内容ペラッペラでごめんなさい。
「焼っき鳥、焼っき豚、焼き馬焼き鹿〜っと」
朝方、鼻歌交じりにリビングでパソコンを開いて何かの記事を読む賢治。
映る文章をグリグリとマウスをいじって読み飛ばしていく彼だが、その内容によってもたらされた不愉快感に、彼は誰にともなく記事をハッと鼻で笑った。
「まぁ、やってることは同じか」
「何が同じなの」
スッと賢治の見ている画面を覗き込もうとする影が一つ。
「わっ! 響ちゃん! いつからそこに」
慌てて賢治がパソコンを持ち上げたため、響は何が書いてあるのか読めなかった。
「今起きた所、で、何が同じなの」
「あ、あぁ。YouTubeの鳥の丸焼き作ってみたって動画なんだけど、適当に作ったから鳥に火が付いちゃってね」
そのコメント欄が結構面白くて、と言葉を重ねる賢治だが、響は一気に興味を失っていた。
「で、こう言う動画って一回盛り上がるとあっちこっちが真似するから同じことばっかりしてるなぁって」
「ふーん。あんまり面白くなさそう」
「まぁ、こういう手のものはインパクトしか考えてないから」
そう言いながら、響に画面が見えないようにパソコンをたたみ、響が興味を無くしていることに内心ホッとする賢治。
「そっか。でも意外、賢治さんってYouTube見るんだ」
「……まぁごくたまにね」
「へー。あ、賢治さん朝ごはんどうする?」
「適当に食べれればなんでもいいよ」
賢治の返しに響が頭を押さえる。
「なんでもいいって……、はぁ……。何か作るから待ってて」
「分かった。待ってるよ」
「ったく。今までこの人どうしてたって……、聞いたらろくな返事返ってこないんだろうな」
そうボソボソと呟いてキッチンに行く響を見送って、賢治がふぅと息を吐く。
「……助かった。こんなの、当事者だからってわざわざ知る必要ないからね」
そう言う賢治の前、テーブルにもう一度置かれたパソコンに映っているのは一つのニュース。
とある中学校が2年前の「ライブ会場の惨劇」の生存者に対する苛烈ないじめを放置していたことが、第三者機関の手によって関係者の諸々の余罪と共に白日の下に晒されたことが書かれた記事だった。
偉ぶったなんとか専門家の講釈と共に記事に添付されている写真には無数のマイクを向けられる響の母。
「……響ちゃんのお母さんには申し訳ないことしたな」
事前に連絡したとは言え、知り合いがこうして晒しものにされているのを見て面白く思うほど賢治はひねくれてなかった。
もっとも、1年前には生存者を好き放題叩いていた奴らが素知らぬ顔で響の家を擁護しているのを見るのは甚だ不愉快だと思っているのだけど。
賢治の人間に対する好感度は基本的にマイナスなのだ。
一通り記事に目を通してパタンとパソコンが閉じられる。
「でもこれで面倒ごとはおしまいだ」
そう言いつつ、賢治の頭の中ではこうして公の場に晒されても懲りない奴や逆恨みをする親など面倒な連中が残っているかもしれないと悪い予想が渦巻いているのだが、願掛けにも似た思いでそう言うと椅子にもたれかかり、ふぅーと長く息を吐いた。
◇
賢治が一仕事終えたような感慨にふけていると、料理を作り終えた響が賢治に命令した。
「ご飯できたからパソコンどけて」
「あぁ、ごめん」
そう言って賢治は柔らかい笑みを浮かべて響を見つめる。
「……何?」
「いや、なんでもない」
「……そう」
響が作ったのはウィンナー、玉ねぎ、ピーマンで作った野菜炒め。後は家にあった市販の漬物と麦茶。二人がごはん党なのでご飯だけはいっぱいある。
「じゃ、食べよ」
「ああ! 美味しそうだ」
「……冷蔵庫にある奴適当に炒めただけだって。いつもどんな食事してたの」
「お腹が減ったら10秒チャージ」
「……分かってた」
やっぱりかと思いながら響は深いため息をついた。
「ため息つくと幸せが逃げるよ」
「……誰のせいだと思ってるの」
そう言うと響は賢治の皿に乗ったウィンナーをさらう。
「あ、俺のウィンナー!」
「知らない」
ウィンナーをヒョイとほうばり、代わりとばかりにウィンナーがあった場所にピーマンを載せる。
「あ、ピーマン寄せてる! ちゃんと食べないと大きくなれないよ」
食べ物を飲み込み響が一言
「いらない」
「いらないって……」
その後も賢治がアレコレ言うが、響に「賢治さんに言われたくない」とバッサリ切り捨てられると賢治は涙ながらにピーマン炒めを頬張った。
◇
朝食を食べてから一時間ほどして、何日も勉強に取り組んでいたお陰で私の方も宿題の終わりが見え始めた頃。
私はふと気になったことがあったので賢治さんに質問した。
「賢治さん仕事しないの」
「ふッ」
私の一言に結構な衝撃を受けたのか思わず吹き出しそうになった麦茶をこらえ、ゲホゲホと咳き込む賢治さん。
「何を急にと思えば、いったいどうしたんだい?」
「私が来たばかりの頃は一日のほとんどを地下で仕事? してたでしょ。でも最近はずっとリビングにいるし」
「あぁ、そういうことか。昼は響ちゃんの勉強があるからね。俺の仕事なんかは夜やればいいし」
……そういえばこの人、そういう人だった。最短でも寝るのが二日に一度とか、気絶するように一瞬寝て、というか気絶するまで延々と活動し続ける人だった。
「私のために仕事してないってこと?」
「仕事してないって……。別に一日中ネットサーフィンしてる訳じゃないんだよ? ちゃんと色々やってるんだから」
「……へー」
「あ、信じてない。いいよ。ちょっと見せてあげよう」
そう言って賢治さんがくるりとパソコンを回して私に画面を見せてくる。
画面にはよく分からない図と金色に輝く円盤のCG模型
「……何? これ」
「これは先史文明の残した異端技術を最新の技術と人力で作り上げた新素材で作られた対ノイズ用兵装フォルツァート増幅器のCGモデルさ」
「言ってることさっぱり分かんないんだけど」
「要するに昔有った超科学技術を再生してノイズぶっ倒そうとしてるってこと」
「……ノイズって倒せるの」
「倒せる。ほんの数人だけど、ノイズに対抗する武器を持っている人たちもいるし、僅かだけど俺の研究してる技術も役に立ってる」
「……それってツヴァイウィングの二人のこと?」
「あれ、知ってたの?」
「知ってた。というかノイズに殺されそうになった私を守ったのは天羽奏だったから……」
うん? と首を傾げて悩む賢治さん。しばらくしてポンと手を叩いた。
「あの時居たの響ちゃんだったのか」
「あの時って……賢治さんもライブ会場に居たの」
「救援でね。その時、使えるぐらいには開発出来ていた対ノイズ兵装担いで急いで行ったのさ」
賢治さんが画面の金色の円盤を指差す
「今画面に映ってるのは2台目で1台目は『ライブ会場の惨劇』の時に投入してオーバーロードして壊れちゃったんだ」
その分の成果は得られたけどね。と笑う賢治さん。
もし賢治さんが言うことが本当なら、賢治さんは本当に正真正銘の世界有数の科学者なんじゃないか。
「対ノイズ兵器って世界にどれぐらいあるんですか」
「兵器じゃなくて兵装。俺の作ってる奴は武器としては役に立たないからね」
賢治さんが真剣な顔でそう言った。賢治さんの人を傷つけるためのモノを作っている訳じゃないという想いを感じる。
「で、響ちゃんの質問だけど、俺の知る限り対ノイズ装備を作れるのは基本的に櫻井っていう博士のだけだね。俺のはまぁ、まだ研究中ってことで…。で、櫻井博士のは先史文明の技術を使ったノイズに対して極めて効果の高いパワードスーツで、俺のは先史文明の技術の僅かに解析できた構造を再現して作ったほんの少しだけノイズを倒しやすくするだけのアイテムで、有用性においては全く次元が全く違うぐらい差があった訳なんだけど」
「でも、それ以外は皆無なんだよね?」
「そうなるね」
「……それって十分凄いことじゃないの?」
「まぁ、そうとも言えるかなぁ」
賢治さんが照れくさそうにわしゃわしゃと頭をかく。
「じゃあなんでこんな所……じゃなくて専門的な研究所に勤めていないんですか?」
「……響ちゃん。ど直球だね」
賢治さんはびっくりした様子でお茶を一口飲むと答えた。
「ま、端的に言って世のしがらみが鬱陶しくなったからだね」
「……世のしがらみ」
「そう、……響ちゃんも知ってるだろう? 『ライブ会場の惨劇』。その事件のその後。できもしない正論を掲げて自身の愉悦を優先するお歴々。誰にも予想できないノイズの襲来に対して、そもそも取らなくてもいい責任をわざわざ作って押し付けあう大人。その中で効果の薄い対ノイズ兵装を開発し、ライブ会場の警備員に持たせた俺に責任の一部を押し付けようとする奴が一定数居たわけだ」
賢治さんはやれやれと言った様子で首を振る。
「俺はライブのために急いで対ノイズ装備を作っていたんだけど、これが未だ改良の余地が多分に含まれる初期段階のものでね。その効果はノイズの動きを遅滞させ、通常兵装の効果を僅かに上げるだけに留まった。それでもフォニックゲインの高まったライブ会場内なら数匹のノイズを撃退できるだけの効果はあったんだけど、流石にノイズの大群に対応するだけの力は無かった」
あの日。突然会場の中央が爆発し、巨大なノイズが地下から現れ、空からもノイズの大群が襲ってきた。
賢治さんの話を聞くには、その対ノイズ装備というものはツヴァイウィングの二人が纏っていたような圧倒的な力ではなく、あくまで小規模なノイズの発生に対応するのが限界だったんだろう。
素手で自転車は転ばせられても、トラック相手ではどうしようもない。
「で、警備費用やら研究費やらを無駄にしたとかなんとか下らないいちゃもんを付けられて責任を押し付けられそうになった訳。それ自体は上司のお陰でぽいできたんだけどねぇ。その後は、何処ぞからねじ込まれた研究員が増えてね。分かりもしない俺の技術をこっそり盗もうとする奴が大勢出たのさ」
そう言い切ると同時に深海さんの目が濁る。
「いやぁ、……ほんと。なんであんな奴ら櫻井さんは連れて来たんだろ。研究者というより企業スパイとかハッカーとかそういう類だったよ。しかも腕もたいした事無い奴ばっかり。ろくに研究の手伝えもしないのに技術を盗むことばっかり考えて、知らない技術を習おうとしてるくせに年下だからって舐めた態度取って、ちょっと喧嘩買ってやってパソコンにロック掛けてやったらピーピー喚きやがって、それぐらい自分で解いてから言えよ。どいつもこいつとギャーギャーギャーギャー技術寄越せってそればっか。共有してるデータから自分で解析しろよ。何が俺がこの技術を世界に広めてやるだ。理論どころか大元すら理解できてねぇ鳥頭のくせに何ほざいて」
何か悪いスイッチがバチコンと入ってぐちぐち言い出す賢治さん。
「想い入れも努力も人一番必要な研究に、金儲けしか考えられない奴が介入できるわけ無いだろ。専門家舐めんな。向こう数十年どころか永遠に広まることが無いぐらいの超高等技術だぞ。生半可な気持ちで入り込む余地なんざあるわけねぇだろぅがよ。テメェらなんぞに支援されなくても研究成果小出しにするだけで数千万一瞬で稼げるっての。だいたい……」
「賢治さん!」
「はっ! 俺は何を」
虚ろな目からいつもの目に戻った賢治さん。今後、賢治さんの人間関係にはあまり触らない方が良さそうだと思った。
「ちょっと悪い夢を見てただけだよ。話の途中で寝ちゃうなんて疲れてるんじゃない?」
「そ、そうか。寝ちゃってたのか。えーと、どこまで話したっけ」
「賢治さんが作ってるものの話」
「そうだっけ?」
「そう」
「そうか、そうだね。それで俺が作ってるのがこの金色の小さいパーツ。これはレリックパーツや人造聖遺物片と呼ばれていてね。と言っても名付けたの俺なんだけど。でだ。これは先史文明の異端技術を再現した超性能の電子部品で、これを使って回路を形成することによって普通の物質では増幅できないフォニックゲインを増幅することができるって訳。……まぁ、櫻井さんはどういう訳か普通の物質でフォニックゲイン増幅してるんだけどねぇ……」
「賢治さん」
また一瞬澱んだ目をする賢治さんに声をかける。
「ごめん。それで増幅したフォニックゲインをエネルギー変換して放出。周囲のノイズをこっちの世界に固着させるのが俺の作っている増幅機構の主な目的で、この「フォルツァート増幅機構」はフォニックゲインの二重増幅と充電機能を使ってツヴァイウィングの二人の纏うパワードスーツの力を借りずに単独でノイズを撃破できるようになるという確信的な技術なんだよ!」
「何いってるのか全然これっぽっちも分かんない」
「本当に?」
「むしろ分かる訳ないでしょ。先史文明とか専門用語とか、あんなの分かる人なんていない」
「そ、そっかー」
落ち込む賢治さん
「だから。ちゃんと一から説明し直して」
「……え?」
「もう一回話して。分からない所、聞くから全部答えて」
「もう一回って、つまらなくないかい?」
「正直あんまり面白くないけど……、賢治さんのやってる事だから……知りたい……」
「そう、そうか。ちょ、ちょっと待っててね! 今、紙持ってくるから、図にしないと分かりにくいこともあるだろうし!」
そう言ってバタバタとリビングを抜けて地下へと走っていく賢治さん。賢治さんの家の地下は広いらしいので、結構時間かかりそうな予感。その間に、私もちょっとだけ調べ物をする。
「……『リディアン音楽院 学費』っと、へー、私立なのに安いんだ……」
その後の賢治さんの話は、あまりにも情報量が多く半ば学校の授業のような感じになり、お昼になっても終わらなかった。
フォニックゲイン増幅機構
賢治が研究開発しているあらゆるフォニックゲインを増幅し、一般人でもノイズに有効なダメージを与えることができるようにする技術。
トレモロは最初期のもの。フォニアアンプは廉価版。
フォルツァートは上記とは格が違う現状最高技術。
フォニアアンプ
賢治の言っていた対ノイズ装備。
シンフォギア装者やその他の強いフォニックゲインを受信増幅して低出力のバリアフィールドを展開する小型マイク型装備。固着効果は10数%でアルカノイズよりちょっと固めぐらいになる程度の効果。それでも十分通常兵器が通用するようになる。
しかしながらライブ会場の惨劇では空中からの急降下攻撃になすすべもなくやられた模様。
櫻井了子の策略
賢治が二課の人材の中でも、特にカ・ディンギルの存在に気付く可能性が高かったため、(それと自身に対立するそれなりに腕のある技術者であったため)、出元が分からないよう追い出そうとした事。目論見通り、賢治は二課を抜けたが、風鳴弦十郎の働きにより賢治自体は未だに二課所属となっている。