皆様ご迷惑をおかけしました。
海軍本部議会の間。
集まった中には海軍本部将官クラスもちらほら見受けられる。
そんな中サングラスを掛け、厚い唇が特徴の議長ブランニュー少佐がつい先日の"報告"を再び述べる。
「ガープ中将の報告は皆様既にご存じかと」
「ああ、ガープ中将と交戦した上で逃げ切った"疵無し"の件だろう?」
「はい。更に一味は三人と極少数ながら、その全員が"覇気使い"。そして"疵無し"は三式使いの上悪魔の実の能力者。副船長"暴壁"は
ガープから逃げ切った海賊がいるという報告しか受け取っていなかったのか、そこまでの情報は知らなかったのだろう。
議会の間がザワザワと騒々しくなる。
明らかに最弱の海、
それどころか
ブランニューは話を続ける。
「覇気の練度は相当なものであるのにも関わらず"毒婦"の麻痺毒を利用したことから、この一味は覇王色は持ち得なかったと推測されます」
王の証である覇王色の覇気。
不幸中の幸いと言うべきか、不可解な強さを持っていたことは驚異に思えるが、覇王色を持っていなかったのは朗報だろう。
覇王色の持ち主は世界に大波をたてる。
そのような"特別"な存在ではないことに安堵するも、しかし間違いなく"異質"な存在であることは確かだ。
「"疵無し"による民間への直接的な被害は殆ど報告されていません。間接的に治安悪化の一端を担っていることは確かですが、本人にその意図は見られていないようです」
「しかし、それを抜きにしても危険であると言いたいわけか」
「ええ。報告にあった情報だけではありますが、少なくとも億を超える懸賞金を懸けるのが妥当です。ですが、上には懸念していることがあるようなのです」
「懸念?」
「はい。説明します」
ブランニューの説明を纏めると、億の大台を超える賞金を懸けるのはどうなのかというもの。
受け取る側から見て億を超えるかどうかで印象はガラリと変わるだろう。
億単位に匹敵する危険度と見るのか、それとも億までには届かないレベルの危険度と見るのか。
桁が変わるというのは一つの目安にもなるのだ。
勿論のことだが、
しかし、海賊たちからしてみたら名を上げようとして、果たして億超えの賞金首に挑むだろうか。
そこの海賊たちなら殆ど全てが逃走、もしくは傘下に入ろうとするのではないか。
現時点でも
次々と傘下に入りたがる無法者が現れてしまう。
億超えとはそういうこと。
上層部は"疵無し"の勢力が手の付けられない状態まで膨れ上がることを警戒しているのだ。
覇王色こそ持たないものの、海軍の英雄から逃げ切れるだけの戦闘能力を持った海賊。
異例の懸賞金になることは間違いないのだが、億超えという"大物"を
「ううむ……成る程。適正額の賞金を懸けて他の海賊を闘わずに屈服させるよりも、敢えて低く定め警戒心を抱かせたいと上は考えているのだな?」
「はい。あわよくば互いに潰し合ってくれれば、と。まあ
「ははは、違いない。仮に"赤髪"などの四皇がいたのなら、如何に覇気や三式使いと言えど何も出来ずにやられてしまうだろうが」
「はははははっ! そりゃ大概の海賊にあてはまるでしょう!」
会議も締めに。
議論の対象となった一味、"アルビダ海賊団"の手配書を広げ、ブランニューは懸賞金を改めた。
『"疵無しのアルビダ" 懸賞金九千七百万ベリー』
『"暴壁のボガード" 懸賞金四千九百万ベリー』
『"毒婦リィリィ" 懸賞金二千百万ベリー』
━━━━━━━
「いやー、こんなどえらい美女と飯を食えるなんて夢にも思わなかった!」
「そうそう! おれなんか手配書を見た時から心奪われちまったからなぁ!」
「懸賞金の額にはビビったが、むしろこんな美人なら略奪されても良い!」
「おれも!」
「おれもおれも!!」
今アタシたちは海上レストラン"バラティエ"に滞在している。
ガープからの逃走を果たして二年と数ヵ月。
すぐさま懸賞金は更新され、一億ベリーまであと一歩というところまで上がった。
アタシの予想ではもう少し高くなると思っていたけれど、なにか問題でもあったのだろうか。
懸賞金が大幅に上がったことで、周りの海賊共の反応はかなり変わった。
アタシは
名を上げるのにアタシたちが少数の海賊団だったのは都合が良かったのか、約半数の海賊共はアタシたちを討ち取ろうと躍起になって襲い掛かってくる。
もう半数は逃走、もしくは仲間になろうとしてきた。
まあ仲間になろうとしてきた奴らにアタシたちはいずれ
こう考えると、方法はともかく"
クリークは武力で従えたんだろうけれど、アタシは
どのような理由であれ、命を賭ける覚悟を自分自身で決めてほしい。
リィリィの時は彼女を取り巻く状況が状況だったけれど、今ではきちんと覚悟を決めている。
それとガープや海軍ボガードにボコボコにされたボガードくんだけれど、リィリィの懸命な治療で二ヶ月弱で全快した。
ボガードくんの拳は砕けていたし、治るまではアタシとリィリィの二人で料理や掃除や服の修復など、所謂"女子力"が試される雑務をこなしていた。
二人とも壊滅的だったがな!!
リィリィはアタシに色々言っていたけれど、アタシとドングリの背比べだった。
代わってみて改めてわかるボガードくんのハイスペック。
そして復帰したボガードくんが放つ女子力攻撃。
アタシとリィリィの精神に大ダメージを繰り出すそれを抑えてくれと言ってみたこともあったが、止めたら止めたで船旅は大変なものになってしまう。
なのでボガードくんはアタシたちを女子力で殴り続けていた。
まあそれは置いといて、アタシたちがバラティエに寄った理由だけれど、造船業が盛んな島の近くにバラティエが来てたから。
アタシたちは直前までその造船業が盛んな島に滞在していた。
実のところ、ほんの三日前までアタシたちの仲間に新しく三人が加わっていたんだ。
そいつらに命を賭ける覚悟はあるか聞いて、あると答えたので仲間に加えた。
リィリィの人を見聞きすることに特化した見聞色の覇気ならば、イエスかノーで答えられる質問のみに絞られるけれど嘘を見抜ける。
結果そいつらには嘘がなかったから仲間にした。
六人になり、船を新調するためその島に立ち寄りキャラヴェル船の造船を依頼。
何隻か船と人手を借りて、隠し財産を取りに行く。
そして先払いで一括で支払いをしようとした時、その三人が財宝を持ち逃げしようとしたのだ。
アタシの不注意は間違いないのだけれど質問が大雑把すぎた。
こいつら三人組が命を賭けると言ったのは、アタシから宝を盗み出すという目的があったから。
まあアタシたちから逃げきれるはずもなく、財宝は帰ってきたのだけれど。
三人組は今ごろ鮫や海獣の腹の中にでもいるんじゃあないかねえ。
仲間として信頼していただけに、やるせなさと怒りが込み上げてくる。
今度からはもっと慎重に
船の方はいずれ必要になるとはいえ、元の三人になったアタシたちにキャラヴェル船は動かせない。
造船依頼はそのままに、完成してもしばらく保管してもらうことにした。
その分費用がかかっちまうがね。
まあそんなわけで位置的にも丁度良かったので、気晴らしにバラティエへ寄ることにしたのだ。
「んん~アルビダお姐さむぁあぁ!! この恋に殉ずる
「サンジ、久しぶりだねえ」
「ええ、ええ! 待ちわびていました。二人を阻む恋の障害。荒れ狂う波のように激しく、吹き荒ぶ暴風の如き向かい風。それはまさしくハリケーン!!」
クルクルと回りキザったらしい台詞を口にしながら、厨房から現れるサンジ。
鼻の下を伸ばし目をハートにしてだらしない表情を浮かべている。
「美容に良いベリーを使ったタルトです。一緒にベリー酒もどうぞ」
「気が利くじゃあないか。二つともアタシの好物だよ」
「うおぉぉぉぉっ!! アルビダお姐様がおれに微笑んだあぁ! 幸せぇぇぇぇぇっ!!」
サンジの調子はいつ来てもこんな感じで変わりない。
まあ外見はかなり成長したので、少年から青年になったって感じかねえ。
ああ、変わりないといえば……そろそろ来る頃かね。
「お客様は神様だっ! ……と思ったら女神様だった!?」
「パティ、アンタいつもそれやるけれど飽きないのかい? まあアンタが言ってることは一字一句、ほんの僅かな間違いもないがね!!」
強面な大柄のコック、パティはアタシが来店する度にこれをやる。
そしてパティの言っていることに何一つ間違いはないので、アタシの気分も良くなる。
それに続いてサンジや周りの客が男女問わずアタシを称賛する。
これがバラティエ来店時の一連の流れとして出来上がっていた。
「お、おれ、アルビダ様が
「私も! 同性だけど手配書の写真を見て一目惚れしたんです! 私も握手を!」
「なんだいなんだい! アンタたちはアタシを褒め殺す気かい!? 握手くらい全員としてやるよ! そしてこの場は全部アタシの奢りだ! 感謝しな!!」
「「「「オォォォォッ!! 麗しのレディー・アルビダ様、ばんざーいっ!!」」」」
ああ……エクスタシー……
アタシの下に握手待ちの行列が連なる。
サンジやバラティエのコックも並んでいるが良いだろう。
なんたってアタシは今気分が最高潮。
些細なことは気にも留めないのだ!
「私たちの食事代はタダだけど、結局それ以上にお金使っちゃってます」
「姐さんが楽しければそれで良いんでやすよ、リィリィの姉さん」
「うーん……そんなものなんですかね?」
「そんなものでやす。姐さん、リィリィの姉さん。あっしは厨房に行ってゼフの旦那に指南してもらいやす」
「あ、はーい。頑張ってくださいねボガードさん」
「アハハハハ!! いくらアタシを目の前にして興奮しているったって、順番抜かしは許さないよ!」
「船長は自分の世界に入っちゃってますね」
「へっへっへ、姐さんらしくて良いじゃないでやすか」
素晴らしい!
バラティエだけじゃあないけれど、こうやってチヤホヤされるのは何度経験しても飽きがこない。
握手会が終わった後もアタシを称える声が止むことはなく、いつしか周りのテーブルを移動させ、アタシを中心とした輪が広がりパーティーのようになっていた。
グラスに酒を注ぐサンジの距離が近すぎる気もするけれど、全然構わないね。
アタシは世界中の羨望の的である以上誰かの抜け駆けというのは許されないけれど、多少距離が近くなってしまうのはアタシほどの美女を目の前にしては仕方のないことだ。
「おや? そう言えばボガードの姿が見えないねえ」
「ボガードさんならさっき厨房に向かいましたよ。船長にもちゃんと報告してました」
「そうだったのかい。ああ、それなら後でゼフにも挨拶しておかないとねえ」
「アルビダお姐様! リィリィちゅわ~ん! クソジジイのことよりも、美味しく出来たフルーツパフェを召し上がれ!」
うん美味い。
ボガードくんには悪いけれど、流石に約六年も厨房に立ち続けたサンジの料理には敵わないみたいだ。
ボガードくんは百点でサンジは百二十点というような感じだね。
リィリィも顔を綻ばせているし、それを見てサンジの顔がだらしなく歪んでいる。
さて、唐突なのだけれど、アタシは
アルビダ海賊団の
まあなにが言いたいのかと言うと、航行中でも海軍に通報されることがとても多くなったのだ。
「海軍第七十七支部プリンプリン大佐だ! 海賊"疵無しのアルビダ"、並びにその一味がここに向かったとの情報提供があった! 直ちに投降したまえ!」
そして今回もまた、航行中にすれ違った民間船の乗組員が通報したのだろう。
この場にいる客が通報したのなら海軍の反応が早すぎる。
そして戦う海のコックを自称するバラティエのコックに至ってはまずあり得ない。
一番大きな理由として、オーナーたるゼフやサンジの"海賊でも腹を空かせていれば食わせてやる"という信条から、どんな相手でも通報するのは飯を食い終わった後だからだ。
まあそれよりも、だ。
折角アタシが気分良くチヤホヤされている途中で水を差す海軍。
これはブチ切れ案件待ったなしだねえ。
「いました! "疵無し"に"毒婦"の二人、しかし"暴壁"は見当たりません!」
「投降はせず……か。総員直ちに捕らえろ!!」
「ぷ、プリンプリン大佐! 大変です!」
「どうした!?」
「う、美しすぎます! "疵無し"の美しさで胸の高鳴りが止まりませんっ!!」
「私もです! "疵無し"から目が離せない……っ!!」
「愚か者共っ! 心を強く持たないか! こうなったら私一人でも……一人でも…………ぐうっ……! 溢れ出る魅力で足が動かん……っ! おのれ"疵無し"ィ!」
ほう、ほう!
偶にはこういうのも良いじゃあないか。
チヤホヤされるのとはまた違うけれど、アタシの魅力にやられたのには違いがない。
ただアタシの良い気分を阻害したことについては責任を取ってもらおうか。
「サンジ、パティ!」
「この恋の奴隷にお任せ下さい、アルビダお姐様!」
「いくら海軍でも、お客様の邪魔をされちゃあ戦うコックとして黙ってられねェな!」
サンジとパティの手によって、海軍たちは全員海に放り投げられた。
「何だ、騒がしい」
「ゼフじゃあないかい。後で挨拶に行こうと思ってたんだ。ところで、ボガードはどんな感じだい?」
「まあ
厨房から天井に届きそうなほど高いコック帽を被ったゼフが出てくる。
ボガードくんが聞いたら喜びそうだ。
その後、海軍のせいで若干白けた空気は元通りになった。
ディナーの時間帯になり、新しく入ってきた客も含めたアタシの称賛パーティは続いた。
暫くすれば閉店時間もさし迫り、船で一泊しようとしたのだけれど、その前にアタシはゼフの自室に呼ばれる。
なんの話かと思えば、ゼフの海賊時代の
航海日誌自体を渡されたわけではないけれど、原作では触れられていなかった様々な興味深い情報を手にすることが出来た。
いずれ
夜が明け、ボガードくんも手伝ったバラティエの賄いで朝食を済ませ出発することに。
一応とは言え、新しい船の目処は立っている。
後は本当に
サンジにも改めて声を掛けてみたけれど、やはりと言うべきか断られた。
まあしょうがないね。アタシはアタシだけの仲間を見つけろってことなんだろう。
バラティエでは存分にかまってもらえたし、アタシの精神のバロメーターは最高潮。
バロメーターを下げないためにも、いつも通りやっておこうか。
「行くよボガード!」
「ヘイ、姐さん!」
「行くよリィリィ!」
「は、はい船長!」
キラキラと太陽の光を反射する穏やかな海。
見送りに来たバラティエの従業員を背に、いつも通り出発した。
海軍将校さん「赤髪いればボコボコやろ!」
シャンクス「おりゃ!」バコーン!!
アルビダ「とりゃ!」ドカーン!!
海軍将校さん「」