アルビダ姐さんはチヤホヤされたい!   作:うきちか越人

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サブタイの時点で丸わかりですが、後半少しだけ時間が飛びます。


療養期間と一年間

 ア・タ・シ・が! 戻って来たぞ、オレンジの街!

 

 そう! ほんの一週間くらい前に、町長のプードルさんに何か意味深なことを言い残して颯爽と去って行った、超絶美少女のアタシだ!

 一片の恥ずかしげもなく戻って来た!

 

 常世の金銀財宝の総てと比べても、アタシの方が尊ばれる。

 絶対的な美しさと唯一無二の価値!

 そんな、生きているだけで世界の至宝となれるアタシに恥部なんて有ろうはずがない!

 

 たまたま船着き場にいた数名の中にプードルさんもいたので、彼が代表して迎え入れてくれた。

 

「ちょっと前ぶりだねえ町長」

「おお! アルビダちゃんが出て行ってから、街の皆が寂しがっておったぞ! ささ、ワシはこの街の長さながら、皆を代表して歓迎するわい」

「当然だね。アタシがいるといないとじゃあ、華やかさは雲泥の差に決まっているじゃあないか。さあ、アタシをもてなしな! ちゃんとチヤホヤするんだよ!」

 

 その後、オレンジの街の住人たちに暖かく迎え入れられた。

 プードルさんにはアタシが戻って来た理由ーー左腕の怪我が癒えるまで滞在したいと言う旨を伝えた。

 当然のことながら、アタシの魅惑の細腕が腫れ上がっていたことに怒ったプードルさんは、顔を真っ赤にしてちゃちな鎧と槍を装備して「そんな不届き者、ワシが懲らしめてやる!」と言って臨戦態勢を整えていた。

 なので別に気にしていないと言う事を伝え宥める。

 

 まあ、シャンクスの言葉を借りると『傷が付いていても良い女』だからねえ。アタシは。

 むしろ怪我も美点に変わってしまう、恐ろしさすら感じるアタシの無限のポテンシャル。

 んん~、マーベラス。

 だが傷を付けた張本人のシャンクスは許さん。

 

 

 

 あの無人島で採れた大量の果物は、ボガードくんがそこそこ日持ちするようにいつの間にか加工していたみたいだ。

 実はアタシが今着ている服を作ったのもボガードくんだったりする。

 料理や裁縫が得意な元男の娘な彼の女子力は前々から高いと思っていた。

 けれど、食品加工とか、一から服を作るのはそりゃあもう職人の域じゃあないか。

 いやあ、有能だねえ(白目)

 

 とまあ、その大量の果物は店に持っていったらまあまあな値段になった。

 海賊になって初めての現金収入が略奪などではなく、果物の加工業とは……

 原作のアタシを考えればそりゃあ、実に小物(アルビダ)らしくて良いんだけれどね。

 

 夜になり、前回の滞在時のようにプードルさんに"お願い"すればタダ飯タダ酒にありつける。

 街の人もたくさん酒場に寄って来てくれた。

 まあアタシがいるのだから当然のことだがね!

 空が白んでくるまで、飲んで食ってのドンチャン騒ぎ。

 

 翌日には二日酔いが多数発生し、皆ゾンビのようになっていた。

 そしてまたしてもボガードくんの大活躍。

 二日酔いに効く薬草なんかを煎じたり、街の料理屋の手伝いをしたり、被服店では服のデザインなんかも手掛けたりしていた。

 彼はどこへ向かっているんだろうねえ……

 

 

 

 

 そんなオレンジの街での日々を過ごして十日余り。

 ちょっとアタシも信じられないが、腕の怪我はほぼ治っていた。

 僅かな違和感はあるけれど、腫れも青あざも引いて元のきめ細やかなビューティースキンに戻っている。

 前世の知識からこの異常な回復力に驚いたけれど、良く考えたら原作キャラたちも大概こんな感じだった気がする。

 

 まあ、ポジティブに受け取ろうじゃあないか。

 念のため後数日だけ様子を見てから出航しよう。

 この街の居心地は良いが、本来の目的を見失っちゃあいけないね。

 そのことをプードルさんに言ったら「そうか」と寂しそうにしながら返してくれた。

 

 わかるよ?

 アタシがいるってだけでどんな田舎街でも、"マリージョア"より上になっちまうんだからねえ。

 それ以上しんみりすることにはならず、世間話を交わしていたら「海賊が来たぞ!」と怒号が響き渡った。

 

 アタシがいる街に襲撃に来るとは良い度胸じゃあないか。

 その面を拝んでやろうと港へ向かった。

 

 

 

 

 

 うん、シャンクスだった。

 

「町長、そう焦らなくても良いよ」

「しかし、ワシはこの街の長さながら! 万が一があるやも知れん!」

「アイツはムカつく奴だけれどね、堅気に手を出すような男じゃあない。……ムカつく奴だけれどね」

 

 大事なことなので二回言っておいた。

 

 "赤髪海賊団"の船、"レッドフォース号"が着港する。

 だが降りてきたのはシャンクスだけ。

 そしてその容姿を見て『なるほどねえ』と思った。

 そうか……そんな時期だったか。

 まあ"何があったのか"をアタシが知っているのはおかしいので、皮肉を交えてそれとなく聞いてみる。

 

「アンタ、随分とまあイメージチェンジしたもんだねえ?」

「ははは! どうだ、似合ってるか?」

「チッ、皮肉だよ。……で? 麦わら帽子と左腕はどこに忘れてきたんだい?」

「忘れたんじゃねぇよ。未来に託してきた」

 

 そう言いながら、愛おしそうに左腕の在った場所を擦った。

 

「取りあえず挨拶だけでも、と思ってな」

「そうかい。じゃあ受け取っておくよ」

「ああ。多くは語らねえが、"お前さんのことも、待ってる"」

 

 そう言い残して、アタシに背を向け船へと帰って行った。

 海賊らしいサッパリとした別れ。

 凄くしっくりくるね。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、アタシたちも再びの出航をする日が来た。

 一度目にオレンジの街を離れた時よりも多くの住人が見送りに来てくれた。

 アタシの魅力にメロメロだったことを差し引いても、この街の人たちは善い人ばっかりだ。

 一言二言交わし船に乗る。

 相変わらずの晴天、航海日和。

 

「行くよボガード!」

「ヘイ、姐さん!」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 オレンジの街を出航して約一年。

 この一年間で特筆すべき大きな出来事は、アタシたちの周りでは起きなかった。

 細やかな出来事なら多々あったけれど。

 

 例えば、他の海賊と出会したりだとかね。

 最弱の海、東の海(イーストブルー)の名に恥じぬ(?)凡百の海賊共だったさ。

 多くても精々が二十~三十人程度の海賊団で、案山子を相手にしているみたいなものだった。

 シャンクスのせいで感覚が狂っちまっていたけれど、本来彼は東の海(こんなところ)で出会うはずのない海の皇帝。

 雑兵を相手にしたことで、シャンクスの気持ちが何となくわかった気がする。

 

 まあ、そのすごく東の海(イーストブルー)らしい海賊共と海の上でばったり会ったんだ。

 出会い頭に大砲を何発も撃たれたけれど、月歩(ゲッポウ)と武装色の覇気を纏った蹴りで全弾海に叩き落としてやった。

 奴らが唖然としている間に敵船に乗り込んだらまあ大変。

 アタシみたいな、ド級という言葉ですら陳腐に感じてしまうほどの美女が自分たちの船に降り立ったのだ。

 

 『オオオオォォォッ!!』と言う歓声と共に目をハートマークに変える海賊たち。

 うんうん。とても良い気分にさせてくれるじゃあないか。

 それでも船長含め数人はアタシに襲い掛かって来たので、そいつらは適当にあしらって船から放り出しといた。

 アタシに目と心を奪われて船に残った奴らには、アタシという存在を拝むことの出来た"見物料"として、船に積まれていた金銀財宝全てを貢がせてやった。

 まあこいつら以外にも似たような奴らは多々現れたので、ほぼ同じ手法で根こそぎ財宝は頂いた。

 

 ベリーに換金したのなら結構な金額ーーそれこそ小さめのキャラベル船なら買えそうなほどの量になったけれど、如何せんアタシたち"アルビダ海賊団"はまだ二名。

 ボガードくんに航海術があるとは言えたった二人ではそこまでの船は動かせないし、今の小船では財宝全てを積むことが出来なかったので、スベスベの実捜索の道程で見付けたなにもない孤島に隠しておくことにした。

 

 無防備に思われるかもしれないけれど、その孤島は断崖絶壁より酷い"ねずみ返し"状になっている崖を数十メートル登らないと上陸出来ない。

 アタシは月歩(ゲッポウ)が使えたので苦にならなかったけれどね。

 

 

 

 他の出来事で印象に残っているのはボガードくんのことだ。

 何を血迷ったのか、いきなり『あっしを蹴ってくだせえ、姐さん』なんて言い出したのだ。

 これを聞いた時は、ボガードくんにそんな趣味があったのかという困惑した。

 そう言う"サービス"は受け付けていないんだよ。

 

 まあ、良く良く聞いてみたところなんてことはない。

 六式の中の鉄塊(テッカイ)を会得するために、外部からの衝撃が欲しかっただけみたいだった。

 言葉足らず感は否めなかったがな!!

 

 揺れる小船の上ではひたすら覇気を磨き続け、島に着く度にボガードくんを足蹴にする日々。

 ボガードくんは生傷が絶えることがなかったけれど、彼は遂に鉄塊(テッカイ)を、ついでと言うには大きすぎるかもしれないがアタシは嵐脚(ランキャク)を会得することが出来た。

 元々ボガードくんは三年間の下地があり、アタシが見切りを付けた鉄塊(テッカイ)指銃(シガン)を重点的に反復していたのだ。

 会得した時は泣いて喜んでいたね。

 ただ、アタシに足蹴にされて嬉しそうにしていたのは止めて欲しかったよ。

 

 

 

 

 

 

 この一年間という月日。

 まだスベスベの実は見つけることが出来ていない。

 まあ焦ることはないさ。必ずある。

 勿論、それは既にスベスベの能力者が存在しないと言う前提での話だがね。

 

 もし……仮にだが、アタシの目の前にスベスベの能力者が現れたのならその時はーー

 

 いや、止そう。

 仮定の話をしていても建設的じゃあない。

 取り敢えず今は目の前のことだ。

 

 もはや恒例となった海賊たちからの"貢ぎ物"。

 大きな袋に入れて差し出されたそれらを肩に担ぎ、ボガードくんが待つ小船へと帰還する。

 

「お疲れさまでやす、姐さん」

「このくらいで疲れるなんてありゃあしないよ。それよりも、そろそろ船室に宝の置き場所がなくなってきたねえ」

「ヘイ、姐さん。そろそろあの孤島へ向かいやすか?」

「そうだねえ。三ヶ月とちょっとぶりってところかい」

 

 今まで計三回あの反り立った孤島に足を運んでいるのだが、率直に言って効率が悪い。

 何度も行ったり来たりしている分、探索の時間がそっちに取られちまう。

 そろそろ本格的に船員(クルー)を集めて船を乗り換えるべきかねえ。

 海賊としてのし上がろうなんてあまり考えちゃあいないけれど、だからと言って船員(クルー)選びに妥協はしたくない。

 

 アタシにはアタシに相応しい人材が絶対にいるはずだ。

 そういう奴らを探さなきゃあならない。

 はぁ…………実際に海賊になってみて初めてわかる身に染みる苦労ってものかね。

 まあ、ひとまずこの財宝を隠し場所の孤島に置きに行かなくちゃあならない。

 

 針路を定め、いつも通りの台詞を吐く。

 

「行くよボガード!」

「ヘイ、姐さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーグゥゥ……

 

 

 何処かで腹の鳴る音が聞こえた。




ボガード「蹴ってくだせえ!」

アルビダ「おらよ!」

ボガード「んひいぃぃぃ!! ありがとうございます!!」

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