グランドラインと一つ目の島
それは海賊の墓場。
それは海賊の楽園。
数多の無法者たちが犇めき、そして"絶対的正義"の名の下にそれらを取り締まる海軍本部の存在する海。
そんな
一つは少し前まで全くの無名だった海賊。
世界的に異例ともなる、初頭手配で五千万ベリーの賞金を懸けられた海賊"麦わらのルフィ"。
更に麦わら一味の二番手、"海賊狩りのゾロ"には二千八百万ベリーの賞金が懸けられている。
彼らの異常な成長速度は政府も危惧している。
"道化のバギー"、"海賊艦隊提督
彼らを次々に打ち倒した"麦わらのルフィ"、並びにその一味は通常の物差しで測れるものではない。
二つ目は
嘘か真か、あの英雄ガープと正面から闘り合って逃げ切るという戦闘能力。
それを裏付けるように、懸賞金はルーキーの中でも頭一つ抜けて高い九千七百万ベリー。
ただ、"疵無しのアルビダ"に注目が集まっている理由はそれだけではない。
何故か彼女の手配書だけ、十を超えるパターンの写真が使われているのだ。
一番多く出回っているのは、髪を掻き上げてキメ顔をしているもの。
それ以外では女豹のポーズを取っていたり、ワノ国で流行っていると噂される見返り美人のポーズを取っていたりと。
聞けば自ら申し出て何枚も写真を撮らせたらしい。
彼女は戦闘能力以上に、奇行が目立っていた。
そんな"麦わらのルフィ"や"疵無しのアルビダ"に
目に三本の傷がある赤い髪の男は嬉しそうに笑い宴を始める。
ヤギを傍らに連れ眼鏡を掛けたアフロヘアーの男は、煎餅を食べている白髪の戦友に『お前の家族だぞ!』と怒鳴っていた。
他にも色々あるが、総じて言えるのは最弱の海からヤバいルーキーが二組も出た、というもの。
一人は"D"の名を持ち、もう一人は"D"の名を持ってはいないが、間違いなく世界を荒れに荒れさせるだろうという予感を感じさせるものだった。
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「うおぉぉぉっ! ちょ、ちょっとスピード出すぎてないっすか、アルビダの姐さんっ!!」
「ビビってるんじゃあないよジョニー! それにこの激しい水飛沫。水も滴る良い女になってるアタシに浸ってるんだから、泣き言は他所で言いなっ!!」
今アタシたちはリヴァース・マウンテンを猛スピードで下っているところ。
原作のルフィたちのように"
そして頂上で折り返し、下りへと突入しているのだ。
バシャバシャと跳ねる水飛沫が沢山アタシに掛かるけれど、妙な色気が出てくるしこれはこれで良いね。
っと、雲を抜けて出口が見えてきた。
アタシたちより先に麦わらの一味が
そして徐々にスピードが緩やかになり、双子岬に着いたのだけれど誰もいない。
うーむ……花のような頭の"クロッカス"がいると思ったんだがねえ。
ラブーンの中か?
でもルフィたちとのあれこれがあったのなら、もう鎮静剤はいらないはずなのだけれど……
まあ良いか。
「ボガード、
「ずっと一点を向き続けていやす。コンパスの方はイカれちまってやすね」
「そうかい、わかっていたけれどね。アンタたち、気合い入れな! ゼフの話じゃあ、一本目の航海はかなり荒れるらしいからね!」
「ヘイ、姐さん!」
「はいっ!!」
「よっしゃ! やってやりやすよ! なあ相棒!」
「おうともよ、相棒!」
双子岬では立ち止まることはせず、すぐさま一本目の島であるポルトへ向かうことに。
春夏秋冬、一年中それぞれの季節であることが殆どだ。
そうなれば天候も変わってくるし、海流も変わってくる。
双子岬からは複数の航路が伸びているため、様々な気候や海流がぶつかり合って大荒れになりやすいのだ。
二本目以降はマシになるらしいのだけれど、一本目の航海は厳しいものになるとゼフが言っていた。
「せ、せんちょー! 暴風でマストが破れそうですぅっ!」
「ヨサク! ジョニー! すぐに帆を畳みなっ!!」
「がってん!」
「承知のすけ!」
いきなりの大嵐に慌てて指示を出す。
ヨサクとジョニーもすぐにマストに向かい、大慌てで帆を畳んだ。
「姐さん大丈夫でやす。強度的にはまだまだ破れることはありやせんぜ。それに畳んじまったらこの嵐から抜けられなくなりやす」
「ヨサク! ジョニー! すぐに帆を開きなっ!!」
「どっちっすかぁ!?」
ボガードくんの的確な指摘に慌てて指示を出しなおす。
ヨサクとジョニーもすぐに帆を開いた。
「へくちっ! せ、せんちょー……雪が降ってきて寒いですぅ……」
「厚着しな! 風邪ひいちまうよ!」
「アルビダの姐さんの露出が減っちまう!」
「由々しき事態っす!」
「もうすぐ"冬"の気候域を抜けやすよ?」
「やっぱ薄着で充分! 寒さは気合いで乗り切るよ!」
「せ、船長っ!! いきなり岩礁地帯になりました!」
「オラァッ!!
「スゲェぜアルビダの姐さん!」
「岩礁がどんどん削れていってるっす!!」
「いけやせん、姐さんっ!! 海流が変わっちまいやす!」
「ああぁぁぁっ!! ヨサク! ジョニー! 舵を切りなぁっ!!」
「了解っす!」
「任せてくだせェ!」
「はぁっ……はぁっ……よ、漸く一本目の航海が終わったみたいだねえ……」
「ヤバいっすね、
「アッシ、もうダメかと思いやした……」
やっとの思いで一本目の航海の終わりが見えてきた。
波も気候も安定している。
遠目に島影を確認出来て人心地、と言ったところか。
恐ろしい海だ。
「船長がややこしくしなければ、もうちょっと楽になってましたね」
「リィリィ!」
「ひぃっ! ご、ごめんなさいぃ!」
まったく……
まあ良しとしようか。
取り敢えずわかったことはあれだ。
ボガードくんスゲェェェッ!!
大パニックになっていたアタシたち四人とは違い、ボガードくんは常に落ち着き払って指針を見ていた。
それにトラブルへの対処も見事なものだ。
「どこでそんな航海術覚えたんだい?」
「バラティエで。ゼフの旦那には料理だけじゃなく、
「へ、へぇー……」
ゼフめ!
アタシには大雑把なことしか話してなかったのか!
船長たるこのアタシには最低限の情報しか教えずに、ボガードくんには詳細をしっかりと教えていたって言うのかい!
……まあ結果的にそれが正解みたいなところはあったけれどね。
ここらの波はそこそこ高いけれど、時化と言えるほどでもない。
気温は少し肌寒く感じるくらい。
秋島ってところかな。それも晩秋くらいの季節。
個人的に過ごすには丁度良い気候だと思う。
「鍛冶の島ポルトねえ」
「アルビダの姐さん、武器を見に行って良いっすか?」
「アッシも」
「無駄遣いするんじゃあないよ」
船を停めて上陸してみたが、街中至るところから鎚を打つ音が響いていた。
流石は鍛冶の島ってところか。
見渡す限り、武器屋なんかが立ち並んでいる。
着いてすぐにヨサクとジョニーは駆け出して出て行った。
まあ『
「姐さん、あっしもゼフの旦那みてぇな包丁を探してきやす」
「ああ、行ってきな」
そう言ってボガードくんも街に繰り出して行った。
リィリィは特に用事はないみたいで、アタシと一緒に行動することに。
「船長はどうするんですか?」
「アタシ? そりゃあ当然――」
決まっているだろ!
「――チヤホヤされに行く!」
「……まあわかってましたよー」
ポルトの街は昔気質の職人たちや炉から溢れる熱量で、雰囲気的にも物理的にも熱気に溢れている。
気候は秋島で涼しいはずなのだけれど、街の中はまるで夏島のようだ。
ポルトはその街の性質上、海賊なんかの荒くれ者や暑苦しい職人などのむさい男で溢れている。
そんな中、アタシみたいな絶世の美女が街のメインストリートを歩いたらどうなるか。
そんなもの火を見るより明らかだった。
「ギャアァァァッ!! びびび、美女ォッ!?」
「手配書で見たことある! "疵無し"って奴だろォ!? 本物は色気がヤベェ!」
「うおっ!? い、今おれと目が合った!」
「バカ言え! おれと目が合ったんだよっ!!」
「美しすぎて仕事に身が入らねえ…………」
「おれは"毒婦"のリィリィちゃんだな! ちっちゃいから!」
むふふ。
わらわらと出てくる出てくる。
一目アタシを見ようと仕事を放っぽり出して、無数の職人たちが店から出てくる。
アタシほどの麗しさともなれば、全世界共通で誘蛾灯のように人々が押し寄せて来てしまう。
嗚呼、罪深き美しさ也。
このまま悦に浸っていたいところだけれど、気になることがある。
街中に明らかに堅気の人間じゃあない奴らが複数紛れ込んでいるのだ。
リィリィに探らせたけれど海賊じゃあないらしい。
海賊特有の荒々しさが全くないそうだ。
感覚的には犯罪を生業としている仕事人。
プロフェッショナルな犯罪者みたいな感じらしい。
目星を付けた奴らは総じて大量に武器を買い込み、港の方へ運んで行く。
ん? 待てよ……
ちらっとしか見えなかったけれど、港の方にはとても大きいガレオン船が停まっていたはず。
あれだけ大量の武器を積めるとなると、その船以外に考えられないだろう。
集っていた職人たちに話を聞くと、あれは武器商船だと鼻の下を伸ばして教えてくれた。
ふーん。
まあ話によれば、今アタシがいるポルトでなにか仕出かすわけでもないみたいだし、放置で良いか。
「よし、情報の礼だ! 誰かアタシと飲みたいって奴らはいないかい? 奢らせてやっても良いよ!」
「はいはい! おれが奢りますっ!!」
「おい! おれの方が先に手を挙げたぞ!」
「こんな美人と飲める……職人やってて良かったぁーっ!」
「おれはリィリィちゃんとジュース飲む! ちっちゃくて可愛いから!」
酒場に場所を移して宴を始めた。
流石に職人や荒くれ者の集う街と言ったところか。
ジョッキなんかもかなりデカく、料理も基本的に特盛で出てくる。
ふざけて『暑いねえ』なんて言いながらジャケットを脱ぐふりをしただけで、面白いように連中をノックアウトしてしまう。
まあこれだけ騒げばボガードくんやヨサクとジョニーも、アタシたちの現在地はその内わかるだろう。
案の定ボガードくんは一時間も経たない内に合流出来た。
「目当てのものは見つかったかい?」
「ヘイ、ゼフの旦那が使っていた包丁を打った職人がいやしたんで、良いもん買えやしたよ」
ホクホク顔のボガードくん。
大体こういう宴会時のお決まりとして、ボガードくんは厨房に入る。
そして酒に合う肴からガッツリとしたメイン料理までをサクッと作って振る舞い、その味で参加者たちの度肝を抜く。
そんなこんなで数時間宴は続いたのだけれど、ヨサクとジョニーが一向に来ない。
仲間になってまだ日は短いが、アタシのいそうな場所くらいは察していてもおかしくないのだけれどねえ。
存分にチヤホヤされていたし名残惜しいけれど、仕方がないのでこちらから迎えに行くことに。
暫く三人で街中を歩いていると、リィリィの見聞色の覇気にヨサクとジョニーの気配が引っ掛かった。
ただその周りには例の犯罪者らしき気配も七つあるらしい。
……絡まれたのか?
いや、でもリィリィの言うことがただしければ彼らはプロフェッショナルなはず。
余計な手間を掛けたりはしないんじゃあないのかな。
まあ考えていてもしょうがないね。
すぐにその場に向かうことにした。
「か……紙一重か……」
「ま、まだ……だぜ相棒。船上での……アルビダの姐さんのシゴきを思い出せ」
「そ、そうだった……ここで負けちまったら、どんな厳しい鍛練が待ってるか……」
ヨサクとジョニーがいたのはとある武器屋の前。
顔面をボコボコに腫れさせて血を流し、大の字で倒れていた。
ただまあ、あいつらが"紙一重"って言っている内はまだまだ心配するような段階じゃあないね。
……ボロ負けではあるけれど。
あの二人は実際の強さはともかく、心はとても強い。
ボロ負けしてはいるけれど、決して心は折れないだろうね。
取り敢えずアタシたちは物陰から隠れてその様子を伺っている。
手を貸しても良いが、ヨサクとジョニーの成長のために見に回ることにしたのだ。
勿論本当にヤバくなったら出ていくがね。
絡まれている切欠は知らないが、必死に立ち上がった二人はどうやら武器屋を守っているみたいだ。
店に相手を入れさせないように立ち回っているからか、本来の思いきりの良さが出しきれていない。
「あぶねっ!」
「平気かヨサク!?」
「掠っただけさ相棒!」
出しきれてはいないのだけれど、動き自体はそんなに悪くはない。
これも"特訓"のお陰かな。
スペル・クイーン号を受け取ってローグタウンに到着するまでの間と、そこからリヴァース・マウンテンに着くまでの極短い期間ではあったが、最低限の動きが出来るように鍛えに鍛えてやったのだ。
大の大人が泣きながら必死になって食らい付いていたので、その分彼らの身にはなっただろう。
上手いこと致命傷だけは避け続け、戦闘を継続させている。
「おりゃあぁっ!!」
掛け声と共にジョニーが駆け出し菜切り刀を振り下ろそうとするが、完全に読まれている。
これは防がれるかなと思いきや、ジョニーは石畳に足を引っ掛けてしまい前のめりに転倒。
そのまま凄い勢いで固い頭が相手の股間に強烈ヒット!
「ほぎゃぁぁぁっ!!」
「……や、やった! 紙一重で倒したぞ相棒!」
「よっしゃ! この隙におれも……おりゃあっ!!」
とんでもない表情と悲しげな金切り声を上げ一人がダウン。
周りの奴らはそれを見て内股になって顔を真っ青にしている。
その隙にヨサクが一人、二人と続けて斬り飛ばし二対四に。
一気に流れがヨサクとジョニーに傾いた。
「お、おおぉぉぉ……っ! いけるぞジョニー!」
「よしっ! やってやるぜ!」
変わった流れに身を任せ、そのまま押し切って二人は勝利を収めた。
地力は拮抗していたけれど、あの人数差を良く覆したもんだ。
運を味方にしただけかもしれないけれど、勝利は勝利。
「良くやったじゃあないか、ヨサク、ジョニー」
「あ、アルビダの姐さんっ!?」
「見てたんっすか!?」
「途中からだけれどね」
「特訓の成果、出してやりやしたよ!」
「アルビダの姐さん! おれたちにご褒美は!?」
「新しい特訓メニューをプレゼントしてやるよ」
「そ、そんなぁ……」
「……頑張ろうぜ、相棒」
どこか哀愁を漂わせる二人はさておき、彼らが守ろうとしていた武器屋の中を覗く。
うーむ、至って普通の店って感じだねえ。
「アンタら、なにかこの店に用事があったんじゃあないのかい?」
「そ、そうでやした!」
「オイ、ばあさん! 言われた通り、あいつら追い払ったぞ!」
「フン……期待しちゃあおらんかったが、まさか本当にやってくれるとはねェ」
店長……で良いのかな?
カウンターからしわくちゃのお婆さんが憎まれ口を叩きながら出てくる。
「お前さんらにゃあ勿体無いが、女に二言はないよ。売ってやるさ」
「さっさと出せ、ばあさん!」
「そうだそうだ! アッシらがどれだけ苦労したかっ!!」
「なんじゃその態度はっ!? 折角売ってやろうと思っとたのに」
「ああん? ……ゴハァッ!?」
「おおん? ……ガホォッ!?」
話が進みそうになかったので、取り敢えずヨサクとジョニーを黙らせる。(物理)
「すまないねえ」
「……お前さんは?」
「コイツらの船長さ。この二人、なにか買おうとしてたんだろう?」
「これだよ」
カウンターの上に置かれたのは二振りの菜切り刀。
ヨサクとジョニーが使っていたものよりも重厚感があり、切れ味も段違いに思えるほどの逸品。
「とある刀匠が打った姉妹刀。"阿陰"と"吽陽"だね。両方とも業物じゃ」
「ははーん、なるほど。こいつを売る条件として、外にいた奴らを追い払わせたのか」
「そうじゃ。ただその二人がその様子じゃねぇ……」
「ならアタシが払うよ。一応アタシの
「……ま、良いじゃろう」
ヨサクとジョニーを叩き起こし、姉妹刀"阿陰"をヨサクに、"吽陽"をジョニーに渡す。
『アルビダの姐さんからのプレゼントだ!』と大喜びしていた二人だけれど、結局のところ買った金の出所は海賊団共有の財布からなので、誰が買おうが同じなんだけれどね。
後とてもラッキーなことに、二人が倒した奴らは
なので有りがたく頂戴することに。
ポルトの街では
その間はヨサクとジョニーの鍛練を中心に、アタシは街の人たちに盛大にかまってもらっていた。
うんうん、とてもよろしい街だね。
さて、
ボガードくんと相談して、
いつも通りと言うか、アタシほどのスーパースターが島を離れるとなると大勢の人が見送りに駆け付ける。
そしていつも通りさっぱりと別れを済ませ、船を出す。
今日の波はやや穏やか。
荒れているわけじゃあないので、出航日和。
いつも通りの音頭で錨を上げた。
「行くよボガード!」
「ヘイ、姐さん!」
「行くよリィリィ!」
「は、はい船長!」
「行くよお前たち!」
「ヘイ、アルビダの姐さん!」
「はいっす!」
出航後、
ふーん。
"アラバスタ"ねえ……
アルビダ「左に進む? 面舵いっぱーい!」
リィリィ「はいっ!」
ヨサク「了解しやした!」
ジョニー「了解っす!」
ボガード「面舵だと右に進んでしまいやすよ」