アルビダ姐さんはチヤホヤされたい!   作:うきちか越人

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閑話 ぼく/あっしの姐さん

「そう言えばよォボガード」

「なんでやすか、サンジ?」

 

 海上レストラン"バラティエ"厨房内。

 フルーツパフェを作るサンジと、その横でメインの肉料理を作るボガードの二人が会話している。

 二人の付き合いはそこそこの長さであり、ゼフという同じ料理の師を持つ者同士として早い段階で意気投合。

 普段から誰に対しても呼び捨てにはしないボガードが、サンジだけは呼び捨てにするくらいの仲になっていた。

 なんちゃって敬語だけは抜けていないようだが。

 

「お前アルビダお姐様とかなり付き合い長いだろ? 昔のアルビダお姐様のこととか知ってんのか?」

「勿論でさぁ。同じ島出身でやすからね」

「マジかっ!? 馴れ初めとか教えてくれよ!」

「まあ隠すようなことじゃないから教えやすよ」

 

 ボガードは懐かしむように視線を上に向ける。

 彼にとってアルビダがどのような存在なのか。

 

「あれは、そうでやすね…………あっしが七歳の時のことなんでやすがーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 ぼくの名前はボガードと言います。

 肩まで掛かる金髪で、男の子なのにちっちゃくて体も細いです。

 大きい二重の眼とか、日焼けを知らないような白い肌とか、島の人には度々女の子みたいと言われてからかわれたりします。

 七歳になったのですが男の子らしい成長はせず、背も大きくならないし筋肉もつきません。

 

 女男。

 

 ぼくのことを歳が近い子供たちは皆そう呼びます。

 それがとても嫌でした。

 でも頑張っても大きくなれなくて、その呼び方を訂正させることは出来ませんでした。

 しまいには、その子供たちはぼくに女の子が着るような服を着させてゲラゲラ笑われたりもしました。

 でも気の弱かったぼくは何も言い返せず、曖昧な笑みを浮かべてそれを受け入れてしまっていたのです。

 その子供たちはぼくが嫌がっているのはわかってないのでしょう。

 

 これからもそんな日々続くんだろうなぁと、諦めて受け入れようとしたある日のことでした。

 五日くらい前に他の島から引っ越してきた家族が町の外れに住んでいたのですが、その家の夫婦が長い船旅にやられて衰弱して亡くなったそうなのです。

 その家族にはこの町に知り合いはいなく、偶々挨拶にいった人が発見して丁重に葬ったそうです。

 その発見した人はその時気付かなかったようなのですが、その家族には七歳になる娘がいたのです。

 

 ある日その人は町長が持っていた住人名簿からそのことを指摘され、慌ててその家に向かおうとしました。

 でも、彼が向かおうとしたその前に残された女の子ーー"アルビダ"ちゃんがふらっと町に現れたのです。

 

 ぼくやぼくにイタズラをしていた子供たちは勿論のこと、大人たちでさえ男女関係なくアルビダちゃんに見惚れてしまいました。

 感動で息を呑む、という行為が知らず知らずの内に出てきてしまうほどの美貌でした。

 なんて言ったら良いのかわからなかったのですが、完成されているのに未完成な美しさといった感じでしょうか。

 

 道行く人々は、町長やアルビダちゃんの家に向かおうとした彼から名前を聞き出して積極的にアルビダちゃんとお話しようとしています。

 『アルビダちゃんは可愛いねー』とか『天使みたいだよ』とか、大の大人が七歳の少女に群がって次々賛辞の言葉を送っていました。

 『結婚してほしい』みたいなことを言ったおじさんもいましたが、周りの人に袋叩きにされていました。

 各食料品店の店主たちは、なんとかアルビダちゃんの気を引こうとタダで食べ物をプレゼントする始末です。

 

 アルビダちゃんの反応は素っ気ないものでしたが、ぼくは見逃しませんでした。

 称賛の言葉を浴びている時に、アルビダちゃんの口元がだらしなく綻んでいることを。

 多分内心嬉しかったんじゃないかと思います。

 

 アルビダちゃんが現れてから子供たちの興味はぼくよりもアルビダちゃんに移りました。

 ホッとした反面、ぼく自身の気の弱さに情けなくなりました。

 

 

 

 

 

 その後一週間くらい連続で町を訪れていたアルビダちゃんでしたが、同じく一週間くらい連続で姿を見せなくなりました。

 気になりましたが、また姿を現したのでその心配はどこかに飛んでいきました。

 陰から見ていたぼくでしたが、アルビダちゃんはいつも自信満々に町を闊歩しています。

 ぼくとは正反対で、とても羨ましかったです。

 

 

 アルビダちゃんとの交流は大体その辺りから始まりました。

 ある日町中でばったりアルビダちゃんと出くわしました。

 

「お? こりゃあ可愛い女の子だねえ。おれ……じゃなかった、アタシには及ばないけれど中々の素材じゃあないか」

「えっ? え、えっと……そのぉ……ぼく女の子じゃなくて、男の子だよ?」

「…………はあっ!? まさかの男の娘かよぉぉ!?」

「ひうっ! あ、あの、ごめんなさい……」

「ああーっ! 嘘うそっ! 今のなし! ……ゴホン。お……アタシはアルビダってんだが、アンタの名前は?」

「ぼ、ぼくの名前はボガードですっ」

「覚えた。ボガードくんだね」

「うん! よろしくお願いします、アルビダちゃん!」

「よろしく」

 

 とても嬉しかったです。

 この日からぼくとアルビダちゃんは良く話すようになりました。

 

 

 

 

 ある日はーー

 

「ほら、受け取りな」

「生魚?」

「ボガードくん来週誕生日だろ? その祝いだよ」

「プレゼントがお魚って……」

「なんだい? 文句あるってのかい?」

「ななな、ないです! ありがとうアルビダちゃん!」

 

 のように少しズレた感性を見せつけられたり、また別の日にはーー

 

 

「なあボガードくんや」

「なに?」

「おれ……じゃなくて、アタシってなんでこんなに美しいんだろうねえ」

「えぇ…………確かにアルビダちゃんは綺麗だけど……」

 

 と、自分に浸ることがとても多かったり。

 

 そんなアルビダちゃんですが、今でもふらっと姿を見せなくなる時があります。

 最近では一月近くいなくなることが多いです。

 でもまた町に戻ってきて、一週間もすればまたいなくなります。

 それとアルビダちゃんは自分でも気付いていないですが、時々自分のことを"おれ"と言ったまま訂正しない時があります。

 町からいなくなってなにをしているのかとか、男の子っぽい言動はなんなのか。

 とても気になっていたのですが、ぼくの気弱な性格のせいでずっと聞くことが出来ませんでした。

 

 

 

 

 

 そしてそのままぼくが十二歳になるまで、聞き出すことはありませんでした。

 

 アルビダちゃんはぼくより少し誕生日が遅いので十一歳でしたが今日誕生日を迎えました。

 少し前に姿を消していたのですが、そろそろ一月が経つので町に戻ってくるだろうと思い、プレゼントを用意して待っていました。

 

 そしてぼくの予想通り夕方くらいには町に来たのですが、そのアルビダちゃんの姿を見て、ぼくだけではなく町の人全員が驚きました。

 右腕の骨は折れてしまったのか、変な方向を向いて腫れ上がっています。

 スラリとしてとても綺麗だった脚もボロボロの血だらけに。

 額や口からも血を流していました。

 

 すぐに皆でお医者さんのところへ運びます。

 幸い命に別状はなく、後遺症も残らないそうです。

 アルビダちゃん本人は、ことある毎に自慢していた肌に傷跡は残らないと聞いて、そのことに一番安堵していました。

 

 

 二ヶ月ほどでアルビダちゃんは退院しました。

 その入院期間中になにがあったのかを町の人たちに説明していたみたいです。

 聞くと、山を挟んで町の反対側にある森に一人で行っていたらしいのです。

 とても危険な猛獣がうようよいるその森には、町の人なら絶対に近付きません。

 そんなところに子供が一人で行くなんて、と皆から怒られていましたが、アルビダちゃんは『怒るんじゃあなくてチヤホヤしろよ!』と良くわからないキレ方を見せていました。

 

 多分ですが時々ふらっといなくなっていたのは、その森に行ってたからなんじゃないかと思います。

 あんな危険な森に七歳の頃から行っていたなんて……

 アルビダちゃんはどう思ってくれているかわかりませんが、ぼくはアルビダちゃんの友達だと思っています。

 危ないことはもうさせたくありません!

 勇気を出してアルビダちゃんの家に行き、止めるよう伝えることにしました。

 

 

 

 

「皆アルビダちゃんのこと心配してたし、もう危ないことは止めようよ」

「そいつは無理な話だね」

「な、なんで?」

 

 ふうっ、と息を一つ吐いて遠いところに目を向けるアルビダちゃん。

 とても様になっていました。

 

「夢がある」

「夢?」

「ああそうさ。他人から見たら下らない夢かもしれないけれどね、アタシにとってはそんな下らない夢でも命を賭ける価値がある」

「そ、それってどんな夢か聞いて良い?」

「構わないよ。……チヤホヤされたい。世界中の人にかまってほしい。ただそれだけのことさ」

 

 アルビダちゃんの言った通り、ぼくも少し下らないと思ってしまいました。

 でもそう言い切るアルビダちゃんの顔はとても真剣で、バカにしては良いものじゃないと思いました。

 

「それとさ、アタシって時々自分のことを"おれ"って言っちまう時があるだろう?」

「う、うん。ぼくも気になってた」

「なんて言うのかな……難しいけれど、男としての感性があるって言えば良いのか……」

「へえ……良くわからないけど、それがどうしたの?」

「この感性を残すべきか、なんて思ったりもしたけれどさ、アタシの下らない夢を叶えるのには邪魔だったんだ。それが邪魔して夢から遠退くなんて、それこそ下らないだろう?」

「うん」

「だから男としての感性を捨てた。必要のないものを切り捨てて、やりたいことだけをやり抜く。チヤホヤされるためだけに命を賭ける。簡単なことだろう?」

 

 そう言ってぼくにきらびやかな笑顔を向ける。

 町の人たちが見惚れるその笑顔に、ぼくは人としてのアルビダちゃんに惹かれました。

 

 とても綺麗で、真っ直ぐで、格好良くて。

 この人にずっとついて行きたいと思いました。

 

「だからまあ、ボガードくんも自分を押さえつけないで自由にやったら良いんじゃあないかねえ? 海賊ってそういうものだろう?」

「海賊?」

「ああ、そう言えば言ってなかったね。アタシは海賊になる。手っ取り早く世界中に顔を売ることが出来るからねえ」

「じゃ、じゃあ!」

「ん?」

「ぼ、ぼくも海賊になる! いつかアルビダちゃんの船に乗るよ!」

「……本気かい?」

 

 じっとぼくの目を見つめるアルビダちゃん。

 でもぼくは本気です!

 ずっと一緒に、出来るならその背中を支え続けたい!

 

 普段のぼくでは考えられませんが、アルビダちゃんの視線から絶対に目を離しませんでした。

 その思いが通じたのか、それとも呆れていたのか。

 アルビダちゃんはため息を一つ吐いて、家にあったお酒と二つの盃を持ってきました。

 トクトク、と両方の盃にお酒を注いでその内の一つをぼくに手渡しました。

 

「姉弟盃ってやつさ。ボガードくんの方が生まれは少し早いけれど船長にはアタシがなるんだから、アタシが姉だからね!」

「姉……アルビダお姉ちゃん……」

「うーん……なんて言うか、お姉ちゃんってのはなんか違うねえ」

「えーと、じゃあ"姐さん"とか?」

「おお! 姐さん……姐さん……うん、なんかしっくり来たっ!!」

「じゃあアルビダ姐さんとかで良い?」

「むう……他人だったら良いけれどねえ……ボガードくんはアタシの弟になるわけだろう? わざわざ名前を付けて呼ぶのは他人行儀すぎないかい?」

「だ、だったらぼくだって弟なんだから、君づけは止めてほしいよ!」

「わかった。ならアンタのことは今日からボガードって呼ぶよ」

「うん! アルビダちゃん…………じゃなかった、"姐さん"!!」

 

 そして二人で盃のお酒を飲み交わしました。

 味はあまり美味しくなかったですが、とても喉を通った焼けるような酒精はとても心地好いものでした。

 

 

 

 その後、ぼくは姐さんと一緒に海賊になるための鍛練に励むこととなりました。

 女の子みたいに華奢だしヒョロヒョロだったぼくは、まず身体を作ることから始めました。

 その間姐さんはあの危険な森に三ヶ月くらい篭るそうです。

 本格的に姐さんと鍛練が出来るのはその後になったので、この三ヶ月で姐さんがビックリするくらい身体を仕上げたいと思います。

 

 思い付く限りのトレーニング、それから姐さんには言いませんでしたが実家が料理屋なので、料理の練習を沢山して、出来上がった未熟な料理は全部食べて身体を大きくします。

 姐さんはどこか抜けているので、ぼくは航海に必要な知識を詰め込むことも忘れませんでした。

 

 いっぱいトレーニングして、いっぱい料理を作って、いっぱい食べて、いっぱい勉強して。

 

 そしてーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーそして姐さんが戻ってくる三ヶ月が経ちやした。

 あっし(・・・)は十二歳にして身長は百七十センチを超え、筋肉の鎧までも手にしやした。

 それもこれも、全ては姐さんのため。

 姐さんだからこそ、ここまで出来たんでやす!

 

「姐さん!!」

「え? ……誰?」

「いやだなぁ姐さん、あっしです! 姐さんの弟のボガードでやすよ!!」

「は……はあぁぁぁぁっ!? 本当にボガードなのかい!? あの男の娘だったボガード!?」

「ヘイ、姐さん!」

 

 どうやらあっしの努力の結果に喜んでくれたようでやすね!

 色々聞かれたんでやすが、色々頑張りやしたと答えやした。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、姐さんと共に鍛練を始めて三年。

 "アルビダ海賊団"の旗揚げの日がやってきやした。

 

 互いに一五歳。

 姐さんはとんでもなく美しく、強く成長を果たしてやす。

 ずっと見てきたあっしには、それが努力の賜物であることはわかってやす。

 

 住人たちからの見送り。

 その中には昔あっしに色々やってきた子供たちもいやしたが、今のあっしには姐さんがいるので特に何も感じることはありやせん。

 

 姐さんが住人にその美貌で貢がせた船に乗り込み、その後を追ってあっしも乗り込みやす。

 姐さんの、アルビダ海賊団の第一歩。

 それが今、踏み出されやした。

 

「行くよボガード!」

「ヘイ、姐さん!」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

「へぇ、お前とアルビダお姐様って姉弟だったんだな」

「姐さんは"姉"と言うより"姐さん"でやすがね」

「違いねェな。それよりアルビダお姐様の弟かぁ~……クソォッ! おれもなりたかったぜ!」

「へっへっへ、まあ馴れ初めはそんな感じでやす」

 

 サンジはボガードの過去を聞いて、悔しそうに地団駄を踏んでいた。

 

「でもアルビダお姐様の夢かあ。それの手伝いってのがお前の夢ってわけか?」

「ヘイ。他の誰とも違う夢……そんな、誰にも似つかない夢の背中をね、追いかけて行きたいんでやすよ」

 

 嬉しそうに話すボガードに、サンジもつられて微笑む。

 厨房の外ーーフロアからはアルビダの高笑いが聞こえてきた。

 

 

「アハハハハ! 良いねえ! アンタたち、もっとアタシをかまうんだよ!!」

「「「よっ! 世界一の美女海賊、麗しのレディー・アルビダ様!!」」」

「アハハハハ! アハハハハ!!」

「お、おれも行かねば!! ボガードあとはたのんだ! んんんアルビダお姐さむぅわぁぁ! 今、貴女の騎士(ナイト)が行きますよォッ!」

 

 

 苦笑いでサンジを送り出したボガード。

 メインの肉料理を作り終え、次は魚料理に手をかける。

 

 

「魚を見ると、あの時の誕生日プレゼントを思い出しやすねぇ」

 

 

 いつも通り。

 アルビダの夢の助けになれるように。

 今は料理に集中することにした。




ボガードくんちゃん「待たせたな!」




調べてみたらアルビダの身長が198cmだったということに驚愕。

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