わだつみの抱く光   作:筆折ルマンド

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XD最終章。
グレビッキーの出番ありますか?(震え声)



デート with

 それは数日前の話。

 

「別に悪い訳じゃねぇんだけどなぁ」

 

 ベッドに腰掛け、寝間着をつまむクリス。彼女が着ているのはリディアン音楽院への編入に先駆けて送られて来た学院指定のジャージ。

 

 サラリとした肌触りと優れた吸湿速乾性は、運動だけでなく寝巻きにも優秀。鮮やかな赤色はクリスによく似合っていた。

 

 実態はどうであれ、表向きは私立であるリディアン音楽院の特注ジャージの質は悪くない。むしろ良い。

 基本的なデザインこそ一般のジャージと同じだが、金具の形状、チャックの動かし心地など、細部にこだわって作られたソレはなかなかの代物。

 

 しかし

 

 そう言う問題では無いのだ。

 

 電源の切れたテレビに映る真っ赤なジャージを着た自分の姿を見て、ふぅとクリスがため息をついた。

 

 ──服、欲しいな。

 

 クリスもお年頃。おしゃれに気を使うのは当然の話であった。

 

 

 ◇

 

 

「いいよ。次の土曜ってことは明後日だね」

 

 クリスの誘いに響はほとんど即決で答えた。

 

 誰かと出かける事は、一時期を除けば、響にとって当たり前の事だった。そのためクリスの誘いもごく自然に受けた。

 

 

 問題はクリスの方。パッと返事が返ってくると思っていなかったのか、少しだけキョトンとし、理解してワタワタし。

 響がクリスの前で手を振って反応を確かめるほどの時間をかけて、やっと言葉を噛みしめると、ゆっくりと花が開くように笑顔を浮かべた。

 

「ッ! ……お」

 

「お?」

 

 クリスがズンズンと近づき、一歩下がった響の両手を強引に握る。

 

「恩にきる! この借りは絶対後で返すからな!」

 

「いや、借りって……、そんな手握らなくても……というか近、あぅちょっと」

 

「楽しみだな!」

 

 クリスが響の両手を握ってブンブンと肩が外れそうな勢いで振る。

 

 そんな喜ばなくても

 

 そう思いながらも、満面の笑みを浮かべるクリスに釣られたのか、響も困ったように笑みを浮かべていた。

 

 

 ◇

 

 

 のが数日前の話。

 

 しかし、現在の響はなんとも渋ーい顔をし、1人お店の前で立ち尽くしていた。

 

 その姿には、つい先ほどまで自分がクリスをエスコートするのだと、精一杯お姉さん風を吹かせようとしていた面影はこれっぽっちも残っていなかった。

 

 ────

 

 一瞬前の話

 

「ココなんかいいんじゃないか!?」

 

「え? ちょっと」

 

 以上説明終わり。

 

 ────

 

 一瞬にして吹かせようとした先輩風はどこ吹く風へと変わり、クリスはタンブルウィード(回転草)のように目の前のお店へ吸い込まれてしまった。

 

 残ったのは15歳の少女の彫像。

 

 クリスはどうも可愛い系の服が好みだったようで。

 目の前の洋服屋さんは見るからにファンシーラブリー甘ロリヒャッハーと言った女の子成分全開のお店。

 

 響とは吸血鬼と太陽並みに合わない組み合わせ。

 

「……クリスちゃん」

 ボソッと思いつきを呟いてクスッと笑う。

 響がクリスに向かって言うことはたぶんないだろうが、言ったら言ったでどんな反応が返ってくるか少しだけ気になる。

 

 が、それはそれ。

 

 これはこれ。

 

 現実逃避もそこそこに、まるで同極の磁石が反発し合うかのように、お店から一定の距離を保ちつつ右往左往する響。

 

 その心は。

 

 ……入るのは正直、嫌というか……何というか……。

 いや……、いやぁ……。……無理です勘弁してください。

 

 今までにない折れ方をしていた。

 

 

 クリスを追って勢いで入っていればこんな事にはならなかったのだろうけど、不意の行動に置いてけぼりを食らってしまった響の足は本心を反映してか、自然とお店をすいっと避けていく。

 

 いまだ後方でジッと響を見つめるトモダチーズが手を引けば、また別の話なのだが、生憎向こうも観察するだけに留まるらしい。

 面白がっているとも言う。

 というか面白がっているとしか言わない。

 

 当然、響も彼女たちの視線には気付いていた。正直恥ずかしいから、この場に留まりたくはない。でもお店に入る度胸もない。

 

 正に、前門の虎、後門の狼と言った心境。

 

 そんな響を置いて流れていく大通りの流れに、響は一筋の光明を見た。

 

 見るからに重そうな荷物を抱えたお婆ちゃんが現れたのだ。その姿は響には天使に見えたそうな。

 

 

「そこまで嫌なのっ!?」

 

 そして、意気揚々と友達を置いてお婆ちゃんを助けに行ってしまった響を見て、弓美がズッコケたのは言うまでもない。

 

 ◇

 

 町の外れ、郊外の廃ビルの下。そこにフィーネの隠れ家はあった。

 

 二課の研究責任者から悪の親玉にジョブチェンジしたフィーネは、今日も裸族を貫きながら、悪巧みを続ける。

 

「ガングニール、イチイバル、商店街に移動しました」

 薄暗く狭いデスクで、古めかしい箱型パソコンを操作していた金髪の少女の声を聞くと、フィーネは何かの薬品を混ぜる手を止め、パソコンの中身を覗き込んだ。

 

「やっと出てきた。ふむ……、たしか今日のコンディションはミーシャが一番良かったわね。アイラ、ミーシャに出る準備をさせなさい。それと糖花に今日は非番だと伝えておくのも忘れないで。どうせ無駄に出る支度をしているだろうから。こっちに手伝いに来いと言っておきなさい」

 

 フィーネの命令を聞くと少女がデスクから立ち上がりビッと敬礼をする。

「了解しました!」

 

 子犬のように元気な返事を返して少女は部屋を後にした。

 

 空いたデスクにフィーネが座る。

 

「2週間ぶりか。まったく、いい歳をした娘が外出もせず、毎日毎日、床と学び舎とを行ったり来たり。新作スイーツのためなら学校を休むのも躊躇わない年頃だろうに」

 

 そう言いながらフィーネはデスクの横に置いておいたチョコレートを一つ摘んだ。

 一口サイズのチョコをカラコロと口で踊らせる。

 

 彼女が知る限り、装者の子たちは皆、装者の任務に忠実であまり羽を伸ばしている姿を見かけない。天羽奏、風鳴翼、雪音クリス、立花響、皆類い稀なる器量好しなのだが、それに反比例するように皆真面目一辺倒。

 

 今こうして小間使いにしている少女達にしても、なかなか娯楽と言うものを覚えない。出自が出自だとしても、もう少しかぶれても良いだろうに。

 こうしてわざわざ目につく所に菓子を置いて食べても良いと言ってやっているのに、お菓子に手をつけた様子がない。

 

 今朝に一つ。今一つ。10個入りのチョコの中身はまだ8つ残っている。

 

 困った子たちだ。時々、敵や指揮者としての自分とは別に、親のような目線でフィーネは少女達の事を考える時がある。

 それが自身の計画の遅延に繋がるとしてもだ。

 

 時間を無限に持つと自負するフィーネの、巫女だった頃の名残だろうか。

 

「まったく、私があの娘たちと同じ頃は……」

 

 真面目がすぎる少女たちと比べるように、フィーネか思い返すのは遥か昔。まだ女とも呼べぬ幼少のみぎり。

 

 昼は巫女となるため人一倍勉学に励み、夜も巫女の作法を先々代にこっそりと教えて貰い、そして給仕に紛れてあの方のお顔を拝見しては、あの方に仕えるのだと決意を新たに……

 

 と、そこまでフィーネは考えて、ハッと気付いた。

 

 もしかして、過去の自分の方が今の装者の子より遊んで無かった? 

 

「……ふん。友と遊び呆けるとは所詮小娘か」

 

 その真実にたどり着いてしまったフィーネは即座に手のひらを返し、憮然とした顔をして薬品を混ぜる作業へと戻っていった。

 

 ◇

 

『あんがとねぇ』

 

 握った飴玉を見てふふっと笑みをこぼす響。

 

 無事、お婆ちゃんを助けられ、クリスが入ったお店の前に戻る途中。

 

「……ん?」

 

 クリスが入ったお店の前に、先程交番で見たばかりの青い制服。そしてその隣には何故か赤毛のツインテール。

 

 なにか全体的にオロオロとした様子が「いぬのおまわりさん」を連想させる。

 

 小走りで近付くと、オロオロと狼狽えていたのは弓美で、困った顔をしているのは警察官。弓美の後ろには、同じように困った顔をした創世、詩織、そしてクリス。

 

「あ、立花さん!」

 詩織の言葉に反応して残る3人が一斉に響の方を向く。

 

 だるまさんがころんだのような一瞬動いちゃいけないような気配に響の足が止まる。

 居心地が悪くてなんとなく手を振ろうとしたその時、

 

 クリスが響に駆け寄った。

 

「お前勝手にどっか行くんじゃねぇよ!」

 

 ごもっとも

「……ごめんなさい」

 

 神妙に謝る響に腰に手を当ててプンスカしていたクリスがため息を吐いた後に顔を上げさせると、響の手を取って警察官の前へ引っ立てる。

 

「証人連れてきたぞ。ほら、説明してやれ」

 

 ◇

 

 商店街のレストスペース、座る弓美はまだ少しぐずっている。

 

「びびぎぃ〜〜!」

 

「やめて、近づかないで、服が汚れる」

 パーカーが濡れるのを嫌って両手で抱きつこうとする弓美の頭をガッチリ掴んで静止させる響。

 

 

「いやぁ、一時はどうなることかと」

 

「はい。立花さんが雪音さんを置いてどこかに行ってしまうのも、後ろからおまわりさんに話しかけられるのも完全に想定外でした」

 

「つーかよ、勝手に先行したあたしも悪ぃけど、いつまでもコソコソしてるお前らにも非はあるんじゃねぇか?」

 

 響がお店の前を去った後、作戦会議を始めた3人に話しかけた人が1人。

 言うまでもなくおまわりさん。

 通報を受けたと言うわけではないが怪しい言動なので、ちょっと声をかけてみたのだ。

 

 そしてその結果、弓美がテンパって、いぬのおまわりさん状態に。釈明しようにも、お店から出てきたクリスと3人には直接接点が無いので解決には至らず。

 弓美の様子から危険性は無いと思えど、首を突っ込んだからには一応確認しなければいけない警官の性。

 

 結局、帰ってきた響の話をちょろっと聞くと、おまわりさんは3人に軽いお小言を言って去って行った。

 

 響の好みも聞かず、勝手に進んだクリスは少し悪い。

 

 友達を置いて、人助けに行ってしまった響も悪い。

 

 それ面白がっていた3人は結構悪い。

 

 重さの違いはあれど、言ってしまえば全員悪い。

 

 そして名刺交換会にも似たごめんね会を終えて、5人は1組となって商店街を冷やかし始めた。

 

 ◇

 

 サー

 

「どう……かな?」

 青いワンピースを着た創世が更衣室から現れる。

 やんややんやと盛り上がるのは弓美と詩織。響もまぁ、いいんじゃないと好印象。

 そうかなぁ、と創世が頰をかく。

 

 ガシャッと音を立てながらその隣から現れるクリス。

「こっちもなかなか良いんじゃないか」

 ふんわりとしたピンクのブラウスにベルト付きの白のスカート。

 

「……悪くないけど、足元がね」

 響の目線はクリスの履くスニーカー。

 

「ヒールの方が似合うんじゃない?」

 

「し、仕方ないだろうがよ! そんなかたっ苦しい奴求めてる訳じゃねぇんだからよ」

 

「……そっか」

 そのままフラフラと店内の中をうろつこうとする響の肩をガッと掴む影。

 

「立花さんもお洋服着てみたらいかがですか? さっきから見てるばかりですし」

 にっこり朗らかに微笑みながら、それでいて獲物を捕らえた鷲のようにガチッと響の掴むのは詩織。

 

「いや、いいよ私は」

 

「あ、私もちょっと見たい」

 反対の肩を創世が掴む。

 

「そーいや、私も気になっていたのよねぇ。結局響の手持ちにお出かけ用に使えそうなのほとんど無かったし」

 ひたりと響の後ろから腰が掴まれる。

 

「ひっ」

 

「ほう、んなら、しゃーねぇ。そんじゃー、とりあえずアタシが着ようと思ってたこれ着せてやるか」

 にんまり笑ったクリスが手に持っているのはパステルカラーのネグリジェ。

 ソレを響に見せつけるように揺らしながらゆっくりと迫る。

 

 それに合わせてズリズリと響が更衣室へ誘われ……、引き摺り込まれていく。

 

「え……ちょっと、冗談でしょ!? ねぇ! 離して! ちょっ、やめ、あぁぁぁ」

 

 

 ◇

 

 

「む、おおお。せっかくのクレープなのに、あずきクリーム。ははっ、美味ぇのになんだろうな、この背徳感!」

 

「あずきかぁ、私はどうせならやっぱりフルーツ系がいいかなぁ」

 

「雪音さん、クレープ一口交換しませんか?」

 

「あ、私も!」

 

「うん? いいぜ」

 

 

「ねぇ、響。せっかく服買ったのにパーカー着込んでちゃ意味ないわよ。半分ぐらいでいいからチャック下ろしてみない?」

 

「絶対嫌」

 

「そんなこと言わないで、ね? ちょっとだけ」

 ギン。と響が本気のガン飛ばし。

 

 弓美はたまらずノータイムで両手を上げる。

 はんずあっぷ、命だけはお許しを。

 膝上にクレープが乗っていなかったら、その場で土下座していただろう。

 

「くだらないこと言ってないで食べたら?」

 

「はい!」

 

 ちなみに響がパーカーの下に着ているのはフリル多目の黄色のチュニック。

 よくぞ着せた、よくぞ買わせた、と言わざるを得ない。

 

 おかげで響の眼光は鋭く、クレープ屋さんのお惣菜クレープは空前の売り上げを記録した。

 

 ◇

 

 ウィーン カスッ ウィーン

 

「取れないぃ〜」

 

「そりゃまぁ、そう言うもんだし」

 

「響、あと一回やっていいよ。私ゃもう疲れた」

 

「え、うん」

 

 トボトボ歩き去る弓美。弓美が取ろうとしていたのは平べったいクマのぬいぐるみ。ぺたぱんだシリーズ。

 

 ウィーン もっ

「……お」

 

 ウィー ボス ーン

「あー……。……」

 

 チャリン

 

 

「お前らぁ、ホッケーやろうぜ!」

 

「いいですね!」

 

「あれ? ビッキーは?」

 

「うん? こっち来てないの?」

 

「来てないね」

 

「おっかしぃわねぇ」

 

 どこかで両替機の音が響いた。

 

 ────

 

 ガタンと音を鳴らして受け取り口に人形が落ちてきた。

 べったりとうつ伏せた座布団に使えそうなぐらいの大きめなパンダ人形。

 

「……よし」

 

「何がよしなのよ」

 

「うわっ!?」

 

 

 ◇

 

 

「君から届いたひゃっくとぉバン! 緊急出動〜、胸にエレキ、走り、抜けて、しっびれるぜェー!」

 

 〈現着! 電光刑事バン〉

 

 ────

 

「次、響さんの番ですよ」

 

「いや、私、持ち歌とか無いし」

 

 

「そういえば、クリスさんはリディアンに転入するのよね?」

 

「まぁな」

 

「ウチ、校歌とか発声練習とかでよく歌わされるけど、歌詞知ってる?」

 

「いんや、そもそも聞いたことが無ぇ」

 

「創世!」

 

「オッケー」

 

「いや、校歌なんて入ってるわけ」

 

「有った!」

 

「あるの!?」

 

 ガッっと再び響の手が掴まれた。

 

「さ、響さん」

 詩織にマイクを突きつけられる。残った片手を振って断ろうとするが、詩織の威圧は止まらない。仕方がないのでおずおずと受け取る。

 

 観念した響が立つが、残る3人は微動だにしなかった。

 

「え? みんなは歌わないの」

 

「私のどカラカラー」

 

「じゃ、私注文するね」

 

「ありがとー」

 

 にこにこにこにこにこにこ

 

「……え──」

 

 助けを求めてクリスを見れば

 

 グッ! 

 

 四面楚歌。

 

 そうこうしているうちに歌が始まる。

 

 意を決して両手でマイクを握る。

 

 そもそも校歌と言うのは合唱でこそ価値があるというか、1人で歌うには似合わないというか、恥ずかしいというか

 

 あぁもう! 

 

 〈私立リディアン音楽院校歌〉

 

「あ、仰ぎ見よ太陽を、よろずの愛を学べ、朝な夕なに──」

 

 

 ────

 

 

 ぱちぱちぱちぱち

 

 

「大丈夫か?」

 

 クリスが声をかけると同時にテーブルに突っぷす響。

 

「殺すぅ……、いつか殺す」

 

「はーいビッキー、あーん」

 

「んぁー」

 創世の手によって響の口の中にポテトフライが放り込まれる。

 

「それじゃあ、雪音さんも歌いましょうか」

 

「うぇぇ!? アタシはいいって!」

 

「いえいえ、せっかくカラオケに来たのに、歌わないなんてもったいないですよ」

 

「私もー、クリスさんの歌聞きたいなー」

 

「つってもよ! アタシは最近の歌なんざ全然知らねぇし」

 

「クリス……ツヴァイウィングの歌なら歌えるよ。たぶん。よく先輩の聴かされてるし」

 

「おま、そう言うこと言うんじゃねぇ!」

 

「ナイスです。それじゃあオービタルビートでも入れましょうか」

 

 詩織が流れるよう動きでテーブルの端末から歌を予約する。

 

 

「おっけ」

 

「それではどうぞ」

 

 そしてまたもや響に差し出されるマイク。

 

「……何?」

 

「何ってマイクですよ」

 

「いや見れば分かるけど、なんで?」

 

「? ツヴァイウィングの曲って基本デュエットじゃないですか」

 

 つまりクリスと一緒に歌えと。そういうことだった。

 

「え、いやだから」

「だーははは、お前墓穴掘ったな! 大人しく道連れにされろ!」

 

「いや、道連れって」

 

「大袈裟ねぇ」

 

「オラ立て! 言い出しっぺはお前だろうが!」

 

「うわぅ。勘弁してよ、もう」

 

 響が立って2人が並ぶ。弓美と創世のへたっぴな口笛がピューヒューとカスる。

 前奏が流れ始めた。

 

 〈ORBITAL BEAT〉

 

 ──

 

 その後も、創世が電光刑事バンを歌わされたり、詩織が演歌を歌い出したりと、カラオケルームは終始賑やかだった。

 

 

 ◇

 

 

「ん──はッ、とぉ。いやぁ歌った歌ったー」

 ぐーっと腕を伸ばした弓美が振り返る。

 

「クリスさん歌上手だね」

 

「あんでもねぇよ。毎日練習させられりゃ嫌でも上手くなる」

 

「にしては最後の方はノリノリだったと思うんだけどぉ?」

 

「ありゃ、まぁ、ちっと喉の調子が良かっただけで……、いつもはあんな歌わねぇからな!」

 

 あらあらうふふ、ですってよ奥さま、あらそうでございますの? 

 クリスの前で急に始まる奥さまごっこ。

 

 クリスの額に青筋が入る。

「お前らぁぁ!」

 

 危険を察知して逃げ去る創世と弓美。追うクリス。

 数分後には捕まってゴツンと一発貰うんだろうなー。と眺める響は察していた。

 

「今日は、お二人のお出掛けに混ぜてもらって申し訳ありませんでした」

 

 神妙な顔をする詩織に響が手をひらひらさせる。

「別に、気にしてないよ。それに私だけじゃこんなに楽しんで貰えなかっただろうし」

 

「またまた、ご謙遜を」

 

「事実だよ。私には服選んでご飯食べた後のプランなんて何にもなかったから。……本当、助かった」

 

「……そうでしたか」

 

 なんだかしんみりとした2人の前に3つ首の女。

 弓美と創世をとっ捕まえて首根っこを腕で固めたクリスが割り込む。

 

「ぬわぁぁに2人で話してんだぁ、おい」

 

「……思ったより早かったね」

 

「流石赤色、私の想定の3倍は素早かったわ」

 

「まさか私まで捕まるとは」

 

「うるへー、反省しろ反省」

 クリスが腕をキュッと絞る。

 

「「ぐへー」」

 

 

「……何やってんだか」

 

「ふふふ」

 

 

 チリチリチリチリチリ(ジリリリリリリン)

 創世の顔の横と、響のお腹辺りから電話の音が鳴った。

 

「「うん?」」

 

「あら?」

 

「「……」」

 

 がっちりと固めてあったクリスの腕があっさり解かれる。

 わっ、と2人がつんのめって顔を上げる。

 

「響、携帯鳴ってるわよ?」

 

「……うん」

 

 ノイズだ。




「うぉぉぉぉ!響ぃぃぃ!」

「ちょっと!待ちなさいって!」

「離してください!響が!響が私のケーキを待ってるんです!」

「いや待ってないから!というかクリスマスは昨日だし、なんなら本編まだ一学期よ!?クリスマスどころかお誕生日もだいぶ先なのよ!?」

「だとしても!!」

「だとしてもじゃないわよ!というか力強ッ!普通に引き摺られてるんだけど!?」

「響ぃぃぃぃぃぃ!!」

「だから!行っちゃダメだって!もぉぉぉ!!」

戦姫絶唱シンフォギア わだつみの抱く光
次回「見参!うたずきん!」
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