アルビダ姐さんはチヤホヤされたい!   作:うきちか越人

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あああ…………次でジオウ最終回……
個人的に平成の名残を感じる最後の砦だったのに。



ミーハーとギャング

 到着!

 二つ目の島はヤジウーマ島の"ミイハア王国"というところだ。

 

 気候的にはまたしても秋島に属していて、本来ならポルトからの道中は比較的楽なものになるはずだった。

 しかしスコールのようなどしゃ降りと大時化に逢ってしまい、船は激しく揺られることに。

 ただ幸か不幸か、航海中に海軍の軍艦と遭遇したのだけれど、この大雨であちらさんは満足に大砲を撃つことが出来なかったみたいだった。

 沈めにいっても良かったが、アタシたちのスペル・クイーンの乗組員は五人。

 アタシ一人欠けただけで、この大時化から逃れるのがかなり困難になってしまう。

 なので、サクッとマストをへし折って航行能力を奪うだけに止めてすぐさま帰還。

 そしてボガードくんの指示に従って、必死こいて船を動かした。

 

 

 

 

「へえ、見事なもんだねえ」

「魚が美味いとゼフの旦那が言ってやした。腕が鳴りやす」

「リゾート地みたいです! 早く街中を見てみたいです!」

「アッシも!」

「おれもっす、リィリィの姉貴!」

「ヨサクさん、ジョニーさん、一緒に回りましょうっ!!」

 

 着いたミイハア王国。

 海側からの眺めは絶景の一言に尽きる。

 

 先程までの大時化が嘘のように、穏やかな波。

 海の水もかなり透き通っていて、キラキラと太陽の光を反射している。

 秋島ではあるけれど温暖な気候で、むしろ夏島なんじゃあないか?

 

 街の造りは海を臨んだ山に建物を建てたような感じ。

 うーむ、なんと言えば良いか……ああ、あれだ。

 前世で言うところの、イタリアのアマルフィという港町がしっくりくる。

 ちょっと違うのは漁船や商船なんかが港に多数停泊している他、普通に海賊船もちらほら見受けられるところか。

 完全な湾港都市……と言うか都市国家か。

 港イコール国、のようなイメージで、正直今まで見てきた中で一番大きな港だね。

 

 リィリィが言っていた通りリゾート地っていうのも間違っていないだろう。

 街の住人たちは海賊船が多数停まっているのにも関わらず陽気に笑い合っている――つまり観光なりなんなりとやって来る海賊たちにも慣れっこになっているのだろうね。

 

 お陰さまでスムーズに上陸出来た。

 上陸してすぐその辺にいた青年を捕まえて声をかける。

 

「そこのアンタ」

「あん? なんか用――――うわぁっ!! なんちゅう美しさ!」

「そう、美しすぎるアルビダ様だよ! それより知っていたらで良いんだけれど、この島の記録(ログ)がどのくらいで溜まるかわかるかい?」

「お、おれは知らないですけど、おれが乗ってる漁船の船長なら知ってると思います!」

「ならすぐに呼びな! 超ド級の美女が待っているって伝えるんだよ!」

「は、はい喜んでぇっ!!」

 

 目にハートを浮かべ、青年は駆け出して行く。

 そして数分もしない内にゴツい男を連れてきた。

 その僅かな間にもアタシの美貌にやられた人たちや、海賊としてアタシたちを知っている住人たちにたちどころに囲まれる。

 ミイハア王国、国民もミーハーなのか……とは言わない。

 アタシの美しさを見たなら当然の反応だからね!

 

 まあ、取り敢えず船長さんに記録(ログ)の溜まる時間を聞いてみたら、なんと約一ヶ月かかると言われた。

 むむ、思わぬ足止めだ。

 思っていたよりかなり長いねえ。

 まあ仕方ない、この約一月はヨサクとジョニーを徹底的に鍛えてみようか。

 そう考えて二人にチラリと視線を向けると、肩をビクリと震わせ顔を青くしていた。

 

「相棒、おれたち生きてられるかな……」

「だ、大丈夫だジョニー……か、紙一重でなんとかなるはず……」

「いつも鉄板よりも厚みのある紙一重ですけどねー。それよりもヨサクさん、ジョニーさん、早く観光しましょう!」

「辛辣っす、リィリィの姉貴!」

「でもそれが良い! 英気を養いやしょう!」

 

 リィリィとヨサクとジョニーの三人は颯爽とミイハア王国の美しい街へと繰り出していった。

 アタシの方が美しいがな!!

 

 とまあこっちはアタシとボガードくんの二人に。

 周りにいたアタシ見たさに集まっていたヤジウーマ……じゃなかった。

 野次馬を引き連れ、この国一番のレストランに案内させる。

 街中を闊歩すればアタシの美貌に引き寄せられた人々がぞろぞろと集まっていき、またそれが街の至るところに広がり人が集まる。

 

 うむ。

 西洋っぽい雰囲気ではあるけれど、ミイハア王国初の花魁道中と言っても良いだろう。

 見てるか"小紫"っ!!

 多分アタシの方が人を多く集めているぞっ!!

 まあアタシは花魁じゃあないけれどね。

 

 そんなこんなで着いたレストラン。

 お洒落で立派な店構えをしている。

 街の雰囲気にとてもマッチしていて、今のところ外観だけだが良い店じゃあないか。

 

「アタシだよっ!!」

 

 豪快に扉を開けて入ろうとしたのだが、ボガードくんがその前に扉を開けてくれていた。

 うーん、ジェントルメーン!

 気が利く上に出来る男、それがボガードくんだ。

 

 さて、店内の客やウェイターたちの注目を一身に浴びるアタシ。

 一目見て、老若男女関係なくアタシの虜。

 全員鼻の下を伸ばしている。

 バラティエでもこんな感じだったね。

 

「あ、あわわわわ……! も、もし。"疵無しのアルビダ"様とお見受けしますが……」

「そうだけれど?」

「やったー! 本物だ! さ、サインをいただいても?」

 

 店のお偉いさんかな?

 ウェイターたちよりも造りの良いタキシードを来たちょび髭の男がサインをねだってきた。

 差し出されたペンともう一つ。

 ファイルに入れ、丁寧に保管されていたアタシの手配書を渡してくる。

 アタシのファンか!

 そのくらいの願いなら叶えてやろうじゃあないか。

 

「貸しな…………おや? この写真、あまり出回ってないものじゃあないのかい?」

「ええ! "さざ波とアルビダ様"、我々ファンクラブの会員はそう呼んでいます! あっ、ちなみに私は会員No,982番ですよ!」

 

 足首まで海に入り、耳に髪を掛けようとしているアタシのその写真。

 この時は力が抜けて大変だったのを覚えている。

 と言うかアタシのファンクラブなんてあったのか。

 いや、今までなかった方がおかしかっただけだね!

 

 ちなみに、このちょび髭男の会員名は"ちょびオーナー"。

 色々話を聞いてみるとNo,100以内は名誉会員らしく、001番は"子犬町長"という人だったり、003番は"タバコック"という人らしい。

 ものすごい心当たりがある。

 

 サラサラっとサインを書いた後、ちょび髭オーナーが申し訳なさそうに『VIPルームは先客がいて案内できない』と言ってきた。

 まあむしろそっちの方が良いんだけれどね。

 聞けばVIPルームは個室らしいし、それじゃあ周りからかまってもらうことが出来なくなる。

 なので普通席に通してもらって食事をすることに。

 

 料理が来るのを待っている間もファンサービスは怠らない。

 と言うより周りがアタシを褒め称え、アタシがそれを楽しんでいるだけなのだけれどね。

 ファンクラブの会員もそこそこいたので、そいつらにもサインしたりもした。

 

 暫くして前菜が運ばれてくる。

 そして一通りコース料理を堪能した後、ボガードくんに感想を尋ねた。

 まあこの店に来たのもボガードくんが『いろんな味を舌で覚えたい』と言ったので来店したのだ。

 流石にバラティエのように厨房に立とうとは思っていないみたいだけれど。

 

「どうだった?」

「ヘイ、流石に海の幸が豊富な国で一番の店だけあって、どれも淀みない調理でやす。ただ、海の幸を使った料理となるとやはりゼフの旦那に比べて少し……」

「まあ、アタシも同じ感想だね。悪くはなかったけれど、少し物足りない感じさ」

 

 比べる相手が悪すぎたって言うのもあるけれどね。

 国一番のレストランと聞いて納得するレベルにはあった。

 ああ、ボガードくんもメインの魚料理に関しては劣るかもしれないけれど、コース全体を通して見ると良い勝負が出来ると思う。

 

 とまあ、デザートと食後酒を堪能しながら二人で料理の講評。

 そして客や店員たちが挙ってアタシをチヤホヤする。

 うむ! マーベラスだ!

 

 

 

 とは言えここは国一番のレストラン。

 陽気な国民性のミイハア王国にあっても、普段は落ち着いた雰囲気の店なのだ。

 それが大衆酒場のようにドンチャン騒ぎを始めれば国民の常連はともかく、VIPルームに通されるような人物が国外の人間だったらどうだろうか。

 

 答えは店の奥にある扉が突然粉砕される、だ。

 

「喧しいぞテメェらァッ! 頭目(ファーザー)の食事中だ! 殺されてェのかっ!?」

「ニョロロロ。頭に血が上りすぎレロ、ゴッティ」

 

 その壊された、恐らくVIPルームの扉から二人の男が姿を表す。

 

 まず目についたのはスキンヘッドでボガードくんにも負けていないほどの大柄な男。

 右手にガトリングガンを装備している巨漢の男は"ゴッティ"と呼ばれていた。

 その隣には黒髪をオールバックにし、サングラスを掛けた舌が異常に長い男。

 両の掌も異常に大きく、左右の腰に拳銃を一挺ずつぶら下げている。

 

 ああ、原作の方で見たことあるな。

 ゴッティと呼ばれた片腕がガトリングガンの巨漢の"頭目(ファーザー)"という言葉から、そう部下から呼ばれていた人物は一人しか思い当たらない。

 ……もしかしたら他にいたかもしれないけれど。

 それと掌がデカく妙な喋り方をする男は"ヴィト"だろうねえ。

 

 それとなく知識の宝庫、ボガードくんにチラリと視線をやり確認してみると、コクリと頷いていた。

 なにも口にしていないのにアタシの言いたいことを察するとは。

 流石だ、我が義弟(おとうと)よ。

 ボガードくんチェックを通ったことで、あいつらが間違いなく"ファイアタンク海賊団"ということがわかった。

 つまり、あの壊れた扉の向こうにはファイアタンク海賊団船長、カポネ・"ギャング"ベッジがいるわけだね。

 

 原作でベッジの初出は"シャボンディ諸島"。

 ルフィやゾロを含め、そこに集まった懸賞金一億ベリーを超える十一人の超新星の内の一人だ。

 ちょろっとボガードくんに確認したところ、今の懸賞金は五千二百万ベリーらしい。

 まだ偉大なる航路(グランドライン)の最序盤であるこのあたりじゃあ、中々の大物じゃあないか。

 

 アタシには強さも美貌も及ばないがな!!

 

 まあいいや。

 先程まで賑やかだった店の中は、ファイアタンク海賊団所属のヴィトとゴッティの登場で静寂に包まれている。

 お前ら、『海賊には慣れてる』ってアタシに良いところ見せようと散々自慢してきたのはどうした。

 まあそれはさて置き、とても良い気分だったアタシの邪魔をしたのは許しがたい。

 いつかのプリンプリン大佐みたいに凝らしめてやろうか。

 あっ、あれはサンジとパティがやったんだっけ。

 

 取り敢えず席を立ち、ボガードくんと二人でヴィトとゴッティの前に足を進める。

 

「レロッ!? "疵無し"に"暴壁"がなんでいレロッ!?」

「いレロ、っているのかいないのかどっちだい? まあ良いか。ちょっと"ギャング"ベッジに()()があるんだ。そこを通しな」

「テメェ女ァッ!! 舐めた口聞いてんじゃ――――あァ……テメェも生意気だなァ?」

「アンタが姐さんの邪魔になるんだったら排除しやすぜ? お兄さん」

 

 自分のところの船長の倍近い懸賞金のアタシがいることに驚愕するヴィト。

 そしてすぐに頭に血が上るゴッティがアタシに手を出そうとして、間にボガードくんが入る。

 両者三メートル近い巨漢で、更に強面である。

 そんな二人が鼻が付きそうなほどの至近距離で睨み合っているのは、ゴゴコという効果音が付きそうなほど迫力があって中々見応えがあるね。

 

 うーん、殺伐!

 なんか久しぶりに海賊っぽいことになってる。

 

「まあ"通しな"とは言ったけれど、やっぱり勝手に通るよ」

「あっ! 待つレロ――――えっ?」

「通すか女ァッ! ――――はっ?」

 

 二人は勝手に脇を通り抜けようとするアタシを捕まえようと手を出したけれど、アタシのスベスベの能力で掴むことが出来ずバランスを崩して倒れ込んだ。

 まあこうなることはわかっていたし、最初から無視していても良かったんだけれどね。

 

 VIPルームに入る。

 調度品なんかが厳かに並んでいて、テーブルや椅子に至るまで高級品で揃えられているのだろう。

 一般席のフロアよりもシックに整えられた部屋だ。

 

 その部屋の中心の丸テーブルを前に座る男。

 男の後ろにズラッと部下を立ち並べ、貴族のようなナイフとフォークの使い方で食事をしている彼こそ、カポネ・"ギャング"ベッジ。

 口元に青髭を生やした眉毛のない、そのベッジの正面の椅子にドカッと腰を掛ける。

 まだ開封していないワインボトルとグラス、それから手の付けられていないメインディッシュを奪って喰ってやった。

 

「"疵無し"か。下品な女だ」

「上品さなんて、アタシには勝手に付いてくる。美しいからね。だからアンタの価値観なんてどうでも良いのさ」

「ククク、噂通りのイカれ具合じゃねェか」

「どこが?」

「発言を思い返せよ」

 

 メインディッシュがなくなったベッジは葉巻を吸い始める。

 流石船長と言ったところかねえ。

 動揺を見せていたヴィトや感情に身を任せていたゴッティとは違い、堂々としている。

 図太いのか、はたまた胆が据わっているのか。

 

「まァおれもテメェがいて驚いてはいるんだぜ。狙っていた奴以上の賞金首に会うなんざ、思ってもみなかったからな」

「へぇ、抗争中かい?」

「いいや、抗争は終わってる。復讐しに来てんだよ、あっちがな」

 

 西の海(ウエストブルー)出身のベッジ。

 そこでは裏の世界を五つのマフィアが支配していたのだが、ベッジがその組織の頭だけを狩り滅茶苦茶にした。

 その慌てふためく様を嘲笑い、そして復讐に来た者たちを武力で跳ね返してまたも嘲笑う。

 今回のベッジの狙いも、その組織の内の一つだそうだ。

 そのトップは"ヤマカカシ"という異名の七千万ベリーの賞金首らしい。

 元マフィアの若頭で、現在では約十隻の艦隊を率いて海賊になり、ベッジに復讐しようとしているみたいだ。

 ミイハア王国まで上手いこと誘導出来たらしく、ここで終わらせると豪語していたのだけれど……

 

 うん、ペラペラ喋りすぎじゃあないかな?

 アタシはターゲットではないとは言え、こうまで内情を話すだろうか?

 絶対なにか狙っているだろ、コイツ。

 まあ良いか。

 なにかあったら、その時は跳ね返せば良いし。

 

「まあアタシに迷惑かけなきゃあ、なんでも良いよ」

「ククク、ああ。おれはテメェになにもしねェよ。今後はわからねェけどな」

「そうかい……ああ、それと――」

「あん? ――ウゴッ!?」

 

 立ち上がり際、顔面に覇気を纏った拳をお見舞いしてやった。

 

「気分良かったのを邪魔した腹いせだよ。嬉しいだろう? アタシみたいな美女に殴られて」

 

 店の壁を壊してベッジが吹き飛んだ。

 意識は……どうだろう。

 ギリギリのところでベッジは能力を発動して、体の中から部下を出して、クッション代わりにしていた。

 まあ部下の方はご愁傷様と言うしかあるまい。

 

 ボガードくんはヴィトとゴッティを軽く捻って、店の床に捨てている。

 まあ、もう用事はないし外に出るか。

 ヴィトのポケットに入っていた財布を頂戴し、その中に入っている金を全部店に渡して支払いを済ます。

 

 はあ……

 ベッジ、それからファイアタンク海賊団はアタシたちにちょっかいはかけてこないだろうけれど、アイツ絶対面倒ごとに巻き込もうとしてるんだよなあ……

 

「一応リィリィたちにも伝えておこうか」

「ヘイ、姐さん」

 

 一先ず、アタシたちはレストランを後にした。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

頭目(ファーザー)! お怪我の方は!?」

「チッ……あの女、ヤベェだろ。あれで一億ベリーに届かないわけがねェ。政府の奴らの目ェ、節穴なんじゃねェのか……」

 

 ベッジは寸でのところで部下を盾にしたお陰で、血こそ流しているものの重症は免れていた。

 スーツに着いた埃などを払い、頭を押さえながら立ち上がる。

 

「ククク、だがまあ良い。"ヤマカカシ"は海軍に追跡されっぱなし……そうだなヴィト?」

「ニョロロ、はい頭目(ファーザー)

「"ヤマカカシ"はおれの獲物だが、面倒臭ェ海軍の相手はご高名な"疵無し"にやってもらおうじゃねェか」

「軍艦には将官が……もしかしたら中将クラスも乗っている可能性もありまレロ」

「ありまレロってどっちだよヴィト。さて、おれたちはおれたちで戦闘準備だ!」

 

 ファイアタンク海賊団の面々はベッジの号令で大声を上げる。

 

 

 

「さあ"疵無し"、お手並み拝見といこうか」




ボガード「ゼフの方が美味い」

オーナー「なんやて!?」

アルビダ「同感」

オーナー「失礼な奴らだなぁ!」

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