犬の名前さながらの町長さん。
「へぇ、やるじゃないかいボガード。あんた航海士としての才能が有ったなんてねえ」
「ヘイ、姐さんが海に出るってんで勉強しやした!」
盲点だったと言うか、作中の殆どが
荒れ狂う波とか異常気象とか、通常のコンパスが役に立たないのが
なら
海は厳しいと言うのを出航してすぐに身を以て教えられた。故郷の島が見えなくなって程なくして遭難したのだ。
まあ極短い間だけ現在地がわからなくなっただけなので、遭難と言えるほど大袈裟なものではないかもしれないけれど。
そこで役に立ったのが我がアルビダ海賊団の記念すべき一人目の
アタシの役に立つべく、必死こいて勉強したらしい。おかげさまで順調に進めている。(らしい)
視界は一面海で島影すら見えないので、次の島に着かないとわからないがな!!
まあこの件でアタシに航海術が備わっていなかった事がわかっただけでも儲けものだろう。
徐々に日が暮れ始め、空が茜色に染まった頃になって漸く島影が見えた。このペースなら完全に日が落ちる前に島に着くだろう。
無人島ならそれで良いのだが、問題は有人島だった場合。
その時の島民のリアクションとして反抗、降伏、通報などが考えられる。薄いところで歓迎ってところか。
それに最悪あの島に海軍基地があるかもしれない。
まあだからと言って
バカみたいな想いだが、アタシはこの旗に『世界中の人からチヤホヤされたい』と誓った。だから海賊になった。
この旗を下ろすと言うことはその想いすら取り下げることに他ならない。
それは絶対にダメだ。やってはならない。
「このまま他の島を探してたら夜になっちまう。あの島に行くよボガード」
「ヘイ、姐さん」
「とは言え、面倒事を避けられるならそれに越したことはない。アタシが一足先に様子を見に行く。アンタはこのまま船を向かわせな」
「ヘイ!」
船から飛び出す。六式
そのまま空を駆け目的の島へと向かった。
「な、何じゃあ!?」
着いたのは小さな港町。そこにいた人々がアタシを見てザワザワしている。空中散歩していた人間が現れたらそうなるか。
と言うかおじさん率高いな。側頭部と後頭部にだけ白髪の生えた白い髭のおじさん……もしくはお爺さん。
ニット帽をかぶった、これまた白髪で白いあご髭を生やしたお爺さんとその傍らに白い犬。
そして眼鏡を掛けたまたしても白髪のお爺さん。この人の髪型すごいな。てっぺんとサイドに三つのお団子がある、サザ○さんヘアーと言うか……白い犬を見た後だとプードルに見えると言うか…………
……ん? プードル?
…………あっ!! もしかしてここオレンジの街じゃないか!?
聞いてみよう!!
「悪いねえ、驚かせちまって。ところでここはオレンジの街であってるかい?」
「あ、ああその通りじゃ。ここはワシらが三十年掛けて作り上げた街、オレンジの街であってるぞい」
胸を張って答えるプードルみたいな髪型のお爺さん。まあプードルみたいなと言うかーー
「そしてワシがこの街の長さながら、町長のプードルじゃ。よろしくのう美人さん」
「美人さん……それはアタシのことかい?」
「当然じゃ! アンタみたいな美人さながら、生まれてこの方初めて見たわい! のう、お前ら!?」
「「「「オオォォォォオオッ!!」」」」
ああああ!!
これこれぇぇぇぇーっ!
皆してアタシを見て目にハートマークを浮かべて熱を上げる。
これが気持ちいいっ!! これが欲しくて海に出たんだ!!
故郷の島じゃあ呼吸をするようにアタシを褒め称えてくれた。けれどやっぱりマンネリと言うか、まだアタシの美しさを知らない人たちに知らしめる。
そして惜しみ無い称賛を浴びる! たまらない!!
「そう! もっと褒め称えなさい!!」
「「「オオォォォォッ!!」」」
「この海で最も尊いのは?」
「「「「貴女ですっ!」」」」
「この海で最も価値があるのは?」
「「「「もちろん貴女ですっ!」」」
「その通り!! ではこの海で最も美しいのはっ!?」
「「「「当然の如く貴女様でぇぇすっ!!」」」」
はぁぁぁ…………エクスタシー(恍惚)
この後、この掛け合いを五回程繰り返して満足したアタシは本題に入る。
わ、忘れていたわけじゃあないぞ!
気持ち良すぎて調子に乗っていたけれど忘れていたわけじゃあない!
「さて、アタシの美しさを再確認したところで……町長」
「なんじゃ?」
「もしアタシが海賊だって言ったら、アンタはどうするんだい?」
「なっ!? か、海賊じゃと!?」
プードルさんのその一言で辺りは一瞬で静寂に包まれた。
そこにアタシの並外れた美貌で放たれる冷たい笑み。
うん、すごく様になっているんだろうけれど確認できないのが辛い。絶対に超絶クールビューティーな感じだろう。今度から練習しよう。
「そう、海賊さ。まだ旗揚げ間もないけれど歴とした海賊だよ」
「も、目的はなんじゃ!? ワシはこの街の長さながら! 悪党には屈しないぞ!」
「お、おれたちもだ!」
「おれたちの街はおれたちの力で護るんだ!!」
オレンジの街の人たちは恐怖を孕んだ眼でこちらをみる。
自己を奮い立たせているが、見聞色の覇気で調べると恐怖の感情がありありと伝わってくる。
うーん……なんか違うな。
注目を浴びるって意味ではチヤホヤされるのと変わりないけれど、コレは全然気持ち良くない。
アタシの求めるモノはコレじゃあないんだね。
「アハ、アハハハハ!!」
「くっ、やる気かっ!?」
「アハハハハ……はあー笑った。すまないねえ町長。怖がらせちまった」
「な、何じゃ……冗談じゃったのか……」
「いいや、冗談じゃあないよ。アタシは紛れもない海賊さ」
「な!? やはりーー」
「まあ結論を焦るんじゃあないよ。アタシは海賊さ。だから欲しいものは奪い取るのさ。なら、アタシの欲しいものは何だと思う?」
「か、金か?」
まあ普通はそう思うだろう。一般的な海賊のイメージに違わない。
でもアタシはそうじゃあない。そりゃあこれから海賊やってりゃあ金銀財宝を求めることもあるだろう。
場合によっちゃあ略奪だってするかもしれない。
でも、本当に欲しいものは違う。
「アタシはね、チヤホヤされたいのさ。世界中の誰よりも」
「…………は?」
ポカンとした表情。本当に犬に見えるぞプードルさん。
「チヤホヤされたい。美しいと言われたい。誉められたい。尊ばれたい。誰よりも、世界中の誰よりもチヤホヤされ、世界中の人々にかまってほしい!! それがアタシの求めるものさ」
「な、何じゃあそれは……」
「だからアンタたちはアタシに"
「ぷっ…………ぶははははは!! お前さん本当に海賊か!? ああ、ああ、構わんわい!! お前さんが気の済むまで
一気に場が明るくなる。そして次々と送られる称賛の言葉。
おべっかじゃあない。当然だ。だってアタシの美しさの前では薄っぺらい嘘なんか吐けるわけないのだから。
その後ボガードくんが乗った船が着港したが騒ぎになることはなかった。訂正、怪物みたいなボガードくんを見てマダムたちが若干悲鳴を上げてた。
完全に日が落ちてからは酒場に案内され宴となった。故郷の島で貢がせた
と言うことで、「町長の男気見てみたい」的なニュアンスでプードルさんに問いかけてみたところ、「ワシの奢りじゃあ!」と奮発してタダ飯タダ酒にありつけた。
改めてアタシの美貌と言う魔力に自分で酔いしれたよ。
オレンジの街への滞在は三日。
その間白い犬ーーシュシューーの飼い主さんがペットフードショップをオープンした。
アタシは美貌を活かして客引きをしたのだが予想以上に客が集まり店主は嬉しい悲鳴を上げていた。
食料品店ではちょっと色目を使ってやれば簡単にサービスしてくれる。こちらとしてはかなり安く大量の食料を購入できて嬉しいのだが、店側からしたら大赤字だろう。
泣きそうになってかわいそうだったので、ほんのちょっとだけ
食料品店の店長さんは顔を真っ赤にしながらも満面の笑みを浮かべていた。涙は止めどなく流れ出ていたけれど。
他にも色々あったけれど語り尽くせない。すごく濃い三日間だったことは確かだ。
とても充実した滞在だった。
「じゃあアタシたちはそろそろ出る」
「うむ、またいつでも来て良いぞ。アルビダちゃんたちみたいな海賊なら大歓迎じゃわい」
「へえ、そうかい……まあ今のご時世、アンタたちが想像するような矜持を持たない海賊が多いからね。気を付けなよ」
「それを言うたら、アルビダちゃんは海軍に気を付けるんじゃぞ」
「当然だね」
あ、そうだ。とても充実した時間を送らせてもらったお礼に少し"ヒント"を出してみよう。
「ああそれと、海賊に善い悪いなんてちゃんちゃら可笑しいけれど、それでも"気持ちの良い海賊"ってのはいるもんだ。アンタらがピンチになった時、もしかしたら海軍じゃなくて"そういう奴ら"が助けになるかもね」
「? どういう意味じゃ?」
「その時が来るかは定かじゃあないけれど、覚えておいて損はないよ。……さて、海賊の出航ってのはサッパリしたのが良い。行くよボガード!」
「ヘイ、姐さん」
オレンジの街からアタシたちの小舟が離れて行く。
町民たちは思い思いの言葉を投げ掛け、手を振り続ける。
しみっぽくならないように、振り返らずに軽く手を挙げ別れの挨拶に。
まあペットフードショップの店主が存命だったと言うことはまだ"道化のバギー"は現れていないということ。
バギーが現れてからはオレンジの街にとって辛い日々になるだろうが、主人公たるルフィが何とかするだろう。一応ヒントになるかわからないが助言も出しといたし。
アタシにはアタシのやるべきことがある。
直近にして絶対の目標はスベスベの実を見つけること。
これがないと話にならな…………くはないけれど、是非とも欲しい。
このままでも究極的な美貌を誇っているけれど、スベスベの実が手に入ったならば、もう鬼に金棒状態になるだろう。
あ、鬼に金棒で思い出したけれど原作ではアルビダって"金棒のアルビダ"って呼ばれてたな。
……まあ良いか。むしろ要らないか。
と、考えに耽っているアタシの顔がチラリと水面に映される。
「ねえボガード」
「なんでしょう姐さん?」
「アタシってどんな表情してても美しくなるんだねぇ」
「勿論でさぁ! いついかなる時も美しくなってしまうのが姐さんです!」
「ほう、それは良い言葉だねえ! つまりエンドレス美人! 無限の美女アルビダ様とはアタシっ!!」
「よっ! 永久不滅の美女アルビダ姐さん!!」
「アハハハハ!! アハハハハ!!」
「ヘッヘッヘッヘッヘッ!!」
理想はめっちゃ強いドロンボー一味。
現実は未だにナルシストが天元突破してるだけ。
戦わせたいんじゃあ……