お隣さんと俺   作:しいから

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お隣さんと俺

朝起きて顔を洗う。

ご飯を食べて歯を磨く。

身支度をして学校へ向かう。

 

「あっおはようございます!」

 

「うるさいです」

 

お隣さんに叱られる、これが俺の日常です。

 

「今日もお隣さんに可愛かったなー」

 

「まーた惚けてるよこの変態」

 

今日も今日とて可愛いお隣さんを見れて嬉しいだけなのに何故変態と言われなければならないのか。

 

「変態じゃないし、可愛い人を可愛いって言ってるだけだし」

 

「それを毎日聞かされる俺の身にもなれ」

 

別に聞かせてるつもりは無いのだが、まあ俺とこいつは同じクラスでお互い席が近いから自然と聞こえるものだ。つまり事故。

 

「にしてもお前も懲りないよなー」

 

「なにが?」

 

「どうせ今日も挨拶返して貰えてないんだろ?」

 

「うるさいですと返されたが」

 

「すまんな、日本ではおはようにはおはようって答えるもんなんだ」

 

それは偏見では?と思ったがおはようにはこんにちはって返されたら変な気分になるな。まあ、うるさいはそもそも挨拶ですらないが。

 

「俺は会話出来たことがうれしいの」

 

「毎日同じ内容じゃねぇか、ボットと会話してんのかお前」

 

「お前お隣さんをボット扱いとはいい度胸してんな」

 

「いやものの例えだがら落ち着け」

 

例えにしても酷すぎる。せめてアンドロイドとかにしろよ。いや変わらんか。確かにお隣さんと出会って一週間、毎日俺がおはようと言いお隣さんがうるさいですと返すのがもはや当たり前すぎて気にならなかったが、普通に考えればおかしいな。

 

「俺もしかして嫌われてる?」

 

「いやその結論に至るの遅すぎだろ、てか別に嫌われてはないと思うがな」

 

「お前にお隣さんのなにが分かる」

 

「お前情緒不安定かよ」

 

真顔でそういう事言われると流石に傷つくんだが、まあこいつの言い分も最もだと思う。俺は確かに毎日うるさいですと言われているが、そもそも嫌いな相手なら無視するし最悪出る時間帯を変えるはずだ。

それをしないということは好きでも嫌いでもない中立の存在、てか単純に俺の声がでかいからそれを指摘してるだけか。

 

「俺、もっと小声になるよ」

 

「そうか頑張れよ」

 

友人の応援はあまりに淡白だった。

次の日、いつも通り同じ時間に家を出る。それに少し遅れてお隣さんが出てくる。うちは五階建てのマンションで、俺とお隣さんは四階に住んでいる。すなわちほぼ確実にエレベーターを使うので毎朝出会うという訳だ。

 

「あっ、おはようございますー」

 

できるだけ小さく語尾も伸ばして明るい感じを演出する。若干語尾が上がったので煽ってると思われてないか心配だ。

 

「…」

 

「…」

 

結果沈黙、これならうるさいですと返された方がマシなんだが。

 

「なぁ聞いてくれよ」

 

「なんだよ」

 

「今日大人しめに挨拶したら無視された」

 

「つまりお前には指摘以外掛ける言葉がないという事だな」

 

こいつはオブラートと言う言葉を知らないのか?後でググらせよう。

 

「なら明日からまたでかい声で挨拶するしかないな」

 

「普通に考えて迷惑だろ」

 

それでも返事をして欲しいという俺の考えは間違いだろうか?誰しもそういう願望があるはずだ!まあ相手が迷惑に思ってる時点で間違いだしダメなんだろうけど。

 

「なら俺はどうすればいいんだぁ」

 

「まずは相手のことを知るってのはどうだ?」

 

「相手を知る?」

 

「そう、相手のことを知れば自ずと掛ける言葉も見つかってくるだろ」

 

なるほど一理あるな。俺が知ってるお隣さんか、毎朝俺と一緒の時間に家を出る、多分社会人、年齢は二十代前半、髪はセミロングで後ろを結いている。顔立ちは整っているが目の下のクマがすごい、多分残業とか凄そう、頼まれたら断れない性格してそう、基本真顔。

ここから導かれる俺の解答は。

 

「多分お隣さんがブラック企業に務めてるね」

 

「いやおかしいだろそれは」

 

渾身の答えだったのに…。

 

家に帰ってからも色々とお隣さんのことを考えてみるが、そもそも一度も会話したことないのに知るはずがないと今更気づいた。

だからといって赤の他人の俺が「最近調子どうですか?」なんて聞いたら通報されかねない。それに俺はお隣さんと深い関係になりたい訳では無いのだ。なんというか学校とかにいる遊ばないけど毎日挨拶やら雑談をする間柄というか友達以下他人以上の関係になりたいというか。つまりは話がしたいのです、はい。

 

次の日俺はいつもより遅く家を出ることにした。正確にはお隣さんが出てから家を出るという算段だ。決して前回の失敗で避けられるのではとか考えてはいない。ただ単純に後から出てみたいと思っただけです。

そんな言い訳を並べてから早十分、とっくにいつもの時間は過ぎそろそろ行かないと遅刻する時間になりそうだ。なのに、お隣さんが一向に出てこないのだ。先に出たかと思ったが俺はそもそも起きる時間は早かったし、その時に隣から家から出る音は聞こえなかった。

 

一番の候補として今日が会社の休みってことだ。まあこればっかりは何も知らない俺が分かるはずもない。いい加減馬鹿らしくなってきたので俺はそのままドアを開け鍵を閉めてエレベーターへと向かった。

下の階へ行くボタンを押し今朝の愚行を思い返す。なんてことだこれじゃあただのストーカーだ、俺は別にこんなことがしたいわけじゃないだろ。自分の行いに自己嫌悪していると左側で扉の開く音がした。

振り返るとそこにはお隣さんがいた。

いつも通りの髪型服装、少しクマのある目元に真一文字に結ばれた口。いつもと変わらぬ姿でお隣さんはこちらへ向かってくる。

 

するとちょうどいい感じでエレベーターが来たので、俺は先に入り開くボタンを押しっぱなしにする。

朝はいつも俺が先に出るのでこの動きにも慣れたものだ。そして少し駆け足でお隣さんが乗り込み俺は一階ボタンを押し閉じるボタンを押す。いつもと違う所といえば俺がお隣さんに話しかけないことだろう。聞きたいことは沢山ある。俺の事どう思っているか、好きな食べ物は?趣味は?好きな人のタイプは?何故今日は出るのが遅かったのか?。だが昨日のこともありどうも俺は怖気付いているようだ、口は開くのに言葉が出てこない。

まあいいかどうせ他人なんだ、やっぱ前の関係の方がよかっ…。

 

「今日は、出るの遅かったですね」

 

「へ?」

 

突然のことに思考が止まる。今俺に言ったのか?お隣さんが?出るの遅いって家ってこと?ていうかそれってつまり俺の出る時間を見計らってたってこと?いやそれは無いか流石に自惚れすぎだな。せっかく話しかけてもらったのに無駄にしちゃダメだ。ここはひとつ空気の読める一言を。

 

「いやー今日は寝坊しちゃって!でもお隣さんも珍しいですね今日は遅出勤ですか?」

 

「…」

 

あっれーなんでー?。俺なんか不味いこと言ったかな?それともお隣さんは単純に自分の思ったことを俺に言っただけ?会話はしたくないってこと?わからない、わからないかけどなんかイラッとした。

そもそも俺が話しかけた時に無視するのはわかるけど、自分が話しかけた時くらい返事してくれてもいいじゃないか。

そりゃあ、俺は赤の他人だし引っ越してきたのもつい最近だ。だけど一応同じ場所に住む仲間じゃないか、なのに寄り添うこともしないで自分の欲求だけ満たして流石に酷いんじゃない?。

俺はさっきまでの遠慮が嘘のようにお隣さんに話しかける。

 

「それにしてもいつもお隣さんって出るの俺の後ですよね」

 

「…」

 

「別に疑ってるわけじゃないですけどもしかして狙ってやってます?」

 

「…」

 

「今日だって俺遅れたのにそれよりも後に出てくるなんて少しおかしくないですか?」

 

「…」

 

「ひょっとして俺の事好きだったりして!」

 

「…」

 

それでもお隣さんが俺の問いに答えることはなかった。終始無言、傍から見たら俺のただの独り言と思われてもおかしくないほどだ。

いやそれ以前に俺は一体何を言ってるのだろう。勘違いも甚だしい、これじゃただの頭お花畑の変態じゃないか。自己嫌悪に浸っているといつの間にか一階に着いていた。お隣さんは何も無かったように落ち着いた足取りでエレベーターから出ていった。俺が言ったことなんて本当に聞こえてないようだった、実際聞くに値しない内容だったし聞いてない方が都合がいいけどね。

 

「あれ?」

 

ふと下を見てみると何やらメモ帳が落ちていた。これは、お隣さんのか?随分真新しい最近買ったばかりという感じだ。どうする、届けるか?いやでも気まずいしなぁかといって置きっぱなしにしとくのも気分が悪いし。仕方ないここはさっきの事の謝罪も兼ねて渡しに行くか。俺は小さな決意を固めお隣さんを呼び止める。幸いエントランスから出たばかりだったので呼び止めることが出来た。最悪無視されることも考えたが、そんなことは無くお隣さんはその場で止まった。

 

「えーと、その」

 

さっきまでの饒舌はどこに行ったのか、俺の舌は接着剤でも付けられたかってくらい固まっていた。まあさっきあれだけ醜態を晒したのだいくら俺でもきついものがある。しかし時計を見ると八時十分頃を指している。不味いこのままでは俺もお隣さんも遅刻してしまう、俺はともかくお隣さんは社会人だそれだけは阻止しなくては。

意を決して口を開く。

 

「あの、ですね、これってお隣さんの物ですよね?」

 

「…!」

 

するとお隣さんはいつものゆっくりとした足取りではなく、陸上選手並の速さで俺の手からメモ帳を奪い取った。なんちゅー速さ、さながらウ〇イン・ボルトだ。心の中でよくわからない賛美を送っているとお隣さんに方を掴まれた。しかも両肩、地味に痛い。

 

「えぇと、どうしました?」

 

「…た」

 

「え?」

 

「見ました?」

 

お隣さんは今にも泣きそうな顔で聞いてきた。やべ…正直めっちゃ可愛い、じゃなくてあのメモ帳そんなやばいことが書かれてるのか。

まあなんにせよ見てないものは見てないんだし、ここは正直に答えよう。

 

「えぇ、見ましたよ」

 

「っっ!!!」

 

あれ?俺今なんて言った?見ましたよって言ったのか?。馬鹿野郎!俺の馬鹿野郎!何してんのぉ!?どうして状況をややこしくするかなぁ俺ってやつは。でも仕方ないんだって!涙目のお隣さん見てるとこう嗜虐心をそそられるというかなんというか。

とっとにかく今のは嘘だと言わなきゃ、これじゃあ仲良くなるどころか隣の部屋が空き家になっちまう!。

 

「いやあの今のは」

 

「…ひっく」

 

「へ?」

 

「…うっうわぁぁぁん!」

 

「ええ!!?」

 

「見られたぁ!!もう私生きていけないぃ!」

 

えっええぇ!?嘘でしょ!あのクールなお隣さんが号泣ってどんだけのこと書かれてるんだよ!てか泣いてるお隣さんも可愛い…じゃなくて!どうすりゃいいんだこの状況。もう結構取り返しのつかない所まで来てる気がするけど何とかしなきゃまずい!。

こんなとこ誰かに見られたら…。

 

「君達どうしたんだ」

 

ポリスメーン!?今最も会いたくないランキング二位の人じゃん!ちなみに一位は大家さんあの人すっげえ怖いから怒らせたらやばい。

でも結局一位も二位も大差ねぇ!あかんこのままじゃ俺この年で牢屋行きじゃん。どうしよう絶対絶命すぎるもう神に祈るしかねぇ…。

 

「ええとですねぇ、これはその」

 

「ん?なんだよく聞こえないぞ」

 

「すみません私と彼付き合ってるんです」

 

「へ?」

 

「ほう」

 

「でもちょっと恥ずかしいものを見られてしまい泣いてしまいました」

 

「恥ずかしいものとは?」

 

「ええと…」

 

「私の彼へのラブレター、です」

 

ん?らぶれたー?それって好きな人に送る別名恋文というやつかい?いつ渡された?てか俺とお隣さんがつつ付き合ってるってどこソース?もう訳が分からんとりあえず恥じらってるお隣さん可愛い。

 

「なるほどね、全くイチャイチャするのは構わないけど場所を弁えてくださいね」

 

「はい、すみませんでした」

 

「…」

 

警官は嫌なものでも見たようにそそくさとどこかに行ったが、俺は頭がパンクして動けないし、お隣さんも何故か俯いたまま動かない。

永遠にも感じられる静寂、実際は五分も経ってないであろう静寂を破ったのはお隣さんだった。

 

「…それでは」

 

「あっ、えっと」

 

「なんですか?」

 

急な別れに思わず声をかけてしまったが、一体何から聞けばいいのやら。メモ帳の中身のことや急なカップル発言、いつもの素っ気ない態度のことだって聞きたい。だが今はそんなことよりもやらなきゃいけない事があるだろう。

 

「先程は助けていただきありがとうございます、そして色々とごめんなさい」

 

俺は深々と頭を下げる。今朝から俺は迷惑をかけすぎだエレベーターでの無神経な発言にメモ帳を見たという嘘。オマケにこんな俺を庇ってくれたのだ。謝っても許されることじゃないがそれでも下げない訳にはいかない。

 

「顔を上げて()()くん」

 

「いえ、ってなんで俺の名前知って——」

 

驚きのあまり顔を上げる、と同時に俺の唇に柔らかいものが押し付けられる。キス、俺は今はお隣さんとキスをしている。何故?いやわからん、唇柔らか…。

 

「んん!!」

 

「ああん、もう暴れないでよ」

 

「いっいやいや!急にキキキスなんて何考えてるんですか!」

 

「えーだって私たちもうカップルでしょ?キスくらい、いいじゃない」

 

「はいぃ?カップルってそれは警官を騙すための口実じゃ…」

 

「違うわよ、ちゃんとメモ帳に書いてあるじゃない」

 

「メモ帳?まさか…」

 

「ほらここに書いてあるじゃない、よく見てよ」

 

そこには、【これを見た人は永遠に私と付き合う】と書いてあった。

永遠?付き合う?何を言ってるんだ、それにこんな子供だまし誰が信じるんだ。

 

「あっ、ちなみに拒否したら私死ぬから」

 

「なぜ!?」

 

「えーだっていい歳してこんなの書いてるって知られて、生きていけるわけないじゃない」

 

「いやここに一人いますけど」

 

「だからあなたさえ誰にも言わなければ大丈夫ってことよね」

 

「それは、そうですけど」

 

「もし、この秘密を誰かにバラしたら死んであなたに殺されたってことにするから」

 

…ぶっ飛んでやがる。ていうか人変わりすぎじゃない?もはや別人じゃん、清楚なお隣さんを返してくれよ。

 

「それで?俺はどうすればいいんですか?」

 

「んーとそうねぇ、基本的には秘密さえ守ってくれればそれでいいんだけど…」

 

「あっそうだ、さっきみたいにカップルみたいなことしましょ」

 

「ワッツ?」

 

「だーかーらー、カップルっぽいことするの!あなただってどうせ彼女いないんでしょ?」

 

「いっいないけどどうしてそんなこと」

 

「寂しいのよ、最近仕事仕事の連続で女らしいこと全然出来ないし」

 

「確かに俺の挨拶にもうるさいですしか返してくれなかったですもんね」

 

「いやあれは普通にうるさかったから」

 

俺は今日一ショックを受けた。

 

「ってもうこんな時間!それじゃ!話はまた今夜ね!」

 

「あぁ!おい!、行っちまった…」

 

世の中なにがあるかわからないと言われているが、こんなの予想できるわけがないだろ。ああ学校もこの時間じゃ遅刻だな、最悪だマジで。せっかく話せたと思ったら想像以上に変人だし、いきなりキスしてくるし唇柔らかかったし…。

でも、それでもお隣さんは可愛いと思っている馬鹿野郎がここに一人ニヤけ顔でたっているのであった。

 

 

 




後半がぶっ飛んでますね
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