二面的一夏と超兵少女 作:かのえ
――織斑一夏です、中学では剣道をやっていました。今後宜しく
優しげで整った風貌の少年は、自らを見つめる目の前の少女たちにそう自己紹介をした
彼女らの彼に対する第一印象は優しそう、そんなものだったに違いない
現に、彼は紳士的で簡単すぎた自己紹介では得られなかった情報を得ようと次々に質問をしてくる少女らに丁寧な返答をしていた
――唯一人の男子に興味があるのは分かるが後がある。質問も程々にしたらどうだ?
不意にそう声を掛けられる。声を発した人物は切れ長の瞳に、どこか彼と似通った風貌の女性
――織斑先生
――バカ丁寧に答えなくていい、さっさと次の奴、自己紹介しろ
と少年と同じ苗字を持つ女性、織斑千冬は次の生徒に促した
――先生
――どうした
一人の生徒が不意にそう言いつつ手を上げる
――織斑君と先生は姉弟なのですか
少年以外の殆どが疑問に思っていたであろう事柄を彼女は質問をする。はあ、と織斑先生と呼ばれた女性は暫く間を置いてから肯定の旨を伝える
――そうだ。が、血縁者だからと優遇はしない
そう言う彼女の鋭い眼差しは、少年を貫いていた。厳しい姉の眼差しを受けながらも、彼は表情を崩しはしない
そうして自己紹介が続いていき、千冬が一年どのように指導していくのか、その方針を告げて最初のHRは終わった
担任の千冬、そして副担任の山田真耶が教室を出ていき、HRが終わった後も教室は静かだった。誰もが一夏に聞きたいことがまだあるのだ
しかし、その静寂を1人の少女が破った
「少し、いいか?」
「うん、いいよ」
(懐かしい顔だな)
ポニーテールにした長い黒髪の少女。彼女は篠ノ之箒と言って、一夏の幼馴染である
ある事情で小学生の頃から転々と引っ越しを繰り返してきた彼女だったが、想い人である彼のことは一度足りとも忘れたことはない
屋上に辿り着いた二人は向かい合う
「久し振りだね、箒」
「そうだな」
「剣道全国優勝、おめでとう」
「知っていたのか?」
「テレビで試合を見ていたからね。本当に、強くなったね」
にっこりと笑いながら一夏は箒に話しかける
「一夏は」
「ん?」
「一夏は剣道を続けているのか?」
そうだよ、と一夏は答える。けれど、と続けた
「僕は大会には出られない」
「――何故だ」
「僕の本性が、見えたから」
「本性……?」
本性、という言葉にぴくりと反応する箒。彼女も常々思っていたことだ。自らの剣がどうしようもなく感情的で、剣道といえるような物ではないと
感情的で、鬱憤を晴らすかのような乱暴さ。それが本性だと
「どうしてだ。お前は私と違って真っ直ぐで、綺麗な剣だったではないか」
「僕は人でなしだよ」
「え?」
どういうことか、詰め寄ろうとした彼女だったが、一夏が時間だと告げる
階段を降りていく彼の姿を呆然と見送った箒。どうしても一夏の人でなし、という言葉が頭に残って離れなかった。
織斑一夏。両親は不明。親戚もおらず、唯一の親類は姉である千冬のみ。性格は極めて温厚で、人望も厚く、多くの人間から好意を持たれている
頭は鈍くはなく身体能力は上々。ただし、姉でブリュンヒルデの称号を持つ千冬には遠く及ばない
授業が終わり、一夏は一息つこうとしたが、不意に声をかけられる
「ちょっと宜しくて?」
「はい? ええと、セシリアさん、だったかな?」
「あら、ちゃんと私の事は知っているのですね」
まあ当然ですわ、とばかりにふんぞり返るセシリア。そんな彼女に一夏は至って普通に反応する
イギリスからやってきた彼女はその口調と金髪にロールした髪型から誰もが典型的な高飛車お嬢様という認識を持ったであろう
「それで、なにか用事かな」
「あら、私に話しかけられるだけでも光栄なことだと言うのにそれは無いのではなくて? それ相応の態度を取りなさいな」
「と、言われてもなぁ」
弱ったな、と頬を掻く一夏
「本来私というイギリス代表候補ともされる人間と共に学ぶだけでも素晴らしいということすらわからないのかしら?」
この時教室の誰もが、ブリュンヒルデに学ぶことに比べたらその栄光も霞むよ、と思っていたのだが口には出さない
自分にほこを向けられても困るからだ。主に、面倒くさいという意味で
「それは、確かに喜ばしいことだね。どうぞよろしく」
「……莫迦にしてますの?」
「いいや、全く。本当に良いことだよ」
「ふん、まあ礼を尽くすのであればISについて手取り足取り教えて差し上げますわ。何せ私はエリート中のエリートなのだから」
そこまで彼女が言ってチャイムが鳴る
「返事は後で聞きますわ」
去っていく彼女を見送りながら一夏は嘆息する。どうも自分の身近には気が強い女性ばかりしか居ないようだと感じたからだ
姉然り、幼馴染然り
「これより最初の授業を始める……その前に」
教室に入ってきた千冬が一旦切って教室を見回す
「クラス代表を決めねばならんな」
そう言って、クラス代表のしごとを次々と上げていく
クラスの垣根を超えた会議や、ISの習熟度チェックの指標など、とても重要な役割ばかりで一般的生徒ならしり込みするような内容だ
「で、だ。自薦推薦構わない。この中から1人決める」
「はい! 織斑くんがいいと思います!」
「私もそれがいいと思います!」
真っ先に意見が出たのはクラス唯一の男子である一夏だった
「織斑だけか。他には居ないか?」
「ちょっと先生!」
「他薦でも構わないと言ったはずだ。推薦された人間は大人しくしてろ」
一夏が自分では無理だと告げようとするが、千冬に封殺される
「他には居ないか?」
「はい」
「オルコットか。立候補か? それとも」
「当然立候補ですわ。私はイギリス代表候補なのですから」
そう言いつつ立ち上がったセシリアはクラス中を見渡してから続ける
「大体、何故そこの男なのです? 私という素晴らしい人材がいるというのに。それを差し置いて男? 唯一の男だからと祭りあげてそれでは唯のサーカスのライオンの様ですわ。そこのところどう思います? あなた」
「僕?」
いきなり指差された一夏は突然の事に固まってしまう
「と、言われても」
「全くトロいですわ! そんな人間にクラス代表なんて任せられませんわ先生!」
「他薦でも良いと言ったのは私だが。……まあ、そこまで言うのならば見せてもらいたいな。代表候補生の実力というものを」
じゃあこうしよう、と千冬が言う
「来週の月曜日、織斑とオルコットの試合をする。それを見てどちらが代表に相応しいか決める」
「まあそれまで精々頑張りなさいな。泣いて頼めば操縦について教えて差し上げますわ」
(わかりやすい宣戦布告じゃあないか)
おほほほ、と笑い余裕を見せるセシリア。一夏は困ったような表情を浮かべながら勝負を受諾したのだった
放課後、一夏は副担任の山田真耶に呼び止められる
「織斑君」
「山田先生」
「まだ教室にいましたね。良かったです」
「と、言うと?」
真耶は『1025』と書かれている鍵を取り出す
「織斑君の寮の鍵です」
「えっと、確か一週間は自宅から通うことに……」
「学校側の判断だ。従え」
横から声を出してきたのは千冬だ。いきなりの予定変更に彼女自身も面倒だったのか顔をしかめている
とりあえず生活に必要そうなもの、携帯の充電器などは運んでおいたと彼女は言う
「じゃあルームメイトさんと仲良くお願いしますね」
「はい……ん?」
さらっとそう言って去っていった真耶に、何故か違和感を覚えて戸惑う一夏。そして、その違和感の正体に気がつく
そう、IS学園の寮は相部屋なのだ
「お、織斑先生」
「何だ?」
「相部屋、なんですよね」
「そうだが。……ふむ、山田先生はそこに言及していなかったな」
あとでまたお仕置きが必要だろうか、と千冬は呟く
「安心しろ。同じ部屋になるのは篠ノ之だ」
「箒が……」
「まあ、アイツがそのことを知っているのか知らないから、くれぐれも。くれぐれも部屋から追い出されるような事態は避けろよ?」
妙に念を押して行く千冬に首を傾げながらも、一夏は寮へ向かうのだった
学園の廊下、寮の中、どこに居ても視線が自分に集中する
(珍獣みたいだな。ハハハ)
女子が固まってこちらを見ているのを出来る限り視界に入れないようにして進む
「ここか」
(迷惑をかけないように、とはどういうことだ?)
「まあいいよ」
ノックをするも、反応がない
「どうしよう」
(どうしようもない、入るのが手っ取り早い)
「でも女の子がいるのにそれは……」
自問自答をしていると後ろから声をかけられた
「一夏……?」
振り返ると、そこには浴衣姿の箒が居た
「箒? ……ああ、よかった。僕はこれからこの部屋で過ごすことになるんだ。箒と一緒に」
「ここがお前の部屋? ……自分から希望したのか?」
「いや、そういうわけじゃあないけど。まあ、希望できたら箒と一緒がよかったかな」
そうか、そうか。と箒は呟く
「これからよろしく、箒」
***
スゥ、と息を吸う。織斑一夏にとって慣れた呼吸だ
「ふっ」
振られた竹刀はかすかにしなりながら振り下ろされる。そして、急に減速し止まる
もう一度竹刀を振り上げて、下ろす
振り上げて、下ろす
何回も繰り返し、繰り返し行うその動作。無心になるのには丁度いい運動だった
「一夏」
「箒。来てたのか」
「私も体を動かしたくてな。一緒に良いか?」
「ああ」
何回、何十回、何百回と素振りを繰り返す。徐々に隣にいる箒の息は上がり始め、竹刀もブレてきた
「変わらないな、一夏。いくら鍛錬を積んでも私はお前に辿りつけない」
「男女の差もあるさ」
「そうじゃない。千冬さんは私の年でも息は上がらなかった」
「……」
休憩する箒と会話をしながらも、ほとんど息を乱さず素振りを繰り返す
食堂が開くその時間まで、ずっと竹刀を振り続けた
シャワーを浴びて、食堂へ向かう。朝一番のその時間に、そこにいるのは箒と自分だけだった
普通の和定食。それを頼み黙々と並んで食べていると、次々と女子がやってくる
朝一番に朝食をとるのは素振りの後だからという理由もあるが、女子ばかりの空間が気まずいというのもある
「あ、織斑君だ」
「おはよー」
「うん、おはよう」
まだ名前も半分くらいしか覚えていないのに、あいてはこちらを覚えている
これが唯一の男子というネームバリューのおかげだと思うのと同時に、こちらが相手の名前を覚えていないのに申し訳なく思う
(気をもむ必要がどこにある? こっちは有名人であっちは無名人。おいおい名前を覚えていけばいいじゃないか)
一時箸を置き、お茶を飲んでいると話しかけられる
「ねえ、いよいよ今日がオルコットさんとの試合だね」
「どう? 勝てそう?」
「うーん、こっちは初心者。あっちは上級者。そこいらの子どもとオリンピック選手の差があるようなものだし厳しいかな」
そうは言いつつも、コレまでISとアリーナの使用許可を貰いながら訓練をした日々を思い出す
基本的な『人間が行う動作』はある程度まで習熟は出来た。だが、問題は飛行だ
各々のイメージによって飛行をするIS、それを扱うには優れた空間把握能力とイメージ力が大切だった
「でも、やれることはやったさ。全力を尽くすよ」
グッと右手を握る
そして、唯一の勝利への道を思い浮かべた。そう、普通の量産型ISでは不可能な事。それは――
――織斑、お前には専用機が与えられる
そう告げられたのは決闘が決まった次の日だったか
――あら、量産型じゃあないのならある程度は楽しみに出来ますわ
だが、量産機じゃない強み。すなわちワンオフアビリティ。それさえ発現させることが出来れば大きな力となり勝つ確率は0から0.1までには上がるだろう
しかし、それを発現させる事は容易ではない。代表候補生ですら難儀する程のことだ
(出来るできないじゃない。やるだけだ)
「だから頼むよ、白式」
試合ぎりぎりになって運ばれてきた真っ白な機体、白式
それに手を触れながらそう言うのだった
「調子はどうだ?」
「上々です、先生」
白式を纏い、ハイパーセンサーで強化された視界が目の前にいる姉の姿を鮮明に映し出す
その隣には箒が、頑張れと激励してくれる
「では、行きます!」
飛び立ち、すでに待機していたセシリアと対峙する
「逃げずにやって来ましたわね。そのことは褒めて差し上げますわ」
「ああ。あそこまで言われて引き下がるほど軟弱じゃないんでね」
「――雰囲気が違いますわ」
試合開始のアラートが鳴り響く
「でも、ここで終わり! このブルーティアーズに踊らされ無様に落ちなさいな!」
「それは、やってみなくちゃ分からない――!」
刹那、瞬時に放たれたビームに反応して飛び退く
この機体、白式は未だファーストシフトすら行われていない量産機にも劣る状態。故に、何が何でもそれが終わるまで機体を落とされる訳にはいかない
「やりますわね」
「何もせず一週間を過ごしたわけじゃないさ」
「ならもっと楽しませなさい!」
ブルーティアーズは遠距離攻撃の銃撃戦を得意とする
そして己の白式の装備はブレード一本
(懐に入るか?)
「やるしかないだろ!」
迫り来る弾丸を間一髪のところでよけながらも好機を伺う
自分用に設定されつつあるこの機体は時間が経てば経つほど己の動きにより忠実に動くものになる。だが、ここで下がってばかりいればジリ貧だ
寄って
「そこっ――!」
「させませんわ! ブルーティアーズ!」
突撃をするが、ビットに阻まれる
「砲台!」
「先ほどまでの無様な避け方。それじゃダンスは踊れなくてよ?」
手に持った銃の他に遠距離攻撃が出来る砲台。しかもそれは自ら動き続ける
(ビットを破壊するのが先か?)
「避けるが先か?」
顔元を掠める相手の攻撃
驚異的な反射でソレを避けつつ、その時を待った
轟々と鳴り響く相手の攻撃。対してこちらのブレードは一切届かない
(待てよ、一夏)
「ああ」
そして、相手が一時止まる
「あらあら、もうシールドエネルギー半分もありませんわね?」
その瞬間を
「これで」
待っていた――!
「おしまいですわ!」
ビット、ブルーティアーズの一斉砲撃。それを食らいながらも、不敵に笑った