オレンジの街を出航して二日。次の島が見えてきた。
先日と同じように
「いいかいボガード、渦巻き模様の果実を見つけたら報告するんだよ」
「ヘイ、姐さん」
まだ故郷の島を出て二つ目の島。気が早いかも知れないが、いつ悪魔の実を見つけても良いようにボガードくんには言い含めておく。
オレンジの街でも聞き込み調査は行っていたのだが成果はなかった。まあ海の秘宝とまで呼ばれているのだから早々に見つかるとは思っていないが。
それに原作にもあるように
知っていても所詮まやかしだろうと切って捨てる人だって多数いる。
ボガードくんは前者で、初めてその事について話した時には頭にクエスチョンマークを浮かべていたくらいだ。
まあ見つけたとしてもそれがアタシの目的のスベスベの実かはわからない。悪魔の実図鑑がなければ形すらわからないのだ。
原作開始前のこの時期に
うーん、ところで今って原作開始の何年くらい前なんだろう。
ボガードくんと手分けして探してみたが、やはりと言うべきか成果はゼロ。でもまだ二人合わせてこの島の五分の一くらいしか探索出来てないと思う。
木々が生い茂って羽虫なんかもたくさんいたのでうっとおしかった。草木で肌を切ったり虫に噛まれなかったかって?
武装色の覇気で万事解決!!
羽虫ごときが鉄を傷付けるなんて出来やしないだろう?
まあ万が一アタシの世界一美しい肌に傷でも付けようもんなら、この島が何もない更地になるかもねえ。
ともあれ今日の探索は終わり。船の近くの広い砂浜をキャンプ地にして晩飯を食べる。
そこでなんと副船長兼航海士(暫定)のボガードくんの有能さがまた明らかに!
めっちゃ美味い! 今まで……と言うか二日三日程だけれど料理はアタシが担当していた。
ただ今回は野外料理にしようと言うことでボガードくんにやらせてみたのだ。
するとどうだろう。最低限とは言え、各種設備が整った船のキッチンで作ったアタシの料理と手早に作ったボガードくんの野外料理。
軍配はボガードくんに挙がった。聞けば料理屋の一人息子だったらしい。
ぐぬぬ……航海術でもボガードくんに負け、料理の腕でも負けるとは……
く、悔しくなんかないぞ。一人で海に出たら遭難するかもしれないし、料理も焼き以外の調理法は諦めているけれど、それを補ってもまだ余りある程アタシは美しいし……
そうだ! アタシは美しいんだ!!
海で迷子になる? 料理が下手?
ノンノン。それがどうした!!
アタシの美貌の前では、それらは欠点足り得ないっ!!
「そう! アタシはこの海で一番美味いのさっ!!」
「その通りでさあ!!」
「アハハハハ!! アハハハハ!!」
「ヘッヘッヘッヘッヘッ!!」
この後めちゃくちゃ寝た。
探索二日目。
元気溌剌! 気分爽快!
「おい、ボガード。さっさと起きな!」
「ヘイ! すいやせん姐さん!!」
終日探し回ったがこれと言った収穫はなかった。
まあそれは悪魔の実に関してで、食べられそうな果物なんかはかなりの数見つかった。
これまたボガードくんが有能さを発揮して食べられるものとそうでないものを分けていった。
植物に関する知識も島を出る前に叩き込んだらしい。
いやぁ、ボガードくんの肩書きの増加がとまりませんなあ(白目)
副船長、航海士、料理人、植物学者←NEW
彼はどこを目指しているのだろうか。いやまあ有能な部下ってのはありがたいけれどね。
今日の食事もボガードくん任せ。
うん美味い。そう微笑みながら言ってやれば、ボガードくんは鼻血を吹き出しながら幸せそうな顔で気絶した。
ああ、鼻血で思い出したが、この島には小さな滝があった。
そこで水浴びをして汗などを洗い流しているのだが、ボガードくんが覗くとは思えない。
忠誠云々の話ではなくて、故郷の島でアタシの美しさに耐えられなくなった男共がアタシの入浴を覗いたことがあるのだ。
確かにアタシの究極の美ボディを前に覗きをしようと思うのはしょうがない。自然の摂理だ。
ただ浴室の周囲には大量の鼻血を吹き出して倒れている男共が転がっていた。
辺りは血だらけ、これがほんとのブラッドバスか。なんて当時は思っていた。
これが島の男の教訓となり、誰もアタシの風呂を覗こうとはしなくなった。
ちなみに見られて恥ずかしくなかったか聞かれたこともある。
『逆に聞くがこのアタシの体に恥ずかしい箇所なんてあると思うかい?』とドヤ顔で聞き返してやった。
三日目、四日目。
変わらず成果なし。わかってちゃあいたけどしんどい。
ちょっと不機嫌になったアタシをボガードくんが必死で宥めてくれた。
相変わらずメシが美味い。
さて、五日目だ。
恐らく今日でこの島の探索は終了するだろう。
余りの成果のなさに若干気落ちしていたが、ボガードくんが励ましてくれたお陰で持ち直した。
そうだよ。そう簡単には見つからないって最初からわかっていたじゃあないか。
淀んだ表情はアタシには似合わない。美意識からもズレている。
それにまだたった二人の海賊団とは言え、アタシは船長だからね。
「海の秘宝……この島にはなくても見つけるまで探し続ける。いいね?」
「ヘイ、姐さん」
「よし! 行くよボガード!」
「ヘイ!」
とまあ気分を一新してみたものの、結局この島では悪魔の実は見つからなかった。
途中ボガードくんと合流して船の停まっている砂浜へと帰る。
まだ日は高いところにある。戻ってそのまま出航するか、それとももう一泊するか。
歩きながらボガードくんと相談する。
「アンタはどう思うんだい?」
「ヘイ、あっしはもう一泊することを薦めますぜ。最寄りの島まで距離が遠い。夜の航海になる可能性が高いですぜ姐さん」
「そうかい。ならそうしようかねえ。もう一食アンタの野外料理を食えるってんなら、それはそれで趣がーーーーーーっ!?」
瞠目。
慌ててボガードくんの手を引っ張り茂みに飛び込む。
……ヤバい。いやヤバいなんてもんじゃあない。
見聞色の覇気に引っ掛かった馬鹿げた生命反応。
複数の人間だ。けれどそこらの海王類すら凌ぐ圧倒的な強者の気配。
こんなの本来
背筋が凍る。肌が粟立つ。呼吸も荒くなる。
まだ見聞色の覇気を会得していないボガードくんは何のことかわかっていないみたいだが、アタシの様子を見てただ事ではないと感じたようだ。
「……良いかいボガード、決して音を発てるな。出来るかわからないけれど、なるべく気配を消すんだ。呼吸も最小限に留めな」
「ヘイ」
小声で指示を出す。
しかしまあ、こんな規格外の気配を持った人間相手なんだ。
この程度子供騙しにもなりゃあしない。
だってほらーーーー
「そこの茂みに隠れている二人。出てきな、悪いようにはしねぇ」
見聞色の覇気を使えないはずがないのだから。
隠れるのは無意味。ならば逃走か?
無理だ。間違いなく格上。アタシらが下で相手が圧倒的に上。
逃走の"と"の字すら叶わず捕まる、もしくは殺られるだろうな。
「しょうがない……覚悟決めるよボガード」
「ヘイ」
ゆっくりと身を隠していた茂みから立ち上がる。
改めて見聞色で辺りを確認したところ、既に囲まれているようだ。
四面楚歌ってやつだ。もしくは絶体絶命。
冷や汗が流れる顔をふと見上げた。
絶句という言葉があるが、正しくアタシはそれを経験した。
「うおっ!? とんでもない美女だぜ、お頭!」
丸々太った男。サングラスと骨付き肉が目に付いた。
「いやーたまげた。おれの息子の嫁さんにでも……ってちょい歳が離れてるか?」
パーマが掛かった黒髪の男。その額に着けているバンダナには『YASO』という文字。
「マジかよ、
煙草をくわえ、長銃を携えた黒髪オールバックの鋭い目付きの男。
そしてーーーー
「みたいだな、驚いたぜ。嬢ちゃんの表情見りゃ必要ねぇかもしれねえが、一応名乗っておこうか」
赤い髪、麦わら帽子、左目に走る三本の傷跡。
見間違えるわけがない。
この時期にそう呼ばれていたかは知らないが、彼は後の海の皇帝、"四皇"の一角。
ONE PIECEと言う物語のキーパーソンにして、主人公モンキー・D・ルフィに多大な影響を与えた大海賊。
その名はーー
「おれはシャンクス。"赤髪のシャンクス"だ」
はい!
と言うわけで"はじまりのむら"から少し出たら魔王とエンカウントしてしまったナルシスト姐さん。
転生特典? ねぇよ!
覚醒フラグ? それもねぇよ!
うーんベリーハード。ニッコリ(ゲス顔)