わだつみの抱く光   作:筆折ルマンド

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燃えて。


投稿遅れて申し訳ありません。
私用となかなかアンジャッシュ時空を書けず四苦八苦していました。今回はかなり難産でした。

大仰な前フリすると困りますね!

…あとMHW:IB買っちゃいました(大戦犯)

393



威厳。墜ちて

 幾何学模様、獣のレリーフに謎の記号。古代を意識したツヤのない彩色を施された数キロにも及ぶ巨大な絵画。それは誰に見せるでもなく、小さな学校がまるまる入るほど大きく、底が見えないほど深い大穴を彩っていた。

 

 その表向きの顔であるリディアン音楽院と二課本部を繋ぐ無駄に大きく凝った空洞の中を一つのエレベーターが降っている。

 

 その中には風鳴翼。

 彼女はほぅとため息をつき、エレベーターの壁に身体を預けて、何をするでもなく流れる壁画を眺めていた。

 奏は身体検査のため先に二課に行っており、緒川さんはここ数日姿が見えない。ひとりぼっちの彼女は少しスネているようだった。

 

 ◇

 

 〈英雄故事〉

 

 携帯から叔父のお気に入りの曲が流れる。翼はサッと耳に掛かっていた髪を払うと電話に出た。

 

「はい」

 

『翼か、今どこにいる?』

 低く力強さを感じる声。弦十郎だ。

 

「二課に向かっているところですが」

 

『後どれぐらいでこちらに着く?』

 

「もうエレベーターには乗っていますから、あと数分もすれば」

 

『数分か……。ふむ。打ち合わせには時間が足りないな……』

 

 打ち合わせとは何のことだろうか? 翼の頭上に疑問符が浮かび上がる。

 

「叔父さま?」

 

『なら要件は早々に伝えなければな……』

 どこか切羽詰まった弦十郎の声色、何か大切な要件が有るのだと翼は気を引き締める。

 

『単刀直入に言おう。響くんとクリスくんにお前の部屋を見られた』

 

「はい。……はい?」

 一瞬何を言われたか分からず頭を傾げ、ゆっくりと言葉を咀嚼したのち、再び頭を傾げた。

 

「……? それがどうしたと言うのですか?」

 

 風鳴翼は部屋を汚す名人である。

 

 空き巣に入られたと見まがうような惨状も日常茶飯事。

 

 彼女の前には一日と滞在しないライブの控え室すら荒野と成り果てる。しかし、今までは奏の協力とツヴァイウィングのマネージャーである緒川慎次のそれを上回る家事能力によって身内以外にバレるといったことは無かった。

 

 ──奏が、なにより緒川さんが居れば大丈夫。

 

 他力本願もいいところだが残念ながら事実は事実。彼女は二人のおかげでなんとか女の子らしい部屋を維持していた。身の回りの細々としたことを任せることを申し訳なく思いながらも、自分でやると悪化するからともっともらしい理由をつけて諦めている翼。当然、自分の部屋を片付ける努力を諦めるなど、女の子としては落第点である。

 しかも、それを正すはずの奏、緒川、二人が現在に至るまでに、半分ほだされ、半分諦めの境地に至ってしまい、今や翼の自主的な片付けに期待しなくなっているのだから情けない。

 

 ……

 

 とまぁ、そんなことはひとまず置いておくとして。

 

 翼は緒川さんに全幅の信頼を寄せていた。今回のことも、何故自分の部屋に立花たちがという疑問はあったものの大丈夫だろうと楽観視していた。

 

 率直に言って油断していた。

 

 お陰で部屋の荒れ方はいつもの1割増しである。1割も更に荒れる余地が有ったとも言う。

 

『……忘れているのか』

 その考えに弦十郎が水を差した。電話の向こうで弦十郎が目頭に手を当てる。

 

「何を」

 

 

『緒川くんは今イギリスだ』

 

 

 瞬間、空気が凍った。

 

 

「……っ!?」

 

 その一言で翼は事態を完全に理解した。

 彼女の顔が一瞬にして髪に負けないぐらい真っ青に染まる。

 ごくりと喉が鳴り、嫌な汗が一気に吹き出した。

 

「そ……それは……つまり」

 話す言葉はガタガタ震えておぼつかない。産まれたての子鹿だってこんなに震えてはいないだろう。

 

「……あぁ、そうだ。見られた。幸いお前が汚したとは思っていないようだが、二人は二課に新たな離反者がいるかもしれないとかなり慌てた様子だ。一応は俺の方で情報の拡散は止めておいたが……」

「あ゛あ゛あ゛ぁ」

 

 地の底から絞り出したかのような声が静かなエレベーターにこだまする。

 

 携帯を掴む手に万力のごとき力がこもった。両手で頭を抱えてしゃがみこむ翼。

 彼女の頭を部屋を掃除しておけば良かったという後悔が埋め尽くす。

 

 ……どうあがいても出来ないからこうなっている訳なのだが。

 

 

 ◇

 

 事の発端はある男の野望。風鳴翼の怠慢とは別の理由として彼の存在が挙げられる。

 

 ツヴァイウィングのマネージャーにして、二課のエージェントにして、風鳴翼のお世話係(自称)を兼業するジッサイスゴイニンジャの緒川慎次。

 

 彼はイギリスに本社を置く大手レコード会社「メトロミュージック」からの海外進出の打診を断るため、数日前からイギリスに出張していた。

 

 海外進出の打診。普通のアーティストなら断るという選択を選ぶことはなかなか無いだろうが、生憎ツヴァイウィングは普通のアーティストではない。翼が全面的に反対、奏もノイズの件を残しておけないとのことで、ツヴァイウィングは打診を断る方針を取った。マネージャーの緒川もその意向に従うことにしていたのだが、内心は二人と異なっていた。

 

 ──ツヴァイウィングを日本国内だけで終わらせない。世界を股にかける真のトップアーティストにしてみせる。

 

 それは緒川が胸に秘めたる野望。それを叶えるのにメトロミュージックからの打診は正に渡りに船であった。

 二人の立場がそれ許さないため、打診に乗ることはできない。しかし、せめてのちのち装者の入れ替わりなどで二人が自由に活動できるようになった時のために、メトロミュージックとの繋がりは残しておきたい。そう考えた緒川は電話越しではなく直接本社に赴くことで誠意を見せると共にオフレコの対話に持ち込むことを画策していた。

 

 自分の命よりも大事なツヴァイウィングを置いて単身乗り込む辺り、彼の意気込みが感じられる。弦十郎も緒川の意志を尊重して、彼の単独行動を許していたのだが……

 

 緒川はここで一つ大きなミスを犯していた。

 

 彼は大望の足がかりを手に入れることに注力しすぎた結果、身近にある危険を見逃してしまっていたのだ。

 

 

 ……

 

 そう

 

 その危険とは部屋の掃除。

 

 風鳴翼の部屋掃除という=少女の尊厳という大役を忘れてしまっていたのだ。

 

 

 そのミスは小さくも大きなミス。

 

 

 そして彼は、その事に気付かぬまま週に二度の清掃日の前日に雲の上の人となってしまったのだった。

 

 

 …………

 

 

 その結果が

 

 

 

「なんだよ……コレ」

 

 *前話参照

 

 

 この有様(ザマ)であった。

 

 

 ◇

 

 閑話休題

 

 ◇

 

 

 エレベーターが最下層にたどり着いた。チーンとベルが鳴り、扉が開く。

 

 現れた翼は少しだけムッとした表情。

 ──そもそも何故立花たちは人の部屋を勝手に覗いているのだ。

 時間を置き冷静さを取り戻した翼は弦十郎から概要を聞いてはいたものの、勝手に自分の部屋を覗いた響とクリスに対して少しだけ怒っていた。

 

 元を正せばあんたが悪いんやで。

 

 内心で頰を膨らませながらエレベーターを降りた翼を真っ先に出迎えたのは、奏でも弦十郎でもなく響とクリスだった。

 

 ソワソワとした様子の響、響に付き添うように壁にもたれていたクリス。二人はエレベーターから翼が現れると、広い踊り場に軽快な足音を響かせて翼の元へ駆け寄った。

 

「翼さん」

 心配げに自分を見上げる響、その後ろでそっぽを向いているクリス。そのちらちらとこちらを見る目は何かを測りかねているようだった。ただ一つ分かるのは二人の目に悪意など微塵も感じられないこと。

 

 ──別に二人とも私を辱めるために部屋を覗いた訳ではないのだ。それどころか、私の自業を見て逆に私を心配してくれていたのだな。

 そう思うと翼は自分の怒りが霧散していくのを感じた。

 

「心配をかけてすまない。雪音も立花の側にいてくれてありがとう」

 自分の部屋を勝手に覗かれた怒りの消えた翼は、何十万ものファンを持つトップアーティストに相応しい朗らかな笑みを浮かべた。

 

 クリスがバッと翼の方を向く。顔は熟れたりんごのように真っ赤だ。

「別にそんなんじゃねぇよ」

 そう言いながらまたプイっとそっぽを向いてしまうが、感じの悪さは感じない。

 

 ──猫のような子だな

 

「……本当に身体のどこにも異常は無いの?」

 念を押す響、真摯な視線を邪険にはできなかった。

 

「ははっ、心配性だな立花は。なに、今の私は検査中の奏より元気だぞ」

 

「心配するに決まってる。シンフォギアの暴走なんて、櫻井博士から聞いたことも無かったし」

 

 その言葉を聞いた瞬間。翼の心をジクリと罪悪感が蝕んだ。

「あ、あぁ。櫻井女史の離反によって、最近はメンテナンスが出来テイナカッタカラナー」

 

「それって不味いんじゃねぇのか?」

 

「深海サンガ代ワリヲシテクレルダロウカラ大丈夫ダ」

 

「アイツそんなことまで出来んのか」

 

「櫻井女史ノ直弟子ダカラナー」

どこか上の空と言った様子の翼の言葉だったが、2人は内容に注目していたせいか翼のおかしなイントネーションには気がつかなかった。

 

 ◇

 

 シンフォギアの暴走。それは(弦十郎が響を見て3秒で考えた)翼の部屋を荒らした何かの正体(の設定)である。

 

 風鳴翼の使用するアメノハバキリのシンフォギアは最初期のシンフォギアであるため、定期的にメンテナンスをしておかないとごく稀に誤作動を起こし周囲にエネルギーを放出し、周囲を荒らしてしまう(という設定な)のだ。

 

 ……ごく稀? 

 

 さて、そんな設定を加えられた翼のシンフォギア。防人を自称する人間(剣)が自身の刃を貶めてそれで良いのかと言う疑問が残るが。

 

 女子力と先輩としての威厳の危機に比べればそんなもの些細な問題であった。

 

 ……威厳はともかく女子力など防人力に全て置換されているだろうに。

 

 風鳴翼

 SAKIMORIにしてUTAMEである前に一人の女の子であった。

 

 それが九分九厘虚栄で出来た障子紙より薄いハリボテだとしても、風鳴翼は遺伝子学的には女の子であった。

 

 

 ◇

 

 

「翼さん、このマットどうしますか?」

 響が持っているのは化粧台で倒れていた香水瓶の下に敷いてあった敷物。

 

「それはこちらの袋に入れて置いてくれ。後で洗ってみる」

 ──緒川さんが、とは言わない。

 ベッドの上で拾った服をできうる限り見栄え良くたたみながら翼が答える。当然のごとく、たたまれた服は大きさも形もバラバラである。

 

「敷物の下とかはあんまりゴミ落ちてねぇのな」

 敷物を一旦剥がしワイパーを滑らせながら翼の部屋の感想を述べるクリス。

 

「ま、まぁな。掃除自体ハソレナリノ頻度デヤッテイルカラナ」

 

「へぇ、やっぱりアーティストっていうのはそういうの気になるのか?」

 

「マァナ」

 嘘である。部屋の入り口に置かれた袋の中で光る大量のお菓子の袋が彼女の横着を物語っていた。

 

 ◇

 

 響の提案で翼の部屋を3人掛りで掃除し始めて20分ほど。響のテキパキとした働きにより鉄火場のど真ん中から嵐が過ぎ去った後に物を運び出した状態程度には改善された部屋の中。

 

ミーティングの時間も差し迫っているのを確認した翼が掃除を切り上げようと2人に声をかける。

 

「ありがとう、立花。立花のお陰でどうにか部屋も見れる状態に戻った。雪音も、わざわざ手伝ってくれてありがとう」

 

「……気にしないで下さい。私がやりたかっただけですから」

 

「別に……、あたしはただ暇だったからな。暇つぶしだ。暇つぶし」

 

 礼を素直に受け取らない二人にしょうがない奴らめと可愛げを感じる翼。

「それでも私が助かったことに変わりはない。後日私の行きつけのスイーツ店に行こう。もちろん私の奢りだ」

 

 その言葉に手のひらを返さないまでもピクリと反応する二人をやはり女の子なんだなと思う翼。ふふっと笑いをこぼし二人にねめつけられた。

 

 ◇

 

 パシュー

 

 軽い音を立てて翼の部屋のドアが開かれる。

 

 3人が扉に目を向けると天羽奏がスタスタと入ってきた。

 

「翼〜、そろそろミーティングが始まるぞ、っと。おぉ、緒川さんも居ねぇのにすげぇ綺麗になってんな。これ翼がやったのか?」

 

「……いや、二人に手伝ってもらったんだ」

 

「二人?」

 奏が部屋の入り口側の化粧台の椅子に座る翼から目を離して部屋を見渡すと、奥のベッドと椅子に座っていた響とクリスを見つけた。

 

 おぉ! と奏が片手を上げる。

「二人ともありがとうな! 掃除大変だっただろ? 翼ってばいつまで経っても掃除ができ」

 その言葉を言い切る前に、翼が奏の前に立ち上がり二人との間に割って入った。

 

 うん? っと訝しむ奏だがあまり気にしていない様子。

 

「翼さんって掃除苦手なんですか」

 

「あぁ、緒川さんにやって貰わないとマトモに部屋を片付けられねぇ。な。全く、散らかすのは大、ンムッ」

 

 立ち塞がる翼の肩からひょっこり顔を出して響の質問に答えていた奏だが、不都合なことを言いだす前にその口を翼にふさがれた。

 

 流石に二度目となると看過出来ず、翼の顔を見る奏。しかし翼の顔を見た瞬間毒気を抜かれてしまった。

 

 奏の口を押さえる翼の顔は真っ赤で、目尻には涙すら見える。奏と目が合うと同時にふるふると顔が振られた。

 

 ──あー、コレはアレか、後輩には自分の情けない姿は知られたくないって所か? 

 天羽奏。検査から翼の部屋に直行したため、弦十郎から翼の件を知らされていなかったにも関わらず、翼の表情で多くを察した模様。

 

 奏は自分の口を押さえる翼の手を掴んで離させるとそのまま翼を前抱きして、翼の肩に頭を乗せた。

 

「翼は片付けんの苦手だからさ。またコイツの部屋が散らかっちまってたら片付け手伝ってくれよな」

 

 奏が二人そう言うと、響ははいと快く引き受け、クリスは気が向いたらな、と否定しなかった。

 ──いい後輩だな

 

 奏が前抱きした翼の耳元に口を寄せる。

 

「二人に情けない所見られたくないなら、ちゃんと掃除するんだぜ?」

 

「うん」

 

 奏の腕の中で頭から湯気が出そうなぐらい顔を真っ赤にした翼が短くそう答えた。

 

 

 それからしばらく、そのまま翼の顔の赤みが引くのを待ってから、

「んじゃ、ミーティング行くか!」

そう奏が言って翼との抱擁を解く。

 

「そうね。行きましょう」

 翼の方も何事も無かったかのようにスッと離れ、さっさと部屋を出てしまう2人。対して響とクリスは腰を抜かしたように立ち上がらない。

 

「ん? どうしたんだ?」

 何もなかった様子でそう聞く奏に、響もクリスも目と口が泳ぐ。心なしか顔も赤い。

 

「……いや、別に」

 

「な、なんでもねぇよ!?」

 

「そうか、なら早く行くぞー」

 

 はい、おう、とそれぞれ返事をして翼の部屋を後にする響とクリス。

 

 ──ちょっと……いいなぁ。

 

 ──大胆が過ぎるっての! 

 

 部屋を出た2人の頭の中に翼の掃除下手の話はほとんど残っていなかった。

 

 こうして奏の働きによって翼は掃除下手であることはバレたものの、嵐を呼ぶ女として先輩としての威厳を失うことは無かった。

 

 

 ちなみに、響とクリスによって情報を共有された職員は弦十郎によって上記のなかなか苦しい言い訳を押し通させてもらい、その他の職員には司令が突発的に起こした訓練だったと伝えられた。

 

 こちらの方はこれっぽっちも疑われることは無かった。

 

 




尽き…

奏カットイン

…ない!

〈好きなオープニング〉

SKMR「何故だ!何故奏はこうカッコいい場面ばかり貰えるというのに私は事後処理したり事後処理したり、不都合の隠蔽したりとカッコ悪いことばかりしているのだ!」

SNB「出番があるだけいいじゃないですか」

SKMR「おがッ、SNBさん!何故ここに!貴方は今イギリスに」

SNB「ここは死人も作中に二度と出ない予定の方も出られる不思議空間ですよ。距離を超えるぐらい造作もありません」

SKMR「そ、そうなのですか。…え?それはつまり」

SNB「それ以上言わないで下さいね」

SKMR「しょ、承知しました。しかしイギリス滞在とてそれほど長期にはならないでしょう遠からず本編に出れるかと」

翼さんの汚部屋バレは元々全バレする予定だったけど、キャラの動きで回避されちゃったんですよねぇ。続編作らなきゃ…。そうなると緒川さんにはまた出張を…。

SKMR「な、何故でしょうか何か悪寒が」

SNB「奇遇ですね。僕もです」

……さて、その事はまた後にしてっと…。歴戦ダメ男(テオ)でも狩りに行きますか「地の文に逃げ込んで何してるんですか?」

ゲェッ!393

393「ちゃんと続き書いてくださいね」

グワッ!

戦姫絶唱シンフォギア わだつみの抱く光
次回「探偵団最終章」
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