人型ノイズが人と入れ替わるようにして道路をうろつき、オタマジャクシノイズはヤモリのように壁を這いずる。
「ちったぁ空気読めっての」
その様子をビルの上から眺め、片膝をついたクリスがそうひとりごちた。
『休日にすまない』
「おっさんが謝る必要はねぇよ。それにこれがアタシのやりたい事だからな」
『……そうか。ところで響くんはどうした?』
「ダチをシェルターに送ってから来るってよ」
半分嘘。
響に友達を守ってやれと言って、無理やり置いてきたのだ。
『了解した。響くんが合流するまでは1人だ。くれぐれも用心するように』
クリスが立ち上がると同時に腕の装甲がぐぅんと伸び、ボウガンに変化して手に収まる。
「はっ。この程度の数、アタシ1人で余裕だっての」
通信を切ってクリスが飛び降りる。
構えられたボウガンから光の矢が放たれる。
キュインキュインと光の矢は曲線を描きながらノイズを貫き爆発。
立て続けに光線は走り、あっという間にクリスの足元のノイズは消え去った。
ノイズがいなくなった空白地点にクリスが着地する。
深く沈んだ腰を上げる間に、ボウガンは変形・膨張し二連装のガトリング砲に姿を変える。
重みでクリスの腕が下がり、砲塔の先が地面をかすめた。
「アイツが来る前に終わらせる!」
腰だめに構えられたガトリング砲。
グゥンと駆動音。
【 BILLION MAIDEN 】
両腕4門のガトリング砲が火を噴いた。
ガガガガガガガガガガッ
放たれた無数の弾丸が道路を端から端まで横断する。
道路を走るノイズたちは鉛玉のお灸をすえられ、次々と砕け散っていく。
────
カラカラと弾切れになるまで撃ち尽くすと、そこにはノイズだった炭の山と、朧豆腐のようにボロボロにされた道路。建物はクリスが多少気をつけていたため穴ぼこで済んだが、それでも惨憺たる有様。
「……しまった。やり過ぎた」
弾倉の空になったガトリング砲がクリスの手から落ちてガシャンと音を立てる。
「ま、しゃーねぇ。アタシはこれしか闘い方知らねぇし」
クリスが恥ずかしげに頭をかく。
チリチリチリチリチリ
地面に散らばったガラス片が振動して甲高い音が鳴る。
「あん?」
クリスが音に耳を傾け、音源を向くとそこは3階建ての小さめの建物。
ボゴン、ボゴン
ガラガラ
何かが壁をぶち抜きながらクリスの方へ向かってくる音が聞こえる。
クリスがボウガンを構え直した。
ビルの壁が吹き飛んだ。
建物から巨大な口が飛んできた。
人が縦に2人は入りそうなほど巨大な口。
クリスを呑もうと顎を閉じる。
ガチンッ!
「っぶねぇなオイ!」
すんでの所で躱したクリス。
クリスを噛みそこね、ごろごろと転がったノイズが声に反応して、図体に対してあまりに細い脚を使って踏ん張り止まると、ぐりんとクリスの方を向いた。
のっぺりとしたピンクの身体に巨大できみが悪いほど歯並びの良い口。形状はオタマジャクシノイズに近いが、四肢があり通常のものと比べ遥かに大きい。高さだけでもビルの二階分はある。
大型ノイズは嗤っているようにしか見えない剥き出しの歯を見せつけながら、ガチガチと歯を鳴らした。
「キメェ!!」
生理的嫌悪感に、クリスは思わず後退しながらボウガンの矢をありったけ打ち込んだ。
光線が次々と刺さりノイズの顔があっという間に針山に変わる。
ボムンボムンとノイズの表面で矢が炸裂するが、大型ノイズはこたえた様子もなく、瓦礫を巻き上げてクリスへ迫る。
大きく跳躍し前転。
転がるクリスの横をノイズがベタベタベタァと走り抜ける。
ノイズはそのまま対面の建物に激突すると、暫くずるずると建物を引っ掻いたのち、またぐりんと笑いながらクリスの方は振り向いた。
「とっととくたばれ!」
立ち上がるクリスの腰の装甲が展開し無数の小型ミサイルが発射される。
飛行機雲をたなびかせたミサイルが命中。爆煙がノイズの姿を一瞬にして覆い隠す。
が、爆煙を突っ切って巨大ノイズが再び姿を現した。
ベタベタベタベタッ!
ピンピンしていた。
「んなッ!? 硬ぇなオイ!」
突進するノイズを避けるクリス。
アタシの武器がことごとく効いてねぇ!
ならこっちも馬鹿でけぇミサイルを……って、ダメだダメだ。何考えてんだアタシ。ここは街中だぞ。
片手側転。
ボウガン斉射。
爆発するが効果無し。
ただでさえアタシの武装はあたりを巻き込みやすいってのに、でっけぇミサイルなんざ使ったらここら一帯が吹き飛んじまう。それはダメだ。
ノイズの身体を飛び越えるように跳躍。ガトリング砲を打ち込むが、ノイズの体はぽよぽよと波打つばかり。
ボウガンはダメ、ミサイルもダメ、ガトリングもダメか。あれ? アタシの引き出し終わってねぇか? なら、えーと、何かないか? 構造が簡単で火力がある奴。できればあんま爆発しない奴。えーと
盾にしていた建物の上から巨大ノイズが落ちてくる。避ける。
危機一髪。
あぁ、こんな事になるんなら銃の事をもう少し調べておくべき……だった?
突きつけられた銃口。
ネフシュタンの鎧を砕く威力。
あったな。火力が高くてあんま周りぶっ壊さない奴。
突進するノイズの頭を蹴って背後に飛ぶ。
このノイズはカーブが苦手だ。下手に隠れるより飛び越えた方が時間が稼げる。
ノイズがもう一度来る前に精製するのはなんとなく見たことのあるリボルバー。
アームドギアの精製はすぐに終わり、クリスは手に収まったリボルバーのシリンダーを回した。
ジャ──ララララ、ガチン
「へん、いい出来じゃねぇか」
その動作に意味はない。
振り返り突進を始めるノイズ。定められた照準。
「こんだけ的がデカけりゃ外しようがねぇ!」
ゴッ
クワ──ン
【 Red hawk 】
クリスの腕が真上まで跳ね上がり。ビリビリと全身に痺れが広がる。
巨大ノイズの身体に拳大の風穴。
ノイズの身体が穴から一斉に炭化を始め、あっという間に全身を黒く染めるとグシャっと潰れるように崩れ去った。
そして、その向こうのクリスは、
拳銃型のアームドギアを落とし、手の痛みに悶絶していた。
のたうちまわりはしないが、それでも忙しなく手をバタバタさせて痛みを誤魔化している。
銃に関する知識無しで、見様見真似で作られたマグナムは威力こそ絶大だったが、反動は全く考慮されていなかった。
考える暇も知識も無かったとも言うが、その結果は見ての通り。
その武器は大型ノイズの体をぶち抜く火力と引き換えに一般人なら比喩でなく腕が取れてしまうような反動も獲得していた。
「ッツァー! 痛ぇ! やっぱぶっつけ本番なんてやるもんじゃねぇ!」
クリスの悪態が焼け焦げた街に響いた。
◇
ズルズルと建物の隙間からオタマジャクシノイズが溢れる。
「ひぃ、こっちにもノイズ!? なんで」
「いいから!」
腰の引けた弓美の首根っこを響が掴んで歩かせる。
「こっちへ!」
「早く!」
クリスが抜けた後、響によってシェルターに案内されたはずの3人。
だが4人は未だシェルターにたどり着いていなかった。
警報よりも早くノイズが4人の側に沸き、シェルターへの道を塞いでしまったからだ。
ノイズに追われ、住宅街を走り抜ける。
「な、なんで、なんでぇ」
「いいから走る!」
「これは、ハード、ですね」
「……」
そんな中、響の足が止まった。
「立花さん!」
「ビッキー?」
「何やってるの!?」
律儀に3人までも足を止めてしまう。そのせいでノイズはあっという間に退路を塞いでしまった。
「ちょ、ちょっと、これマズいんじゃないの!?」
「どうにか逃げ道を」
「大丈夫」
「大、丈夫って」
せまるノイズの輪に響が進み出る。
「私が目的なんでしょ」
仁王立ちする響の腕に弓美がすがりつく。
「ね、ねぇ? 何言ってるの響。早く逃げないと」
「はい」
ノイズの向こう。響の言葉に返事をする者がいた。
「え?」
道の奥、ノイズの垣根を越えて、一昔前の響に似た黒のパーカーに短パンを履いた黒い肌の少女が現れた。
「あんた、櫻井博士の」
「ミーシャ。よろしく」
「嫌だね」
にべもない。
ミーシャは肩をすくめた。
「最初のノイズの群れ、あんたが出したんでしょ。なんでこっちに構うのさ」
「フィーネ様が望む、貴女のデータ。他の装者のデータ、不要」
「だからわざわざこっちに来たってわけ」
「うん」
響が唇を噛む。
飛びかかりたい気持ちを堪えて、すがる弓美を創世に預ける。
「響……? あの子何を言って」
「……私のせいでみんなを巻き込んじゃった。……ごめん」
「ちょっとビッキー。何がどうなって」
「みんなは頃合いを見て逃げて、いい?」
「それは……分かりましたが」
「そもそもどうやって」
尽きぬ疑問に響は答えない。
ただ振り返り、浅黒い少女。ミーシャを睨みつける。
口笛が聞こえる。
《 限界突破G-beat 閃光ver 》
「みんなには」
響がミーシャの前に立つ。
「指一本触れさせない」
Balwisyall nescell gungnir tron
風が吹いた。
ミーシャも響に合わせ、腕に付けたバングルを前に突き出す。正面に見える三本のガラス管には緑色の液体、リンカーが入っているようで、ミーシャがその一本の先を押すと、プシューと空気の抜けるような音と共にミーシャの身体に注入される。
リンカーの投与が終わったミーシャが目を開けた。
ra drille gae bolg zizzl
ミーシャの身体が赤黒い球体に包まれる。
────
装備が少ないのか、響がマフラーを巻きつけると同時にミーシャのバリアフィールドも解け、ポォンと細身の槍が石突で地面を突く音がこだました。
黄色のシンフォギアを纏う響と、黒いシンフォギアを纏うミーシャ。
「何……アレ?」
「立花さん……貴女は……」
「響……」
その姿に3人は驚きを隠せない。
響が緩く両手を構えた。
「……いくよ」
ミーシャが腕を絡めながら斜めに槍を構える。
相手の攻撃を弾くことを意識した構えのように見える。
響の姿が掻き消えた。
ミーシャが待つが、響の攻撃を受けたのはノイズ。
3人を囲んでいたノイズがキュ──と鳴き声を残して一斉に消えた。
ミーシャが訝しむ。
「らぁッ!!」
その瞬間、響の声が轟いた。
ミーシャが咄嗟に槍を声のした方に構え、
ガァン
吹っ飛んだ。
響が蹴りの勢いでバク転して着地する。
「……速い」
ミーシャが道路に槍を突き立て、後退を最小限に留めて止まる。
「あんたが遅いだけだよ」
「否定しない」
ミーシャが槍をファイアーダンスのように回転させながら間を詰める。
だがそれより早く響が近づく。
「舐めてる?」
「舐めてない」
カン
と槍が地面に突き刺さる。
ガン
と直進する響の顎にサマーソルトキックが入る。
地面に突き立てた槍を支えにミーシャが繰り出していた。
ミーシャはそのまま一回転して着地すると、地面から槍を抜いて突き出した。
響が躱し、裏拳。
屈んで躱したミーシャが逆袈裟ぎみに槍を振り上げる。
響が側転で躱し、掌底。
「グッ」
ミーシャの胸に一撃入るが、ミーシャは振り上げた槍を振り下ろす。
響は片手で槍を防ぎ、もう一度掌底を繰り出そうと腕を引く。
ミーシャが身体を逆に回転させ、背から石突きでなぎ払おうと槍を振る。
それを掌底しようと構えていた腕で響が防ぐと
「がッ」
ミーシャの後ろ蹴りが響の腹に刺さって響の身体が吹き飛ぶ。
だが、体勢までは崩さず、両足で地面を捉えたまま滑走する。
「……派手に動くね」
「ありがとう」
響の足のパワージャッキが弾かれ、ミーシャの目の前に響の拳が迫る。
ガィ──ン
すんでのところで挟まった槍が響の拳を受ける。
「褒めてない」
ミーシャが槍で反撃するより早く、響が蹴りを入れて反動で距離を取る。
更に横への移動も交えてミーシャの視界から消えた。
力押しでは勝てない程度にミーシャは強かった。
近距離の組み合いにおいて、響の優位性は薄い。
それを自覚した響は、今まで通り。ノイズを相手取るように。一撃離脱を意識した立ち回りを始める。
こと機動力において、武装が槍しかないミーシャに比べ、様々な加速機構と単純な出力に置いても勝る響は圧倒的に優勢。
常に待ちの姿勢を強いられるミーシャに対して、その純粋なスペック差を技量によって埋めさせないその闘い方は呆れるほどに有効だった。
というかガチすぎて引くレベル。
立花響はそれだけ怒っていた。
◇
そりゃまぁ、響が色々人と違うのは知ってたわよ。
知ってた……、知ってたけど……さ。
ノイズ。
人を殺す化け物。
映像と違って、実物の、無機物的でぬらぬらとしたそれは、エイリアンにも似た……いや、それ以上の怖さが有った。
響はそれと闘う戦士。
勘弁してよ! ……勘弁してよ……。
そんなの、ツヴァイウィングの候補生より突拍子もない話じゃない。
でも、ノイズは本物で、響も本気で。
「おい! 大丈夫か?」
クリスさんの声が聞こえる。
響のことをどう説明すればと思った私達の前に現れたのは響と同じような姿のクリスさん。
……貴女も……なんですか
「えと、ビッキーはあっちで黒い女の子と、えっと、闘って? いて……」
「そうか! アタシもそっち行くから、3人はシェルターか近くの黒い車に行ってくれ。二課と言えば色々と配慮してくれるはずだ」
「了解しました」
「あの!」
「うん? なんだ?」
「これって! なんかのドッキリですか……ね……」
そう笑い話のように問いかけようとした私を、クリスさんは凄い形相で睨みつけて来て、私の言葉はしりすぼみになる。
「響がそんなタマに見えるかよ」
「……見えないです……」
「だろ。死にたくねぇんなら、とっとと逃げろ」
「……ごめんなさい」
「それはアタシに言う言葉じゃねぇ。響に言うもんだ」
真剣な眼差し。
見ていられなくて顔を背けてしまう。
「……はい」
「さ、行くよ! 2人とも!」
「はい! 弓美さんも!」
「うん」
2人に引きずられるように走り出す。
後ろ髪を引かれるけど、振り返るのが、怖くて、失礼なようで、振り返れなかった。
◇
5時間後
二課本部
「今回の襲撃で敵装者の聖遺物の名と、おおよその活動時間が判明したか」
腕を組む弦十郎。
「目的は響ちゃんのデータ収集。まったく、櫻井博士は今更そんなもの集めてどうしようって言うんでしょうね」
賢治が面白くなさそうに頬杖をつく。
「了子くんの考えは俺には分からん」
「ふん、どうせ例のソロモンの杖と同じように悪巧みに使うんでしょう」
「それを阻止するのが俺たちの仕事だろう。装者のバックアップだけが仕事ではないんだぞ」
「それを俺に言いますか」
「ははは、すまない。とまぁ、今さっき言ったばかりなのに悪いんだが、2人の様子はどうだろうか? 何か異常は見当たらないか?」
「クリスちゃんは良好ですよ。無問題です。問題があるとすれば響ちゃんですが……」
「どこか怪我をしたのか!?」
「怪我と言うか、軽い打撲はありますが、バイタル値は安定していますが、ただ……」
「ただ?」
「……」
◇
「ひ、ひビき!!」
「何?」
「カッコ、よかった、わヨ?」
「……うん、ありがとう」
「うぅ、あぁ……」
うなだれる弓美
流れる重い空気。
「……」
響はベッドで横になる。
響の眺めるスマホに踊る文字。
******輸送作戦
今日の休みはその前日調整の意味も兼ねていた。
……今日は…、楽しかった…のに…な
重くのしかかるような疲れに響は目を閉じた。
限界突破G-beat 閃光ver
そんなモノはありません。
ので、まずグレビッキーの声を頭に刻み込んでから限界突破G-beatを聴いて、声を変換してください。
…そういえば正月ボイス聞くの忘れていた。しまった
ミーシャ
フィーネのクリスに変わる手下の3号
褐色、紫色の髪のショートボブ。動きやすい格好を好む。
見た目はAXZに登場するソーニャの少女時代に近いと思われる。(クリスとの特殊台詞は無し)
日本語は若干不慣れで接続詞を忘れがち。
手下3人の中で最も体術に長ける。
シンフォギアバングル
フィーネ配下の3人はFIS組よりも更に下、リンカーを打たなければギアを纏えないレベルで適合係数が低い。
そのため、リンカーを投与しやすいようにギアをバングル状にし、リンカー容器と一体化させている。リンカーは3本ストックされているが、二本消費時点で撤退させるため戦闘時間はそれでも極めて短い。
また、使われている聖遺物も、質の悪い紛い物のため、通常より大型化
させざるを得なかったという理由もある。
◇
キェーーーーー!!
コーン コーン
「な、なんデスか。今の音」
夜中、トイレに向かった切歌が見たモノとは…ッ!!
[板場弓美]
ーー|ーー
/ \
「キェーーーーー!!響にッ!響になんて事ヲォォォ!!」
ガツーン! ガツーン!
「ひ!?ひにゃぁぁぁぁぁ!!」
◇
ぐすっ、ぐすっ
「マリアぁ。未来さんが!未来さんが怖いデスよぅ」
「よしよし、今日は一緒に寝てあげるから」
「あぅぅ、マリアぁ」
「あ、もう切歌ったら」
(にしてもあの子何やってるの!?私でも怖いんだけど!?)
戦姫絶唱シンフォギア わだつみの抱く光
次回「オレの名前を言ってみろ」