ただまあ作者的にはもののけ姫のジコ坊が作ってたお粥みたいなのが一番美味そう。
この度、新たな仲間である元賞金稼ぎヨサクとジョニーの二人を加え、計五人となった我がアルビダ海賊団。
手狭になった小船で波に揺られながら、造船業の盛んな島へ到着した。
「キャラヴェル船"スペル・クイーン号"だ。名前は勝手に付けさせてもらったぜ」
船大工の頭命名、スペル・クイーン号。
シンプルな造りのキャラヴェル船で、見た限りではこれと言った特徴はない。
船首にも羊だのライオンだの骨をくわえた犬だの、象徴になるようなものは付いていない。
でも、それが良い。
そもそもアタシが乗っている時点で最大級の価値のある船になるわけだし、余計な装飾はあってもなくても構わないね。
むしろなくして、機能性を高めている方が嬉しい。
船大工の頭から船の説明を受けるが、ボガードくん以外はアタシ含めてちんぷんかんぷんだった。
取り敢えず、
それ以外のことは……後でボガードくんに聞けば良いや。
リィリィを仲間に加えてから約七年も乗ってきた小船には愛着があったので、一緒にスペル・クイーンに積むことにした。
今後ちょっとした買い出しなんかにも使えるかもしれないしね。
ともあれ航海に必要なものを積み込み、新しい船スペル・クイーンに乗って気分一新、
ああ、その前に始まりの街ローグタウンに行かなきゃならないね。
うむ。
わかってはいたけれど、やはりローグタウンは大きい。
港もいくつかあるようで、いかに海軍と言えど全てを監視することは出来なかったみたいだ。
そのお陰で悠々と上陸することが出来た。
アタシたちがローグタウンに立ち寄った理由は大きく分けて三つ。
一つは"
コンパスが狂ってしまう
二つ目は海軍基地、並びに出張所への潜入。
なぜかと言えば、つい先日まことしやかに囁かれていた闇オークションが、海軍本部の"スモーカー"大佐に一斉検挙されたらしい。
そのオークションなのだけれど、どうやら悪魔の実すら出品されたことがあるという噂があったらしいのだ。
もしスモーカーが検挙に向かった際に悪魔の実が出品されていて証拠品として押収したのなら、まだローグタウンの海軍基地に悪魔の実がある可能性は十二分に考えられる。
アタシ自身はそこまで悪魔の実に執着していないけれど、ボガードくんたち
三つ目は……まあそこまで期待はしていない。
見つかったら良いな、程度のものだ。
但し、アタシの中では見つかった場合の優先順位は一番高い。
「悪いけれど船番は頼んだよ、ボガード」
「ヘイ、任されやしたぜ姐さん」
ボガードくんがいれば大抵の海賊や海軍は手出しは出来ないだろう。
パワーとタフネスはアタシ以上だし、覇気使いなので
「ヨサクとジョニーは
「了解っす、アルビダの姐さん」
「アッシも! 役に立ってやりやすよー!」
「わ、私だけ難易度が……」
ヨサクとジョニーはまだアタシの一味になったことは海軍には伝わっていないので、大手を振って街中を歩ける。
リィリィに関してはぶっちゃけ心配していない。
本気で"かくれんぼ"したリィリィを見つけるためには、最低でも見聞色の覇気を身に付けていないとかなり厳しい。船医なのに。
それにいざとなったら麻痺毒を撒き散らしてなんとかするだろうね。
潜入だったり工作だったりの隠密行動はリィリィに掛かれば朝飯前だ。船医なのに。
アタシは三つ目の目的対象の捜索。
その際に街中を闊歩するわけだが、アタシが見つかれば海軍は大挙して押し寄せるだろう。
そうなれば海軍基地の人手が少なくなってリィリィが余計に動きやすくなる。
ボガードくんとリィリィの捜索のためにも人手が散るだろうしね。
「それじゃあ、長くても六時間後までにはスペル・クイーンに集合ってことで」
それぞれ散開していく。
アタシはまず、三つ目の目的が見つかった場合に備えて服屋を見に行くことに。
意味がわからないかもしれないけれど、これは重要なことなのだ。
一軒目の服屋に入る。
誰かを接客中だったらしいハンガーのような髪型をした店長が目についた。
「どお?」
「おおっ!! お似合いで、お客様っ!!」
「どお?」
「ほーっ!! エレガントで、お客様っ!!」
……なんか試着室を舞台にした一人ファッションショーが行われていた。
「どお?」
「エレメントで!!」
「どお?」
「エレクトリカルで!!」
「どお?」
「エロエロで!!」
次々に着替えて出てくる客。
というかナミなんだけれどね。
「ナミ」
「えっ? アルビダさんっ! あなたもローグタウンに来てたの?」
「ああそうさ。まあそれは置いといて、アンタじゃあまだまだ着こなせていないみたいだねえ」
似合ってはいた。
けれど本当にナミに似合うのはもう少しラフな服装だ。
ここの店の服はちょいと華美すぎて普段使いのし辛いものばかり。
ただ、困ったことにアタシが着ればなんでも超一級品の服になっちまうから、似合う似合わない以前の問題になってしまうんだけれどね。
「むっ。じゃあアルビダさんも色々着てみてよ」
「ふん、腰抜かすんじゃあないよ!」
ナミは確かに容姿がとても優れているしスタイルも抜群だ。
百点満点で百二十点と言っても良いだろう。
だが! アタシは点数なんかで測れないほどの規格外の美貌!
その戦闘力(美貌)を見せつけてやろうじゃあないか!
「どうだい?」
「あひぃっ!! お似合いでっ!!」
「どうだい?」
「んほーっ!! エレガンティストでっ!!」
「どうだい?」
「あへぇっ!! エレメンティストでっ!!」
「どうだい?」
「あばばっ!! エロエロのエチエチでっ!!」
ナミをチラリと見る。
悔しそうにしているかと思いきや、ほぉーっという感じで感心しているみたいだった。
まあアタシの芸術的造形とも言える美貌の前には、そうならざるを得ないからしょうがないね。
「お客様方、こちらお買い上げで?」
「「ううん、いらない」」
山積みにされた服を傍らに、店長がにっこりと購買を勧めてきたので、アタシたちもにっこりと断って店外に出た。
次の店に行く道中、ナミと色々話しながら向かった。
アーロンのことでほんの少しだけ負い目があったので、その辺りのことを色々と。
ナミ自身はルフィに救われたことで既に全くと言って良いほど気にしていなかった。
次の店はラフなデザインのものが多かったけれど、中々にセンスが良い。
ナミは大量に買い込んでいたし、アタシも数着買った。
店を出てすぐ『一雨来そう』なんて呟いたナミに習い、アタシも服をビニールに移し代える。
そう言えば原作でもそうだったなっていうのと、改めてナミの航海士としての才能を感じることに。
雨が降りそうな気配なんて今のところ全くないし、完全に頭から抜け落ちていたのだ。
ナミと別れた後、一旦買った服を置きに船へ戻る。
ボガードくんには雨が降るということと、原作知識を利用してもしかしたらこの後嵐が来るかもしれないということを伝えておく。
暫く街中を闊歩していたけれど、目的の対象はまだ見つかっていない。
それにアタシの予想は外れ、海軍たちは一向に来なかった。
アタシの拙い見聞色でもこちらに気が付いて監視していることはわかったのだけれど、どうやら街中で大規模な戦闘になることを恐れているようだ。
これは流石のリィリィでも厳しいか?
死角を次々移動して発見を免れることの出来るリィリィだけれど、文字通り死角がなければ意味をなさない。
アタシに海兵たちが向かってこないということは、その分基地や出張所に多くの人数がいるということ。
物理的に死角が出来ていない可能性がある。
麻痺毒を散布すれば強引に突破出来るかもしれないが、スモーカーが残っている可能性が大いにあるのでまずいかもしれない。
まあリィリィの見聞色ならスモーカーのヤバさには気が付くだろうし、そこまで無茶はしないだろうね。
捜索は難航している。
そしてナミの言った通り、空には黒い雲が覆い始めた。
とすると、そろそろだろうか。
建物の上に登り"処刑台"のある広場に目を向ける。
うん、やっぱり原作イベントが始まりそうだ。
ルフィが処刑台の上に乗り、辺りを見渡しているところを警官隊に注意されていた。
その警官に気を取られている隙にバギーが現れ、ルフィに首枷を嵌め押さえ込む。
そういや、原作ではアタシ……ではもうないな。
アルビダもあの場にいたんだったね。
まあいいや。
広場にゾロとサンジが乱入。
バギーがルフィの首へ剣を振り下ろそうとした時。
「わりい、おれ死んだ」
死を前にしてルフィが笑う。
それを見て背筋が凍るような錯覚に陥った。
夢半ばで訪れる死に、アタシだったら笑うことなど出来ない。
覚悟はしているけれど、納得することは出来ないだろう。
それを平然と成すルフィは正しく王だ。
それもただの王じゃあなくて、世界中の全ての人々が認めるような。
そんなルフィがこんなところで命を落とすはずもなく、処刑台に雷が落ちて間一髪で難を逃れた。
ゾロとサンジを引き連れ逃走するルフィたち三人。
少しして雷に撃たれたバギーが復活するが、スモーカーの手により一味は一網打尽にされた。
そしてスモーカーはすぐさま麦わら一味を追う。
これはチャンスだね。
大勢の海兵が広場に集まり、出張所にはスモーカーがいないのでリィリィが動きやすくなった。
それにこの大雨じゃあリィリィの足音なんかもかき消されて、見つけるのは更に困難になるだろうね。
アタシはアタシで捜索を続けようか。
見聞色の練度がとても低いアタシはとにかく足で稼ぐしかない。
様々な
その途中ヨサクとジョニーに会うが。
「ダメですアルビダの姐さん。
「おれもっす。相棒とは手分けして探したんっすけど全く」
「そうかい……まあそろそろ時間になるし、一旦船に戻りな」
三つの目的の中で一番難易度の低そうだった
ヨサクとジョニーには帰船を促したけれど、アタシは時間ギリギリまで捜索を続けよう。
暴風と大雨で視界が悪くなる中、突如として街に強烈な突風が発生した。
ああ、"ドラゴン"か。
となるとルフィたちは無事にスモーカーから逃げ切れたのかな。
広場に戻ってみるとバギーたちも網から抜け出していなくなっている。
そしてこの因縁からスモーカーはルフィを追ってローグタウンを放置し
暫くの間、ローグタウンは手薄になるだろう。
その間に最低でも
そしてやはりと言うか、少し経つと麦わらを被ったドクロが描かれた
スモーカーがいなくなったのなら、ローグタウンへの滞在はもう数日延ばしても大丈夫だろう。
戦闘になっても勝てる自信はあるけれど、単純に騒ぎを起こせば捜索が儘ならなくなってしまうからね。
とまあ色々と考えてみてはいたものの、タイムリミットだ。
ため息を吐いてスペル・クイーン号へ気を落としながら帰る道中。
なんたる奇跡か。
優先順位に於いて一番上の目標を発見してしまった。
それはカメラを首にかけた男。
四角い口の形をしていて、ハットのような帽子を被ったその男。
アタシはそいつを見た瞬間に大声を上げながら、無駄に
「見付けたぞ、アタッチィィィッ!!」
「うわあぁっ!! なんで"疵無し"!? 恐ろしいが、美しいィィィッ!!」
海軍写真部部長……だったかな?
賞金首の手配書の写真は、この"アタッチ"という男が撮ったものが多い。
こいつがアタシの目的対象。
あの忌々しい、あまり写りの良くないアタシの手配書の写真を撮り直させるためにこいつが必要だったのだ。
有無を言わさず、アタッチを小脇に抱えて船まで誘拐する。
到着してみるとアタシが一番最後だったみたいだ。
「あ、船長おかえりなさーい。えーと、その人が船長の探してた人ですか?」
「そうさ。アンタたちも撮り直してもらったらどうだい?」
「うーん……じゃあお願いしようかな……」
「姐さんが言うのならそうしやす」
全員揃ったところで成果の確認をする。
アタシはこの通り、アタッチの捕獲に成功した。
だがヨサクとジョニーは
さて、残るはリィリィなのだけれど……
「見てください! 悪魔の実、ありましたよ! あとこれもついでに持って来ちゃいました!」
得意気に取り出したのはバナナにも細長い魚にも見える灰色の悪魔の実と、砂時計のようななにか。
その砂時計型の中には指針があって、
うん、これあれだ。
「
「えへへ。せんちょー、もっと撫でてくださいー!」
わしゃわしゃとリィリィの髪を乱雑に撫でてやる。
ふむふむ、
原作には出てきてはいなかったけれど、以前ゼフから航海日誌の内容を教えて貰った時に出てきた島の名前だ。
しかも運の良いことに、ポルトは双子岬から伸びる数本の航路の始めの島らしい。
別名"鍛冶の島"とも言われ、ゼフが愛用している包丁なんかもポルトで作ってもらったのだとか。
そして悪魔の実の方は図鑑と照らし合わせたところ、ボガードくんが食べることで満場一致した。
確かに、恐ろしいほどボガードくんにマッチしていると思う。
ともかく、
出航を一日だけ遅らせて"リヴァース・マウンテン"に向かおう。
役に立てず落ち込んでいたヨサクとジョニーを励ます意味も込めて、ボガードくんが作る料理で盛大に騒ぐ。
そこらの料理人では歯が立たないほどの腕になったボガードくんの料理は絶品。
ヨサクとジョニーもすぐに気を取り直したみたいだ。
あとアタッチもちゃっかりご馳走に預かっていた。
翌日。
台風一過とでも言えば良いのだろうか。
雲一つない突き抜けるような青空に覆われたローグタウン。
さあ、撮影会の始まりだっ!!
まずはボガードくんとリィリィの撮影をちゃちゃっと済まし、メインイベントであるアタシの撮影が始まる。
左手を腰に当て、右手で髪を掻きあげキメ顔。
現像したものを確認したけれど、とても良い写りだ。
これを基本の手配書の写真とする。
その後は場所を変え服を替えポーズを変え。
突如街中で始まった超絶美女の撮影会に、次第にギャラリーが増え始める。
中にはカメラを持参する者や、海兵なんかも混じっている。
「アルビダ様ァ! こっちに視線をくださーいっ!!」
「き、"疵無し"! こっちにもくれっ!!」
「私にも!」
「おれにもだっ!」
「あっ! 視線が合った! し、幸せぇぇ……」
ふふん。
今のアタシの気分は超一流グラビアアイドル。
ギャラリーのアタシを褒め称える声に気分が上がり、更に写真写りが良くなっていく相乗効果。
ただ、先程撮った基本となる写真とは違って、今撮っているのは言うならば"初回限定版"や"季節限定版"みたいなもの。
あまり世には出回らないプレミアものになること間違いなしだ。
まあ何パターンも手配書を発行するのがアリなのかアタッチに聞いてみたら『絶対なんとかする!』と血走った目で決意を語っていた。
なら良いか。
称賛を浴びてとても気持ちが良いので、細かいことは気にしないでおこう。
撮影会は昼過ぎまで続いた。
中には興奮のし過ぎで倒れる者もいたけれど、それだけアタシが魅力的過ぎたってことだ。
当然の事実を当然のように再認識しただけだね。
よし、これでローグタウンでやり残したことはなくなった。
そして
新しい船スペル・クイーン号に乗り込み出航する。
目指すはリヴァース・マウンテン。
そしてその先にある
本格的なアタシの世界デビューが待っている。
行こうか、海賊の墓場と呼ばれるあの海へ!
「行くよボガード!」
「ヘイ、姐さん!」
「行くよリィリィ!」
「は、はい船長!」
「行くよお前たち!」
「ヘイ、アルビダの姐さん!」
「はいっす!」
意気揚々とローグタウンを出航する。
そしてアタシが自分を認識してからの十八年。
ずっと過ごしてきた
長かったけれど、まだ夢半ば。
むしろ始まったばかりだ。
さあ、どれだけチヤホヤされるのか。
今からとても楽しみだ。
━━
アルビダ「写真、なに着ようかな」
サンジ「なんでも似合う!」
アルビダ「なら喰らえ! 童貞を殺すセーター!」
全人類「ぐわあぁぁぁっ!!」