アルビダ姐さんはチヤホヤされたい!   作:うきちか越人

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犬中将と熊副船長

 ベッジの予想通り、と言うか意図して誘導したのだから当然なのだけれど、"ヤマカカシ"と呼ばれる男が船団を率いて港に現れた。

 ただベッジから聞いていたよりも船の数が少なく、外観もかなりボロボロの船だった。

 

「せ、船長。あれが言ってた"ヤマカカシ"ですか?」

「そうみたいだねえ……それよりアンタたち、気を抜きすぎじゃあないかい?」

「な、なにがっすか?」

「なんのことか、わ、わからないでやすね……」

「私たちじゃなくて、この街が楽しすぎるのがいけないんです!」

 

 ちょっと目を離していた隙に、リィリィとヨサクとジョニーは丸々太っていた。

 聞けばレストランや酒場を次々はしごしていたらしい。

 それに両手には抱えきれないほどの土産を持っている。

 料理が下手くそな癖に市場で仕入れた大量の魚や、キーホルダーや人形なんかをそれはもう大量に。

 

「エンジョイしすぎか!」

 

 そう言えばアタシもかなりエンジョイしてた!

 

「お互い様だった! まあ取り敢えずさっさと痩せな」

 

 その辺をグルグル走り回らせたらみるみる痩せていく三人。

 どんな体の構造してんだと言いたくなるが、気にしないでおこう。

 

 スッキリとした三人を横目に、海の方へ目を向ける。

 "ヤマカカシ"はベッジの獲物だし気にしないでも良いだろう。

 問題はベッジがアタシたちに対して、なにを狙っているのか。

 その答えは、ボロボロになっている"ヤマカカシ"の船団と新たに海に見えた船影が教えてくれる。

 

「海軍か……ボガード、誰が乗っているかわかるかい?」

「ここからではなんとも……ただガープの旦那じゃないことは確かでやす」

 

 まあ船首だけではなく、全体的に特徴のない普通の軍艦だからねえ。

 リィリィの見聞色では少なくとも中将クラスが乗っているんじゃあないか、と感じ取ったみたいだ。

 

 "ヤマカカシ"ってのがどんな奴なのかは知らないけれど、海軍に追跡されていたみたいだね。

 それも中将クラスが乗っている軍艦となると、船団もボロボロになるか。

 

 ……って、ああっ!?

 軍艦がスペル・クイーンのすぐそばに停まってしまった!

 メインマストの帆は畳んでいるけれど、その上の小さな海賊旗(ジョリーロジャー)はそのままだ。

 完全にアタシたちが滞在しているってバレた。

 

「交戦は確定かねえ」

「ヘイ。ベッジの兄さんはあっしらに海軍を押し付けようとしていたんでしょうね」

「なるほど、"ヤマカカシ"が海軍に追われていたのを知っていたわけか」

 

 ベッジの狙いがどうあれ、海軍との交戦は避けられないようだ。

 スペル・クイーンに乗ってとんずらしようにも、あんなにも近くに軍艦を停められちゃあね。

 恐らく元々の任務の通り"ヤマカカシ"を捕らえて、はいさよならとはいかないだろう。

 ベッジの思惑通りになるのは不本意だけれど、仕方がないので乗ってやるか。

 

「全員、戦闘準備しときな」

「ヘイ、姐さん」

「は、はい!」

「了解でやす、アルビダの姐さん!」

「はいっす!」

 

 

 

 

 

 

 

 アタシたちが港に着いた頃には三つ巴の乱戦がおっ始まっていた。

 『兵力が違う』と言いながら、体内から砲弾を全周囲に向け撒き散らすベッジ。

 ハゲ頭で痩身の"ヤマカカシ"は迫り来る砲弾を捌いてはいるものの、中々復讐対象のベッジへと近付けずにいる。

 一方の海軍はと言うと、"ヤマカカシ"やベッジを捕らえることも重要だとしながら、一般人への被害を抑えることを最優先としていたため決定打に欠ける。

 

「ククク、言ったろ? 兵力が違う」

「ニョロロロ、ダルメシアン中将は動き辛そうでレロ。これも頭目(ファーザー)の予想通りレロ?」

「まあな。ただ、使えるもんは何でも使うぜェ? 流石に中将相手は分が悪いからな。さっさと来いってんだ、"疵無し"の奴め」

 

 傍目に見れば一番数が多いのは"ヤマカカシ"。

 次いで海軍なのだけれど、実際は彼も言っていた通りベッジが最多数だ。

 "シロシロの実"の能力の一つで、ベッジの体内は城となっている。

 そこに大勢の部下を格納しているため、圧倒的な手数を誇っている。

 

 海軍の尽力で一般人に被害は出ていないものの、美しかったミイハア王国の景観は徐々に破壊されていく。

 はあ……見ている場合じゃあないかね。

 今はアタシたちに手は出さないと言っていたけれど、このまま放置していたらベッジの無差別砲撃でスペル・クイーンが被害を受ける可能性があるし。

 "ヤマカカシ"はどうかわからないけれど海軍は敵で確定。

 共同戦線を張るのならファイアタンク海賊団、か。

 

 一際立派なコートを羽織る中将、ダルメシアンが一瞬の隙を突きベッジへと(ソル)を使い襲い掛かる。

 そして指銃(シガン)でベッジの腹を貫こうとするが、間一髪のところでアタシが間に入り、蹴りで受け止めた。

 

「ヒヤッとしたぜ……遅ェぞ"疵無し"」

「ふん、礼は弾んでもらうよ」

「クソッ……"疵無し"、お前まで出てくるか」

 

 追撃に移ろうとしたけれど、ダルメシアンは動物(ゾオン)系特有の身体能力で軽やかにバックステップ。

 流石中将と言ったところかね。

 

「ベッジ、アンタの思惑に乗ってやるよ。不本意だけれど、海軍の相手はしてやる。アンタはさっさと"ヤマカカシ"とやらを片付けな」

「言われなくても」

 

 アタシが参戦したことで三つ巴の乱戦から一対一が二つに。

 アタシはダルメシアンとの一騎討ち。

 周りの海兵はボガードくんを筆頭に、ウチの船員(クルー)が対処する。

 

 悪魔の実の能力者になったボガードくんだけれど、今のところ使う必要もなさそうだね。

 千切っては投げの大活躍だ。

 潮風の問題からリィリィは毒の広域散布が出来ないでいるので、まだまだ未熟なヨサクとジョニーのフォローに回っている。

 さて、アタシはアタシの相手に集中しようか。

 

 相手のダルメシアンはあのガープと同じ中将。

 勿論海軍の英雄と謳われるガープには実力は及ばないけれど、少なくとも六式と覇気は兼ね備えている。

 その上、悪魔の実の中で純粋に身体能力が向上する動物(ゾオン)系の能力者。

 決して油断できる相手ではない。

 

指銃(シガン)ッ!!」

(スペル)即興拳劇(ハロルド)!」

 

 武装色を纏った指と拳がぶつかり合う。

 衝撃波で石畳が捲れ上がり、辺りに弾け飛ぶ。

 約五年前のガープとの交戦を聞いていたのだろう、ダルメシアンも初めから油断がない。

 

 お互い(ソル)月歩(ゲッポウ)を駆使しての高速戦闘。

 生半な実力じゃあ目で追うことも出来ないだろう。

 地上で衝突したかと思えば次の瞬間には空中で衝突音が響き渡り、衝撃波が生み出される。

 そして互いの距離が離れれば嵐脚(ランキャク)の応酬。

 

(スペル)閃脚万来(カーテンコール)!」

嵐脚(ランキャク)"白雷"ッ!!」

 

 巨大な二本の飛ぶ斬撃がアタシとダルメシアンの中間点でぶつかる。

 大きく砂埃を巻き上げ視界が閉ざされるけれど、次の瞬間にはダルメシアンの大振りのパンチとアタシの飛び蹴りが衝突し、立ち込めていた砂埃を一気に晴れさせた。

 

「厄介な……三式(その技)、どこで知った? どこで身に付けた?」

「さあね」

 

 厄介に思っているのはこっちだって同じだ。

 加速で威力を上乗せしているとはいえ、純粋なパワーで言えばダルメシアンの方が上。

 覇気に六式、この二つが使えると動物(ゾオン)系は恐ろしいほどに化ける。

 

 まあそれすら上回る加速力を出せないこともないのだけれど、それを繰り出すほど切羽詰まっているわけじゃあない。

 もう少しで悪魔の実の能力、その真髄とも言える"なにか"が掴めそうな気がするのだ。

 出し惜しみなくあらゆる手札を繰り出すか、それとも能力に制限を掛けて基礎を更に磨くか。

 その"なにか"を掴むためにアタシは後者を選んだ。

 見方によっちゃあ舐めプレイになっているんだけれどね。

 まあそんな感じの強者ムーブはアタシ好みだ。

 

 さて、ウチの船員(クルー)たちの様子はと言えば。

 ヨサクとジョニーはリィリィの援護があったお陰か、そこそこの数の海兵たちを倒して、そして自分達も『か……紙一重か』と言って倒れている。

 佐官に満たない海兵だろうと、それでも相手は海軍本部の海兵だ。

 以前バラティエの近くで海軍本部の"フルボディ"大尉一人にボコボコにやられたと言っていた二人。

 武器を新調したのもあるだろうけれど、短期間でかなりの成長を遂げているね。

 

 ボガードくんの姿は周囲には見当たらないが、所々嵐が通った跡のようになっているので問題ないだろうね。

 

「よくも部下を……っ!」

「アタシたちは海賊、アンタたちは海軍。こんなの良くあることじゃあないか」

 

 襲い掛かるダルメシアン。

 まあ中将だけあって、冷静さは欠いていない。

 とは言え、多少攻撃が直線的になっている。

 アタシの顔面へ放たれる洗練された強力な指銃(シガン)

 

「一歩、深く踏み込んじまったね?」

「っ! しまっ――――」

 

 一歩。

 ダルメシアンがアタシ側へ深く踏み込んだ。

 指銃(シガン)を避ける動きと同時に、その深く踏み込まれた足と地面の間にアタシの足の甲を挟み込む。

 余程の理由がない限り踏み込みという動作には覇気を纏うことはない。

 つまり、アタシの足の甲を踏んだダルメシアンは滑って大きくバランスを崩すことになる。

 

(スペル)即興脚劇(スポークン)!」

「ぬぐォォッ!?」

 

 超加速された蹴りがダルメシアンの無防備な脇腹に突き刺さり、大きく吹き飛ばされる。

 だがまだだ。

 ダメージは大きいだろうけれど、寸でのところで武装色を纏っていた。

 数秒もしない内にダルメシアンはその目に闘志を宿し立ち上がる。

 

「姐さんッ!!」

「ん? ああ、なるほど。それじゃあ、行くよボガード!」

「ヘイ、姐さん!」

 

 声のした方向を見れば、軍艦の上でへし折ったメインマストを持って投擲の構えをしていたボガードくんがいた。

 体格が一回り大きくなり、鋭い牙や主に上半身に灰色の体毛が生えている。

 

「せいやぁっ!!」

 

 動物(ゾオン)系、クマクマの実モデル"灰色熊(グリズリー)"。

 

 元々パワータイプだったボガードくんのパワー、それからタフネスはこの悪魔の実で大幅に強化された。

 その圧倒的パワーから投げ出されたメインマスト。

 砲弾なんて目じゃあないほどの速度と質量でダルメシアンへ放たれる。

 当然見聞色で避けられてしまうが、その先にはアタシが待ち構えているんだよねえ。

 そういう風に計算してボガードくんがマストを投げたんだけれどね。

 

 狙っていたアタシと想定外だったダルメシアン。

 ダルメシアンの甘い防御の上から反撃の隙を与えず乱打を浴びせる。

 そして軍艦の上から飛び降りて、石畳に大きなヒビを入れたボガードくんも参戦。

 蝶のように舞い蜂のように刺す華麗なアタシの戦闘スタイルとは真逆で、いわゆるベタ足インファイト上等なスタイルのボガードくん。

 

 二対一だけれど卑怯とは言うまい。

 そもそも百人近くの海兵に囲まれているんだからね。

 

 超接近戦でダルメシアンのガードを打ち砕くボガードくん。

 相応に反撃は喰らっているけれど、真っ向切っての潰し合いなら元々ダメージを受けていたダルメシアンが不利だ。

 地力の面ではダルメシアンの方が上だろうけれど。

 まあそれに相手はボガードくんだけじゃあないしね。

 

(スペル)即興拳劇(ハロルド)っ!!」

「……がっ…………」

 

 今度は覇気のガードなしで、正拳が鳩尾に入った。

 吹き飛ばされたダルメシアンは完全に伸びている。

 

「お疲れさまでやす、姐さん」

「アンタもね。一応後でリィリィに診てもらいな。我慢しているみたいだけれど、結構効いてんだろう?」

「正直、そうでやすね」

 

 

 

 その後、足元の覚束ないヨサクとジョニー、元気いっぱいのリィリィと合流。

 ミイハア王国の人たちとも少し話をしたりした。

 ベッジの方もとっくに終わっていたみたいで、ニヤニヤしながら近付いて来た。

 アタシたち五人とベッジは瓦礫に腰を掛けながら話し合う。

 

「よォ"疵無し"。大活躍じゃねェか」

「一番面倒なことを押し付けた奴の台詞かい?」

「ククク、さあなんのことか。まあ良い、海軍の奴らに止め刺さねェのか?」

「ファンに頼まれちゃあね」

「ファン?」

「ああ、この国の奴らさ。それに絶対に相容れないならともかく、海軍とは立場が違うだけで怨み辛みなんかこれっぽちも持ち合わせてないからね。別に生きていようが死んでいようがどうでも良いのさ」

 

 この国の人たちと話をしている時に頼まれた。

 ミイハア王国は世界政府加盟国。

 "世界会議(レヴェリー)"に参加できるほどの規模ではないが、海軍は味方なのだろう。

 いくら国の人たちが海賊に慣れているとは言え、どちらを取るかと聞かれればそりゃあ海軍だろうね。

 

「そうか。おれが直接海軍と闘り合ったわけじゃねェし、お前の好きにすりゃ良いさ」

 

 そう言ってベッジは立ち上がり、アタシたちに背を向ける。

 

「ああそれと、いつかテメェの首も狩ってやるから覚悟しとけよ?」

「アタシの追っかけなら歓迎するけれどね。ストーカーは御免だよ」

「言ってろ」

 

 去っていくベッジの背を見送り、今後の予定を話し合う。

 

 ミイハア王国では記録(ログ)を溜めるのに約一ヶ月掛かる。

 その間にヨサクとジョニーを鍛え上げようという当初のプランだったのだけれど、海軍が来たことでややこしくなった。

 まあアタシたちが海賊である以上当然だが、ここに滞在し続けては間違いなく援軍を呼ばれる。

 仮にもう一人か二人中将クラスが軍艦と共にやって来てしまえば、ボガードくんと二人では残りの三人を守りきれない。

 

「そこで、だ。当初の目的通り、ヨサクとジョニーは鍛えたい。でもそれは鍛練じゃあなくても出来るとは思わないかい?」

「どういうことっすか、アルビダの姐さん?」

「実戦の中で強くなれってことさ。見な」

 

 今日の新聞を見せる。

 そこには"アラバスタ"の記事。

 『国王軍と反乱軍の衝突が間近まで迫っている!』という見出しが掲載されている。

 

「ちなみに、予想でしかないけれど"麦わら"たちも多分アラバスタにいるよ」

「ええっ!? 本当でやすか、アルビダの姐さん!」

「だから予想でしかないって」

 

 ボガードくんに倣ってアタシも新聞はなるべく読むようにしている。

 アラバスタの王女と護衛隊長が行方不明だとか、冬島であるはずの"ドラム王国"で巨大な桜が短い間だけ現れただとか。

 ルフィたちが原作通りに航海を進めている可能性は高い。

 

 完全に打算ありきだけれど、ヨサクとジョニーに経験を積ませるにはもってこいだ。

 それとアタシ個人としては"ナノハナ"に行ってみたい。

 香水で有名だからね。

 アタシの美貌と芳しい香りで全人類一撃ノックアウト間違いなし!

 

「じゃあそういうことで、アラバスタ行き決定で良いね?」

「ヘイ、姐さん」

「はいっ!」

「おおおお……っ! 兄貴たちにアッシらの成長を早く見せたいぜ!」

「おれも! すげェ頑張るっす!」

 

 

 スベスベの実の副次効果で日焼けや肌荒れの心配はなし!

 行くか! アラバスタ!




ゾオン系幻獣種、クマクマの実モデル"ヒグマさん"にしようか迷った。
でも強すぎるのでやめました。

ボガードくんの悪魔の実、オリジナルだけど許して!
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