わだつみの抱く光   作:筆折ルマンド

29 / 35
ドン亀ぇ。

思っていたようにお話が書けない(モンハンのせい)
とは別になかなか自分が砂糖空間を演出できないという純粋な技量不足が原因だったりします。

想いだけでも、力だけでも。どっかの言葉が頭をよぎります。


無印 後半
何かある訳でなく


「さて、それじゃあ帰りますか」

 

 ホームルームが終わり、騒がしくなった教室。

 

 その中で創世はひょいと肩にカバンをかけ、集まった3人の方を向いた。

 帰り仕度をすませ机に乗る創世。詩織と弓美はまだおしゃべりモードらしく席に座っている。響は気もそぞろなようで立ったままだ。

 

「みんなはどうする? あたしは見たいドラマがあるから今日はこのまま寮に帰っちゃうけど」

 

「それってアレですか?」

 心当たりがある詩織に創世が頷く。

 

「そうそう、あの新しい奴」

 

「あぁ、それは私も気になっていました。今日が放送日だったんですね」

 

 一緒に観ませんか? いいよー

 

 相部屋の2人はあっという間にこれからの予定を決めてしまうと、そのままドラマの話を始めてしまった。

 

 響は1人思案顔。対する弓美は頬杖をつきながら、じゃあと切り出した。

 

「私も部屋に戻るかなー。konozamaの特撮も観たいし」

 弓美が某プライムビデオに想いを馳せてそう言うと、創世がふらりと絡んできた。

 

「それってもしかして、あの、血がドバーって出てる奴?」

 

「何よその言い方ぁ、まぁ、そうだけど」

 創世の言いように口を尖らせる弓美。

 

「アレR18でしょー。そんな刺激の強いもの見ちゃいけないとあたしは思うんだけどなー」

 

「別にいいじゃない」

 

「いやぁ、友としてこれ以上弓美が深い沼にハマらないようにね」

 

「はぁ?」

 創世の一言は特大の地雷であったようで。腹を立てた弓美がガタッと机を派手に鳴らして立ち上がった。

 

「それは聞き捨てならないわよ! そういう特撮とかアニメとかが悪影響を及ぼすなんて考え、古すぎてもう苔むして朽ち果ててるんだからね!」

 

 ずんずん詰め寄ってくる弓美に創世が必死に弁明する。

「いや、別にそんな意図があった訳じゃないしから。ほら、冗談てやつ?」

 

「言って良いことと悪いことがあるでしょうがー!」

 弁解失敗。うがーっと両手を掲げた弓美が、がばっと創世に襲いかかり、頰を両側からつねって引き延ばす。

 

「そんな事を言うのはこの口か! この口か!」

 

「いひゃい、いひゃい、ごへんへ、ごへんへ」

 

「ユルザン!!」

 そんなわけでぎゃーぎゃー騒ぎ始めた2人。

 そんな2人とは別に響と詩織で話は続いていた。

 

「立花さんはこれからどうなされますか?」

 

 詩織の問いに響が頰をかく。

 予定はとっくに決まっているのだが、あまり知られたくないため言いよどんでしまう。

「あー……。私はちょっと出かけるかな」

 

「ふむ、そうですか〜」

 

「……何?」

 聞き流すでもなく、ほうほうと頷いた詩織の姿を見て響がいぶかしむ。

 

「立花さん最近用事が多いじゃないですか。それで何でかなぁと。勿論、無理に聞こうと思っていませんが」

 

「……お見舞いだよ」

 

「そうでしてたか。ご家族の方ですか?」

 

「……えっ?」

 

 なんとなく頭に止まった家族というフレーズ。簡単に考えてしまえば答えはいいえなのだが。

 

 ──家族……、いや家族って訳じゃ、いやまぁ、なんだかんだそれなりに一緒に生活とかしちゃってたけど……。いや、いやいや家族じゃないし! いや、いやぁ、でも……なぁ。家族の方が私は……。

 

 響はじーっくり悩んでから

 

「……まぁ、うん」

 

 もじもじと指を絡めながらそう答えた。

 

「そうなんですか〜」

 そんな響の姿を見て楽しげな雰囲気を出しながら微笑む詩織。

 

「うぅ……。じゃ、私お見舞いくから」

 何か気取られてしまったことを察した響が、未だ頰をつねられている創世を置いて部屋を出ようと歩き出す。

 

 足元を見なかったせいでガシャリと椅子を蹴飛ばしてしまった。

 

 派手に椅子が鳴り机が30度ほど傾く。慌てて振り向いた響と、音に驚いて振り向いた2人と詩織の目線が合う。

 

「直しておきますから」

 詩織が机の位置を直す。

 

「……ありがと」

 赤くなりかけていた顔を真っ赤にして響が教室から出て行った。

 

 その後ろ姿を見ながら手を振る詩織。響の言動を見て喧嘩をやめた2人は頭にハテナマークを浮かべている。

 

「何がどうしたの?」

 

「立花さん可愛いですねー」

 

「何があったって言うのよ?」

 

「見れなくてお2人とも残念でしたねー」

 

「?」

 

 要領を得ない詩織の言葉に2人はますます混乱した。

 

 ◇

 

 

 学校から下町へつながる道。そこを歩く小金色の髪をした少女はよく目立つ。

 教室からその姿を眺めている3人。弓美の手に握られた真新しいハンチング帽は手慰みにぽふぽふと曲げられていた。

 

「で、尾行の件どうします?」

 そう言う詩織にさっきの話を聞いた2人は随分と微妙な顔をする。

 教室で創世達がしていたドラマの話は半分嘘であった。観たいドラマは夜9時から。時計は未だ3時を跨いだばかり。3人は解散を装い、1人出かけた響を後から尾行しようとしていたのだけれど、

 

「詩織がそれ言う?」

 

「さっきの話聞いたら、追いかける気なんて失せちゃうわよ」

 

 そう言った行動派の2人は響の尾行をする気がほとんど失せてしまっているようだった。

 元々が野次馬根性から生まれた計画。詩織から最近の響の行動の思っていたよりデリケートな理由を事前に知ってしまった以上、友達として無理に探るべきではないと考えたのだ。

 

「そうですか? でも、立花さんのあの感じ。お見舞いの相手はちゃんとした家族じゃないと思うんですよ」

 消極的な2人に対して詩織は未だやる気があるようでそれが2人の次なる疑問だった。

 

「ちゃんとした家族じゃないってじゃあ誰なのさ」

 

「前、フラワーのおばちゃんが言ってたじゃないですか。響さんと一緒に来たお兄さんがいるって」

 

 

 その時、2人に電流が走った。

 

 響を見守る側に傾いていた2人の心の天秤にドカンと超重量級の好奇心が投下され、天秤の反対側に乗っていた理性が天高く跳ね上がった。

 

 

「私の見立てでは響さんのお見舞いの相手はその方じゃないかと」

 

 2人がそれぞれ明後日の方向を見ながらもだえる。心が理性と好奇心の板挟みにあって七転八倒。大いに荒ぶっていた。

 表に出ない胸の内の格闘の末、2人の表情は笑いを我慢するようにいびつに歪んだ状態で固定された。机に置かれた創世の鞄が再び肩にかけられ、弄ばれてへにゃへにゃになったハンチング帽が伸ばされる。

 

「お2人ともどうしましたか?」

 2人の結論を察した詩織のどこか白々しい声が人が居なくなってガランとした教室に沁みた。

 

「あーいやねぇ。でも、やっぱり響がどこか知っておくのも私は大事だと思うなぁ」

 

「あーうんあー、そうねー、一回ぐらい、どこ行くか見てもいいんじゃないかなー」

 それにつられ棒読みの自己肯定の言葉がぬるりと溢れる。

 

「いいかもしれませんね。本当にお見舞いかどうかも分かりませんし!」

 

「「そーだねー」」

 

 なんのかんのと言い訳しながら、緩慢な動きをながら、校門を目指して教室を出る3人。

 

 ボソボソと話し合いながら歩く3人の頭の中では響を主人公にした妄想世界が展開されていた。いつぞやのツヴァイウィングと一緒に走っていた話も相まって、題名は『新米アーティスト立花響のマネージャーとの禁断の恋』と言ったところか。

 

 

 まぁ、結局の所。3人がやんややんやと騒いでいる間に、響はとっくの昔に坂を下り終え街に消えてしまっていた訳で。

 

 

 響を追えないことに気がつきガッカリした3人(主に創世と弓美)が友達で何を考えているのだと悶絶するのはそれから数分後の出来事。

 

 

 ◇

 

 ほら、熱測って

 うぅ、冷たい

 

 8番でお待ちの方〜

 はーい

 

 見てみぃ。紙を持っても手が震えないよ

 お婆ちゃんそれ前も聞いたよ〜

 

 こちらではなく向こうの診察室ですよ

 あ、そうなんですか

 

 商店街にほど近い街一番の総合病院。

 歯医者から整形外科まで。ほぼ全ての医療設備を備えたこの大病院の中。強いて言うなら個室であるぐらいしか特別な事のない部屋に彼は眠っていた。

 

 

 ◇

 

 

 ゴロゴロと扉のローラーが転がる音が部屋中に響く。

ゆっくりと扉が開かれ、部屋の中にビニール袋を携えた小金色の髪の少女が入ってきた。

 

 もちろん響のことだ。

 

 彼女の前でベッドの上の賢治は緩やかな寝息を立てており、その両手はまるで死人のように胸の上で組まれている。

 

 扉の近くにあった小さな丸椅子に、林檎の入ったビニール袋を置いた響が、その綺麗に組まれた腕を崩した。

 

 死人のようで縁起が悪いと思ったからだ。

 

 絡まれた指を解き、両腕をズラす。

 

 看護師に見られた時にカッコ悪く思われないように手の位置を微調整。

 掴んだ腕は昔に比べて柔らかいように感じる。

 

 その事が少し悲しい。

 

 それからしばらく賢治の腕を弄んで、ベッドの真横に運んだ椅子に響が座った。

 

 しばらく彼の顔を見つめるが、精悍な顔に起きる前兆のような動きは見られない。

 

 その事を確認して。確認して……ゾッ……と響の背に寒気が走った。

 こうして病院で面会もできる状態なのだから何か悪いことなどあるはずない。いや、そもそも病院に入院していること自体が悪いことなのだけども。

それでも何もない筈なのに、なんだか嫌な予感がして口元に耳を傾ける。

 

 まぁ、ある意味当然のごとく彼の口元からは呼吸音がした。そのことにホッと胸を撫で下ろした響。

 

 そんな響の気も知らず、賢治は完璧に安らかに眠っているようだった。

 

 その事が逆に響のカンに触った。──私はいつも賢治さんのことを心配しているのに、賢治さんは呑気にお昼寝してばかり、それって不公平じゃない? 

 彼とて夢見良さげに笑みを浮かべて寝ている訳ではないのだが、それでも自分の心配をよそに眠り続ける賢治にほんの少しだけムッとした響が、彼の随分と髭の濃くなった顔の頰を突いた。

 

 反応はない。

 そのまま今度は頰を軽くつねって次は自分の方に顔を向けさせ、オデコにキス。

 その瞬間、響の顔がまた真っ赤になるが、賢治は唸りもせず微動だにしない。

 

 一人相撲にだんだん虚しくなる響。あちこちをつついていた手は巻き戻って膝の上に収まった。

 

「……賢治さん。本当に全然起きないんだね」

 悲しげな声が部屋に響き、ゆるりと頰撫でた響の手はいつものようにビニール袋に入り、林檎に手をかける。

 

 

「……ええと、ごめん?」

そしてそんな響の姿を見かねて、オデコをさすりながら賢治が上体を起こした。

 

 

「ひゅい」

 

 突然、聞き慣れて、それでいて聞き慣れない声が響の耳を打った。

 

 ゴン

 

 びっくりした響は驚きのあまり林檎を落としてしまった。それだけにとどまらず、下手に踏ん張ったせいか、背もたれのない丸椅子が、響を乗せたままゆっくりと後ろに倒れ始める。

 両足が宙に浮き、パタパタと空をかく。

 

「わ」

 ピンと伸ばされた腕が椅子が倒れるすんでのところで力強く掴まれて、ぐいっと引っ張られた。

 

 

 カラカラと椅子が音を立てて転がった。

 

 

 ギュッと目を閉じた響は何秒経っても冷たい床の感触が訪れないことに気がついて恐る恐る目を開けた。

 

 つま先だけ床についた足には力が入っていないにも関わらず、身体が落ちる気配はなく、両脇から回された2つの冷たい腕が自分をしっかりと支えていることに気付く。

 

 そしてゆっくりと前を向いて、毎日見ているのに、随分と久しぶりに見る困った顔をした賢治が目の前に居た。

 

 響の顔は今日一番の熱を発して湯気を出した。

 

 ◇

 

「そんな驚くことじゃないでしょうよ」

 

 カンラカンラと笑う賢治に対してムスーっとした響。

 その手でくるくると回される林檎は少しずつ赤い衣が剥がされている。

 

「……だって、賢治さん起きないと思ってたから」

 

「いや確かにね。寝てるみたいに横になってた俺も悪かったけどね。そこまで驚かれるとは思わなかったよ」

 

「賢治さん。どれくらい寝てたのか分かってる?」

 皿の上の林檎がザクザクと縦に切り分けられていく。ちょっとばかし響の語気が強く、荒く刻まれる林檎を前に賢治はたじたじ。

 

「あー、っと、一週間ちょっとだったかな?」

 

 サク

 

「十日は一週間ちょっととは言えないよ」

 

「ごめん」

 

 サク

 

「別に、謝ることじゃない」

 

「あっ、うん」

 

「はい林檎」

 皮を剥かれ、8つに切り分けられた林檎が賢治に差し出された。

 賢治が丁重にうやうやしく受け取り、悪ノリするなと響のぱんちが賢治のお腹にくらった。

 

「ありがとう」

 

「……どういたしまして」

 林檎の乗った皿を受け取った賢治が爪楊枝の刺さった林檎を響に差し出した。

 

「別に私は」

 

「いいからいいから」

 響に強引に林檎の刺さった楊枝を持たせると、賢治は手で摘んで林檎を食べ始める。

 

「甘いね。この林檎」

 

「……うん」

 

 そのままシャクシャクと林檎を食べ始める2人ポツリポツリと最近の話が始まる。と言っても、賢治の方に話すものは無く、もっぱら響の最近の生活についてだ。

 

「そういえば響ちゃんと話すのって随分と久しぶりになっちゃってた気がするよ」

 

 春休みから学校が始まって一週間あまりまで、その時間は一ヶ月を優に超える。

 

「そりゃそうでしょ。もう雪も降ってないよ」

 

「あらら、随分と長いこと時間が空いちゃってたみたいだね。響ちゃんは新しい友達できた?」

 

「新しい……うー、まぁ、賢治さんには話したことないから新しい友達か」

 

「へぇ、どんな友達なんだい?」

 

「うん、えっと……」

 

 ◇

 

 林檎も無くなり、響の話もひと段落ついた。時間は午後4時半を過ぎてそろそろ夕焼けが眩しくなり始めている。

 

「そっか、響ちゃんは楽しく過ごせてるみたいだね」

 

「別に、わざわざ言うことじゃないよ」

 自分のことのように喜び笑う賢治に響は恥ずかしげに彼の肩を叩く。

 

日はいよいよ赤く染まり、部屋を暖かく朱色に染めた。

 

「それじゃあ、また来るから」

 

「うん、またね」

 

「また明日来るから」

 

「うん、楽しみにしてる」

 

「絶対来るから」

 

「うん」

 

「お見舞い何がいい?」

 

「ははっ。早く帰りなって」

 名残惜しいと顔に書いてある響に賢治が無理やり話に区切りをつける。

 

「うぅぅ」

 響の頭を賢治が優しく撫でる。

 

「続きはまた明日……ね?」

 

「分かってる」

 

「賢治さんはどこにも行かないよ」

 

 その言葉に響がギュッと自分の手を握る。

「……絶対」

 

「うん?」

 

「……絶対だよ? 絶対、どこにも行かないでよ」

 不安げな響の表情にぽかんとした顔をした賢治が真面目な表情になって、その後大きく笑った。

 

「うん、絶対。賢治さんは何処にもいかないよ」

 

「約束だよ」

 

「うん、約束。賢治さんは未だ約束を一度も破ったことはないのだ」

 

「それ、達成もしてないよね?」

 

「あはは、バレちゃった」

 

「もう……。それじゃあまた明日」

 

「また明日」

 




元々 三人がビッキーとクリスのケーキバイキングに乱入するお話のはずだったのですが、三人が探偵ごっこを止める方向に動いてしまい、今回のお話に。

あと今ならラブコメの波動を掴める気がしたので

393「掴めましたか?」

掴み損ねましたが掴めても393の出番はありませ、ぎゅひ

戦姫絶唱シンフォギア わだつみの抱く光
次回「仕事バカに休みを」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。