アルビダ姐さんはチヤホヤされたい!   作:うきちか越人

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クソザコすぎるサブタイ再び




鳥籠の少女と二人目

 ーーもうずっとこの人たちの言いなりだ。

 

 ーーこんな生活から抜け出したい……自由になりたいよ……

 

 

 

 

 

━━━━━━━

 

 

 

 

 

「痛みが聞こえる少女?」

 

 

 

 スベスベの能力者を倒してから二週間余り。

 図鑑片手に島を捜索したけれど、スベスベの実は見つかることはなかった。

 気落ちしていてもしょうがないので、次の島へ向かうことに。

 

 着いたのは大きな街のある島。

 にも関わらず、この島には海軍支部はなかった。

 アタシたちにとっては都合が良いのだが、不思議に思って街の住人に聞いてみたところ理由はすぐにわかった。

 どうやらこの街ーーと言うかこの都市国家らしいのだけれど、世界政府非加盟国らしい。

 だから海軍に守られることもないようなのだ。

 

 まあ非加盟の国とは言うもののそれは自称にすぎず、単純に政府の方から国と認められていないだけのただの大きな街にすぎない。

 ミンク族が暮らす幻の国"ゾウ"や侍などの戦力を保有する"ワノ国"のように、加盟を拒否したわけじゃあない。

 拒否した殆どの国は、どこかで延々と橋を作らされるんだったかな?

 そんなこの国…………街で良いか。この街に入って色々と情報を集めている時に、酒場で先の話を聞いたのだ。

 

 

「そうだぜ美人さん。その"痛みが聞こえる少女"ってのはこの国を牛耳る、通称"ファミリア"ってとこにいるんだ。……あまり大きな声では言えねぇがな」

「ふぅん。で、その少女がどうしたんだい? 態々話題に挙げるってことは何かあるんだろう?」

「ああ、美人さんが探してるっつう不思議な果実? だったか。まあ、その少女も不思議な力が使えるんだ。生まれつき周りの声が頭に響いていたらしくてな、それが成長するにつれて無くなってくのと逆に、今度は近くにいる人間の体の中から発せられる痛みの悲鳴が聞こえるようになったとか」

「へえ…………なるほどね」

 

 それはもうあれだろうねえ。

 悪魔の実の能力って可能性も捨てきれないけれど、十中八九生まれつき身に付いていた見聞色の覇気だろうね。

 確か空島編で出てきたキャラクター"アイサ"も生まれつき"心網(マントラ)"、青海で言う見聞色の覇気が備わっていた。

 その力で度々"神の島(アッパーヤード)"に侵入し、神兵たちに見つからずにヴァースーー空島には本来無い土を盗み出していた。

 

 その"痛みが聞こえる少女"ってのは、それの亜種なんじゃあないかと思っている。

 鍛えたのかはわからないけれど、人を"見る"、"聞く"ことに特化した見聞色なんじゃあないかな。

 

 

 …………興味が湧いてきたねえ。

 一目だけでも見ておこうか。

 

「面白そうな話だよ。アンタ、そのファミリアってのがいる場所を教えな」

「ば、バカ言っちゃいけねぇ! あいつらはギャングだ。あんた、殺されるぞ!」

「それがどうしたってんだい? アタシらは海賊さ。ギャングなんかにイモ引くわけないじゃあないか。…………それにアンタの心配はもう手遅れみたいだしねえ」

 

 このおじさん、さっき『大きな声では言えねぇが』って言っていたのに大声を上げたせい……と言うかお陰で、そのファミリアというギャングの構成員と思われる三人の男がアタシらのテーブルに歩み寄ってきた。

 都合が良いねえ。態々あっちからやって来るとは。

 

「オイ別嬪の姉ちゃん、おれたちに何か用でもあるのか?」

「海賊だとか抜かしてたが、あんまり舐めてっと痛い目見るぜぇ~?」

「それより良ぃ~女だなぁ……売ったらとんでもねぇ高値が付きそうだ」

「…………ボガード」

「ヘイ、姐さん」

 

 ボガードくんはスクッと立ち上がり、まずは手近にいた男の顔面へ拳を一発。

 そいつは、なんか『ぼべラぁっ!?』とか変な声を上げて、周りのテーブルを巻き込み吹き飛ばされた。

 残りの二人はそれを見て一瞬呆けていたけれど、咄嗟に懐からナイフを取り出す。

 まあでも、すぐにボガードくんに二人とも顔面を鷲掴みにされて為す術がなくなっていた。

 顔面が支えの宙ぶらりん状態になった構成員の二人は、ボガードくんの腕にナイフを突き立てたり蹴ったりで抵抗を見せていたけれど、鷲掴みにしたまま鉄塊(テッカイ)に入ったボガードくんには全くの無意味に終わった。

 ミシミシ、と頭蓋骨が悲鳴を上げ二人の男はギブアップ。

 解放された二人と酒場にいた者たちからは怖れを孕んだ眼差しを向けられる。

 

 ……ダメじゃあないかい、そういうのは。

 敵からならまあ悪い気持ちにはならないけれど、そうじゃあない奴らはちゃんとアタシをチヤホヤしなきゃあダメだよ。

 まったく……

 

「んで、アタシはその"痛みが聞こえる少女"ってのに会いたいんだ。アンタたち、ファミリアとかいう奴らの人間なら今どこにいるかわかるんだろう? さっさと案内しな」

「は、はい!」

 

 最初にボガードくんに殴り飛ばされて伸びている男を蹴り起こし、三人にその少女の下へ案内させることにした。

 ちなみに、酒場でのお代はこの三人に払わせてやったよ!

 

 

 

 

 

━━━━━━━

 

 

 

 

 

 街中央にある大広場。

 この街を取り締まるギャングの"ファミリア"は定例となった"パフォーマンス"を行うため、ボスを含めた大勢の構成員たちがゾロゾロと集まっていた。

 その中にあって、屈強な男たちに囲まれた灰色の長い髪の華奢な少女。

 革の首輪に繋がれ悲壮感を醸し出すその少女は、周りの男たちと比べ酷く不釣り合いに見える。

 

 "痛みが聞こえる少女"

 

 彼女ーーリィリィがそのように呼ばれて久しい。

 痛みが聞こえるという他人とは違った異質な力。

 その力に目を付けたファミリアが彼女を軟禁し、それを利用してこの街の在り方を変えてしまった。

 

 簡潔に言えばその力は病気だったり、内臓の不調だったり、目に見えない体の不調が聞こえてくるというもの。

 その力に誤診はなく、町医者たちは挙ってリィリィの力を頼りにした。

 初めはそれで上手くいっていたのだが、徐々に診察をリィリィに依存していくようになると同時にファミリアが動いた。

 彼女を手の内に加え直接、間接的に町医者たちを支配。

 今ではファミリアに"袖の下"を通さなければ住人たちは治療を受けられなくなってしまったのだ。

 

 

 彼らは知る由もないが、某医療大国の王の政策と似たようなことをしていた。

 流石に医者狩りといった暴挙には出ていないが。

 

 

 彼らのパフォーマンスと言うのは大広場で適当な住人を捕まえ、リィリィに敢えて誤診させるというもの。

 ありもしない病気を伝えさせて、医院へ駆け込ませる。

 そして治療(・・)を行った町医者たちから"上がり"をいただく。

 リィリィの力を悪用し、痛みが聞こえる力が本物であると知っている住人たちの不安感を煽る手法。

 そうやって彼らは地盤を固めていったのだ。

 

 

「ーーーーです……すぐに治療を受けてください…………」

「だ、だがおれは体に不調をきたしたりはしてないぞ!?」

「ブフフフフ! それを無視して大病に繋がったらたぁーいへんですよぉ?」

 

 下品なスーツを纏い、舐めるような口調のブクブクと肥太った男。

 ファミリアのボスがそう不安を煽る。

 住人の青年はそれを突っぱねても良かったのだが、ファミリアの暴力という背景を怖れて渋々と立ち去った。

 

「ブフフフフ! 良ぉくやりましたねぇリィリィ。やはり貴女の力は我々に役立ちますねぇ。これからもどぉぞ宜しく頼みましたよぉ?」

「…………はい」

 

 そう言うしかない。

 街の誰もが彼らを怖れている。

 

 

 ーーきっと私は、このまま鳥籠に囲われたまま……

 

 

 しかして、彼女を閉じ込めていた鳥籠は前触れなく破られることになる。

 それは突然のことだった。

 

 

 

「どうやら"痛みが聞こえる少女"の力、本物みたいだねえ。良いよ、かなり欲しくなってきた」

 

 

 

 リィリィの前に神の造形とも言えるような美女が姿を見せた。

 

 

 

 

 

━━━━━━━

 

 

 

 

 

 三人組に案内される道中、この街のあらましを聞き出した。

 医者から支配するって、まんまじゃあないかい。

 

「とある冬島みたいなことしていたんだねえ」

「冬島?」

「ああ、こっちの話さ。気にしないで良いよ」

 

 手っ取り早く支配を進めるには悪くない手法だね。

 長続きするかは別の問題だけれど。

 

 そうこうしている内に着いた場所は街中央の大広場。

 壇上のようになっている所ではスーツ姿の太った男と青年、それから腰までかかる灰色の髪の少女がいた。

 野次馬のように集まった民衆の中から見てみれば、どうやらこの灰色の髪の少女が"痛みが聞こえる少女"だと思われる。

 

 かつてシャンクスたちにアタシが一目で覇気使いだと見破られたように、アタシの拙い見聞色で見ても彼女が覇気使いだということがわかった。

 まあ上手くコントロールは出来ていないみたいだけれどね。

 

 天然の覇気使い。

 ……船員(クルー)に欲しいねえ。

 それに昔は住人たちの診察をしていたんなら多少は医療の心得もあるだろうし、是非とも船医としてスカウトしたい。

 そのためにはファミリアとかいう奴らは邪魔にしかならない。

 まあ、さっさと退場願おうかね。

 

 

「どうやら"痛みが聞こえる少女"の力、本物みたいだねえ。良いよ、かなり欲しくなってきた」

 

 

 大物っぽいムーブをかまして乱入する。

 注目は一斉にアタシたちに向かった。

 ……ちょっとボガードくん、アタシへの眼差しを奪うんじゃあないよ。

 

「誰ですかぁ? あなたたちは。我々が誰だかわかっているんでしょうねぇ?」

「アンタたちと話すことは何もないよ。"痛みが聞こえる少女"だったか。単刀直入に言うけれど、アタシはアンタが欲しい」

「え? わ、私……ですか?」

「ああそうさ。アンタのその力のことをアタシたちは知っている。アンタがアタシたちと一緒に来るかどうかはアンタの自由だ」

「あの、一緒に行くって……貴女たちは……?」

「海賊さ。まだそこのボガードも含めて二人だけれどね。船医としてアンタが欲しいのさ」

 

 まあファミリアのボスを無視して堂々とスカウトしてりゃあ当然だけれど、太っちょのボスが会話に入ってきた。

 

「困りますねぇ、リィリィは我々のモノ。勝手に連れて行こうとするなんて」

「アンタの許可は求めてないよ。黙ってな。で、アンタ……リィリィだったか、アンタの答えはどうなんだい?」

「あ……わ、私はーー」

 

 このままの生活を続けるか、海賊になるか。

 そしてたった二人の海賊が街を牛耳るギャングを敵に回して無事で済むのか。

 

 まあ、そんなところだろうねえ。リィリィの内心は。

 十数秒の間を置いて彼女の答えは出た。

 

 

「ーー私はっ! もうこんな所にいたくないですっ!!」

「良し。じゃあリィリィ、アンタは今からアルビダ海賊団(ウチ)の船医だ。歓迎するよ。文句はないねボガード」

「ヘイ、姐さん」

 

 

 涙ながらに思いの丈を吐き出したリィリィ。

 うん、どうやらスカウトは上手くいったみたいだ。

 まあファミリアの意思はガン無視なのだけれどね。

 アタシたちは海賊なんだから、欲しいものがあったらその所有者の意思なんか一々気にするわけない。

 勝手気ままに奪い取るだけさ。

 

 あちらさんは怒り心頭といった感じでアタシたちとリィリィを交互に見やる。

 

 

「……リィリィ、後で覚えておきなさいよぉ? お前たち! そこの海賊風情に我々の力を思い知らせてやりなさい!」

 

 どこの悪代官だ、と内心思ってしまったのはしょうがないと思うの。

 

 ボスの号令から、周りを囲んでいた構成員たちがアタシたちに襲いかかる。

 見聞色で見ても圧倒的に格下だ。

 まあ、新しい仲間のためにレクチャーでもしようかねえ。

 

「リィリィ、アンタのその力は"覇気"と呼ばれるものだ。その中でもアンタのは"見聞色の覇気"と言って…………例えばこんなことも出来る」

 

 アタシに四方八方から襲いかかる男たち。

 そんな中アタシは目を瞑り、振り下ろされる剣や槍の突きを次々に避ける。

 

「見聞色……文字通り"見て"、"聞く"力さ。アンタも痛みが"聞こえる"んだろう?」

 

 喋りながらも敵の攻撃をまるで全周が見えているかのように避け続ける。

 次第に相手の勢いは落ちてゆき、へばって倒れた男たちがアタシの周りで膝を突いた。

 

 ああ、ちなみにボガードくんの方はと言えば、一人だけ無双ゲームをしているみたいだね。

 面白いようにポンポンと人が宙を舞っている。

 ファミリアの構成員たちの阿鼻叫喚が辺りに響いていた。

 あれじゃあまるで怪獣だよ。

 

 

 さて、大広場にいた構成員たちはあらかた片付いた。

 残っているのはファミリアのボスと数人程度。

 ボスが残っているとは言え、壊滅と言って良いんじゃあないかな。

 

「ま、待て! 金ならいくらでもーーーーブヒィッ!!」

 

 はい、テンプレな命乞いの台詞はカット。

 顔面を蹴り飛ばして黙らしてやった。

 と言うか『ブヒィッ!!』って…………

 まるっきり豚みたいじゃあないか。

 

 まあこれで本当に終わり。

 ボスがやられたのを見て僅かに残っていた奴らも戦意を喪失したみたいだ。

 そして街の住人たちにも鬱憤が溜まっていたのだろう。

 ボスも含めたファミリアの面々を縛り上げ、大広場は歓声に包まれた。

 ここ以外にも構成員はいるんだろうけれど、まあそこまでのことはアタシの出る幕じゃあないね。

 

 一通り騒ぎが収束してきたところで、トコトコとリィリィがこちらへ歩み寄って来た。

 

「あ、あの……」

「ん? なんだい?」

「あ、ありがとうございましたっ! ええっと……」

「ああ、そう言えば名乗ってなかったねえ。アタシはアルビダだよ。んで、こっちのゴツいのがボガード」

「どうも、ボガードと申しやす。宜しくお願いしやすリィリィの姉さん」

「ね、姉さん!? あの……私姉さんなんて呼ばれるような人間じゃ……」

「気にしなくて良いよ。ボガードの癖みたいなもんさ」

「あ……は、はい! こちらこそよろしくお願いします、ボガードさん!」

 

 うん、良いね。

 超有能なボガードくんですら持ち得なかった医療の心得。

 そこを補ってくれる船医は本当にありがたい。

 まあ、リィリィの知識がどのレベルのものかはわからないけれど、多少なりとも医療に携わっていたのだから期待外れと言うことにはならないだろうね。

 

 リィリィがこの街からいなくなれば、診察を彼女に依存してきた町医者は困るだろうけれど、そこまでのことはアタシが関与することじゃあない。

 むしろその町医者たちがリィリィに依存していなければ、ファミリアの支配はここまで広がっていなかったと思う。

 だからまあ、悪いけれど彼女はアタシが貰って行くよ。

 文句は言わせない。

 

 

 

 

 

 

 アタシたちは街の住人たちから歓待を受けた。

 街のヒーローだってチヤホヤしてくれた。

 海賊なんだからそんな柄じゃあないんだけれどね。

 

 まあチヤホヤしてくれるのならどうだって良いか!!

 

 最初にリィリィの情報を教えてくれたおじさんは、どうやら元々街の偉い人だったらしく、色々と便宜(べんぎ)を図ってくれた。

 例えば食料だったり、医療品だったりとか。

 中でも嬉しかったのは船を新調してくれたことだ。

 

 今までの小船には愛着があったけれど、一人船員(クルー)が増えたので少々手狭になってしまう恐れがあった。

 なのでその船を下取りしてもらって、その代金でそのまま新しい船を貰った。

 実質タダみたいなもんだね。

 設備なんかはあまり変わらないけれど、そこそこな大きさの船だ。

 三人でも十分に航行させられる。

 良い貰い物をしたもんだねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 明けて翌日。

 見送りに来てくれた人たちを背に、新しくなった船へ乗り込む。

 いつも通り、アタシ、ボガードの順に乗り、そして今日からはそこに新たな仲間リィリィも加わった。

 やや覚束ない足取りで船へ足を踏み入れる。

 

「じゃあ改めて。ようこそアルビダ海賊団へ、リィリィ」

「ようこそでやす! リィリィの姉さん!」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 んん~、やはりアタシは天気にも愛されている。

 こうまで出航の日の天気が良いところを見るに、どうやら天気の神様までもアタシにホの字にさせてしまっているようだね。

 

 さて、それじゃあ新しくなったアルビダ海賊団の船出を祝っていつものやっとこうかねえ。

 

 

 

「行くよボガード!」

「ヘイ、姐さん!」

 

 

 そして

 

 

「行くよリィリィ!」

「は、はい船長!」

 

 

 

 旅は順調だ。

 良い船出になったよ。




ボガード(男はあっし一人……女は姐さんとリィリィの姉さんの二人…………はっ! これが巷で噂のハーレムか!!)



あ、オリキャラの仲間はもう増えません。

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