まるで親鳥と雛だな」

 何くれと世話を焼く2人の姿をそう称して風鳴弦十郎が現れた。

 

「旦那。どうしたんだよ」

 

「いやなに、響くんが2人のトレーニングに同行するらしいからな。様子を見にきたんだが……、案の定と言ったところか」

 2人の介抱に対して、子猫のようにか弱い抵抗をしていた響はその動きを止めてギッと司令を睨みつける。

 

「私がこうなるって分かってて焚きつけたでしょ」

 響に2人のランニングについて行くことを勧めたのは司令だった。

 弦十郎の見立てでは9割の確率で付いていけないだろうと予想を立てていたが、もしかしたら体力の使い方が下手だっただけということも有るかも知れないので試しに勧めてみたのだ。結果として響の体力が本当に人並みでありことが判明したが、それはそれで良いと考えていた。

 

「まぁな!」

 腰に手を当ててワッハッハと笑った司令に響は苦々しげに言った。

 

「たぬき親父」

 

「曲がり也にも特務機関の長だぞ、俺は。腹芸の1つや2つできなきゃ困る。俺の上には俺なんぞ足元に及ばない化け狸がわんさかいるんだからな!」

 そう自慢げに話す司令を見て、

 ──なるほど確かに賢治さんの師匠なんだな

 と響は思った。

 

「ま、俺の見立て通り響くんの体力はまだまだ装者に求められる水準にまるで足りていなかったわけだ」

 

「見た目に反して運動オンチで悪かったね」

 そう言った響に両サイドが肩に手を置いた。

 

「いやぁ、素人がアタシらに最後まで付いてこれるなんて根性あるぜ?」

 ニッと笑って親指を立てるのは奏。

 

「少なくともランニング中のフォームは素人には見えなかったぞ」

 そう言って腕組みをして頷く翼。

 

「響くんは体力が足りないだけだ。でなければシンフォギアで戦うなんてまともにできないはずだからな」

 そう言って司令がわっしゃわっしゃと響の頭を乱暴に撫でる。

 

 三者三様の言葉に響の顔は熟れたりんごのように真っ赤になった。

 

 ◇

 

「さて、2人とも、そろそろ次の予定の準備があるんじゃないか」

 司令がそういうと同時に学校のチャイムが鳴り響く。

 

「あらら、もうそんな時間か」

 

「もう少しこのままで居たかったが仕方ない。それではまたな。立花」

 スッと立ち上がった奏に続いて翼が立ち、互いに軽く挨拶を済ませると2人は颯爽とその場を後にした。

 

 残ったのは響と司令。響もここに留まる理由もないので、寮に戻って勉強でもしようかと思ったが、その前に司令が響に話しかけた。

 

「響くん。今日は時間空いているかね?」

 

「ええ、まぁ」

 仁王立ちのまま話しかけてきた司令に若干ビビりながら響がそう答えると司令はニッカリ笑った。

 

「そうか! ならどうだろうか? これからトレーニングについてウチで話さないか?」

 

「司令の家?」

 

「そうだ。あまり帰れていないが麦茶ぐらいは出せるぞ」

 

「いや別に飲み物はいらないですけど……」

 響の膝の上には翼が置いていったスポーツドリンクが乗っている。

 

「飲み物だけでなく、茶菓子も常備してある」

 

「いや別に……」

 おずおずとそう言った響を見て弱った顔をした司令だが、すぐに気をとりなおして響に言った。

 

「ともかくだ。2人と同じ練習メニューではダメなことが分かった以上、響くん専用のメニューを考えなければならない。ここで話し合っても良いが、どうせならもっと良い所で話した方が良いだろう?」

 

「それは、まぁ、そうだけど」

 

「なら良し。善は急げと言うからな。二課のブリーフィングルームを借りるとしよう」

 そう言って司令は響について来いと言って歩き出す。強引な話運びにあきれながらも響はしぶしぶながら司令について行った。

 

 ◇

 

 ブリーフィングルーム。

 響が机に座って待っていると、いそいそと何かの準備をしていた司令が準備を済ませた様子で響の横に並び立った。

「これが、俺たちの教材だ」

 そう言って司令がリモコンを操作してモニターに電源が入る。

 

 響は何が出るのか少しばかり楽しみにしながらモニターを注視する。

 

 ビィンと古めかしいテレビの作動音と共にモニターに映されたのは岩場に波がぶつかり砕ける映像。

 ザッパーンザッパーンと言う音と共にモアイが2つ並んで現れた。

 

「……は?」

 

 数秒がたち、悪い意味で驚きで惚けていた響の口から出たのは困惑の一言。

 チラリと司令を見るが司令は間違えたと慌てる様子もなく映像を食い入るように見つめている。

 

 モアイが消えて次に移ったのは中国の原風景、中華風の弦楽器を中心とした音楽が無駄に質のいいスピーカーから流れ、場面が変わり拳法家っぽい男が正拳突きを繰り返す映像が流れる。

 

「さぁ、これを見て俺と共に強くなろう」

 そう自身満々に力こぶを作って言う司令に対して、響の顔はまるでお面を被っているかのように無表情。

 それでいて身に纏う雰囲気は北海道の4月になっても道路を埋めつくす氷のように冷ややかだった。

 

 その事を鋭敏に感じ取った司令が響に何か言おうと振り返った。瞬間、響がガタンと立ち上がりブリーフィングルームを出ようと扉へ向かって歩き出す。その足に迷いは一切ない。

 

「待」

 司令が声をかけようと手を伸ばしたが、扉に手をかけた響が振り返ると同時に手が止まる。

 

「司令って暇なんですね」

 絶対零度の一太刀が司令に炸裂。子供の頃に受けた親爺の叱責よりなお痛烈な一撃を受けて崩れ落ちる司令。その姿を横目で一瞥し、響はブリーフィングルームを後にした。

 

 既視感と同時にやってしまったと言う後悔と共に床にどっかりと座り込んだ弦十郎。

 ──響くんはこう言うのだめだったかぁ

 猛烈な反省と共に頭をガシガシとかく弦十郎だったが、せっかく付けた映画なのだからと、映画を鑑賞しながら響のトレーニング案を真面目に考えることにした。

 

 弦十郎が映画に興じる姿を、打ち合わせから戻ってきたツヴァイウィングに見られて呆れられるのは約2時間後のお話。

 

 

 ◇

 

 

 後日、過去に賢治と共に作った「半死人でもマッチョになれる弦十郎流拳術」のファイルを元に響専用トレーニングマニュアルを作成した司令は、それを響に提示した。響はそのマニュアルに目を通して受け入れ地を這った司令の好感度も僅かに上がった。

 

 このファイルの説明の折

「賢治さんをダシにすればなんでも通るとか思ってない?」

 と響に鋭いツッコミを入れられたものの

 

「そんな事あるわけないだろう! これはあくまで有用な前例を利用しただけだ」

 と司令は否定した。

 

 ……しかし、最初二課に協力することに対して乗り気でなかった響が、賢治の情報を優先的に回すと条件を付け足した瞬間手のひらを返したことを弦十郎は忘れていなかった。

 

 

 

 




回を追うごとに基礎ステータスがクソ雑魚ナメクジになるオリ主。まぁコレは作者の好みの問題なんですけどね。

さて次回からいよいよ本編筋から脱線し始めます(元から?)
オリジナル展開は二次創作の醍醐味ですからね!

司令の武術って我流の太極拳(どこかで言ってたのような?)だと思っていたんですが、調べてみるとだいたい謎の武術なんですよね。発勁って普通の中国映画見て学べるんでしょうか?

戦姫絶唱シンフォギア わだつみの抱く光
次回「嵐の夜に」
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