今回は軽めなつもり。
入ったお店で店員さんの話を聞きながら3〜4着ほど服を買った。賢治さんは私の髪色とかを鑑みて暖色の服を勧めてきたけれど、恥ずかしかったから結局寒色の服を選んだ。
「これ可愛いね。響ちゃん似合うと思うんだけどどうかな?」
そう言って賢治さんが差し出したのはパンダ柄のパーカー。パンダ顔のフードに、袖と肩から脇下までと腰から下が黒で、お腹周りが白い想像はついてもなかなかお目にかからない動物の模様をそのまま再現したパーカーだった。
「うっ。……私はもっと地味な奴が」
「これ以上地味なパーカーはそうそう無いと思うよ。ですよね? 店員さん」
賢治さんに話しかけられた店員がわざとらしく指を顎に当てる。その掛け合いはまるで通販番組だ。
というか貴女さっきまで賢治さんのこと怖がってたでしょ。いつのまに仲良くなったんだ。
「そうですねぇ。今と同じような物なら当店にも何点かありますけど、そういうものを求めているわけではないのでしょう?」
「……いや」
「ええ、そーなんですよー」
否定しようとする私の声を遮って賢治さんが答える。
なんか棒読みなんだけど。
「ならー、このデザインより地味なパーカーはありませんねー。無地なら黄色とか赤とかありますけどー」
「黄色とか赤は響ちゃん嫌がるからー」
「そーでしたねー」
「じゃーやっぱりこれかなー」
「そーですねー。それがいいと思いますー」
圧。
圧が凄い。私にこのパーカーを着てほしいという圧をもの凄く感じる。
「どうかな?」
「如何でしょう?」
「……じゃあ、はい。これ下さい」
サムズアップしてくる2人から突き出されたパーカーを思わず私は受け取ってしまった。
◇
「響ちゃん。可愛いよ」
「……ありがとうございます」
あのあと賢治さんと店員の勧めでパーカーを着替えた。いや着替えさせられた。
若干パジャマチックな気もしないでもないパンダ柄のパーカーだけど、賢治さんからの評判は高い。
「俺の方はどうかな?」
そういって聞いてくる賢治さんだが……
「……まぁ、カッコいいですよ」
「やった」
ヤクザみたいで。というのは飲み込んだ。
私の服を買った後、賢治さんをもう少し見栄えを良くできないか店員さんに相談した結果、ある程度まとまっているけどまだボサボサだった髪をブラッシングして、実は伊達だったメガネをサングラスに変えてみた。
思惑通りに、天パ頭は元の髪がくせ毛だったのか緩くウェーブのかかった感じで纏まり、深いクマはサングラスで覆い隠された。
その結果残ったのは、高い身長と無駄に筋肉質な体型が透けて見える真っ白のカッターシャツ、そしてゆるフワヘアーにサングラス。どこかのヤクザ映画に出てくる取り巻きみたいな格好。
……なんだろう。このトンガリすぎてキャップから先が飛び出した鉛筆みたいな感じ。アクが強すぎて取りきれてない。
「買い物も終わったし冷やかしにでも行こうか」
「……うん」
でも最初のマッドサイエンティスト風よりはマシかな。私が一緒にいればたぶん大丈夫。……たぶん。
◇
「生地の中のキャベツの甘みと上に乗せられカリカリに焼き上げられた豚肉の香ばしさ。そしてソースとマヨネーズにかつお節の風味。いいね。これがお好み焼きか」
どこかのリポーターのように賢治さんがおばちゃんの焼き上げたお好み焼きを褒め称える。
商店街の一角にあるお好み焼き専門店『ふらわー』
昼食をどこで食べようかと悩んでいた賢治さんが、ここが女子向けの商店街であることも忘れて本場のお好み焼きとはどんなものなんだろうね! と言って意気揚々と入っていってしまった。道行く人が若干引き気味だった賢治さんにも動じないふらわーのおばちゃんはかなりの大物だと思う。
「あら、嬉しいこと言ってくれるねぇ」
「……賢治さんはしゃぎ過ぎ」
「はは、こんなお店始めてだからね。否が応でも気分が上がっちゃうよ」
「あらあら〜、それはおばさんのお店が古いって言いたいのかい?」
「いえいえ、古き良きお店って感じでとっても良いですよ」
おばさんがコテの柄で賢治さんの頭をゴチンと叩く。
「古いっていってるじゃないか!」
「すいません! お店も料理も絶品です!」
「よろしい!」
なにやってるんだか。
「響ちゃんはどうかな」
「おばちゃんのお好み焼き美味しくないかい?」
その言い方はズルい。
「……美味しいです。とっても」
「あらー、嬉しい。聞いたかい。これが本当の褒め方ってもんさ」
「えぇぇ、美味しいって言っただけじゃないですか」
ゴチン
「その美味しいのために私らは毎日頑張ってるんだよ。まったく。よーし、嬉しいこと言ってくれたからおばちゃん、一枚オマケしちゃうよ」
「えぇぇぇ……響ちゃんばっかりずるなぁ、俺も何かオマケが欲しいんだけど」
「あんたはダメ、うちのこと古いって言ったから」
「いいお店って意味で言ったんですよ」
「女性に対する言葉としてネガティブな聞こえ方をする言葉はその時点でアウトだよ。それが知れたのがあんたへのオマケさね」
「えー、ふん。まぁ。まぁ、いいですよ。俺も社会人ですからね。好きなものぐらい自分の金で買ってやりますよ。おばちゃんこのデラックス海鮮を一つ」
「あぁ、それ手間かかるから三年前に辞めちゃったよ」
「えぇぇ……」
「あっはは、嘘に決まってるじゃない! ちょっと待ってな。この子の分作ってからね」
「そう言って、二枚とか作らないでくださいよ?」
「……さぁねぇ? それはこの子のお腹の具合によるねぇ。ね、これの他に何か食べたいものあるかい?」
「……えっと」
本当に注文していいのかと思って賢治さんの方を見るけど、さっきまでブーたれてたはずの賢治さんは黙って私を見つめている。その顔はやんわりと笑っている。
「……じゃ、じゃあこの広島風で」
「あいよ。聞いたかい。あんたはその後」
「そんなぁ」
白々しくぐでぇっと机に突っ伏す賢治さん。自分で言わせたくせに、面倒くさい人だ。
「……私のお好み焼き半分あげるから、元気出して」
「あぁぁ、大人としてダメなのに、響ちゃんに癒されてしまう。ちくしょうこのおばさ」ガンッ
賢治さんの顔の真横にコテが降ってきた。
「おばちゃん。ね」
「お、おっす」
その後、賢治さんのデラックス海鮮を分けてもらったけど、海老とイカがたっぷり入っててとっても美味しかった。
……また来たいと思う。できればゴニョゴニョ
◇
宴もたけなわと言うか、私の方は買い物を済ませてお昼も食べたし、どうしようかなと言う感じだったんだけど、賢治さんはまだまだ遊び足りないらしく、ゲームセンターへと連れていかれた。
────
ダァンダァンダァンダァンダァンダァン
途切れることなく続く発砲音。賢治さんが射撃に一家言あると言うことで、シューティングゲームを始めたんだけど
「賢治さん本当に上手なんだね」
「だろう? 実弾でもこれぐらいできる自信があるんだ」
「実弾って……。あぁ、賢治さん自衛隊員なんだっけ」
「あー……、一応ね」
なんだか歯切れの悪い賢治さん。最初に会った時には自営業って言ってて実際に基本的に自宅にいる賢治さんが、実は自衛隊員だったって言うのは驚いたけど。それってたしか自衛隊の規律とかに引っかかるはずだし、賢治さんは賢治さんで色々あるんだろう。詮索はしない。
賢治さんがやっているのは6発入りのリボルバーで戦うハードコアなシューティングゲーム。ヘッドショットを決めると弾が1発補充される仕組みで、賢治さんはそれを利用して無限に撃ち続けている。
小指の先ほどのマトを次々と撃ち抜いていくその様子は、私の知っているシューティングゲームじゃないって感じ。
最初は二人でやっていたんだけど、リロードの合間に片手撃ちをしていた賢治さんの左手が手持ち無沙汰に疼いているのを見て、渡してみたらこの有様である。
囲いが無いせいで賢治さんは二丁拳銃で永遠に銃を撃ち続けているのが衆目に晒され、少しずつ人が溜まっている。
最後の目玉だらけの大ボスの無数にある目玉を全て撃ち抜いて特殊エンディングに着いた頃には人だかりが出来ていた。
賢治さんがジャカンと銃を台に戻すと同時に拍手の嵐。
賢治さんも調子に乗って腕を振って、恥ずかしいから賢治さんの上げた腕を掴んで急いで人だかりから抜け出した。
────
「いやー、楽しいね。射撃の腕も落ちてないみたいだし」
「……恥ずかしくないんですか」
「? 、何を恥ずかしがる必要があるんだい?」
ぼすっと賢治さんのお腹を緩く殴る。
「……賢治さんって、人の目あんまり気にならないんですね」
「ん、あぁ、人間なんて見ているようで見てないものさ」
「……見てるようで見てない?」
「そう。人間は親しくない人のことなんか外面でしか見ない。見れない。その人が何を考えているか全く分からない。だからいくらでも人の心を軽んじれる」
これ持論ね。そう言って賢治さんが私の頭をやさしく撫でる。
「深く関わってない人間のことなんて気にしなくていいんだよ。そんな事しても無駄に疲れるだけ。響ちゃんは頑張ったんだから辛かった分、楽しんでいいんだよ」
「……でも、私、お母さんたちを置いて逃げた。もっと頑張って」
「響ちゃんの場合はねぇ……。正義の味方様相手は立ち向かうだけ無駄。そりゃ乗り越えられれば凄いけど、それで潰れちゃ世話ないよ。逃げるのは賢い選択」
「……でも」
不意に賢治さんが大きくパンと手を叩く。
「はい! これで辛気臭い話はこれでぜーんぶ終わり! 響ちゃんは! 楽しめば! いいんだよ!」
そう言って賢治さんが私を抱き上げてぐるぐると回る。
「な! ちょっと何やってるの!?」
「知らない!」
「降ろして!」
「嫌だ!」
「何で!」
「分かんないな!」
「この!」
賢治さんがそのまま笑いながら私を抱き上げ続けている。しかもゲームセンター内で!
非常識にもほどがある。私はたまらず賢治さんの頭に本気の肘打ちをかまして脱出した。
「あ゛っづ」
賢治さんが頭を抱えて壁によりかかる。
「酷いよ! 響ちゃん」
「うるさい」
賢治さんを置いて歩き出す私に賢治さんの声がかかる。
「おっとと、あ! ちょっと待って」
賢治がふらついている。
「知らない」
「もう!」
賢治さんが私の腕を掴む。
「一緒にいないと危ないでしょ?」
そう叱るように私に言う賢治さん。
「……っ」
……本当、恥ずかしいことを平然と言う人だ。
「……ごめんね。ただ、あんまり落ち込んで欲しくなくてね。せっかくのお出かけなんだし、それでって、ちょっと待って今はダメ、あ゛ッ」
ネタ探しに軽く『中学校 いじめ』で検索したらシンフォギア時空も真っ青な事例が山ほど出てきて八幡谷園。
この作中ではハイスペック世捨て人、深海=サンがビッキーの知らない間に、証拠コミコミで警察にダンク決めてることでしょう。