わだつみの抱く光   作:筆折ルマンド

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XDの拘束時間がエグいです。マルチ戦が長すぎて小説書くかXDやるかの二択になってる今日この頃。


笹舟流るる

 青々とした木々に包まれた洋館の中、日は既に高く、窓から刺す光は人形の頭部にある金の髪パーツを一層輝かせていた。

 

 その日も通常通りフィーネ人形は製作者の第一種命令である監視行動を忠実に行い、監視対象が脱走しないように書庫を外側から見張っていた。

 

 数キロ先まで鮮明に見れる高性能カメラアイに瞬きは無く、その胸に秘められた超高性能電池は一度の充電で100時間以上の活動時間を誇る。手に持つように装備された杖状の武装から放出される電撃は一発のチャージに時間こそかかるものの致死性すら帯びている。そんな非武装の人間を監視するにしては用途に釣り合わないと思われほど高性能のロボットは、

 

 

 天才を相手するには役不足であった。

 

 

 ◇

 

 フィーネ人形がいつものように書庫の奥へと消えていく賢治の姿を記録して数分後、唐突に書庫の扉が開け放たれた。

 出てきたのはフィーネの手駒であるクリス。賢治以外に書庫に居るのはクリスだけであり、ある意味当然のことである。窓の外にそれぞれ仕掛けられたカメラから送られた情報によりフィーネ人形は賢治が活動状態であることを感知している。それにもかかわらず書庫から出ようとしたクリスに対し、人形はプログラム通り、軽度懲罰モード用の電撃を溜めながら言葉を発した。

 

「深海賢治が活動して……」

 しかし人形が定型文を発しきることは無かった。

 人形が口上を言い切る前にクリスの後ろから何かを振り上げた人影が飛び出してきたのだ。人形のAIはその高いスペックによって引き伸ばされた時間の中、コードが絡まった謎の機械を掲げた深海賢治を認識した。電撃を即座に懲罰モードから戦闘モードに切り替えるが、電撃を発するには3秒の時間を要する。その時間は、人形が機能停止に追い込まれるまでの時間に対して絶望的なほど長い時間であった。

 

 腕が振り下ろされ何かの機械が人形に突き刺さる。機械の中央に取り付けられた青い棒が花のように開き活動を開始する。一瞬にしてロボットのAIは駆動系から切り離され、手にもたれた紫の玉は光を失いロボットはカックリと肩を落とし僅かに稼動音を響かせるだけとなった。

 

 行動不能から更に数秒、人形のAIは取り付けられた機械によって完全に掌握された。男の手によって人形のまぶたが閉じられたのを最後に、人形から館の中央に備えられた大型PCへ送られていた映像は途絶えた。

 

 ◇

 

 フィーネ人形があっという間に鎮圧され、唖然とするクリスの前で、賢治は動かなくなった人形に貼り付けた機械に、書庫の奥にあった型落ちPCから取ってきたキーボードを接続し、何やらカタカタと操作を始める。

 

「フィーネのおもちゃはまだ何体もあるんだぞ。そんな一体に構ってんじゃねぇよ」

 そう、落ち着かない、不安感を隠しきれないクリスがそわそわしながら急かしたが、

 

「大丈夫。大丈夫」

 賢治はそう言って機械を操作するばかり。

 

 数分もすると他のフィーネ人形が集まり始め、クリスは慌てたがフィーネ人形はそんなクリスの様子を無視して、フィーネの音声を発することなく2人の前に整列した。

 

 整列したフィーネ人形の頭にポンと手を置きながら賢治がニッと笑う。

「同等のPCで俺がハッキングできない機械は存在しない」

 ドヤ顔でそう言った賢治の頭をクリスがポカンと軽めに叩く。

 

「そう言うのは始めっから言えっての」

 

「いやまぁ、意外性というかちょっとしたサプラァイズ。みたいな」

 

 ポカン

 

「真昼間に堂々と脱走するって時点であたしには十分サプライズだっての。てかよ。真昼間に脱走って大丈夫なのかよ」

 

 賢治が手のひらをひらひらと振って軽薄に言う。

「むしろ昼の方がいいのさ。あの人、公の立場を持ってるから昼はここに居ないし。警察組織もやっぱり昼の方が仕事が早いからね」

 敵は遠くて味方は早い。こんなに良いタイミングは無いのさと語ってフィーネ人形と共に行軍を始める賢治。

 

「ちょっ、どこ行くんだよ」

 

「どこってコレと接続していた中央PCの所さ。この人形は内部回線しか持ってないようだからね。外と連絡するにはコンピューターを奪わないと」

 

「……なるほどな。ならPCの方はお前に任せる。あたしは杖を取ってくる」

 クリスの杖と言う言葉に賢治が数秒フリーズしてポンと手を叩いた。

 

「お前、忘れてたのか?」

 

「すっかり忘れていたよ」

 

 クリスが深いため息をつく。

「むしろ最大目標だろうが。まったく。あんたはそのまま外部と連絡を取りに行きな」

 

「了解。……それじゃあ、一応クリスちゃんにロボットを一台付いて行かせておくね」

 

 賢治がキーボードを操作すると、整列していたフィーネ人形の一体がクリスの方へ進んで来た。

 

 クリスが露骨に嫌な顔をする。

 絶妙にデフォルメされたフィーネを模した人形が自分の後ろを付いてくるのが正直嫌なクリス。

 

「いらねぇだろ」

 

「連絡手段がそれしかないからしょうがないでしょ」

 クリスの苦言はバッサリ切り捨てられた。

 唸るクリスだったが譲る気などサラサラない様子の賢治はクリスに仕事が終わったら大広間に集合する約束を無理やりさせると、さっさと4機のフィーネ人形を引き連れて階段を下っていってしまった。

 

 ぽつねんと一人残されたクリスがフィーネ人形を横目でチラリと見ると人形がそれに反応してギロリとクリスの方を見る。

 ギョッとしたクリスは見なかったことにして杖を保管してある場所を目指して歩き始める。

 クリスが歩き出すと同時に後ろからチキチキと機械の駆動音が響く。

 

 ──怖ぇ

 割と怖いものに耐性の無いクリスは自分の後をつけるフィーネ人形の音がおっかなくてたまらない。

 

 しばらく進んで廊下の角を曲がると同時にまたチラリと後ろを見るとまるで振り向くのが分かっていたかのようにバッチリ人形と目が合った。

「お、おぉぉぅ」

 ギシギシと音がなりそうなほどギクシャクした動きで前を向いたクリスは、今度はうって変わって逃げるように廊下を駆け出した。

 

 当然、追いかける人形のモーター音も倍増。そして恐怖も倍増。人形に追いかけられながらがむしゃらに走るクリス。

「追っかけてくんじゃねぇよ!」

 そう叫ぶクリスに対して人形は黙ってついていくだけ。それがまた不気味でクリスの恐怖を煽る。

 

 彼女の頭の中の杖の奪取の計画は、今や随分と霞んでいる様子だった。

 

 そんなクリスの姿を人形をハッキングしたことによって覗けるようになった監視カメラの映像で確認した賢治は、

 ──昼に決行して良かった。

 そう思いながら、早めに仕事を済ませてあげようと自分も早足で館の中を駆けていった。

 

 

 ◇

 

 

 リディアン音楽院学生寮。

 入学式まであと数日。

 賢治の不在や二課の関係で宿題に手をつけていなかった響は、今死にものぐるいで課題に取り組んでいた。

 

「なんで学校に入る前にこんなこと……ッ」

 音楽記号の書き取りを、これは斜体なのだと言い訳がまかり通る程度の乱雑さで書き進める響に、既に課題を終わらせていた相部屋となった板場弓美がやれやれと言った様子で言う。

 

「そりゃまぁ、入学が決まったら勉強なんてしなくなるじゃない? 学校が始まる前に、勉強の仕方を思い出させるためにやらせてるんでしょ」

 

「そんなことしなくたって……」

 

「いや、毎朝トレーニングとか言ってどっかに行って、勉強放ったらかしにしてた響が言えることじゃないから」

 

 ツッコミを入れた弓美をぶっすーと響が無言で不満げな顔で見つめる。

 

「私をそんな顔で見つめても課題は無くならないわよ。ほら頑張れ頑張れ〜」

 そう言いながら持ち込みの風都探偵を読む弓美。

 

「響の課題が終わる目処が立たないと私だって買い物行けないんだからさっさとしなさい」

 

「……分かってる」

 

 紙がめくられる音とシャーペンが走る音だけが響く部屋。流れる静かなひと時。

 響が呼び出されるのはもう少しだけ後の話。

 

 

 ◇

 

 

「こんなPCに負担を掛けるだけの無駄に山盛りのセキュリティ。同系統のロックで水増ししてるあたり、突破される事を想定して作られてる。……あの人、絶対脱走するって思ってたんだなぁ」

 ──その予想通りな訳だけど

 フィーネの屋敷の大広間。ど真ん中に設置された巨大なPCにハッキングを試みていた賢治だったが、数千万という膨大なセキュリティロックを前に悪戦苦闘。せめて周辺の地図だけでもと探りを入れるがほぼ全てのセキュリティがログイン前に集められているらしく、黙々とロックを解除しているが全くセキュリティを突破できる気がしない。

 

「この時間、別の事に使うべきだろうか」

 賢治はクリスが来るまでにセキュリティを超えられないようならPCを破壊しようとまで考え始めていた。

 

 ◇

 

「はぁ!? パスワード変わってんのかよ!」

 

 一方、ソロモンの杖が収められている部屋では杖を取り出そうとパスワードを打ち込んだクリスだったが、電子ロックがエラーを吐いたことに目を白黒させていた。

 

「これは?」

 

 Error

 

「コイツは」

 

 Error

 

「これならどうだ?」

 

 Error

 

「この!」

 

 Error

 

 次なるパスワードを入れようとするクリスだが、エラー制限回数に引っかかってしまったらしく、操作基盤はセキュリティキーを刺せと命令するばかりでもはやクリスの言うことを全く聞かない。

 

 ガチャガチャといじくったり扉をけっぽったりするクリスだが、扉はうんともすんとも言わない。

 

「そっちがその気ならこっちだって考えがあるぞ」

 クリスは苛立ちを隠さずに右腕を掲げて叫んだ。

 

「この身を鎧え(よろえ)! ネフシュタン!」

 クリスの声に呼応して鱗状のパーツがクリスへとまとわりつきネフシュタンの鎧を形成した。

 

「無理やり取らせて貰うぞ!」

 クリスが肩のサメの歯状のムチを使って扉をズタズタに切り裂く。中には小弓のような待機状態のソロモンの杖。

 

 クリスが手に取ると中央の紫の発光体が鈍く光る。

「本物っぽいな」

 一応くるくると回して杖が本物か確認するクリス。変な所も見当たらないので本物と断定した。

 

「おっし、それじゃあ、アイツと合流するか」

 クリスが杖を肩がけして振り向く。

 

 

 突然、誰かが部屋の入り口の扉を蹴破って中へと転がり込んで来た。

 

 

 驚いたクリスに向かって、鋭い何かが飛んでくる。

 

 転がり込んで来た賢治が咄嗟にクリスの足を蹴り飛ばして転がすと同時に、槍の直撃によって背後の壁が吹き飛び、青々とした森が露わになった。

 

「痛ってぇな! テメェ何すん」

 文句を言おうとしたクリスの前で、立ち上がった賢治が何者かによって殴りつけられて、洋館の外へ投げ出される。

 

 吹き飛んだ賢治が地面を跳ねて転がる。

 

「おい、大丈夫か!」

 クリスがそう言うやいなや殺気が迫る。とっさに振り抜いたムチが棒状の何かと衝突した。

 次の攻撃が来る前に館の外に飛び出したクリスは、賢治を吹き飛ばした何者かの姿を確認した。

 

「その姿、シンフォギアか!?」

 そう驚き叫んだクリスの前に館からゆっくりと歩き出たのは、通常のシンフォギアとは真逆の配色をした、黒を基調として真紅のラインの入ったシンフォギアに身を包んだ少女。その顔は角ばったデザインのヘルメットのような装備ですっぽりと覆い隠されて確認できない。

 その手には、アームドギアにしては驚くほど簡素なすらっとしたシルエットの乾いた血のように赤黒い槍が握られていた。

 

「誰だテメェ……」

 低く唸るように言ったクリスに対する黒い少女の返答は言葉ではなかった。

 

 一足飛びに近づいた少女が踏み込んだ勢いのまま槍を突き出す。舞うように身体を回して避けたクリスの方もその回転を利用してムチを振るう。

 ムチの一撃を槍を縦に構えることで防いだ少女はクリスの攻撃を凌ぐと、クリスの次の攻撃が来る前に槍を逆袈裟ぎみに振り上げた。クリスは軽く下がって回避し、ムチを絡めた拳で迎撃したが、拳は槍の柄によって防がれる。打ち上げるように拳を払いのけた少女はそのまま槍をぐるりと一回転させて袈裟斬りを放つ。それを身体の重心を右にずらしてクリスが避けるが、少女はさらに踏み込んで逆袈裟斬りを放った。

 それをさらに仰け反って避けたクリスだが、体勢に無理が生じて動けなくなってしまう。それを見越していた少女は振り抜いた槍を即座に握り直し上段から振り下ろした。クリスはムチでガードするが勢いの乗った一撃に膝が地面に着いてしまう。

 少女は瞬時に数歩下がると、クリスが立ち上がるよりも早く突きを繰り出そうと上段の突きの構えを取った。

 最低限の防御手段としてクリスがムチを両手でピンと張って盾がわりにしようとする。

 

 少女の槍はクリスの心臓を正確に狙いを定めており、その一撃を放つため少女が一歩踏み込んだ。

 

 しかし少女が突きを放つよりもさらに早く少女の脇腹に賢治の頭突きが入る。

 

 少女の体がぐらつき槍先がクリスから外れる。クリスはそのチャンスを逃さず、即座に距離を詰めると強く握った拳で少女の腹を打ち据えた。

 数m吹き飛ばされた少女はたまらず両手に持っていた槍から片手が離れて腹を押さえた。

 

「あたしはそんな甘くねぇぜ!」

 その隙を逃さず容赦なくクリスがムチを放つ。放たれたムチの歯は少女の身体をガッチリと噛んだ(かんだ)。クリスがムチを振り上げると少女の身体は宙へ舞い上がる。

 

「オラァ!」

 舞い上げた少女をクリスは館のほとりにある湖へと叩き込んだ。

 

 湖面にバシャバシャと波紋が広がった。

 

 ◇

 

「今のうちに」

 

「分かってるって」

 クリスはムチの歯のない側を賢治の身体に巻きつけるとそのまま森の中へ跳躍した。

 

「アイツ何もんなんだよ」

 クリスがそう道なりに走りながら問いかけるが、

 

「クリスちゃんの知り合いじゃないのかい?」

 と賢治に聞き返される始末。

 

「知らねぇよあんな奴」

 

「俺の方も知らないよ。突然俺を襲ってきたんだ」

 

「はぁ。そうかよ。んじゃまぁ、アイツはアンタの敵って訳だ」

 

「そうなるね」

 

「まぁ、何はともあれあたしはアンタの夢の方に賭けたんだ。賭けの結果が出るまではアンタは守ってやんよ」

 

「それは有難いけど、クリスちゃんもしかしてあんまり強くない?」

 

「あ゛ぁ?」

 走るクリスが賢治に巻きついたムチを持った腕をブンブン振り回した。

 賢治の身体がまるごとモーニングスターのようにクリスの頭上で回転する。

 

「ごめん! ごめん、本当ごめん! 軽いジョークだから!」

 そう言い終わると同時に回転が止まり賢治の身体がクリスの肩に落ちる。

 ぐべぇ。賢治の口から漏れてはいけない感じの声が漏れる。

 

「ネフシュタンもあたしも近距離戦はそれほど得意じゃねぇんだよ。次失礼なこと言ったら置いてくかんな」

 

「はい。気をつけます」

 

 クリスがぴょんぴょんと跳んで森を駆ける。

 

「ところでよ。街ってどっちだ」

 

「分からない」

 

「はぁ!? 調べてたんじゃなかったのかよ」

 

「ハッキングが間に合わなかったんだ。仕方ないじゃないか」

 

「仕方ねぇじゃねぇだろ全く。あぁ、賭ける側間違えたかもしれねぇ」

 

「とりあえず道なりに進めば大丈夫のはずだ。それにアレがシンフォギア なら二課も動くはず」

 

「それまで逃げりゃいい訳だな」

 

「そうなるね」

 

「しゃあねぇ。付き合って……やる!」

 

 一際大きく跳んだクリス。

 

 その眼下に広がるのは崖と数十m下の森。

 

「おっとー。しまっ、うひゃあ」

 

「ごぶふぅ」

 




393がいないので相部屋には3人の中で一番書きやすい弓美ちゃんを配置。
仕事場では映画。部屋ではアニメ。ヤックデカルチャーに囲まれたグレビッキーの明日はどっちだ!

戦姫絶唱シンフォギア わだつみの抱く光
次回「裸族、娘から服を奪う」
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